― なぜ公差が重要なのか?どう考えればいいのか? ―
機械設計を始めたばかりの人が最初につまずきやすいテーマのひとつが「公差(こうさ)」です。
「そもそも公差って何?」「できるだけ精密に作ればいいんじゃないの?」
そんな疑問にお答えするべく、この記事では公差の基本的な考え方をやさしく解説します。
公差とは?簡単に言うと…
公差とは、「寸法の許容範囲」のことです。
たとえば、あるシャフトの設計寸法が「φ10.00mm」だったとします。
でも、実際に加工するとまったく同じ10.00mmにはなりません。工具の精度や材料のばらつき、温度変化などによって少しズレます。
そこで設計者は「±0.05mmまでOK」といったように、誤差の範囲(公差)をあらかじめ許容します。
つまり公差は、「このくらいまでズレても機能に問題ないよ」という設計上のゆとりです。
なぜ公差が重要なの?

公差の設定は、部品の組立・動作・コストすべてに影響します。
✔ 公差がゆるすぎると 👉 ガタが出る、かみ合わない、漏れる、脱落する…などの不具合が発生
✔ 公差がきびしすぎると 👉 加工コストが大幅に上がる、納期が伸びる、検査が難しくなる

つまり、公差は「機能を満たしながらコストを抑えるためのバランス調整」なのです。
初心者がやりがちなNG例
初心者の設計者がよくやってしまうのが、「すべての寸法に厳しい公差を入れる」というパターン。
🔍 例)
すべての穴に「±0.01mm」と指定 → 加工業者「コスト爆上がりです!」
設計段階で「とりあえず高精度にしておけば安心」と思いがちですが、必要以上の精度は無駄なコスト・手間につながります。
公差の基本的な考え方(3ステップ)
初心者は、まず以下の3ステップで公差を考えてみましょう。

① 機能に影響する部分を見極める
▶ すべての部位に厳しい公差は不要。
▶ 「ここがズレると組立できない」「ここが緩いと漏れる」など機能に直結する箇所を重点的に。
② はめあいや隙間を想定する
▶ 「はまり具合」「すきま」「クリアランス」などの意図する関係性に基づいて公差を決定。
③ 加工方法・測定方法を考慮する
▶ 加工しやすい寸法・測定しやすい公差にしておくと、コストや検査工数が減少します。
公差を決める前に!機能に影響する部分の見極め方
― 公差をムダに厳しくしないための基本ステップ ―
機械設計で公差を決めるとき、「どの部分に厳しい公差が必要なのか?」という判断はとても重要です。
すべての寸法に高精度な公差を入れてしまうと、コスト増・加工難度アップ・納期遅延につながる可能性があります。
そこで本項では、初心者の方でもできる「機能に影響する部分の見極め方」をわかりやすく解説します。
なぜ「見極め」が必要なの?
機械設計のゴールは「ちゃんと動くこと」です。
そのために必要な部分だけを高精度にし、それ以外は“ゆるく”設計することが、効率の良い公差設計です。
例えるなら、
「ネジで固定するだけのカバー」と「回転精度が求められるシャフト」では、求められる精度がまったく違うということです。
機能に影響する部分を見極める3つのステップ
「接触・相手物との関係」を洗い出す
まずは、部品が何と接触するのか、どう関わるのかを見てみましょう。
関係する相手 | 具体例 |
---|---|
軸と穴 | 回転・はめあい(例:軸受、歯車のボス) |
穴とボルト | 固定・位置決め(例:取付穴) |
溝とキー | トルク伝達(例:キー溝) |
ガスケット面 | シール性(例:液体漏れ対策) |
接触して機能に関わる部分=精度が必要な部分です。
「ずれると困る機能」を洗い出す
以下のような“ズレると困る現象”が起こる部分は、公差の検討が必要です。
機能 | ズレると起こる不具合 |
---|---|
はめあい | ガタつく/入らない/回らない |
シール面 | 漏れる/気密不良 |
歯車の位置 | 異音/かみ合わない |
ピンの位置 | 組立できない/位置決めできない |
取付位置 | 他部品との干渉/誤組立 |
「ここがずれると致命的」という部分をピックアップ!
「設計意図を再確認」して優先度を決める
最後に、その部位にどの程度の精度が本当に必要か?を考えましょう。
🔍 たとえば、、、
- 「±0.01mm必要か?±0.1mmでも動作に支障ないか?」
- 「あえてガタがある方がいい場合もある?」
- 「加工や測定が現実的か?」
🟢 ここで重要なのは、「設計の目的に対して最小限の精度で済ませる」という発想です。
実例で解説:どこが“機能に影響する”?
例1:シャフトと軸受
部位 | 機能 | 公差の重要性 |
---|---|---|
シャフト径 | 回転精度/ガタの防止 | ◎(h7など) |
軸受の位置 | 組立・保持 | ◯ |
シャフトの長さ | カバーとの干渉 | △(±0.2でOKなど) |
シャフト径は機能直結なので厳しく、それ以外は機能に応じてゆるく。
例2:板金カバー
部位 | 機能 | 公差の重要性 |
---|---|---|
取付穴 | ボルト固定 | △(±0.5mm程度でOK) |
外形 | 外観のみ | ×(厳密不要) |
穴ピッチ | 他部品との位置合わせ | △(±0.2~0.5) |
👉 精度はそこまで必要ないが、組立や見た目のバランスに配慮。
設計者が気をつけたいチェックリスト
✅ その寸法がズレると、動作に不具合が出る?
✅ はめあいやすきま、接触の有無を意識している?
✅ 加工・測定が現実的なレベルか?
✅ 他部品との関係性(取付位置・組立性)を見ている?
✅ 使う人(組立者・検査者)の立場で考えた?
機能を見極めれば、ムダな精度はいらない!
公差を考えるうえで最も重要なのは「精度をかける“必要がある場所”だけに絞ること」です。
ムダな公差は、ムダな加工とコストにつながります。
まずは今回紹介した3ステップで、
✔ どこが重要か?
✔ なぜそこが精度を要するのか?
✔ どのくらいの公差で足りるのか?
を一つずつ見極めていくことが、効率的で品質の高い設計につながります。
実務でよく使われる公差例(ざっくり)
機能 | 公差の目安 | 備考 |
---|---|---|
ボルト穴の位置 | ±0.2~0.5mm | 多少ズレても組立可能・一般公差で可 |
軸と穴のはめあい | H7/h6など | JISのはめあい公差に基づく |
精密位置決めピン | ±0.01~0.02mm | 高精度な加工必要 |
外形寸法 | ±0.2~0.5mm | 外観に関係、精度はほどほどでOK |

実際の公差設定は、使用環境や機能に応じて判断しましょう。
公差設計で大切なこと
- 「全部を高精度に」ではなく「必要なところだけ高精度に」
- 機能・加工・測定のバランスを取る
- 現場とよく相談する(加工者・検査者・組立者)
設計者の腕の見せ所は、最小限の公差で最大限の機能を出すことです。
まとめ:公差設計の基本は「必要なところに、必要なだけ」
公差とは、単なる数値ではなく「製品の機能・コスト・加工性」を左右する設計の重要な要素です。すべてに厳しい公差をつけるのではなく、「どこが機能に直結するか」「どこまでのズレなら許容できるか」を見極めて、最小限の精度で最大の効果を出すことが、公差設計の基本です。
初心者の方はまず、「寸法に公差を入れる目的」と「機能に影響する部分」を意識することから始めましょう。これができるようになると、より実用的で合理的な設計ができるようになります。
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