~意外とドラマチックな「長さの基準」の話~
私たちは日常的に「1m」という単位を当たり前のように使っています。
「机の横幅は1メートル」「身長は1.7メートル」など、何気なく口にしますが…
そもそも1メートルって、どうやって決まったのでしょうか?
1メートルって、どうやって決まったの?
実は、この“1メートル”という長さの決め方は、歴史の中で何度も変わってきたんです。
しかも、その変遷は科学者たちの努力とちょっとしたドラマが詰まっています。
昔むかしの長さの決め方は“かなりアバウト”だった
はるか昔、人々は国や地域ごとにバラバラな長さの基準を使っていました。
例えば…
- 王様の腕の長さ(イギリスやフランスの一部)
- 人の足の長さ(フィートの由来)
- 穀物の粒の大きさ(インチの由来)
しかし、これらは当然ながら人や環境によって変わります。
王様が代替わりすれば、国の長さの基準も変わってしまうなんてことも。
貿易や科学研究が進むにつれ、「みんなで共通の長さを持たないと不便だ!」という声が高まります。
フランス革命と“地球基準”のメートル
18世紀後半、フランス革命の混乱の中でも科学者たちは理想を追求しました。
「人によって変わらない長さを作ろう」
そこで採用されたのが地球基準です。
定義はこうでした。
「北極から赤道までの距離の1,000万分の1を1メートルとする」
つまり、地球の子午線(縦方向の線)の長さをもとにしたわけです。

この定義を実現するため、フランスからスペインにかけて実測する大規模測量が行われました。
当時はGPSもレーザー測量もありません。山を越え、谷を渡り、三角測量でコツコツと距離を割り出す…という気の遠くなる作業。
この結果、初代の“1メートル”が決まったのです。
北極から赤道までの距離って、ピッタリじゃないの?
メートルの最初の定義は…
「北極から赤道までの距離の1,000万分の1」= 1m
というものでした。
つまり、北極~赤道までの距離は理論上 10,000 km(1万キロメートル)とされました。
でも実際に測ったら…
地球は完全な球ではなく、少し押しつぶされた「回転楕円体(だえんたい)」です。
そのため、本当の北極~赤道の距離は場所によってわずかに変わります。
- 子午線(北極~赤道)に沿った実測値は、約10,002 km
- 差は約2 km(つまり、1mあたりでは0.2 mm程度の誤差)
当時の測量技術では、この2 kmのズレはほぼ誤差の範囲でした。
でも現代の精密測量で見ると、やっぱり「ピッタリ1万キロ」ではないことがわかります。
なぜズレるのか?
- 地球が丸くない
- 地球は赤道付近が膨らんでいて、極付近が少し平ら。
- そのため、緯度によって半径や距離が微妙に変わります。
- 山や海の地形の影響
- ルートによっては山を迂回したり、海を越えたりするため、理想的な直線距離とは違ってきます。
- 当時の測量器の限界
- 18世紀末の測量では三角測量+手作業の計算。
- 天候や視界の悪さも影響しました。
雑学ポイント
結果、たった0.02%の誤差で距離を割り出したのは驚異的な精度。
当時、北極~赤道の距離を測るためにフランスからスペイン北部まで約7年以上かけて大測量を実施した。
測量チームは病気や戦争に巻き込まれ、命がけの計測だった。
「メートル原器」という特製の金属棒
理論だけでは日常の計測に使えないため、白金イリジウム合金で作られた棒が基準として作られました。
これが「メートル原器」です。
フランスに保管され、世界各国に複製が配られました。
ただし、金属は温度で膨張や収縮をするため、わずかですが長さが変わってしまうという欠点がありました。
精密な科学実験や工業にとって、この“わずか”は無視できない問題です。
現代の1メートルは“光”で決まる
こうした不安定さを解消するため、1983年に現在の定義に変更されました。
今の1mはこうです。
「真空中で光が1/299,792,458秒の間に進む距離」
これなら温度や環境に左右されず、どこでも同じ長さを再現できます。
まさに、物理法則に基づいた究極の基準です。
1メートルの歴史まとめ
時代 | 基準 | 特徴 |
---|---|---|
古代~中世 | 王様の体の一部や人の足 | 地域でバラバラ |
1790年代 | 地球の子午線の1,000万分の1 | 科学的基準の始まり |
1889年~ | メートル原器(金属棒) | 実物基準だが温度で変化 |
1983年~現在 | 光が進む距離 | 環境に依存しない完璧な基準 |
ちょっとした雑学
- 長さの定義は3回以上も大きく変わっている
- 最初の測量は7年以上かかり、チームは病気や戦争にも巻き込まれた
- メートル原器はフランス・パリ郊外の国際度量衡局に保管されている
こうして見ると、1mはただの“長さ”ではなく、人類の知恵と努力の結晶です。

次に「これ1メートルくらいかな?」とつぶやくとき、
背後にある壮大な物語をちょっと思い出してみると、
身近なメジャーも少しだけロマンチックに見えるかもしれません。
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