切断切削加工において、形状だけでなく「寸法」と「公差(こうさ)」の設計もコストに大きな影響設計者を与えます。設計者が無意識に指定した寸法や厳しい公差が、実は加工現場では“手間とコストの元凶”になっているケースも珍しくありません。
今回は、切削加工における寸法・公差設計の工夫について、初心者の方でも実践しやすい形でご紹介します。
不要な公差はつけない
まず基本中の基本ですが、「とりあえず±0.01mmでいいか…」と何でも厳しい公差をつけるのはNGです。公差が厳しいほど加工コストは上がるのが原則です。
✅ 工夫のポイント
- 位置決めに関係ない部分には公差をつけない
- 表示がない場合の「一般公差」を活用する(例:JIS B 0405)
一般公差を積極的に使う
「一般公差(標準公差)」とは、特別な指示がない場合に適用される寸法許容範囲サイズです。たとえば図面に「一般公差:±0.1(未公差寸法)」と書いておけば、すべての未指定寸法にこの範囲が適用されます。
✅ メリット
- 図面がすっきりし、読みやすくなる
- 不要な加工精度の押し付けを防げる
公差のレベルを明確に分ける
同じように見える穴や面でも、「位置決めに使うもの」「組立時に当たるだけの面」では求められる精度がまったく異なります。
🔍 実践例
- 重要寸法:±0.01〜0.02mm程度(必要に応じて)
- 一般寸法:±0.1mm〜0.2mm程度
- 見た目だけの外形:±0.5mmなどでも十分
穴径は標準工具サイズに合わせる
たとえばφ5.3mmやφ7.7mmの穴を指定すると、そのサイズのドリルが存在せず、加工には追加の仕上げ工程が必要になる可能性があります。標準のドリルサイズやリーマー径に合わせることで、簡単・低コストな加工が可能になります。
✅ 推奨
- 穴径:φ3、φ4、φ5、φ6、φ8、φ10…などの標準ドリルに合わせる
- H7公差穴も「φ6H7」「φ8H7」など規格に合わせるとよい
深さ寸法は工具に合わせる
深穴や深い座ぐりは、加工工具が長くなることで剛性が下がり、加工が難しくなります。できるだけ浅い寸法にした方が工具選定の自由度も増し、仕上がりも安定します。
📌 工夫
- 穴の深さは、工具径の3〜4倍以内におさめる
- 座ぐり深さを指定する場合は、必要最小限で
はめあい公差の過剰指定に注意
H7/g6などのはめあい公差は、軸と穴を精密に組み合わせるために使いますが、必要がないのに厳しい公差で指定すると加工コストが跳ね上がります。
🔍 判断基準
- 実際に摺動や圧入が必要かを見直す
- 必要がなければ、普通公差(一般公差)に変更
寸法の基準面を統一する
異なる基準面から寸法をとると、加工工程で「基準の付け替え(リセット)」が必要になり、ミスやズレの原因になります。
✅ 推奨
- 寸法はできるだけ一つの基準面から連続して指示
- 対称寸法は中央を基準にする
穴位置・ピッチの公差も考慮する
穴の位置精度が必要な場合(例えば位置決めピンや組立穴など)、穴中心位置の公差も重要です。
ただし、すべての穴に±0.01mmで位置指定をするのはオーバースペックになりがちです。
✅ 工夫
- ピン穴などの重要位置だけに厳しい公差を設定
- それ以外は一般公差で十分なことが多い
面粗さを必要以上に指定しない
図面に「面粗さ Ra1.6」と記載すれば、それを達成するために追加の仕上げ加工(研磨など)が必要になることもあります。見た目に関係しない面には、粗い面粗さを指定することで加工コストを抑えられます。
📌 目安
- 見た目が重要:Ra1.6〜Ra3.2
- 見えない・重要でない面:Ra6.3〜Ra12.5でもOK
まとめ:寸法と公差は「加工者への指示」。無駄な精度はコストのもと!
図面に描いた寸法や公差は、加工者への“指示”です。つまり、設計者が「この通りに仕上げてください」と求めている内容になります。
そのため、不必要な高精度や特殊寸法をつけることは、無駄な指示となりコストアップの原因になります。初心者のうちは、「その寸法・公差は本当に必要か?」と一度立ち止まって考える習慣を持つことが、良い設計者への第一歩です。
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