【はめあい公差】穴のはめあいにH7を使うことが多い理由 5選

公差・はめあい

機械設計においてH7公差は、穴のはめあいで非常によく使われる標準的な公差範囲です。その理由には、加工の容易さや標準部品との互換性などが挙げられます。ここでは、H7が広く採用されている理由について詳しく解説します。

H7とは?

「H7」は、JIS B 0401(ISO 286)で定められたはめあい公差の一つで、穴の寸法公差に適用される代表的な値です。「H」とは穴側を示し、「7」はその公差範囲を表しています。具体的には、基準寸法に対して穴の加工上限値がプラスマイナスゼロで、公差幅は一定範囲内に収まる仕様です。

たとえば、基準寸法がφ20 mmの場合、H7の公差幅は+0.000 mm ~ +0.021 mmとなります。この範囲は、加工精度を確保しつつも製造コストを抑えられる、非常にバランスの良い設定です。

1. 加工容易性と精度のバランス

H7公差は、0.010mmから0.030mm程度の範囲で、非常に実現しやすい精度です。一般的な加工法、例えばリーマー加工やボーリング加工によって比較的安定してこの範囲を得られるため、製造現場でのコストと精度のバランスが取りやすいです。加えて、NC工作機械や手動リーマーでもH7を実現できるため、設備投資が少なく、加工の難易度が比較的低い点が大きなメリットです。

また、機械加工における標準的な加工精度と位置付けられており、特殊な機械や技術を必要とせず、多くの作業場で採用されているため、品質が安定しやすいです。このように、H7は加工の効率と品質管理の両面で非常に優れた選択肢といえます。

2. 一般的な機能要件に対応

H7公差は、設計時に必要となる多くの機械要素の機能要求を満たす範囲です。たとえば、H7は適度なクリアランスを持つため、回転機構や摺動機構など、精密な位置決めや摺動を要求される部分において最適な選択肢です。軸受けやシャフト、ベアリングなど、非常に多くの要素で使用されるため、広範な用途に対応しています。

具体的には、回転機構であれば、H7を用いることで摩擦を最小限に抑えながらも適切な位置精度を保つことができ、摺動部では長寿命かつスムーズな動作が保証されます。また、締結部品やピンなどの挿入時にも適度なはめあいを実現できるため、機能的かつコスト効果が高い設計が可能です。

3. 豊富な標準部品の選択肢

H7公差は、機械設計における国際的な標準として広く採用されています。このため、H7に適合する市販の標準部品や特殊部品が豊富に存在し、選択肢が広がります。特に市販のベアリングやブッシュなどの部品は、多くがH7公差に合わせて製造されているため、設計段階でH7を採用することにより、部品の供給が容易となり、設計から生産までのリードタイムが短縮されます。

また、部品メーカーがH7公差を前提に生産しているため、設計者がわざわざ公差指定を細かく調整しなくても、すでに市場に出回っている部品をそのまま流用でき、コスト削減設計時間の短縮に大きく貢献します。これは特に量産製品や標準化が進んだプロジェクトにおいて、設計効率を向上させる重要なポイントとなります。

H7が豊富な標準部品に対応している理由

部品の互換性が高い

H7は、軸受、ブッシュ、ダウエルピンなど、多くの機械部品の穴寸法として採用されています。この互換性の高さは、設計者が特注品に頼らず、標準部品を活用できることを意味します。

多用途で幅広い適用範囲

H7は、すきまばめや中間ばめに対応できるため、動力伝達部品から位置決め部品まで幅広い用途に使用されます。これにより、部品設計の効率が大幅に向上します。

規格化された部品の多さ

H7は世界中で一般的に使われている規格であるため、市場には多種多様な対応部品が流通しています。たとえば、転がり軸受やプーリーなど、H7の寸法公差に基づいて設計されている製品は非常に多いです。


H7対応の標準部品の具体例
転がり軸受
  • 転がり軸受の内径にH7が使用されることが一般的です。
  • 標準のベアリングはH7の穴に適合するよう設計されており、滑らかな回転運動を実現します。
ブッシュ
  • 摩擦低減や機械部品の耐久性向上のために使用されるブッシュも、H7に適合しています。
  • 市販品をそのまま利用することで、加工工数を削減可能です。
ダウエルピン
  • 機械部品の位置決めに欠かせないダウエルピンも、H7の穴に対応しています。
  • 正確な位置決めが要求される場面で、H7公差の穴が選ばれることが多いです。

H7対応標準部品を使用するメリット

コスト削減

  • 標準部品をそのまま利用できるため、特注部品の製造にかかるコストやリードタイムを削減できます。
  • また、加工公差が厳密すぎないため、製造コストも抑えられます。

設計の簡便化

  • H7に対応した標準部品を基準に設計することで、設計の負担を軽減できます。
  • 特に、設計初心者にとっては、市場に流通している部品の活用が効率的です。

保守・交換の容易さ

  • H7対応の標準部品は、流通量が多く入手性が高いため、保守や交換がスムーズに行えます。

H7対応部品を活用した設計事例
ケース1: 回転軸の支持構造
  • 機械のシャフト設計でH7の穴を採用し、市販のベアリングを装着。
  • 加工工数を削減しつつ、適切なすきまばめで振動を抑えた設計を実現しました。
ケース2: 位置決め用プレート
  • H7の穴とダウエルピンを使用して精密な位置決めを実現。
  • 標準品の活用により、設計および製造コストを削減しました。

H7は、多くの標準部品に対応している点で、機械設計における非常に実用的な公差です。特に、標準部品を活用することで、設計者は特注部品の製作を避け、コスト削減や効率向上を実現できます。

これから設計を始める方も、まずはH7公差を活用した設計に挑戦してみてください。その便利さと使い勝手の良さが、設計の幅を広げる大きな助けとなるはずです。

4. 柔軟な組み合わせが可能

H7公差は軸公差との組み合わせにより、異なるはめあいを柔軟に設定できる点も大きな利点です。たとえば、H7の穴に対して軸をh6で設計すれば、はめあいがスムーズな中間ばめが得られます。一方、H7とg6を組み合わせることで、若干のすきまがあるすきまばめを得られ、組み付けや分解がしやすくなります。

これにより、設計者は一つの公差範囲(H7)を基準に、さまざまな軸の公差を調整することで、異なる使用条件や動作要件に対応する設計が可能となります。H7を基準に設計することで、軸側の公差を微調整するだけで、様々な用途に応じた適切なはめあいが選べるため、設計の自由度が大きくなります。

H7と軸側公差の組み合わせとは?

「H7」は穴側のはめあい公差で、基準寸法に対し上限値がプラス方向に設定されています。この公差範囲は、軸側の公差(例えばg6, h6,m6, p6など)と組み合わせることで、すきまばめ、中間ばめ、はめあいばめのような多様な用途に対応することができます。

以下に、H7と各軸側公差との代表的な組み合わせとその用途を示します。

  • H7/g6(すきまばめ)
    • 軽い動きを必要とする部品に適用。たとえば、回転運動が頻繁に求められる箇所。
  • H7/m6,h6(中間ばめ)
    • 精密な位置決めが必要な箇所に使用。少しの隙間を残しつつ、がたつきを抑えた設計。
  • H7/p6(はめあいばめ)
    • しっかりと固定したい箇所に適用。動力伝達や強固な固定が必要な部位。

H7と軸側公差の柔軟性が生むメリット

汎用性の高さ

H7は、複数の軸側公差と適応できるため、特定の公差に縛られることなく、設計の自由度を高めます。この特長により、同じ公差の穴を使用しながら、異なる用途に応じた軸の選定が可能です。

設計効率の向上

H7を基準として設計することで、軸側の公差を変更するだけで異なる要件に対応可能です。これにより、設計の再調整や部品変更の手間を削減できます。

標準部品の活用

H7および軸側の公差g6,m6,h6,p6は、多くの標準部品で採用されています。そのため、設計段階で特注品に頼らず、既存の部品を活用することで、コスト削減が可能です。


H7と軸側公差の活用事例

事例1: 回転軸の支持
  • H7/g6の組み合わせを使用し、軽いすきまばめを実現。
  • 回転運動が頻繁に行われる箇所で、滑らかな動作を維持。
事例2: プーリーとシャフトの接続
  • H7/p6を適用してはめあいばめを採用。
  • 動力伝達に必要な強固な固定を実現し、軸とプーリーの滑りを防止。

H7は、軸側公差との柔軟な組み合わせが可能で、設計者にとって高い汎用性を提供します。特に、g6, m6, p6といった異なる公差との組み合わせにより、すきまばめからはめあいばめまで、多様な要件に対応できます。

この柔軟性を活用することで、設計の効率化やコスト削減が実現し、設計の自由度も向上します。次回の設計では、H7の強みを活かした公差設計をぜひ試してみてください。

5. 品質管理と再現性

H7は、量産品の品質管理においても非常に安定した公差です。多くの製造業で、H7公差は既に標準的な品質管理が確立されており、加工業者もその範囲を狙って製造を行っています。このため、H7を選定することで、量産品における再現性が高まり、製造段階でのばらつきを最小限に抑えることが可能です。

さらに、H7は検査工程においても広く採用されているため、適切な測定機器やツールが揃っており、寸法検査の負担が軽減されるという点も見逃せません。再現性が高い公差範囲であることは、製品全体の信頼性を向上させ、安定した品質を保つための重要な要素です。

まとめ

H7公差は、機械設計においてコスト、機能、品質管理のバランスが優れた選択肢です。加工が容易で、標準的な市販部品と高い互換性があり、また軸公差との組み合わせで多様な用途に対応できるため、設計者にとって非常に汎用性の高い公差範囲です。設計における信頼性や効率を高めるためにも、H7公差は多くの機械設計で採用され続けています。


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