機械設計の管理職をしていると、新人設計者の図面レビューや検図の対応に悩む場面が多いのではないでしょうか。
「自分の設計思想に染めてしまった方が効率的なのか?」
「ある程度は自由にやらせて、失敗を経験させた方が育つのか?」
本記事では、この永遠のテーマに対して、管理職者としてどう考え、どう対応すべきかを整理してみます。
設計思想を刷り込むメリット・デメリット
メリット
- 会社としての標準化が進む
- 設計思想や選定基準を早く覚えれば、製品全体の方向性が揃い、再設計や手戻りが減ります。
- 安全性や品質を確保しやすい
- 経験者のやり方を真似することは、一定レベル以上の品質を維持する近道です。
- 管理がしやすい
- 「この場合はこうする」というルールが徹底されれば、検図の手間が減ります。
デメリット
- 新人の発想が狭まる
「上司のやり方が絶対」と思い込むと、自分で考える習慣が育たない。 - 成長速度が鈍る可能性
指示待ち型になりやすく、応用力が身につきにくい。
自由に設計させるメリット・デメリット
メリット
- 自分で考える力が育つ
- 失敗も含めて経験することで、次回は改善しようとする姿勢が生まれます。
- 新しい発想が出やすい
- 定石に縛られず、新しい方法を試す柔軟性が期待できます。
- 設計の「なぜ」を理解する
- 自分の選択の結果を体感することで、基準やルールの本当の意味が身に付きやすい。
デメリット
- 手戻りが増える
- 検図で修正点が多発し、納期が遅れるリスクがある。
- 安全面で危険
- 設計未経験者が自由に設計すると、安全や強度を軽視した案を出す場合がある。
- 会社の標準から外れる
- 結果的に「独自仕様」だらけになり、製造や保守で混乱する恐れがある。
管理職としてのバランスの取り方
結論としては、「思想を刷り込む部分」と「自由を与える部分」を分けて運用する」 のが最適です。
(1) 絶対に刷り込むべき部分
- 安全性に直結する設計ルール
- 例:ねじの強度計算、安全率の考え方、機械要素の標準寸法。
- 会社としての標準化・規格
- 例:図面の書き方、公差の指定方法、材料や表面処理の基準。
これらは個人の自由に任せてはいけません。組織全体で守るべきものです。
(2) 自由を与える部分
- 形状の工夫や配置のアイデア
- レイアウトや部品形状などは、多少自由にさせると良い経験になります。
- 選択肢の比較検討
- 複数の設計案を自分で考えさせ、レビューで議論するのも有効です。
- 「なぜそうしたか」を説明させる
- 理由を説明させることで、考える力が育ちます。
レビュー・検図での実践的アプローチ
- 最初は細かく指導
- 新人は基準を知らないため、まずは思想を強めに刷り込みます。
- 次第に自由度を広げる
- 基礎が身についたら「ここは任せてみる」という領域を増やしていきます。
- 失敗をレビューでフォロー
- 実際に設計ミスをした場合も、頭ごなしに否定するのではなく「なぜそうなったか」を一緒に考える。
- 最終責任は管理職
- 自由にさせても、製品に影響が出るのは組織全体。
- 検図の段階でリスクを必ず抑えるのが管理職の役割です。
新人設計レビューの実践例:OKな指導とNGな指導
新人設計者の育成において、レビューや検図の場は単なるチェック作業ではなく、教育のチャンスでもあります。
しかし、管理職としての声のかけ方ひとつで、新人の成長スピードやモチベーションは大きく変わります。
本記事では、実際の会話例を通じて 「OKな指導」と「NGな指導」 を比較しながら、実践できるポイントを解説します。
1. 安全や標準を守るべき指摘の会話例
NG例(頭ごなしに否定)
👨💼「なんでこんな小さいボルトにしたんだ?強度不足だろ!ちゃんとカタログ見たのか?」
👩💻「…すみません…」
➡ 新人は「怒られた」という記憶だけが残り、なぜダメなのか が理解できない。
OK例(理由を考えさせる)
👨💼「このボルトサイズだと強度が不足するかもしれない。強度計算はやったかな?」
👩💻「いえ、そこまで確認していませんでした」
👨💼「次回は安全率を計算してみよう。計算方法はこの資料を参考にしてみて」
➡ 考えさせて方向性を示す ことで、次回以降に活かせる。
2. 設計の工夫や発想に関する会話例
NG例(自由を奪う指摘)
👨💼「なんでこんな配置にした?俺のやり方はこっちだ。全部直せ」
👩💻「…はい…」
➡ 新人は「自分で考えても結局ダメ」と感じ、指示待ち人材 になってしまう。
OK例(考えを引き出す指摘)
👨💼「この配置にしたのは何か理由がある?」
👩💻「はい、配線の取り回しを短くした方がいいと思ったので」
👨💼「なるほど。ただ、組立スペースが狭くなるから、この部分だけ修正した方がいいかな。配線の工夫と組立性の両立を考えてみよう」
➡ 新人の意図を尊重しつつ改善点を伝える ことで、自分の発想を磨くきっかけになる。
3. 失敗から学ばせる会話例
NG例(失敗を責める)
👨💼「この図面、干渉してるじゃないか!どうして確認しなかったんだ?」
👩💻「…すみません…」
➡ 責められるだけでは、失敗を隠すようになり、学びにつながらない。
OK例(改善につなげる)
👨💼「干渉が出てるね。どの段階で気づけそうだったかな?」
👩💻「モデルの組立チェックをしていなかったので、そこで気づけたと思います」
👨💼「そうだね。次回はモデル確認を必ず入れよう。習慣化すれば防げるから」
➡ 失敗を改善のステップに変える指導 が新人の自信を育てる。
レビューでの基本スタンス
- 否定ではなく「質問」で気づかせる
- 新人の意図を聞いてから指摘する
- 失敗を責めるのではなく改善に導く
- 最後は必ずポジティブに締める
管理職初心者が新人に設計レビューをする際は、
- 絶対NG:頭ごなしの否定、やり方の押し付け
- OK:理由を考えさせ、意図を尊重し、改善につなげる

この違いだけでも、新人のやる気や成長スピードは大きく変わります。
レビューや検図を「ミス探し」ではなく「成長の場」と捉えることが、管理職としての大切な役割です。
まとめ
新人の設計レビューでは、
安全・標準は徹底して刷り込む
工夫や発想はある程度自由にさせる
このメリハリが大切です。
完全に思想に染めるだけでは「自分で考えられない設計者」に育ち、
完全に自由にすると「安全性や標準を無視した設計者」に育ってしまいます。
管理職としての理想は、「失敗から学ばせつつ、組織全体のリスクは回避する」 というバランスのとれた指導です。そのためにレビューや検図は単なるチェック作業ではなく、教育の場 として活用していきましょう。
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