機械設計で金属部品をつなぐ方法として、「溶接」は非常に一般的な工法です。
でも設計初心者の中には、こんな疑問を持つ人も多いのではないでしょうか?
「溶接って、ボルトみたいに数値で強度を出せないから不安…」
「本当に壊れないの?強度的に大丈夫?」
この記事では、そんな疑問に答えるべく、「溶接部の強度の考え方」と「設計時の注意点」についてわかりやすく解説します。
そもそも溶接とは?
溶接とは、金属同士を接合するために、材料を局所的に加熱して溶かし、冷やして一体化させる加工方法です。
ボルトのような締結部品を使わないため、部品の一体化や軽量化が可能です。
主な溶接の種類
✅ アーク溶接(手動、半自動、TIG など)
✅ スポット溶接(薄板の点溶接)
✅ レーザー溶接(精密部品向け)
溶接って強いの?結論:設計・施工次第で非常に強い!
結論から言えば、正しく設計・施工された溶接は非常に強度が高く、むしろ母材(材料本体)より強くなることもあります。
実際、鉄骨建築、橋梁、建設機械などの大構造物でも溶接は使われており、十分な強度と耐久性があることが証明されています。
ただし、溶接には“弱点”もある

ただし、以下のような要因で溶接部が破損するリスクがあるのも事実です。
① 応力集中が起きやすい
溶接部は形状が不連続で、応力集中が起こりやすい。
特に角部やT字継手では注意が必要です。
② 溶接熱による材料の変性
加熱により母材が硬化したり、脆くなったりすることがあります。
③ 初期欠陥(ブローホール、割れなど)
施工時の不具合により、内部に空洞や割れが生じることがあります。
溶接部の強度評価はどうする?
溶接部の強度評価では、溶接方法・溶接部の種類・荷重方向に応じた評価が必要です。
➤ 主な評価ポイント
評価項目 | 内容 |
---|---|
溶接の種類 | フィレット溶接、突合せ溶接、プラグ溶接など |
荷重の方向 | 引張、せん断、曲げなどで強度が変わる |
有効断面積 | 溶接脚長、溶接長、角度などから計算 |
許容応力 | JISやAWSなどの設計基準に基づく数値を使用 |
例えば、フィレット溶接(T字継手など)では、「溶接の有効断面=溶接脚長 × 溶接長 × √2 / 2」といった計算式で許容荷重を見積もることができます。
溶接部の非破壊検査とは?壊さずに“見えない欠陥”を見つける方法
溶接で部品同士を接合する――それは構造物を作るうえでとても強力な方法です。
でも、見た目がきれいでも、中に欠陥があるかもしれないってご存知ですか?
そんなときに使われるのが「非破壊検査」です。
本項では、「非破壊検査ってなに?」「どんな方法があるの?」「現場ではどう使うの?」を初心者でもわかりやすく解説していきます。
非破壊検査とは?簡単に言うと…
“部品を壊さずに内部の不具合を調べる検査”のことです。
溶接部分には、以下のような欠陥ができることがあります。
- ブローホール(中に空洞がある)
- クラック(ヒビ割れ)
- スラグ巻き込み(不純物が混じっている)
- 融合不良(ちゃんと溶け合っていない)
→ これらは目に見えないことも多く、外観検査だけでは判断できません。
非破壊検査を行うことで、部品を壊さずにこれらの「隠れた不良」を見つけることができます。
なぜ非破壊検査が必要なの?
理由1:製品の安全性を守るため
たった1か所のクラックが、将来的な破損につながることもあります。
早期に見つけることで、重大事故を未然に防ぐことができます。
理由2:全数検査・量産品にも対応可能
サンプルだけでなく、すべての製品を検査することもでき、品質の安定管理に役立ちます。
よく使われる非破壊検査の種類
見た目でチェック:外観検査(VT)
- 溶接部を目で見たり、拡大鏡でチェックする方法
- クラック・焼け・溶け落ちなどの表面欠陥を確認
- 最も簡易で安価だが、内部の欠陥は見えない
表面のヒビ割れを見つける:浸透探傷検査(PT)
- 表面に赤い液体(浸透液)を塗り、割れた部分に染み込ませて検出
- 光で浮かび上がらせるとヒビの位置が一目瞭然
- 非磁性体(金属・アルミ・ステンレスなど)にも使える
- 内部欠陥は不可

溶接後の表面クラック確認に最適!
磁石でヒビを検出:磁粉探傷検査(MT)
- 溶接部に磁場をかけて、磁粉(細かい鉄粉)をまく
- クラック部分に磁束が漏れると磁粉が集まり、ヒビの形が浮き出る
- 鉄などの磁性体専用

鉄系材料のクラック確認によく使われます!
音で内部を診断:超音波探傷検査(UT)
- 超音波を部品に当てて、内部の反射波から異常を検出
- 深い場所のブローホールや融合不良も発見可能
- 専門性が高いが、内部欠陥に強い

強度が求められる構造物や機械部品でよく使われます!
X線で中身を“透視”:放射線透過検査(RT)
- X線やγ線を当てて、部品の内部構造を画像でチェック
- 医療のレントゲンのような検査
- 最も精密だが、設備・安全対策が必要

航空機や高圧容器など、重大事故に直結する部品に使用されることが多いです。
検査の選び方:何を調べたいかで決まる!
欠陥の種類 | 検査方法 | 特徴 |
---|---|---|
表面の割れ・傷 | VT・PT・MT | 安価で手軽に実施可能 |
内部の空洞・融合不良 | UT・RT | 精度は高いが専門技術が必要 |
非磁性体(金属以外) | PT・UT・RT | 磁粉検査は使えない |
鉄などの磁性体 | MT・UT | MTが有効、深部ならUT |
現場でよくある質問Q&A
Q1. DIYや小規模工場でも非破壊検査って必要?
→ 重要な溶接(荷重がかかる・安全に関わる)ならPTやMTだけでも検査する価値ありです!
Q2. 非破壊検査って誰でもできる?
→ 方法によっては資格が必要な場合もあります。
簡易なPTなどは手順を守れば施工可能です。
Q3. 外観はキレイだけど検査必要?
→ はい。目に見えない内部欠陥が最も怖いのです。外観が良くても油断は禁物です!
溶接品質=信頼性。非破壊検査は「安心の保険」
非破壊検査は、溶接構造物の安全性と信頼性を守るための基本
「目に見えない欠陥」を事前に検出し、手遅れになる前に対策できる

設計者としても、「この構造は非破壊検査が必要か?」という視点を持とう!
溶接の設計上の注意点5つ

① 不要な応力集中を避ける
急激な断面変化や、T字の突き当て部などは割れやすいため、アール処理や補強リブの検討を。
② 曲げやねじれの荷重はNG
基本的に溶接部には、引張や圧縮などの軸方向の力が向いています。
曲げモーメントやねじれを受けるような設計は避けましょう。
③ 脚長不足に注意
フィレット溶接の脚長(溶接の厚み)は、力の大きさに応じて設計する必要があります。
「見た目でOK」は危険!
④ 溶接アクセスを考える
ロボット溶接や手溶接では、トーチが届かないとそもそも溶接ができません。
設計段階から溶接可否を考慮しましょう。
⑤ 材料の熱変形に注意
溶接によって材料が引っ張られたり縮んだりし、歪みが出ることがあります。
精密部品では事前の変形予測・補正が必要です。
実際の現場ではどうなの?
例えば、以下のような現場では、溶接とボルトを使い分けるのが一般的です。
部品例 | 採用方法 |
---|---|
装置の外装カバー | 溶接(軽量化・コストダウン) |
フレームの基部 | ボルト締結(分解・メンテ容易) |
一体フレーム | 溶接(高剛性・長寿命) |
可動部の取付 | ボルト(調整・交換のため) |
まとめ:溶接は「強いが、油断は禁物」
正しく使えば、溶接は非常に強度の高い接合手段です。
ただし、応力集中・熱影響・施工不良といったリスクを考慮し、適切な設計と管理が求められます。
✔ 設計者として覚えておくべきこと
溶接は、構造の一体化と剛性向上に優れた手段。
でも「強度評価」と「施工性」を甘く見ると、破損リスクが一気に高まる。
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