潤滑油の高温・低温環境での使用注意点|粘度変化と劣化を防ぐ設計・選定ポイント

機械要素

機械設計や設備保守の現場では、潤滑油(オイル)は
“機械の血液”とも言えるほど重要な存在です。

潤滑油は、摩擦の低減・摩耗防止・冷却・防錆など、
機械の長寿命化に欠かせない役割を担っています。

しかし、使用環境の温度が潤滑性能に
大きく影響することは意外と見落とされがちです。

高温環境では酸化や粘度低下、
低温環境では流動性の悪化や潤滑不足が起こり、
どちらも機械トラブルの原因となります。

本記事では、高温・低温環境における潤滑油の注意点と、
設計・選定時のポイントをわかりやすく解説します。


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潤滑油の基本特性と温度の関係

潤滑油の性能は、主に粘度(油の流れにくさ)で評価されます。

この粘度は温度に強く依存しており、温度が上がると粘度は低下し、
温度が下がると粘度は上昇します。

温度粘度変化主な影響
高温低下(さらさら)油膜切れ・金属接触・酸化劣化
低温上昇(ドロドロ)流動性低下・始動抵抗増大・潤滑不足
はじめ
はじめ

潤滑油を選定する際は、
機械の運転温度範囲と油の粘度特性を一致させることが重要です。


メーカーの使用温度範囲を確認しよう

使用環境に合わないオイルを選ぶと、

  • 高温で油膜が切れる
  • 低温で硬化して流れなくなる
  • 酸化や劣化が早まる

といったトラブルが発生します。

なぜ使用温度範囲の確認が重要なのか
そして設計・運用時に確認すべきポイントをわかりやすく解説します。

メーカーの「使用温度範囲」とは?

潤滑油メーカーは、各製品のカタログや技術データシート(TDS)において、
「使用温度範囲」または「推奨使用温度範囲」を明記しています。

使用温度範囲の意味

これは、その潤滑油が正常な潤滑性能を発揮できる
温度の目安を示しています。

この範囲を超えて使用すると、
粘度変化・酸化・固化・添加剤の分離などが起こり、
性能が著しく低下します。

🔍 例)

あるリチウムグリースの使用温度範囲
−20℃ ~ 120℃

−20℃未満では硬化して動かなくなり、
120℃を超えると油膜切れや酸化劣化が起こる。


使用温度範囲を確認しないと起こるトラブル

高温側でのトラブル

  • 油膜切れによる金属摩耗や焼き付き
  • 酸化によるオイルの変色・スラッジ発生
  • 添加剤の分解や防錆性能の低下

低温側でのトラブル

  • オイルがドロドロになり、流れなくなる
  • ポンプが吸い上げられず潤滑遅れが発生
  • 始動直後に金属が直接接触して摩耗

使用温度範囲の確認方法

潤滑油選定時は、必ずメーカーの技術資料を確認しましょう。
確認するべき項目は以下の3つです。

技術データシート(TDS)

メーカーが公開している正式な技術資料です。
以下の項目が記載されています。

  • 使用温度範囲
  • 粘度(40℃・100℃)
  • 粘度指数(VI)
  • 流動点
  • 引火点
  • 酸化安定性

カタログやWebサイトの簡易表記だけでなく、
TDSを入手して正確な数値を確認しましょう。


メーカーごとの仕様差に注意

同じ「ISO VG 68」や「#2グリース」であっても、
メーカーや添加剤の違いにより、使用温度範囲が異なります。

製品使用温度範囲備考
A社 リチウムグリース−20〜120℃標準タイプ
B社 ポリウレアグリース−20〜150℃高温対応
C社 シリコーングリース−40〜180℃広温度範囲

⚠️ 注意点

同じ粘度グレードでも、高温・低温特性は全く別物です。
カタログ値をしっかり確認し、用途に応じて比較・検討しましょう。


実際の運転温度との照合

設計段階では、装置や環境の実運転温度を把握しておくことが重要です。

  • 常用温度(平均運転温度)
  • 起動時温度(最低温度)
  • 異常時温度(最高温度)

これらを踏まえて、使用温度範囲の
中間域で安定して動作する潤滑油を選ぶのが理想です。

🔍 例)

機器の運転温度が「−10℃〜90℃」の場合
→ 使用温度範囲が「−30℃〜120℃」程度のオイルを選定するのが安全。


使用温度範囲を超えた場合の対応

もし想定外の温度で運転する必要がある場合は、
次のような方法で対応できます。

対応策内容
冷却装置を追加オイル温度上昇を防止(高温対策)
予熱ヒーターを設置始動前にオイルを温める(低温対策)
合成油への切り替え温度安定性・酸化安定性の向上
メンテナンス周期短縮劣化が早まるため、交換間隔を短縮

潤滑油選定では「使用温度範囲の確認」が重要

潤滑油は、温度によって性能が大きく変化する“デリケートな材料”です。
カタログ上の粘度や規格だけでなく、
メーカーが定める「使用温度範囲」を確認することが重要です。

  • 潤滑油は温度で粘度が変化し、性能に大きく影響する
  • メーカーの「使用温度範囲」を必ず確認する
  • 同じ粘度グレードでも、メーカーによって耐熱・耐寒性能が異なる
  • 実際の運転温度を考慮して、余裕を持った範囲のオイルを選定する

潤滑油選定の基本は「粘度」だけでなく「温度範囲」。

メーカーの技術データを確認し、
実使用環境に最適なオイルを選ぶことで、
機械の信頼性・寿命・メンテナンスコストを大きく改善できます。

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高温環境での潤滑油使用時の注意点

① 酸化劣化に注意

高温では酸素との反応が活発になり、潤滑油が酸化しやすくなります。
酸化が進むと、粘度上昇・スラッジ(黒い汚れ)の生成・金属腐食などを引き起こします。

対策

  • 耐酸化性添加剤入りのオイルを使用する
  • 定期的にオイル交換(使用時間・色・臭いで管理)
  • タンク・配管内の熱だまりをなくす設計にする

🔧 設計のポイント

長時間高温で稼働する装置では、
「酸化安定性」の高い合成油(PAO系・エステル系)が有効です。


② 油膜切れ・潤滑不足の防止

高温で粘度が下がると、油膜厚さが薄くなり、
金属同士が直接接触する「焼き付き」が発生しやすくなります。

✅ 対策

  • 高粘度グレードのオイルを選定
  • 高温でも粘度が維持される「高粘度指数(VI)」オイルを使用
  • オイルクーラーなどで温度上昇を抑制

💡 実務のヒント

ギヤボックスや軸受の設計では、運転温度を想定して
実効粘度(運転温度での粘度)を確認することが重要です。


③ 添加剤の熱安定性を確認

高温下では、極圧添加剤(EP剤)や防錆剤などの化学成分も劣化します。
特に、モリブデン系や硫黄系添加剤は熱で変質し、金属腐食を起こす場合があります。

対策

  • 使用温度範囲に適した添加剤組成のオイルを選ぶ
  • オイルメーカーの「使用温度上限」を確認する

低温環境での潤滑油使用時の注意点

① 流動性の確保

低温では油が硬化・粘度上昇し、ポンプで吸い上げにくくなります。

その結果、始動直後に潤滑が間に合わず、
ドライスタート(無潤滑状態)が発生することがあります。

対策

  • 低温流動性に優れたオイルを選定(低流動点タイプ)
  • 冬季運転時には予熱ヒーターを併用
  • 寒冷地向けには合成油(PAO系)を使用

⚠️ 注意点

ミネラルオイルは−20℃以下で粘度上昇が急激に進むため、
低温始動が多い機器には不向きです。


② 凝固点・流動点を確認

オイルは温度が下がると、最終的に流れなくなります。

この限界温度が「流動点」で、使用環境温度よりも10〜15℃低い流動点が安全です。

環境温度推奨流動点
−10℃−25℃以下
−20℃−35℃以下
−30℃−45℃以下

対策

  • メーカーのカタログで「流動点」「粘度温度特性」を必ず確認
  • グリースの場合も基油の流動点が重要(寒冷地仕様を選ぶ)

③ 始動時の潤滑遅れ防止

低温時は油の循環が遅れるため、
軸受・ギヤなどで金属摩耗が起こりやすくなります。

対策

  • 始動直後は低速でウォームアップ運転
  • オイルラインを短く、圧送抵抗を低減する設計
  • オイルヒーターを併設して粘度を一定に保つ

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温度変化に強い潤滑油を選定するポイント

① 粘度指数(VI)が高いオイルを選ぶ

粘度指数(VI)は「温度変化に対する粘度の安定性」を示す値です。
VIが高いほど、温度が変わっても粘度が安定します。

オイル種類粘度指数(目安)特徴
鉱物油約90〜100一般用途向け
高VI鉱物油約120〜140温度差の大きい環境に適す
合成油(PAO)約150〜180広温度範囲で安定・長寿命

② 使用温度範囲を確認

潤滑油は、各メーカーが「推奨使用温度範囲」を明記しています。

特にグリースでは、増ちょう剤(リチウム系・カルシウム系など)
によって耐熱性が大きく異なります。

リチウム系、ポリウレア系、シリコーン系グリースの
一般的な推奨使用温度範囲は以下の通りです。

🔍 例)

  • リチウム系グリース:−20℃〜120℃
  • ポリウレア系グリース:−20℃〜150℃
  • シリコーングリース:−40℃〜180℃

ただし、これらの数値は製品や配合されている基油・添加剤によって
異なるため、必ず個別の製品の仕様書(SDSなど)を確認してください


③ 合成油の活用

合成潤滑油(PAO系・エステル系・シリコン系)は、
鉱物油に比べて粘度変化が少なく、
酸化安定性・低温流動性にも優れています。

初期コストは高いものの、長寿命・メンテナンス低減効果を考えると
トータルコストは安くなる場合もあります。


まとめ|潤滑油の温度管理が機械の寿命を左右する

潤滑油は単なる“油”ではなく、
温度環境に応じてその性能が大きく変化します。

高温では酸化・粘度低下・油膜切れ、
低温では流動性低下・始動不良といった問題が発生し、
どちらも重大な故障を招きます。

この記事の要点まとめ

▶ 高温環境では「酸化・油膜切れ」を防ぐために耐熱性・高粘度指数オイルを選定
▶ 低温環境では「流動性・流動点」に注意して寒冷地対応オイルを使用
▶ 温度変化の大きい設備では合成油が有効
▶ 定期交換・オイル管理も機械寿命の鍵

潤滑油は“温度に合わせた設計と選定”が最も重要です。

環境条件を正しく把握し、
粘度特性・流動点・酸化安定性を総合的に考慮することで、

機械の信頼性と寿命を大きく延ばすことができます。


はじめ
はじめ

ボルトやナット、軸受け、ギアといった
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