ナットは、ボルトやねじと共に使用される締結部品の一つで、機械設計や製造業において重要な役割を果たします。
ナットには多くの種類があり、用途や環境に応じて適切な選定が必要です。
本記事では、代表的なナットの種類とその特徴について解説します。
代表的なナットの種類

六角ナット(1種ナット)
特徴
- 六角ナットは最も一般的なナットの形状で、六角形をしているためスパナやレンチを使って簡単に締め付けや緩めが可能です。
- 汎用性が高く、様々な用途で使用されます。大きなトルクでの締結が可能です。
📌 用途
- 汎用的な締結部。建設機械、自動車、家電製品など幅広い分野で使用。
薄型ナット(3種ナット、コンパクトナット)
特徴
- 薄型ナットは、通常の六角ナットよりも厚みが薄く設計されており、狭いスペースでの使用に適しています。
- スペースが限られている場所でも使いやすい一方、締結力が若干低下することがあります。
📌 用途
- 精密機器や制約のある空間での締結部品に使用されます。
- 二重ナットとしてのロック用途。
フランジナット
特徴
- フランジナットは、ナットの下部に広がった「フランジ」と呼ばれる部分がついているのが特徴です。
- このフランジ部分がワッシャーの役割を果たし、広い面積で力を分散させます。
- ワッシャーが不要で、締結力を分散できるため、ボルトが外れにくくなる。
📌 用途
- 組付時ワッシャーの取付が困難な箇所や脱落の可能性がある箇所で作業性向上のため使用されます。
ハードロックナット
特徴
- ハードロックナットは、締結後にナットが緩まないように設計されたナットです。
- 摩擦を利用したものや、変形によるロック機構を持つものなど、複数の種類があります。
- 締結後に緩みにくく、信頼性の高い固定が可能です。
📌 用途
- 振動や衝撃が多い場所に適しており、産業機械や自動車の部品として使用されます。
Uナット
特徴
- Uナットは、ナットの内側にバネの力を利用したロック機構を持ち、通常の六角ナットと比べて高い緩み防止効果があります。
- ねじ部に食いつくため、ねじ部の損傷につながる可能性があります。
- 繰り返しの使用は不向きです。
- ナイロンナットと同様に、振動や衝撃による緩みを防止することができます。
📌 用途
- 高振動環境や、定期的に緩みが生じる恐れのある箇所に適しています。
ナイロンナット
特徴
- ナイロンナットは、ナットの内側にナイロン製のリングが組み込まれており、締結時にこのナイロンがねじ山に食い込み、ロック機能を持ちます。
- ナイロンの経年劣化時、機能低下の懸念があります。
- 繰り返しの使用は不向きです。
- Uナットと同様に、振動や衝撃による緩みを防止することができます。
📌 用途
- 振動が多い環境や、ボルトが緩むリスクがある場所に適しています。
蝶ナット
特徴
- 蝶ナットは、手で簡単に締めたり緩めたりできるように、両側に羽根のような部分がついているナットです。
- 工具が不要で手軽に取り外しができるため、頻繁に取り外しが必要な場所に適しています。
📌 用途
- メンテナンスが多い場所や、工具を使えない場所で使用されます。
- 機械の一時的な固定やDIYなどでよく見られます。
袋ナット
特徴
- 袋ナットは、ナットの片側が閉じており、ボルトの端をカバーするように設計されています。
- 外観が良く、ボルトの露出部分を保護します。
- ボルトの端を隠して安全性を向上させるだけでなく、見た目も良くなります。
📌 用途
- ボルトの端が危険な環境での使用に適しています。
六角ナットの1種・2種・3種の違いと選び方

六角ナットはJIS規格で「1種・2種・3種」に分類されます。
違いは主に形状(厚さや面取りの有無)で、用途や作業性に関わる重要なポイントです。
各種ナットの特徴
1種(標準タイプ)
- 特徴
- 最も一般的な六角ナット。
- 図面で特に指定がなければ1種になることが多い。
- 面取り:片面または標準的な面取り。
- 用途:ほとんどの締結部位で使用できる万能タイプ。
2種(両面面取りタイプ)
- 特徴
- 上面と下面の両方に面取りがあるナット。
- メリット:
- ナットの向きを気にせず取り付けできる
- ねじ込み時にスムーズで、ねじ山や部材を傷めにくい
- 作業スピード向上、外観もきれい
- 用途:組立作業が多い製品、ナットの向きを揃えにくい場所、角で部材を傷つけたくない箇所。
3種(薄型タイプ)
- 特徴
- 1種より薄いナット。
- メリット:
- 高さ制限がある箇所に使える
- 二重ナットの上側に使ってロック効果を得る場合がある
- デメリット:かかり代が少なく、強度は低め。使用箇所は限定される。
図面指示のポイント
- 種別を必ず明記:例)
六角ナット M8 1種
、六角ナット M8 3種
- 種別を省くと、製造側は通常1種を採用する
- 材質(鉄・ステンレスなど)、強度等級、表面処理も併せて指定すると安心
選び方の目安
- 汎用・強度重視 → 1種
- 作業性・組立性重視 → 2種(両面面取り)
- 高さ制限あり・補助固定 → 3種(薄型)
設計時は必ず種別+材質+強度等級+表面処理をセットで指示すること重視
✅ 1種:標準形状、用途が広い
✅ 2種:両面面取りで作業性アップ
✅ 3種:薄型でスペース制限に対応
六角ナットの代表的な標準寸法について
以下に、JIS規格に基づく「六角ナット(普通のナット)1種・2種・3種」の基本寸法表(呼び径 M3 ~ M12)を作成しました。
初心者の方にもわかりやすいように整理しています。なおここでは代表的な標準寸法を示していますが、実際の製品では「板厚公差」などがありますので、必要な場合はメーカーやJISの最新版を確認してください。
六角ナット 1種・2種・3種 寸法表(M3〜M12)
呼び径 | 対辺幅 1種・2種・3種 | 厚さ 1種 | 厚さ 2種 | 厚さ 3種 |
---|---|---|---|---|
M3 | 5.5 mm | 2.4 mm | 2.4 mm | 約1.8 mm |
M4 | 7.0 mm | 3.2 mm | 3.2 mm | 約2.4 mm |
M5 | 8.0 mm | 4.0 mm | 4.0 mm | 約3.2 mm |
M6 | 10.0 mm | 5.0 mm | 5.0 mm | 約3.6 mm |
M8 | 13.0 mm | 6.5 mm | 6.5 mm | 約5.0 mm |
M10 | 17.0 mm | 8.0 mm | 8.0 mm | 約6.0 mm |
M12 | 19.0 mm | 10.0 mm | 10.0 mm | 約7.0 mm |
M16 | 24.0 mm | 13.0 mm | 13.0 mm | 約10.0 mm |
M20 | 30.0 mm | 16.0 mm | 16.0 mm | 約12.0 mm |
M24 | 36.0 mm | 19.0 mm | 19.0 mm | 約14.0 mm |
ポイント解説
- 3種は薄型ナットで、同じ対辺幅でも薄い形状になり、スペースに制限がある場合に便利です。
- 対辺幅
- ナットを締め付ける際に使うスパナ・ソケットのサイズに相当します。
- 厚さ(m)
- 1種と2種は、ナットの厚さは基本的に同一(JISでは同じ「m」で規定)です。
- 2種は「両面に面取り」がある点が主な違いで、厚みはほぼ同じ形状。
ナットの選定ポイント
使用環境
- 振動環境: 振動が多い環境では、ナイロンナットやロックナット、Uナットのように緩み防止機構を持つナットが適しています。
- 腐食環境: 湿気や腐食が懸念される環境では、ステンレスナットや防錆処理が施されたナットを選ぶことが望ましいです。
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締結力とトルク
- ナットの種類によって、締結時のトルク(締め付け力)が異なります。
- 高トルクで強力に締結したい場合には、六角ナットやフランジナットのような広い接触面を持つナットが効果的です。
- 一方、精密機器のように微細な締め付けが必要な場合には、細目のナットが適しています。
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メンテナンス性
- ナットが頻繁に取り外される必要があるかどうかも、選定時に考慮すべきポイントです。
- 取り外しが頻繁な場所では、工具なしで手軽に締め付けられる蝶ナットが便利です。
- 定期的なメンテナンスが必要な箇所では、六角ナットやフランジナットのように簡単に取り付け・取り外しができるナットが適しています。
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寸法とスペースの制約
- ナットが取り付けられるスペースに制限がある場合は、薄型ナットなどコンパクトなものを選定することが求められます。
- 逆に、スペースに余裕がある場合は、フランジナットのように大きな接触面を持つナットで安定した締結が可能です。
外観や安全性
- ナットが見える部分に取り付けられる場合は、外観やデザイン性も重要な要素です。
- 袋ナットは、ボルトの露出部分をカバーし、見た目を美しく仕上げるだけでなく、安全性も向上させます。
材質の適合性
- ナットの材質は、ボルトや周辺の部品との相性を考慮する必要があります。
- 同じ材料で作られたナットとボルトを使用することで、ガルバニック腐食(異種金属の接触による腐食)を防止できます。
- ステンレスやアルミ合金のような耐食性のある材質を選ぶことで、過酷な環境下でも長期的に使用可能です。
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まとめ
ナットは単純な締結部品ですが、さまざまな種類があり、用途や環境に応じて適切な選定が求められます。六角ナットやフランジナットのような汎用的なものから、ナイロンナットやロックナットのように振動対策に特化したものまで、選択肢は多岐にわたります。使用する環境や要求される性能に合わせて、最適なナットを選ぶことが、機械設計や製造工程において非常に重要です。
ナットの選定は、使用環境、締結力、メンテナンス性、寸法制約、外観、そして材質の適合性など多くの要素を考慮する必要があります。適切なナットを選ぶことで、機械の信頼性や性能が向上し、長期的な安定性を確保することが可能です。
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