機械設計において、アンギュラ玉軸受は
「高精度」「高速回転」「アキシアル荷重対応」といった
条件が求められる場面で使用される重要なベアリングです。
しかし設計初心者の方にとっては、
▶ 深溝玉軸受との違いが分からない
▶ なぜ向きがあるのか理解できない
▶ どんな場面で使うべきか判断できない
といった疑問を持ちやすいベアリングでもあります。
この記事では、機械設計の基礎として押さえておきたい
アンギュラ玉軸受の特徴・メリット・注意点・選定ポイントを、
実務目線でわかりやすく解説します。
アンギュラ玉軸受とは?
アンギュラ玉軸受とは、
ラジアル荷重とアキシアル荷重を同時に受けられる玉軸受です。
最大の特徴は、
転動体(ボール)が接触角を持って配置されている点にあります。
この接触角によって、
が得られます。
深溝玉軸受との違い
| 項目 | 深溝玉軸受 | アンギュラ玉軸受 |
|---|---|---|
| ラジアル荷重 | ◎ | ◎ |
| アキシアル荷重 | △(小) | ◎ |
| 向き | なし | あり |
| 高速回転 | ○ | ◎ |
| 精度用途 | 一般 | 高精度向き |
アキシアル荷重が大きな場合は、
アンギュラ玉軸受が有力候補になります。
アンギュラ玉軸受の主な特徴
特徴① アキシアル荷重に強い
接触角を持つ構造のため、
一方向のアキシアル荷重を効率よく支えられます。
※ 反対方向の荷重には弱いため注意が必要です。
特徴② 高速回転に適している
玉軸受構造のため、
高速回転用途でも安定した性能を発揮します。
特徴③ 取付方向に注意が必要
アンギュラ玉軸受には
荷重を受けられる方向(向き)があります。
向きを間違えると、
につながります。
アンギュラ玉軸受の代表的な使い方|単列使用と組み合わせ使用の違いを解説
アンギュラ玉軸受は、
使い方(配置・組み合わせ)によって性能が大きく変わるベアリングです。
特に重要なのが、
という点です。
ここでは、アンギュラ玉軸受の
代表的な使い方と、その考え方を初心者向けにわかりやすく解説します。
1. 単列使用|シンプルな一方向荷重対応
単列アンギュラ玉軸受とは
単列使用とは、
アンギュラ玉軸受を1個だけで使用する方法です。
対応できる荷重の特徴
反対方向のアキシアル荷重には弱いため、
使用条件を明確にする必要があります。
適した用途
具体例
- 小型モータ
- ファン
- 軽負荷回転機構
単列使用時の注意点
「簡単=万能」ではないことを意識しましょう。
2. 組み合わせ使用(重要)|性能を引き出す使い方
アンギュラ玉軸受は、
2個以上を組み合わせて使うことで本領を発揮します。
組み合わせ使用の主な目的は、
です。
3. 背面組合せ(DB)
配置の特徴
メリット
主な用途
- 工作機械主軸
- 高精度回転軸
- 剛性重視の機構
最も一般的で汎用性の高い組み合わせです。
4. 対面組合せ(DF)
配置の特徴
メリット
主な用途
- 一般機械
- 組立精度が厳しくない装置
扱いやすさ重視の組み合わせです。
5. タンデム組合せ(DT)
配置の特徴
メリット
注意点
主な用途
- 大推力がかかる軸
- スクリュー機構
組み合わせ使用で得られる効果
アンギュラ玉軸受を組み合わせることで、
といったメリットが得られます。
使い分けの考え方まとめ
| 使用条件 | おすすめ |
|---|---|
| 軽負荷・一方向荷重 | 単列使用 |
| 精度・剛性重視 | DB組合せ |
| 組立性重視 | DF組合せ |
| 大推力・一方向 | DT組合せ |
アンギュラ玉軸受は、
使い方次第で性能が大きく変わるベアリングです。
これらを理解することで、
トラブルのない、信頼性の高い回転機構設計が可能になります。
設計初心者の方は、
「とりあえず1個」ではなく、
「どう配置するか」まで含めてアンギュラ玉軸受を選ぶ
という意識を持つようにしましょう。
アンギュラ玉軸受の選定ポイント
① 荷重条件を整理する
特にどちらの方向に荷重がかかるかを明確にします。
② 接触角を確認する
用途に応じて選びます。
③ 取付方法・組み合わせを検討
精密用途では、
予圧設計が重要になります。
④ 使用環境を考慮する
高速用途では、
潤滑条件の確認は必須です。
初心者が陥りやすいアンギュラ玉軸受の注意点
アンギュラ玉軸受は、
高精度・高速回転・アキシアル荷重対応
という優れた特性を持つベアリングです。
しかしその一方で、
使い方を誤るとトラブルが起きやすいベアリングでもあります。
ここでは、設計初心者が特に陥りやすい
3つの代表的な注意点を、原因と対策を交えてわかりやすく解説します。
注意点① 深溝玉軸受の代わりに安易に使ってしまう
この理由から、
深溝玉軸受の上位互換のように考えてしまいがちです。
何が問題なのか
アンギュラ玉軸受は、
という明確な制約があります。
深溝玉軸受のように、
といった使い方はできません。
用途が合わなければ、むしろ性能ダウンになります。
正しい考え方
これを満たす場合にのみ、
アンギュラ玉軸受を検討しましょう。
注意点② 向きを意識せずに組み込んでしまう
アンギュラ玉軸受には「向き」がある
アンギュラ玉軸受は、
荷重を受けられる方向が決まっています。
向きを間違えると、
といった問題が発生します。
起こりやすいトラブル
見た目では分かりにくいため、
組立後に気づくケースが多いのが特徴です。
対策ポイント
「向きがあるベアリング」だと強く意識することが重要です。
注意点③ 組み合わせを考えずに使ってしまう
単体使用の落とし穴
アンギュラ玉軸受を1個だけ使うと、
という制約があります。
両方向荷重がかかる用途では、
致命的な設計ミスになります。
組み合わせ使用の重要性
アンギュラ玉軸受は、
といった配置で使うことで、
が可能になります。
正しい判断基準
これを整理してから、
組み合わせを決めることが重要です。
アンギュラ玉軸受の注意点まとめ
アンギュラ玉軸受は、
という点を必ず押さえましょう。
アンギュラ玉軸受は、
正しく使えば非常に高性能、誤って使うとトラブルの原因になるベアリングです。
これらを明確にすることで、
アンギュラ玉軸受の性能を最大限に活かした設計が可能になります。
設計初心者の方は、
「高性能そうだから使う」のではなく、
「条件に合っているから使う」という視点を必ず持つようにしましょう。
まとめ
アンギュラ玉軸受は、
高精度・高速回転・アキシアル荷重対応が求められる
機械設計で欠かせないベアリングです。
▶ アキシアル荷重を考慮する
▶ 向きと組み合わせを意識する
▶ 使用条件に合った接触角を選ぶ
これらを押さえることで、
トラブルの少ない信頼性の高い設計が可能になります。
機械設計初心者の方は、
「高性能だから使う」のではなく、
「必要だから使う」ベアリングとしてアンギュラ玉軸受を選定する
ことを意識していきましょう。





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