機械設計において、部品の寸法精度は製品の品質や性能を左右する重要な要素です。特に、複雑な形状や高精度が求められる部品では、従来の測定工具では正確な寸法測定が難しくなることがあります。そこで活躍するのが 三次元測定機(CMM:Coordinate Measuring Machine) です。
三次元測定機は、X・Y・Zの座標を高精度で測定し、部品の寸法・形状・位置関係を正確に解析できる測定装置です。しかし、測定機の選定や使用方法を誤ると、期待した精度を得ることができず、誤った測定結果を招く可能性もあります。本記事では、三次元測定機の使いどころや測定のコツについて詳しく解説し、より正確な寸法測定を行うためのポイントを紹介します。
三次元測定機とは
三次元測定機(CMM: Coordinate Measuring Machine)は、部品の寸法や形状を高精度で測定するための測定器です。X・Y・Zの3軸で構成され、プローブを用いて測定対象の座標を取得し、形状や寸法を解析します。
三次元測定機の使いどころ
三次元測定機は、以下のような場面で特に有効です。
高精度な測定が必要な場合
一般的なノギスやマイクロメーターでは測定が難しいμm単位の高精度な測定が求められる場合に適しています。
複雑形状の部品の測定
例えば、金型やギア、自由曲面を持つ部品の測定に適しており、従来の接触式測定具では困難な形状でも測定可能です。
幾何公差の評価
真直度、平行度、同心度などの幾何公差の測定が必要な場合に活用されます。
試作品や初品検査
新しく製作した部品の初回検査や試作段階での形状確認にも活用されます。
三次元測定機による複雑形状部品の測定
機械設計において、部品の形状は単純な直方体や円柱だけでなく、曲面を持つ形状や複雑な自由曲面など、多様な形状が求められます。特に、航空機部品や医療機器、自動車部品などでは、滑らかな曲線や複雑な穴配置を持つ部品が多く存在します。こうした複雑形状部品の寸法測定には、従来のノギスやマイクロメーターでは対応が難しく、三次元測定機が不可欠です。本項では、複雑形状の部品を測定する際のポイントや注意点について解説します。
三次元測定機を使うメリット
複雑形状の部品を測定する際、三次元測定機には以下のような利点があります。
✅ 接触式・非接触式の選択が可能
– 接触式プローブで座標点を取得することで、高精度な測定が可能。
– レーザーや光学センサーを使用した非接触測定により、微細形状や柔らかい部品の測定も可能。
✅ 座標データを基にCADデータと比較できる
– 設計したCADデータと測定データを比較し、公差内に収まっているかの確認が容易。
✅ 自動測定プログラムの活用
– 繰り返し測定や大量生産品の検査にも適用可能。
複雑形状部品の測定ポイント
複雑な形状を持つ部品を測定する際には、いくつかの重要なポイントがあります。
測定基準の設定
測定の精度を確保するためには、基準となる座標系の設定が非常に重要です。
- 基準面・基準点の明確化
– どの面を原点とするか決め、測定プログラムに反映。 - 冗長な測定点の回避
– 測定精度を高めるため、必要十分な測定点を選定。
測定方法の選択
複雑形状の部品では、接触式と非接触式を適切に使い分けることが求められます。
測定方式 | 特徴 | 適用部品 |
---|---|---|
接触式プローブ | 高精度測定が可能だが、測定時間がかかる | エンジン部品、ギア、金型 |
レーザースキャナー | 非接触で測定が可能、自由曲面の測定に最適 | 自動車外装部品、医療機器 |
白色干渉計 | さらに高精度な非接触測定が可能 | レンズ、光学部品、電子部品 |
測定データの解析
- 測定データとCADデータの比較
– 取得した座標データをCADデータと比較し、偏差を評価する。 - 公差評価の実施
– 幾何公差(平面度、円筒度、位置度など)の適用を考慮し、許容範囲内であるかを判断。
測定時の注意点
複雑形状の部品を測定する際、以下の点に注意する必要があります。
🚨 測定環境の影響を最小限に抑える
– 三次元測定機は温度変化や振動の影響を受けやすいため、恒温室内で測定を行うことが望ましい。
🚨 ワークの固定を適切に行う
– 測定対象が動いてしまうと正確な測定ができないため、クランプや治具を活用し、適切に固定する。
🚨 プローブの選定
– 小さな穴や入り組んだ部分を測定する場合は、細いプローブや特殊形状のプローブを使用する。
🚨 データ解析の適正化
– 測定点が多すぎると、不要なノイズが発生するため、適切なフィルタリング処理を行う。
三次元測定機を用いることで、従来の測定器では難しかった複雑形状部品の高精度測定が可能になります。ただし、測定方法の選択や基準の設定、測定環境の管理など、正確な測定を行うためにはいくつかの注意点があります。適切な測定手法を選択し、最適な測定条件で運用することで、設計意図を満たす品質管理が可能となります。
「三次元測定機を最大限活用し、より精度の高い部品測定を実現しましょう!」
三次元測定機による幾何公差の測定
幾何公差とは
機械設計において、部品の形状や位置関係を正確に管理するためには幾何公差の考え方が重要です。幾何公差とは、単なる寸法公差ではなく、形状・姿勢・位置・振れなどの要素を数値化し、部品の機能を確保するための基準となるものです。例えば、円筒部品の真円度、穴の位置度、基準面に対する直角度などは、一般的な寸法測定ではなく幾何公差によって評価されます。
三次元測定機を用いた幾何公差の測定
三次元測定機は、X・Y・Zの座標を取得して幾何公差を評価するための強力なツールです。以下のような幾何公差の測定が可能です。
- 形状公差(真円度、平面度、円筒度など)
- 例:円筒形の部品において、複数の点をプローブで測定し、その偏差から真円度や円筒度を評価する。
- 姿勢公差(平行度、直角度、傾斜度など)
- 例:基準面に対する直角度を測定し、要求された公差内に収まっているかを確認する。
- 位置公差(位置度、同心度、対称度など)
- 例:穴の中心座標を測定し、設計値と比較することで位置度公差を確認する。
- 振れ公差(円周振れ、全振れ)
- 例:回転軸の円周振れを測定し、旋回時のブレが許容範囲内であるかを評価する。
幾何公差測定のポイント
三次元測定機で幾何公差を正しく測定するには、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 基準となる測定面を適切に設定する
- 測定する公差によって、どの基準を使うかを明確にする。
- 例えば、位置度を測定する場合は基準面をしっかり確定することが重要。
- 測定ポイントを適切に選定する
- 測定点が少ないと誤差が大きくなるため、適切な点数を取得する。
- 形状公差ではできるだけ全周にわたって測定点を配置する。
- 測定環境を整える
- 三次元測定機の設置環境(温度・湿度・振動)に注意し、測定誤差を最小限に抑える。
- ワークの固定方法にも注意し、不必要な歪みを防ぐ。
- 測定プログラムの活用
- 三次元測定機には専用の測定ソフトウェアが搭載されているため、自動測定プログラムを活用すると安定した測定が可能。
- 幾何公差の評価に適したアルゴリズムを選択する。
幾何公差の測定は、部品の品質管理において非常に重要なプロセスです。三次元測定機を活用することで、より高精度で効率的な測定が可能になります。ただし、適切な基準の設定や測定方法の選択を誤ると、正確な測定結果が得られない可能性があるため、測定のポイントを押さえた運用が求められます。幾何公差の適切な管理によって、設計通りの性能を持つ部品を製造することが可能となります。
三次元測定機の測定のコツ
三次元測定機を適切に使用するためのコツを紹介します。
ワークの固定をしっかり行う
測定中にワークが動かないよう、しっかりと固定することが重要です。動いてしまうと測定結果に誤差が生じる可能性があります。
測定環境の温度管理を徹底する
温度変化によるワークや測定機の膨張・収縮を抑えるため、室温管理を適切に行います。
プローブの選定
測定する部品の形状や材質に適したプローブを選定することで、より正確な測定が可能になります。
測定点を適切に配置する
測定点の選定は、測定の精度に大きく影響します。特に幾何公差の測定では、適切なポイントを選ぶことが重要です。
基準面をしっかり測定する
まず基準となる面を測定し、その座標を基に測定を進めることで精度の高い結果を得ることができます。
測定プログラムの作成と自動化
定型的な測定ではプログラムを作成し、自動測定を行うことで作業効率を向上させることができます。
まとめ
三次元測定機は、複雑な形状や高精度な測定が求められる場面で非常に有効な測定器です。しかし、正確な測定を行うためには、測定環境の管理やワークの固定、適切な測定方法の選定が不可欠です。これらのポイントを意識しながら運用することで、より精度の高い測定結果を得ることができます。
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