エキセン(偏心加工)は、機械設計でよく使われる加工方法のひとつです。
軸の中心からあえて外れた位置に穴や円を加工することで、回転運動を直線運動に変えたり、位置調整を簡単にしたりすることができます。
カム機構やクランプ、張力調整ローラーなど、さまざまな装置に活用されるため、設計者にとって必須の知識です。
本記事では、エキセンの基本原理から用途、設計の注意点までを初心者にもわかりやすく解説します。
「偏心加工って何?」「どうやって設計に取り入れるの?」という方は、ぜひ参考にしてください。
機械設計におけるエキセン(偏心加工)とは?
エキセン(偏心)の基本
「エキセン(偏心)」とは、軸の中心から意図的に外れた位置に加工を行うことを指します。
円筒や穴などの中心を、基準となる軸からずらして作ることで、回転させたときに独特の動きを生み出すことができます。
例えば、下記のような場面でよく使われます。
- カム機構やクランク機構のように、回転運動を直線運動に変換したいとき
- モーターの回転を「揺動(スイング)」に変換する仕組み
- 偏心プーリーやローラーなど、張力を調整したり部品を押し付けるための調整部品
エキセンの主な用途
偏心加工は、機械設計のさまざまな場所で活躍しています。
カムやクランク
- 偏心させた円板を使うことで、回転に応じて上下・前後の動きを作り出せます。
- 工作機械の送り機構や自動化装置の「押し出し」「上下動」などに使われます。
偏心ローラー
- 細かい位置調整や、ベルト・チェーンの張り調整に便利。
- ローラーの中心をあえてずらすことで、回転角度を変えると半径が微妙に変化し、位置を簡単に調整できます。
クランプ・締め付け機構
- 偏心ピンを回転させることで、ワーク(加工物)を固定したり緩めたりできる仕組みに利用されます。
エキセン設計のポイント
エキセン部品を設計する際には、以下の点に注意が必要です。

- 偏心量(オフセット)の決定
- 偏心量が大きいと動きの幅が広がりますが、その分バランスが崩れやすくなります。
- 目的の動作に必要な最小限の偏心量を設定しましょう。
- 強度と剛性の確保
- 偏心部は応力が集中しやすく、疲労破壊のリスクがあります。
- 十分な断面を確保し、材料選定にも注意しましょう。
- バランス取り
- 偏心形状の部品は回転中にアンバランスが発生しやすいです。
- 高速回転用途では、カウンターウェイトなどでバランスを補正するのが一般的です。
- 加工方法の選択
- 偏心穴は、旋盤加工では「チャックのオフセット」や「エキセンチャック」を使って行います。
- 精度が必要な場合は、マシニングセンタやジグを使用することもあります。
エキセン加工のメリット・デメリット
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
機能性 | 回転運動を複雑な動きに変換できる | 設計が複雑になる場合がある |
調整性 | 微調整用の部品として便利 | 偏心量を大きくするとバランスが悪くなる |
加工 | 旋盤やフライスで比較的容易に加工できる | 精度が必要な場合はバランス取りが必須 |
初心者へのアドバイス
- 偏心量を決めるときは、「大きすぎないこと」がポイントです。
- 設計段階で、偏心による荷重の変化を必ず確認しましょう。
- 高速回転させる部品では、バランス取りを怠ると振動や軸受けの寿命低下につながります。
エキセンを利用したクランプ機械要素をわかりやすく解説
エキセン(偏心)を利用したクランプとは?
クランプは、部品やワークを「固定」するための代表的な機械要素です。
その中でも エキセン(偏心)を応用したクランプ は、ハンドルやレバーを回すだけで簡単に強い締め付け力を得られるのが特徴です。
エキセンとは、回転軸の中心からずらした形状(偏心)を指します。
この「ずれ」を利用してカムのような動きを生み、レバー操作によってワークを素早く押し付け固定できます。
■ IMAOやNBKの「カムレバー」
エキセンを利用したクランプの代表例が、IMAO(イマオコーポレーション)やNBK(鍋屋バイテック) の「カムレバー」です。
- ハンドルを倒すとカム面が回転し、偏心効果によってワークを押し付けて固定
- ハンドルを起こすとクランプ力が解除され、ワークを簡単に取り外せる
ネジで締める固定に比べ、ワンタッチ操作で繰り返し固定が可能 なので、作業時間を大きく短縮できます。
動作の仕組み
エキセンを活用したクランプは、方向によって役割を分けると便利です。
- 左右方向(カムの偏心) … レバーを回すと、カム形状の偏心部分がワークを横方向から押し付け固定
- 上下方向(ラッチ機構) … レバーの位置を決める「ラッチ」で高さ方向を固定し、安定したクランプ状態を保つ
このように、偏心+ラッチ の組み合わせによって、少ない力で確実な固定ができます。
主なメリット
- 作業時間の短縮
- ネジ式クランプのように毎回締め付ける必要がなく、レバーを倒すだけで固定完了。
- 繰り返し作業に最適です。
- 安定した固定力
- 偏心形状によって、少ない力で大きな押し付け力を発揮。
- ワークがズレにくく、安定した位置決めが可能です。
- コンパクト設計
- カムレバーは本体が小さく、狭いスペースにも取り付けやすい設計になっています。
注意点と選定のコツ
- クランプ力は「偏心量」と「レバーの長さ」によって決まります。
- 使用ワークの重量や加工中の力を考慮して、適切なモデルを選定しましょう。
- 固定面が摩耗するとクランプ力が低下する場合があります。
- 長期間使用する際は定期的に点検や交換を行いましょう。
- カムレバーには「固定位置の微調整」ができるタイプもあるため、作業環境に合わせて選ぶと便利です。
エキセンを利用したクランプは、作業効率を高める強力な味方 です。
IMAOやNBKのカムレバーを活用すれば、レバー操作ひとつでワークを確実に固定でき、繰り返し作業の時間を大幅に短縮できます。

ネジ式クランプからの置き換えを検討している方は、
ぜひ一度エキセン式クランプを試してみてください。
「スピーディーな固定」「確実な位置決め」「シンプルな操作」 を実現し、
現場作業の効率化に大きく貢献します。
まとめ
エキセン(偏心加工)は、機械の動きを生み出したり、調整を簡単にするための重要な設計手法です。
カム、ローラー、クランプなど身近な機構にも幅広く使われており、初心者が理解しておくと設計の幅が一気に広がります。
「偏心=中心をずらすだけ」ですが、その効果は絶大。
安全性やバランスに注意しながら、機能を最大限に引き出せる設計を目指しましょう。
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