機械設計において、しばしば耳にする考え方の一つが「部品点数はできるだけ少ない方が良い」というものです。この考え方は、製品設計において非常に重要な要素であり、「シンプル設計(簡素化設計)」とも呼ばれています。
しかし、単純に部品を減らすだけでは、かえって不具合を引き起こすこともあります。本記事では、シンプル設計のメリットとデメリットを初心者向けにわかりやすく解説し、実際に機械設計を行う際の注意点やポイントをご紹介します。
シンプル設計とは?
シンプル設計の定義
シンプル設計とは、「機能を維持しつつ、構成部品の数や形状、構造を簡素化する設計思想」のことです。目的は主に以下の3つです。
✅ 組立性の向上
✅ 製造コストの削減
✅ 故障リスクの低減
「ムダな部品を減らし、必要最小限の構成で最大の性能を発揮させる」ことを狙った設計思想といえるでしょう。
なぜ部品点数は少ない方がいいのか?

メリット1:組立が簡単になる
部品点数が少ないと、それだけ組み立て工数が減ります。
たとえば、ネジで固定するパーツが10個あったものを5個に減らせば、締結作業の時間も半分になります。

これは製造現場の作業効率に直結します。
メリット2:コスト削減につながる
部品の数が少なければ、当然ながら材料費や加工費が減ります。
さらに、部品の管理(在庫、仕入れ、品質チェックなど)にもコストがかかるため、全体としてのコスト削減に貢献します。
メリット3:信頼性の向上
部品点数が少ないということは、故障や摩耗の原因が少なくなるということでもあります。
特に可動部が減ると、動作不良やメンテナンスの頻度が下がるため、長期的な信頼性が向上します。
メリット4:メンテナンスが楽になる
点検すべき箇所や交換部品が少なくなることで、保守や修理が容易になります。

シンプルな構成の方がトラブルの特定もしやすいです。
シンプル設計のデメリット

一方で、部品点数を減らすことにはデメリットや注意点も存在します。
デメリット1:機能の制約
部品を減らしすぎると、本来実現したかった機能が不十分になる場合があります。例えば、複数の部品で分担していた機能を1つの部品に集約すると、逆に強度や精度の問題が出てくることがあります。
デメリット2:設計自由度の低下
一つの部品に複数の機能を持たせると、その部品の形状が複雑化し、製造が難しくなったり、寸法公差が厳しくなったりします。

結果として「シンプルに見えて実は製作が難しい」という状況になることも。
デメリット3:修理や交換がしにくい
一体化した部品は、一部が壊れただけでも全体を交換しなければならないことがあります。
これは長期的なメンテナンスコストを押し上げる要因になります。
シンプル設計の具体例
例1) 一体加工
以前は「ブラケット+スペーサー+固定ボルト」の3部品で構成されていた箇所を、「L字型ブラケット1個の一体加工品」に変更することで、部品点数を3から1に削減。
✅ メリット
- 組立工数削減
- 部品管理が簡単
⚠️ 注意点
- 加工が難しくなり、費用が上がる可能性あり
- 細部の設計で干渉や加工制約に配慮が必要
例2) ネジの共通化
異なるサイズのネジを複数使っていた設計を、すべてM5×12のネジ1種類に統一。
✅ メリット
- 工数削減
- 工場内の標準化促進
- 誤組立の防止
⚠️ 注意点
- 応力や長さの要求を満たしているか検証が必要
- 共通化による過剰強度や逆に不足するリスクも考慮
シンプル設計を実現するための考え方
DFA(Design for Assembly:組立性設計)
DFAは、「どうすれば簡単に組み立てられるか?」を設計段階で考える手法です。
代表的なルールは以下の通りです。
- 部品数を最小限に抑える
- 装着方向を一方向にそろえる
- 対称形状で向きを間違えにくくする
- 工具を減らせるように標準化する
DFM(Design for Manufacturability:製造性設計)
「どうすれば加工しやすくなるか?」を重視した設計手法です。
シンプル設計では、加工工程の簡略化も重要なポイントとなります。
シンプル設計における注意点と推奨事項
⚠️ 注意点
- 単に部品を減らせばいいわけではない
- 機能分担や交換性、耐久性の観点も考慮する
- 無理な一体化は加工コストを逆に上げる場合がある
🔍 推奨点
- 「目的(機能・コスト・組立性)」に対して最適な構成を考える
- 3D CADでの組立シミュレーションや干渉チェックを積極的に活用する
- 製造現場やメンテ担当者の意見を取り入れることで、現実的なシンプル設計が可能になる
まとめ
シンプル設計は、「ムダを省き、製品全体の品質とコストパフォーマンスを向上させる」強力な手法です。
しかし、ただ部品を少なくすることが正解ではありません。
機能性・生産性・保守性のバランスを取りながら、最適なシンプルさを目指すことが重要です。
初心者のうちは「部品数=悪」と単純にとらえがちですが、現場での経験を積むほど「シンプルすぎる設計はかえって複雑」という逆説に気づくはずです。
ぜひ、自分の設計において「本当にこの部品は必要か?」「1つにまとめられないか?」「加工・組立・保守は簡単か?」という視点で考えてみてください。それが、優れた機械設計者への第一歩です。
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