はめあい公差は、機械設計において非常に重要な要素の一つです。部品同士の適切な組み合わせを実現し、機械の性能、耐久性、信頼性に大きく影響します。この記事では、はめあい公差の基本概念や種類、選定方法について解説します。
はめあい公差の基本概念
はめあいとは、軸と穴、または他の部品同士を組み合わせる際に、その嵌合具合を決定する寸法公差のことです。軸と穴がどの程度きつくまたは緩く組み合わさるかを管理することで、適切な動作や性能を確保します。寸法公差が適切に設定されていないと、組立が困難になったり、動作中にガタつきや摩耗が生じたりする可能性があります。
はめあい公差の記号とその意味
はめあい公差は、国際規格(ISO)や日本工業規格(JIS)に基づき、特定の記号で表されます。これらの記号は、軸と穴の公差位置や公差等級を示すもので、大文字・小文字や数値によってその意味が異なります。
(1) 大文字と小文字の使い分け
- 穴の公差:大文字(例:H、G、K)
- 軸の公差:小文字(例:h、g、k)
たとえば、「H7」は穴の公差等級を示し、「h6」は軸の公差等級を示します。
大きい穴に小さい軸をはめると覚えよう。
(2) 記号の構成
はめあい公差の記号は、以下のように構成されます。
- 穴:公差位置記号(大文字) + 公差等級(数字)
- 軸:公差位置記号(小文字) + 公差等級(数字)
例:
- H7:穴の公差位置がH、公差等級が7
- g6:軸の公差位置がg、公差等級が6
(3) 公差位置記号の意味
公差位置記号(アルファベット)は、基本寸法に対する許容差の位置を示します。
穴の場合(大文字):
- H:基本寸法と下限寸法が一致し、許容差は上方向のみ(基準寸法と同じ大きさか、それ以上)
- G、F、E…:基本寸法よりも小さく、許容差は下方向へ(基準寸法より小さい)
- J、K、M…:基本寸法よりも大きく、許容差は上方向へ(基準寸法より大きい)
軸の場合(小文字):
- h:基本寸法と上限寸法が一致し、許容差は下方向のみ(基準寸法と同じ大きさか、それ以下)
- g、f、e…:基本寸法よりも小さく、許容差は下方向へ(基準寸法より小さい)
- j、k、m…:基本寸法よりも大きく、許容差は上方向へ(基準寸法より大きい)
穴も軸もH(h)が基準となっています。
アルファベット順で基準寸法が大きくなっていると覚えましょう!
(4) 公差等級(数字)の意味
公差等級は、数字が小さいほど精度が高く、公差範囲が狭いことを示します。一般的にはIT(International Tolerance)等級と呼ばれます。
- IT5:非常に高精度(精密機器や計測器)
- IT6〜IT7:高精度(一般的な機械部品)
- IT8〜IT11:中精度(一般的な機械要素)
- IT12〜IT14:低精度(粗大な部品)
はめあいの種類
はめあいは、公差位置記号と等級の組み合わせによって、以下の3種類に分類されます。
すきまばめ
- 特徴:穴が軸より常に大きく、隙間が存在するはめあい
- 用途:回転運動や摺動が必要な部分、組立てや分解が容易な箇所
- 例:H7/g6、H8/f7
中間ばめ
- 特徴:隙間があったり、わずかな干渉があったりするはめあい
- 用途:位置決めが重要で、適度な固定力が必要な場合
- 例:H7/m6、H7/js6
しまりばめ
- 特徴:軸が穴より常に大きく、干渉が生じるはめあい
- 用途:高い固定力が必要で、組立後の動きを防止したい場合
- 例:H7/p6
具体的な記号の例とその意味
(1) H7/h6(すきまばめ)
- 穴:H7
基本寸法と下限寸法が一致し、許容差は上方向のみ - 軸:h6
基本寸法と上限寸法が一致し、許容差は下方向のみ - 特徴:
組立が容易で、一般的なすきまばめ。機械部品の軸受けなどで使用。
もっとも一般的なすきまばめ公差の組み合わせです。
市販の研磨棒でもg6公差の軸は種類が豊富です。
(2) H7/p6(しまりばめ)
- 穴:H7
基本寸法と下限寸法が一致し、許容差は上方向のみ - 軸:p6
基本寸法よりも上方向に許容差があり、軸が穴より大きい - 特徴:
圧入が必要なはめあいで、高い固定力が求められる部品に適用。
こちらもよく使われるしまりばめの例です。
基本的に穴はH7で設定することが多いです。
これは、軸の加工より穴の加工のほうが大変なためです。
穴加工では専用の工具が必要になり、工数もかかるため
穴公差を統一するということはコストダウンや寸法の安定化にもつながります。
はめあい公差の選定ポイント
はめあい公差を選定する際には、以下の点を考慮します。
- 使用目的と機能:
部品がどのような動作をするか(回転、固定、摺動など)に応じて、適切なはめあいを選びます。 - 組立性:
組立や分解の頻度、容易さが求められる場合は、すきまばめを選択します。 - 精度要求:
高い精度が必要な場合は、数字の小さい公差等級を選びます。 - 材料と環境:
材料の熱膨張係数や使用環境の温度変化を考慮し、公差位置記号を選定します。
「はめあい公差」を規格で管理する重要性
機械設計において、部品同士を組み合わせる際の「はめあい公差」を適切に設定することは、製品の品質や性能に直結する重要な要素です。そして、このはめあい公差を規格で管理することは、設計者だけでなく、製造現場や品質管理部門にとっても大きなメリットをもたらします。本項では、その重要性とメリットについて解説します。
はめあい公差を規格で管理するメリット
1. 設計の効率化
ISOやJISのはめあい公差規格を使用することで、設計者は一から公差を設定する手間を省くことができます。
たとえば、JIS B 0401(ISO 286)に基づくH7/h6などの組み合わせを用いると、標準的なすきまばめが簡単に実現可能です。これにより、設計作業の効率が向上します。
2. 製造の容易化
規格に基づく公差を設定することで、加工業者は標準的な工具や設備で製造できるため、特殊な加工が不要になります。また、規格値に対応した市販の部品や材料を利用することで、コスト削減にもつながります。
3. 品質の安定化
規格による統一があることで、製造した部品の品質を確保しやすくなります。規格値は長年の実績に基づいて設定されているため、トラブルの発生リスクが低減します。
4. 設計・製造間のコミュニケーション向上
「H7/h6」や「g6/f7」といった規格値を用いることで、設計者と製造者が明確に意図を共有できます。これにより、不要な修正や確認作業を減らすことができます。
規格管理の具体例
例1:シャフトとベアリングのはめあい
シャフト(軸)とベアリングの内径の嵌合では、以下のような規格を利用します。
- H7/h6:シャフトがスムーズに回転するすきまばめ
- K6/h5:軸とベアリングが強固に固定されるしまりばめ
これらの規格を使用することで、設計時点で回転性能や取り付け強度を適切に確保できます。
例2:大型機械のフレームと部品の取り付け
フレームの穴径や部品のボルト寸法なども、規格値で統一して管理することで、加工ミスを防ぎ、生産性を向上させることができます。
はめあい公差を規格外で管理するリスク
設計ミスの発生
独自の公差設定を行う場合、設計段階での計算ミスや、加工業者への伝達不足が起こりやすくなります。
加工コストの増加
規格外の公差を指定すると、特注加工が必要になる場合が多く、コストが跳ね上がります。また、加工時間も増加するため、納期遅れの原因にもなります。
不良品リスクの増大
規格外の公差では、製造後の部品が嵌合しない、あるいは強度が不足するといった問題が発生するリスクが高まります。
設計者が知っておくべきポイント
- よく使用される規格値を把握する
- H7/h6やH8/f8など、用途に応じた標準的なはめあい公差を事前に把握しておきましょう。
- 設計意図を明確化する
- 部品が動くべきか、固定すべきか、または両者のバランスが必要かを明確にし、適切な公差を設定します。
- 規格対応の部品を選定する
- 市販の規格部品を活用することで、加工工数やコストを削減できます。
機械設計における「はめあい公差」の設定は、製品の性能や耐久性だけでなく、製造の効率やコストにも大きく影響を与えます。そのため、はめあい公差を規格で管理することが、設計から製造までの一貫した品質確保につながるのです。
規格をうまく活用し、効率的かつコストパフォーマンスの高い設計を実現することで、より良い製品開発を目指しましょう!
まとめ
はめあい公差の記号は、大文字・小文字や数字によって、その嵌合の性質や精度を示しています。適切なはめあい公差を選定することで、部品の組立性や機能性を最適化し、機械全体の性能向上に寄与します。設計時には、公差記号の意味を正しく理解し、用途に応じたはめあいを選ぶことが重要です。
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