機械設計では、「ねじのゆるみ防止」が非常に重要です。特に振動や回転が関わる機構では、ナットが緩むことで重大な故障や事故につながる恐れがあります。そこで活躍するのが「ロックナット」とそれを補助する部品です。
この記事では、代表的な要素であるANナット、ANLナット、AW(菊座金)について、初心者にもわかるように解説します。
ロックナットとは?
ロックナットとは、ゆるみ防止機能を持った特殊なナットのことです。振動や衝撃があってもナットが緩みにくく、軸受の固定やシャフト部品の締結など、様々な機械構造で活用されます。
ANナットの特徴と用途
ANナットの特徴
- 軸受の固定などに使われる専用のナット
- シャフトのネジ部にねじ込んで使用
- 専用工具(フックレンチ)で締付け
- 緩み防止のため、AW(菊座金)と組み合わせて使用されるのが一般的
- ネジは右ねじが基本
🔍 用途)
- 軸受(ベアリング)の締め付け・固定
- シャフト端部で部品を押さえる用途
ANナットの選定ポイント
- 緩み防止のためにはAW座金と組み合わせて使用する
- 締め付けには専用工具が必要
- 座金をしっかり噛ませて使用することで、緩み防止効果が高まる
🔧 ANLナットの特徴と用途
ANLナットの特徴
- ANナットの左ねじタイプ
- 右回転が通常の軸に対して、逆回転方向の力がかかる部分に使用
- 緩み方向が逆になるため、構造的に緩みづらい
- 同様にAW座金と組み合わせて使用されることが多い
🔍 用途)
- 左回転の軸、または逆方向のねじれがかかる箇所
- 両端にナットを取り付ける必要がある回転体など
ANLナットの選定ポイント
- ねじ方向(左ねじ)であることに注意
- 右ねじのANナットと対で使うことで両方向の固定が可能
- AW座金との併用で緩み防止性アップ
AW座金(菊座金)の特徴と用途
AW座金の特徴
- ANナット・ANLナット専用のロックワッシャ
- 外周に多数の爪、内側に1本のツメ(キー)がある
- シャフトのキー溝に内側のツメをはめ込み、ナットの緩みを防止
- ナットの溝に外周の爪を折り込んで固定する
- 再使用不可(使い捨て)
🔍 用途)
- 振動が多い場所でのナットのロック
- 軸受の固定や、重要な締結部の緩み防止
AW座金の選定ポイント
- 使用するナットと適合するサイズを選定(ANナットやANLナットとセット)
- 締め付け後、外周のツメをナットの溝にしっかり折り込むことでロックされる
- 必ず新品を使用する(変形や疲労による保持力低下を防ぐ)
3つの部品の関係を理解しよう

- キー溝にAW座金の内側の爪を合わせてはめ込む
- ANナット(またはANLナット)で締める
- ANナット溝にAW座金の爪を折り込む
菊座金(AW座金)のキー溝寸法とは?~寸法表付き解説~
機械設計では、ナットが緩まないように「ロック機構」を組み込むことが重要です。その中でもANナットやANLナットと組み合わせて使われる菊座金(AW座金)は、振動や回転に強いゆるみ止め対策として定番の部品です。
今回は、菊座金のキー溝(内歯)寸法について詳しく解説し、選定のための寸法表もご紹介します。
菊座金(AW座金)とは?
AW座金(通称:菊座金)とは、ロックナットの緩み止めとして使われる専用の座金で、以下の特徴があります:
- 外周に複数の折り曲げ爪(ロック用)
- 内側に1本の爪
- この内側のツメがシャフトのキー溝(スリット)にはまり込むことで、座金自体の回転を防止
この「内側の爪」が正しく嵌まることで、ナットに力をしっかり伝え、かつロック爪を曲げることで回転を抑える構造になります。
なぜキー溝寸法が重要なのか?
シャフトに切られた「キー溝」に、菊座金の内歯がしっかりと噛み合わなければ、座金自体が空回りしてしまい、ロックナットのゆるみ止め機能が失われます。
そのため、シャフトのキー溝と菊座金の内歯寸法が一致していることが非常に重要です。
キー溝寸法表(目安寸法)
以下は、「AW座金」の代表寸法(シャフトねじ径・キー幅など)をまとめたものです。
キー溝の寸法については特に規格はなく、目安の寸法を記載します。

呼び番号 | 適用ナット | シャフトねじ径 [mm] | キー溝幅 b [mm] | キー溝深さh [mm] |
---|---|---|---|---|
AW 00 | AN 00 | M10×0.75 | 3.5 | 2 |
AW 01 | AN 01 | M12×1 | 3.5 | 2 |
AW 02 | AN 02 | M15×1 | 4.5 | 2 |
AW 03 | AN 03 | M17×1 | 4.5 | 2 |
AW 04 | AN 04 | M20×1 | 4.5 | 2 |
AW/22 | AN/22 | M22×1 | 4.5 | 2 |
AW 05 | AN 05 | M25×1.5 | 5.5 | 2.5 |
AW/28 | AN/28 | M28×1.5 | 5.5 | 2.5 |
AW 06 | AN 06 | M30×1.5 | 5.5 | 3 |
AW/32 | AN/32 | M32×1.5 | 5.5 | 3 |
AW 07 | AN 07 | M35×1.5 | 6.5 | 3 |
AW 08 | AN 08 | M40×1.5 | 6.5 | 3 |
AW 09 | AN 09 | M45×1.5 | 6.5 | 3 |
AW 10 | AN 10 | M50×1.5 | 6.5 | 3 |
選定時の注意点
- シャフトにキー溝が必要
- 菊座金の内歯をはめるため、シャフトに溝加工(1本キー)が必須です。
- 使い捨てが原則
- 一度使用して曲げた爪は再使用できません。組立時には新品を使いましょう。
まとめ:正しい組み合わせと使い方が信頼性を左右する
ロックナット周辺部品の理解と正しい選定・使用は、機械の信頼性に直結します。
種類 | 種別 | 特徴 | 使用時の注意 |
---|---|---|---|
ANナット | 右ねじ | 基本のナット | AW座金と併用で緩み防止 |
ANLナット | 左ねじ | 逆方向の力に対応 | 対で使用すると効果的 |
AW座金 | 菊座金 | 緩み防止ワッシャ | 爪の折り込み、再使用不可 |
選定時は、ねじの方向、使用環境、シャフトのキー溝の有無、再使用の可否などを考慮し、目的に合ったナット・座金の組み合わせを選ぶことが重要です。
とくにAW座金のキー溝寸法は、シャフト加工と密接に関係しており、寸法の確認を怠るとロック機構が正しく機能しないため、慎重な設計と選定が求められます。
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