幾何公差(Geometrical Tolerancing)は、機械設計において部品や機構の形状、位置関係、寸法の精度を管理するために使用される規格です。寸法公差が主に長さや角度などの寸法そのものの許容範囲を示すのに対し、幾何公差は形状や相対的な位置関係に焦点を当てています。この公差管理を適切に行うことで、組み立て時の部品間のズレや機能不良を防ぎ、高精度な製品の製作が可能になります。
幾何公差の基本要素
幾何公差は、一般に以下の要素に基づいて表現されます。
形状公差
部品の形状の精度を規定する公差です。
✅直線度
面や線が理想的な直線からどれだけズレているかを規定します。
✅平面度
面が理想的な平面からどれだけズレているかを規定します。
✅真円度
円形の形状がどれだけ理想的な真円に近いかを規定します。
✅円筒度
円筒面がどれだけ真円であるかを規定します。
姿勢公差
基準に対する部品や形状の方向性のズレを管理する公差です。
✅平行度
基準面や基準軸に対して、面や軸がどれだけ平行であるかを規定します。
✅直角度
基準面や基準軸に対して、面や軸がどれだけ直角であるかを規定します。
✅傾斜度
基準面に対して、指定された角度がどれだけ正確に維持されているかを規定します。
位置公差
部品の位置関係を規定する公差です。
✅位置度
基準に対して、穴や軸などの位置がどれだけ正確であるかを規定します。
✅同軸度
複数の軸が同じ軸線を共有しているかどうかを規定します。
✅同心度
複数の円や円筒形が同じ中心を持つかどうかを規定します。
✅対称度
形状の中心線や中心面が、基準に対して対称であるかどうかを規定します。
振れ公差
回転する部品の振れを管理する公差です。
✅円周振れ
回転する部品の円周がどれだけ理想的な円周からズレているかを規定します。
✅全振れ
回転部品の全体の振れを規定します。
幾何公差の記号
幾何公差は、図面上で記号として記載され、各公差の種類とその許容範囲を明確に示します。これにより、設計者や製造者が部品の要求精度を正確に理解し、適切な製造や検査を行うことが可能です。代表的な幾何公差記号の例を以下に示します。

幾何公差のメリット
幾何公差を適切に設定することで、次のような利点が得られます。
✅ 組み立て精度の向上
幾何公差を適用することで、部品間のズレや歪みを最小化し、製品の組み立て精度が向上します。
✅ コスト削減
幾何公差を使用することで、必要以上に厳しい寸法公差を設定する必要がなく、製造コストの削減が可能です。
✅ 製品の信頼性向上
正確な幾何公差を設定することで、部品の長期的な信頼性や耐久性が向上します。
幾何公差を適用する際の注意点
🚫過剰な公差設定を避ける
- 必要以上に厳しい公差を設定すると、製造コストが大幅に上昇する可能性があります。
- 設計の目的や必要な精度に応じて、適切な公差を設定することが重要です。
🚫測定方法の考慮
- 幾何公差を管理するには、適切な測定方法や検査装置が必要です。
- 高精度な測定機器を導入するコストや手間も考慮しながら、公差を設定する必要があります。
🚫設計と製造のコミュニケーション
- 幾何公差の適用には、設計者と製造者の間で適切なコミュニケーションが必要です。
- 図面に記載された公差が正しく理解され、製造工程でその要求が満たされるよう、図面の明確さと情報共有が不可欠です。
機械設計における幾何公差の使用例
🔍軸の同軸度の管理
高速回転するシャフトとベアリングハウジングの中心軸を一致させるための同軸度指定。
🔍ボルト穴の位置公差
組立時に複数の部品が適切に位置合わせされるよう、ボルト穴の中心位置を管理。
🔍平面度の管理
接触面におけるガスケットの均一な密着を確保するために、基準面の平面度を指定。
🔍円筒度の管理
油圧シリンダーのピストンとシリンダー内径の滑らかな摺動を実現するため、円筒度を規定。
🔍真直度の管理
リニアガイドやシャフト部品で、摺動面の直線性を維持するために真直度を指定。
🔍振れ公差の指定
回転部品(例:フライホイールやディスク)における動的不均衡を防止するため、全振れや面振れを管理。
🔍平行度の使用
ギアボックス内で複数のシャフトを正確に平行に配置するために、平行度を指
幾何公差は部品間の適合性や動作精度を確保するために不可欠です。それぞれの使用例において、幾何公差の適切な指定が製品性能や品質向上に寄与します。また、無駄な公差を付けないこともコスト削減に重要です。
個別公差と幾何公差の違いと使い分け
機械設計では、部品の寸法や形状を正確に製造するために公差(Tolerance)を設定します。
公差には主に 個別公差 と 幾何公差 の2種類があり、それぞれ役割が異なります。
個別公差とは?
個別公差(寸法公差) とは、部品の寸法(長さ・直径・厚さなど)に対して設定する許容範囲のことです。
「この寸法の範囲内ならOK」とすることで、製造誤差を考慮しながら精度を確保します。
個別公差の表記例
📌 50.00 ±0.05 mm
📌 φ20 -0.02/+0.01 mm
この場合、寸法は指定範囲内に収まっていれば良いという意味になります。
個別公差と幾何公差の違い
公差の種類 | 設定する対象 | 管理できる要素 | 例 |
---|---|---|---|
個別公差 | 寸法 | 長さ・直径・厚さなど | 50.00 ±0.05 mm |
幾何公差 | 形状・位置 | 直線性・平面性・垂直度・同軸度など | ⊥ 0.05 A(直角度公差) |
📌 個別公差は「寸法」を管理するのに対し、幾何公差は「形状や位置の精度」を管理する!
使い分けのポイント
個別公差を使う場面
✅ 単純な寸法精度が重要な場合(長さ・直径など)
✅ 汎用的な部品で、高い形状精度を求めない場合
✅ 加工しやすく、コストを抑えたい場合
💡 例:一般的なプレートの長さや穴径の指定
📌 φ10.00 -0.01/+0.02 mm
幾何公差を使う場面
✅ 寸法だけでは制御できない形状精度が必要な場合
✅ 組立後の位置精度や摺動性が求められる場合
✅ 基準面や基準軸に対する精度が重要な場合
💡 例:シャフトとベアリングの同軸度を高めたい場合
📌 ◎ 0.05 A(同軸度公差 0.05mm、基準Aに対して)
🔹 個別公差 → 「寸法の許容範囲」を管理する
🔹 幾何公差 → 「形状や位置の精度」を管理する
📌 単純な寸法管理なら個別公差、形状や位置精度が重要なら幾何公差を使う!
📌 過剰な公差指定はコスト増加につながるため、適切な公差設定が重要!

これらを適切に使い分けることで、高品質かつコスト効率の良い設計を実現できます!
まとめ
幾何公差は、機械設計における重要な要素であり、部品の機能を確保するための精度を保証する役割を果たしています。設計者は、幾何公差を正しく理解し、適切に指定することで、製品が設計意図通りに動作し、耐久性や信頼性が向上することを目指します。また、製造時の加工コストや品質管理の効率性にも大きく影響を与えるため、無駄な過剰精度を避け、必要な精度を適切に設定することが重要です。幾何公差の理解と適用は、設計と製造の一貫性を保ち、機械部品の性能を最大化するために不可欠な技術といえます。
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