【幾何公差】振れ公差について【図面指示】

公差・はめあい

振れ公差は、回転部品の精度を確保するために非常に重要な要素です。回転軸や円筒形の部品が、設計通りの真円を保ちながら回転するためには、振れが規定の範囲内に収まる必要があります。振れ公差には「円周振れ」と「全振れ」があり、それぞれ異なる条件で部品の振れを管理します。本記事では、それぞれの振れ公差について具体的な数値例を用いて解説します。

円周振れ

円周振れは、ある断面における回転物の振れを規定する公差です。回転中のある断面の外周がどの程度設計からずれているかを測定し、そのずれが許容範囲内であるかを確認します。

具体例:

  • 部品:直径30mmと20mmの段付きシャフト
  • 基準面:シャフトの両端を基準面とする
  • 振れ公差:円周振れ0.05mm

この場合、シャフトの回転において、基準面から指定された断面(例えばシャフトの中間部)の外周が0.05mm以内の範囲でしかぶれていない必要があります。この公差を超える場合、回転中に振動が発生し、機械の動作に悪影響を与える可能性があります。円周振れの測定はダイヤルゲージなどで行い、全周を一周して計測します。


全振れ

全振れは、部品全体の回転に対する振れを規定します。部品全長にわたって回転軸がどの程度振れているかを評価し、全体的な偏心や変形を管理します。

具体例:

  • 部品:直径20mm、長さ150mmのシャフト
  • 基準面:シャフトの一端を基準面とする
  • 振れ公差:全振れ0.1mm

この場合、シャフト全長にわたって測定した振れが0.1mm以内に収まる必要があります。シャフトの全体的な振れがこの公差を超えると、例えばベアリングや他の部品との不整合が生じ、摩耗や異常振動、故障の原因となります。全振れの測定は、部品を回転させながら複数の断面で振れを測定し、全長にわたっての振れ量を確認します。


振れ公差の重要性

振れ公差は、特に高速回転する部品や精密機器において非常に重要です。例えば、エンジンやモーターのシャフト、工作機械のスピンドルなどの部品では、振れが設計値から外れると異常振動や異音の原因となり、最悪の場合、部品の破損や機械の故障に繋がります。振れ公差の適切な設定は、部品の長寿命化や機械全体の安定稼働に不可欠です。

振れ公差の精度が悪いと起こり得る不具合

幾何公差は、部品の製造や組み立ての際に必要な形状や位置の精度を指定する重要な指標です。その中でも振れ公差は、回転体の精度を定義する際に頻繁に使用されます。しかし、振れ公差の精度が悪い(または管理が不十分)場合、以下のような不具合が発生する可能性があります。本項では、振れ公差の役割、不具合例、そして改善策について解説します。


振れ公差とは

振れ公差は、部品の回転時の偏心や歪みの許容範囲を定める幾何公差の一つです。特に以下の2種類に分類されます。

  • 全振れ(Total Runout):回転軸の軸方向および径方向のすべての表面変動を含む。
  • 円振れ(Circular Runout):特定の断面での回転変動のみを測定。

振れ公差は、軸受、ギア、シャフトなど、回転する部品の性能と寿命に直接影響を与えます。


振れ公差の精度が悪いと起こる不具合

振れ公差が設計値よりも悪化すると、以下のような問題が発生します。

回転時の振動と騒音の増加

  • 振れが大きい場合、回転中に不均衡が生じて振動が発生します。
  • この振動が騒音の原因となり、特に高回転数の装置では顕著です。

摩耗と劣化の促進

  • 軸受やギアに不均一な負荷がかかり、局所的な摩耗が進行します。
  • 結果として、部品寿命が短くなる可能性があります。

トルク伝達の不安定化

  • シャフトやギアの振れにより、一定のトルクが伝達できなくなります。
  • 精密な動作が要求される装置では、これが重大な問題となります。

密封部品の劣化

  • シールやOリングの接触が不均一となり、密封性が低下します。
  • 特に油圧機器や流体機器では漏れの原因となります。

製品精度の低下

  • 工作機械におけるスピンドルの振れが大きいと、加工精度に悪影響を及ぼします。
  • 切削面の粗さや寸法精度が低下し、製品の品質に悪影響を与えます。

振れ公差の不良原因

振れ公差が設計通りに守られない主な原因は次の通りです:

加工精度の不足

  • 部品の旋削や研削での偏心や工具の摩耗。

組み立て時の誤差

  • シャフトとハウジングの位置ズレや不適切なはめあい。

設計段階での考慮不足

  • 振れ公差の適切な値を設定せず、緩い公差を採用する。

振れ公差による不具合を防ぐための対策
加工精度の向上
  • 高精度な工作機械を使用する。
  • 工具の定期的な交換や再研磨を行う。
組み立て精度の管理
  • 軸と軸受、ハウジングの適切なはめあい公差を設定する。
  • 測定器具(ダイヤルゲージや3次元測定機)を用いて、振れを確認する。
設計段階での配慮
  • 使用用途に適した振れ公差を設定する(必要以上に厳しい公差はコスト増加を招くため注意)。
  • 必要に応じて動的バランス調整を施す設計を行う。
公差解析の実施
  • 公差解析ソフトを用いて、振れ公差が製品全体の性能に与える影響を評価する。

振れ公差の確認方法

振れ公差の測定には、以下の方法が一般的に用いられます:

  • ダイヤルゲージ:部品を回転させながら偏心量を測定する。
  • 3次元測定機:複雑な形状部品の振れを精密に測定。
  • レーザー測定器:非接触で高精度な振れ測定が可能。

振れ公差の精度は、機械設計における回転体の性能や寿命を大きく左右します。振れ公差が悪い場合、部品の振動、摩耗、トルク伝達不良、密封性低下など、多くの不具合が発生します。これらを未然に防ぐためには、加工精度や組み立て精度の向上、適切な公差設定、振れの確認と管理が必要不可欠です。

振れ公差を適切に管理することで、部品の信頼性を高め、設計全体の品質を向上させることが可能です。


まとめ

振れ公差は、回転する機械部品の精度を保証し、機械全体の性能を安定させるために欠かせない要素です。特に、高速回転を伴うシャフトやスピンドルのような部品において、振れが設計基準から外れると、機械全体の動作に悪影響を及ぼし、異常振動や早期の摩耗、さらには重大な故障の原因となることがあります。円周振れは特定の断面における振れを管理し、全振れは部品全体の回転軸に対する振れを規定するため、どちらも部品の正確な回転を確保する上で重要です。

また、振れ公差を適切に設定することで、機械の寿命を延ばし、部品の摩耗や異常のリスクを減少させることができます。これにより、メンテナンスコストやダウンタイムの削減が可能となり、効率的な生産活動が維持されます。さらに、振れ公差は単に部品単体の問題ではなく、システム全体の機械設計に影響を与えるため、設計時の正確な計算と適切な管理が非常に重要です。

総じて、振れ公差を適切に管理することは、製品の品質向上や機械の長期的な信頼性の確保に繋がります。設計者やエンジニアは、数値を正しく理解し、実際の部品に合わせて最適な公差を設定することが必要です。


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