真空吸着による搬送は、製造ラインや自動組立装置などで
広く利用されている方式です。
吸着パッド(バキュームパッド)を使えば、
平板・ガラス・樹脂成形品・金属板などを非接触で持ち上げることができ、
効率的かつスムーズなハンドリングが可能です。
しかし、複数の吸着パッドを使った搬送では、
一部のパッドが「吸着できていない」「異物で密着できない」といった
トラブルが発生することがあります。
このとき、吸着圧力が全体に逃げてしまい、
正常に吸着されているワークまでもが落下してしまう危険があります。
このリスクを防ぐのが、今回紹介する 「落下防止弁(チェック弁)」 です。
本記事では、落下防止弁の仕組みとメリット、
設計・選定時のポイントをわかりやすく解説します。
吸着パッドと真空搬送の基本構造
吸着パッドによる搬送は、主に以下の構成で成り立っています。
複数の吸着パッドを1系統の真空源で共有する場合、
全パッドが同じ配管でつながる構造になります。
そのため、どれか1つでも密着不良や吸着漏れがあると、
真空度が低下して全体が吸着不良に陥るリスクがあります。
落下防止弁とは?
仕組みと動作原理
落下防止弁とは、吸着パッドごとに取り付ける
逆止弁(チェックバルブ)の一種です。
通常時は吸着ラインを通して真空を共有しますが、
吸着されていないパッド側だけ自動的に閉じて
真空漏れを防ぐ仕組みになっています。
動作イメージ
- ワークに密着したパッド
→ 真空が保持され、吸着を継続 - 密着していないパッド
→ 吸引側に空気が入り込み、落下防止弁が自動で閉じる
これにより、他のパッドには影響せず、
吸着できている部分だけで安定搬送が可能になります。
落下防止弁のメリット
(1)ワーク落下のリスク低減
一部の吸着不良が発生しても、
正常に吸着されているパッドは真空を維持できるため、
ワーク全体が落下する事故を防止します。
特にガラスや電子部品など、
落下が致命的な製品では必須の安全対策です。
(2)省エネルギー・安定稼働
漏れた部分の吸引を止めるため、
真空発生器の負荷が軽減され、
エア消費量の削減・安定吸着が実現します。
結果として、システム全体のエネルギー効率も向上します。
(3)吸着位置の自由度が上がる
吸着パッドを多めに配置しておいても、
未接触パッドが勝手に閉じるため、
製品サイズや形状の違いに柔軟に対応できます。
🔍 例)
サイズの異なるワークを共通治具で搬送したい場合
→ 全面にパッドを配置し、落下防止弁で未吸着部を自動遮断
落下防止弁の活用方法と設計ポイント
① 吸着パッドごとに個別設置
最も基本的な構成は、
「各パッドの直近に落下防止弁を設ける」方法です。
真空ラインの分岐点に近い位置に取り付けると、
反応が早く、漏れを最小限に抑えられます。
② 設定圧力(動作圧)に注意
落下防止弁には「閉弁開始圧力(開閉する真空度)」があります。
搬送するワークの材質や吸着面の平滑度に合わせて、
適切な閉弁圧力(例:−10〜−30kPa)を選定しましょう。
密着しにくい素材(段ボール・木材など)では、
閉弁圧力が高すぎると動作が遅れる場合があります。
③ メンテナンス性の確保
内部にスプリングやゴムシールがあるため、
長期使用で動作不良が起きることがあります。
吸着力が不安定なときは、
などを点検しましょう。
✅ 推奨ポイント
定期的なエアブロー清掃と、1〜2年ごとの交換を推奨。
④ 真空発生方式との組み合わせ
エジェクタ式・真空ポンプ式のどちらにも対応可能ですが、
落下防止弁を使用することで、1台のエジェクタで
複数パッドを効率的に制御できるようになります。
これにより、配管・機器コストの削減にもつながります。
⑤ 小型軽量ワークへの応用
電子部品や食品包装フィルムなど、
「吸着面積が小さい・密着が不安定」なワークでも、
落下防止弁を組み合わせることで安定吸着が可能になります。
真空度のばらつきが大きいラインでは特に効果的です。
実際の使用例
| 用途 | 落下防止弁の効果 |
|---|---|
| ガラス基板搬送 | 1点の吸着漏れでも他の吸着を維持し、破損防止 |
| 段ボール搬送 | 形状バラつきによる吸着不良を防止 |
| 自動車パネル搬送 | 大型パネルの局部吸着を安定化 |
| 電子部品ハンドリング | 微小部品の吸着漏れを個別に遮断 |
まとめ|吸着パッドには落下防止弁の設置が安全と効率のカギ
吸着パッドは便利な搬送手段ですが、
一部のパッド吸着不良が全体の落下につながるリスクがあります。
そのリスクを確実に防ぎ、ラインの安全性と
生産効率を両立するのが落下防止弁の導入です。
この記事のポイント
▶ 落下防止弁は未吸着パッドを自動遮断し、真空漏れを防ぐ
▶ 吸着不良があっても正常パッドは吸着を維持できる
▶ ワーク形状の違いや多点吸着にも柔軟に対応
▶ 定期メンテナンスと動作圧設定が重要
「複数パッドの真空搬送」には、落下防止弁を“標準装備”として考えるべきです。
安全で安定したハンドリングは、信頼性の高い自動化ライン設計につながります。

モーターやアクチュエーターなど、
機械の駆動源に関する基礎知識と
選定基準をまとめています。


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