機械設計における標準部品と特注部品のトレードオフとは?【自由度・コスト・納期】

製図の基礎知識

機械設計をしていると、ある日こんな悩みに直面することがあります。

「市販の部品を使うべきか、専用の特注品を設計すべきか…?」

この判断は、設計の自由度、コスト、納期、信頼性に大きく関わってきます。

今回は、そんな設計者の永遠のテーマ「標準部品 vs 特注部品のトレードオフ」について、初心者の方にもわかりやすく解説します。


標準部品とは?

標準部品とは、以下のように既製品として流通している部品のことです。

  • ボルト・ナット・ベアリング・リニアガイド
  • ミスミやTHK、オリエンタルモーターなどの規格品
  • CADデータや仕様書が公開されており、誰でも購入可能

標準部品のメリット

項目内容
入手しやすい在庫があり、すぐに手に入る
コストが安い量産されているため価格が安定
信頼性が高い実績があり、性能が保証されている
設計・調達が楽CADデータあり、設計に組み込みやすい

🔍 ただし…

  • 寸法や性能が「完全に希望通り」ではないこともある
  • 空間に無駄が出たり必要以上の性能だったり
  • 本当に最適な性能が必要な場面では妥協が必要

特注部品(カスタム部品)とは?

特注品(カスタム部品)とは、設計者が仕様を定義して作るオリジナル部品です。

  • 特定の取り付け寸法に合わせて製作
  • 想定される荷重や環境に最適化
  • 社内で加工、または外注で図面渡し

特注部品のメリット

項目内容
性能を最大限に引き出せる必要な形・寸法・材質で製作できる
空間を有効活用できるコンパクト・一体化設計が可能
機能を組み合わせられるたとえばガイド+ストッパーの一体化など

🔍 ただし…

  • 加工コストが高くなる
  • 納期が長くなりやすい
  • 試作・検証が必要な場合もあり、リスクが高い

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トレードオフの例

以下は実際の設計現場でよくあるトレードオフの具体例です。

ケース標準部品カスタム部品
リニアガイドの取り付け汎用品を使用
(多少余分な長さあり)
最小限の長さ・穴位置をカスタム
スペースに制約がある構造標準品では収まらない複数部品を一体化して小型化
高速での回転体一般ベアリング使用特注の高精度・低摩擦仕様を設計
環境対応(高温、薬品など)標準材では耐えない材質指定の特注品を使用
取り付け穴位置が特殊アダプタで対応一体成形で設計通りの取付面

標準品と特注品についての関連記事はこちら

設計の基本指針:標準部品優先

初心者設計者がまず覚えるべきことは、

まず標準品で対応できないかを検討すること

特注部品は、性能やスペースに制限が出た最後の手段として考えるのが基本です。

標準品を使える条件

  • 精度や耐荷重など、スペックに余裕がある
  • 周囲の設計で多少の調整ができる
  • 今後の保守・交換性を考慮したい

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理想は“標準部品だけ”で設計すること?その理由と考え方

機械設計の現場では、こんな言葉をよく耳にします。

はじめ
はじめ

「できるだけ標準部品で設計しよう」
「理想は標準品だけで装置を構成すること」

なぜ、標準部品だけで設計することが“理想”とされるのでしょうか?
本項では、その理由とメリット、設計の考え方を初心者向けにわかりやすく解説します。


なぜ標準部品だけで設計するのが理想?

理由①:コストが安く済む

✅ 標準部品は大量生産されているため、単価が安くコストパフォーマンスが高いです。

🚫 特注部品は図面作成+試作+加工の手間がかかり、1点物でも高額になりがちです。


理由②:納期が早い

✅ 標準部品はすでに在庫がある場合が多く、注文すれば即日〜数日で届くものが大半です。

🚫 特注部品は加工や検査に時間がかかり、納期が1〜2週間以上かかることも珍しくありません。


理由③:信頼性が高い

✅ 標準部品は多くの現場で使われてきた実績があるため、性能や寿命のデータが豊富です。

🚫 特注部品では、設計ミスや強度不足、精度不良などのリスクが高まることもあります。


理由④:保守・修理が簡単になる

✅ 標準部品を使っていれば、市販品で交換部品が手に入るため、万一の故障時にも素早く対応できます。

🚫 特注部品は「どこで作ったか分からない」「再製作できない」などのリスクを抱えることがあります。


実際の設計現場での考え方

基本方針:「標準部品でまず設計してみる」

  1. フレーム:市販のアルミフレームを使う
  2. モーター:定格トルク・回転数に合う汎用モーターを選定
  3. 直動部:標準のリニアガイド、ボールねじで構成
  4. 接続部:市販のカップリングやブラケットを利用

こうすることで、構想から部品選定までのスピードが一気に加速します。


特注部品は「最終手段」

以下のような場合のみ、最小限のカスタム部品を設計します。

✔ 標準部品ではスペースに収まらない
✔ 機能がどうしても実現できない
✔ 製品仕様により特殊形状が必要

つまり「標準品で8割以上カバーし、残りをカスタムで補う」のが理想です。


注意点:無理に標準品だけで組もうとしない

初心者が陥りがちな失敗として、「とにかく標準品だけで済ませよう」と無理な構成をしてしまうことがあります。

🔍 例)

  • 無理に長いスペーサーで段差を吸収 → 剛性不足
  • 段取りや取り付けが複雑化 → 組立が難しくなる

標準部品は便利で強力な道具ですが、「万能」ではありません。
構造のシンプルさや性能を犠牲にしてまで使うのは本末転倒です。


標準部品ベース設計は“正しい第一歩”

項目標準部品カスタム部品
コスト安い高い
納期短い長い
信頼性高い(実績あり)検証が必要
保守性良好(交換しやすい)難あり(再製作必要)

設計を始めるときには、まず「どこまで標準部品で対応できるか」を意識することが大切です。


設計は引き算”です。

「あれもしたい」「これもしたい」と追加するのではなく、標準部品だけでどこまで設計できるかを追求することが、本当に良い設計につながります。

はじめ
はじめ

装置全体を標準部品だけで構成できたとき、それは設計者としての“腕”が上がってきた証です。

標準品に追加工するメリットと注意点とは?

機械設計では、「標準品だけで構成するのが理想」と言われます。
しかし現実には、標準品だけでは要件を満たせない場面も多々あります。

そこでよく使われるのが「標準品に追加工を施す」という選択肢です。

本項では、追加工という設計テクニックのメリットと注意点を、初心者にもわかりやすく解説します。


そもそも「追加工」とは?

「追加工(ついかこう)」とは、市販の標準部品に対して、穴あけ・タップ・切断・キー溝加工などの追加加工を行うことです。

🔍 例)

  • アルミフレームにタップ穴を追加
  • 標準シャフトにキー溝を追加
  • プレートに取付穴やザグリを追加
  • チェーンプレートを一部切削加工で調整

これにより、標準部品のコストメリットと、カスタム性の柔軟さを両立できます。


標準品に追加工するメリット

コストを抑えられる

完全なカスタム部品を設計・製作するよりも、
既製品に追加工する方がトータルコストは安く済むケースが多いです。

たとえば、ミスミやKHKなどは「追加工サービス」があり、
標準品+αの加工を低コストで対応してくれます。


納期が比較的短い

標準品ベースなので、素材や形状がすでに決まっており、加工時間だけで済みます
完全カスタムよりも、リードタイムが短くなることが多いです。


設計の自由度が上がる

「標準品の機能は活かしつつ、必要な部分だけ加工」することで、
必要な性能や取り付け形状に合わせた設計が可能になります。

🔍 たとえば、、、

  • 標準ブラケットに特定のセンサ穴を追加
  • シャフトの片側だけ段付きにする


といった工夫が可能になります。


信頼性・精度のベースが担保されている

標準品はすでに精度や材質、強度が保証されているため、
追加工部分さえ正しく行えば、全体としての信頼性が高い設計になります。


注意すべきポイント

便利な追加工ですが、いくつか注意すべきポイントがあります。


注意①:加工によるコスト増

「追加工は安い」と言っても、加工が複雑になるとコストが上がります

特に以下はコストアップ要因です。

  • 位置精度が高い穴あけ・リーマ仕上げ
  • 深いタップや多段ザグリ
  • 表裏貫通などの特殊加工
はじめ
はじめ

コスト見積もりは事前に必須です。


注意②:納期が長くなることもある

追加工対応品は通常品よりも納期がかかります。

🔍 たとえば、、、

  • 標準品:当日出荷
  • 追加工品:3〜5日、複雑だと7〜10日
はじめ
はじめ

スケジュールには余裕をもって設計しましょう。


注意③:強度や精度の低下リスク

無理な追加工をすると、部品の強度が落ちたり、寸法精度が乱れたりします。

🔍 例)

  • 肉厚の薄いアルミフレームに穴を開けすぎ → 剛性不足
  • 焼入れ済みシャフトに無理に穴加工 → 表面が割れる
はじめ
はじめ

素材特性や加工可能範囲を必ず確認しましょう。


注意④:再現性や交換性が落ちる

標準品であれば、いつでも同じものを再購入可能です。
しかし追加工品は、「一点物」になることが多く、
再現や交換が難しくなる場合もあります。

はじめ
はじめ

追加工内容は図面や備考にしっかり残しておきましょう。


注意⑤:メーカーによって加工可否が違う

同じ部品でも、メーカーによっては「その追加工は対応不可」ということがあります。

✅ 加工対応範囲
✅ 指定方法(XYZ寸法基準など)
✅ 公差の指定ルール

はじめ
はじめ

事前にカタログやWebサイトで確認が必要です。


よくある追加工のパターンと活用例

部品追加工内容活用例
アルミフレームタップ・穴あけカバー板やセンサの取り付け
シャフトキー溝・ピン穴モーターとの締結強化
プレート位置決め穴・ザグリベースプレートの固定・位置決め
スライドガイド固定穴追加狭小スペースへの取り付け調整

追加工は“標準品ベース設計”の有効な手段

項目標準品追加工品カスタム品
コスト
納期○〜△
設計自由度
信頼性△〜◎(内容による)

標準品+必要最小限の追加工」という考え方は、
設計の柔軟性とコストバランスを両立するための現実的で賢い選択肢です。


初心者の方は、まず標準品で設計を進め、
「どうしても仕様に合わない箇所」を最小限の追加工で対応するのが鉄則です。

迷ったときは、部品メーカーの追加工サービスや加工対応表を確認して、
コスト・納期・精度を見ながら判断してみましょう。

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まとめ:最適なバランスを見つけよう

機械設計では、「どちらが絶対に正しい」ということはありません。

標準部品が向いている場面

✔ 短納期、低コストを重視
✔ 実績のある構造
✔ 保守性を確保したいとき

特注部品が向いている場面

✔ 性能・サイズ・形状に妥協できないとき
✔ 標準品では設計が成り立たないとき
✔ 製品の差別化が必要なとき

設計の目的は「一番いいものを作る」ことではなく、「目的を達成するために最適な手段を選ぶ」ことです

そのためにも、標準部品でいけるか?
特注部品を使う価値があるか?
毎回その都度、トレードオフのバランスを意識することが、設計力アップの第一歩になります。



はじめ
はじめ

図面とCADはアイデアを具体的な形にし、設計意図を正確に伝えるための重要な手段です。

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