〜荷重を「見える化」する力センサーの基礎と選定のコツ〜
ロードセル(Load Cell)とは、物体にかかる荷重(力)を電気信号に変換して検出するセンサーです。工場の自動計量器や試験機、プレス装置、材料試験装置など、多くの産業機械で使用されています。
ロードセルは、変位(たわみ)をひずみゲージで検出し、その変化を電気的に処理することで「力」を計測しています。
ロードセルの主な構造と種類
ロードセルにはいくつかの構造タイプがあり、使用環境や測定方法に応じて選定されます。
タイプ | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
ビーム型(曲げ) | 荷重によるたわみを検出 | 計量台、簡易荷重測定 |
S型 | 引張・圧縮両対応、取付が簡単 | 試験装置、吊り下げ計量 |
ボタン型 | 圧縮荷重専用、コンパクト | プレス機、スペース制限時 |
シェアビーム型 | ひずみをせん断方向で測定 | 多軸荷重測定 |
リング型・円筒型 | 中心穴付きで通し設置可 | ボルト締付力や軸荷重測定 |
主な仕様・特性
ロードセルを選定する際は、以下のような仕様を確認することが重要です。
項目 | 説明 |
---|---|
定格容量(定格荷重) | 測定できる最大荷重。使用荷重は70〜80%以下が推奨。 |
精度 (非直線性・ヒステリシス・繰り返し性) | 測定誤差の要因。高精度用途では±0.05%FS以下が目安。 |
感度(出力信号) | 通常mV/Vで表記。アンプの選定にも関係。 |
ゼロバランス | 無負荷時の出力。アンプでのゼロ補正が必要な場合も。 |
許容過負荷 | 定格容量を超えた荷重にどれだけ耐えられるか。 安全率確保が大切。 |
温度特性 | 周囲温度の変化による出力誤差 (温度補償範囲・動作温度範囲)。 |
材質 | ステンレス製が多く、耐食・耐久性に優れる。 アルミ製は軽量。 |
電気的特性とアンプ回路
ロードセルはブリッジ回路(ホイートストンブリッジ)構成となっており、外部から励起電圧(一般的に5〜10V)を与えて、ひずみに応じた微小電圧(mV単位)を出力します。
この微小信号を増幅してA/D変換するアンプ回路(変換器)が必要です。
✅ ポイント:アンプや指示計との組み合わせで、システム全体の精度が決まります!
ロードセルの選定ポイント
測定する力の種類
- 引張 or 圧縮? 両方必要?
- 圧縮専用ならボタン型、引張にも対応するならS型が◎
必要な測定範囲(荷重容量)
- 測定対象の最大荷重の1.2〜1.5倍を定格容量とするのが安全
- ※繰り返し使用なら過負荷耐性も考慮
設置スペースと取り付け方法
- ボルト固定 or 中空通し or 吊り下げ型かを確認
- 小型でスペースが限られるならボタン型が有効
必要な精度
- 一般用途なら±0.5%FSでもOK
- 高精度測定には±0.05%FS以下が必要
周囲環境(温度・防塵・防水)
- IP等級を確認。高湿・粉塵環境では保護構造が重要
- 温度補償範囲も要チェック
アンプとの整合性
- mV/V出力か、電圧・電流変換済み出力(0〜5V、4〜20mA)か?
- デジタル出力(RS485など)もある
よくある用途と設置例
用途 | 使用されるロードセル | 補足 |
---|---|---|
計量装置(ベルトスケールなど) | ビーム型、シェアビーム型 | 複数台構成で安定計測 |
引張試験機 | S型 | 両方向計測可能 |
プレス圧管理 | ボタン型 | 圧縮力の変化を高速で検出 |
ネジ締付力の測定 | リング型 | 中空ボルト貫通可 |
タンクの重量測定 | ビーム型または圧縮型を複数使用 | 変形を利用して質量検出 |
使用上の注意点
- ロードセル本体に衝撃を与えない(ひずみゲージ破損の恐れ)
- 配線長とノイズの影響に注意(シールド線使用)
- 温度ドリフトやゼロ点変動は、定期的な校正が必要
- 偏荷重を避けるため、水平設置や荷重中心を揃えることが重要
ロードセルの校正方法とは?
〜正確な「力」を測るために欠かせない工程をやさしく解説〜
ロードセルを使った「荷重計測」は、高精度であることが前提です。しかし、どんなに高性能なロードセルでも使い始める前には校正が必要です。また、使用中にも定期的な点検・再校正が推奨されます。
この記事では、ロードセルの校正とは何か、なぜ必要なのか、どのように実施するのかについて、わかりやすく説明していきます。
なぜロードセルの校正が必要なのか?
ロードセルは荷重を電気信号に変換するセンサーですが、以下の理由で実際の表示値とズレる可能性があります。
- ロードセル固有のバラつき(製造誤差)
- 周囲温度の変化によるドリフト
- 取付け状態の変化(偏荷重・角度ズレ)
- アンプや表示器との信号誤差
- 経年劣化や衝撃による出力特性の変化
そのため、実際にどの荷重が加わったときに、どれくらいの電気信号が出るかを「校正」によって把握し、装置側で補正することが大切です。
校正の基本用語
用語 | 意味 |
---|---|
ゼロ点校正(ゼロバランス調整) | 無荷重時の出力を0に調整する |
スパン校正(フルスケール校正) | 所定荷重をかけて出力スケールを合わせる |
トレーサビリティ校正 | 国家標準に基づく校正機関による精密校正 |
簡易校正(現場校正) | 重りなどを使って自社で行う簡易的な校正 |
校正方法の手順(現場向け)
① 準備するもの
- 指示計(アンプ+表示器)
- 基準用の標準重り(トレーサブルなものが望ましい)
- ロードセルの仕様書
- 安定した設置環境(水平、温度変化の少ない場所)
② ゼロ点校正
- ロードセルに荷重を加えていない状態にする
- 指示計の「ゼロリセット」機能を使って出力を0に調整
- ゼロ点の値が安定するまで数秒待機(初期ドリフトを防止)
③ スパン校正
- ロードセルの仕様に合った基準重り(例:5kg, 10kgなど)を段階的に載せる
- 指示計の設定画面で「校正荷重値」を入力
- 指示値が一致するように「スパン調整」を行う
- 校正後、異なる重りでも正しく表示されるか確認
校正時の注意点
注意点 | 内容 |
---|---|
偏荷重NG | 重りは中心に均等に載せること。偏荷重は誤差の原因。 |
温度安定 | 校正時は周囲温度を一定に保つ(15〜30℃が望ましい) |
時間経過 | ロードセルによっては「クリープ(時間変化)」が起こるため、重りを載せた後は数秒待機して安定させる |
繰り返し性確認 | 同じ荷重で複数回測定し、再現性(ばらつき)を確認 |
校正の種類と使い分け
校正方法 | 内容 | 主な用途 |
---|---|---|
一次校正(初期校正) | 新品導入時に行う | 精度確認とシステム補正 |
定期校正 | 数ヶ月〜1年ごとに実施 | 継続使用の精度維持 |
トレーサビリティ校正 | 国家標準と紐づく校正証明付き | 検査機器、ISO対応現場 |
現場簡易校正 | 自社管理で手動校正 | 生産ラインや検出器調整 |
校正結果の記録(品質管理)
校正後は以下の情報を記録しておくと、トレーサビリティの確保や設備の品質保証につながります。
- 使用したロードセルの型番・シリアル番号
- 校正実施日、実施者
- 使用した標準重りとその精度
- 校正前後の出力値
- 校正方法(ゼロ調整/スパン調整の内容)
校正におけるトラブル例と対策
トラブル | 原因 | 対策 |
---|---|---|
出力値が不安定 | 荷重の載せ方が不均一、温度変化 | 水平設置、重りの位置調整、温調 |
校正後も誤差が大きい | アンプや表示器の設定ミス | 入力レンジや分解能を再確認 |
ゼロ点がずれる | ロードセルの経年劣化・断線・ひずみ破損 | 他の正常なロードセルで比較、交換検討 |
✔️ 設置状態や周囲温度も校正結果に影響するので注意
✔️ ロードセルは使う前に「ゼロ点」と「スパン」の校正が必須
✔️ 校正はトレーサビリティを意識して記録管理するのが理想
✔️ ゼロ点・スパンのずれは精度を大きく狂わせる
✔️ 重りは精度等級が明示された標準器を使用

ロードセルの正確な計測値を得るには、適切な校正が欠かせません。特に機械設計の現場では「力の見える化」が品質に直結するため、定期的な校正ルールを設けることが重要です。
まとめ
視点 | ポイント |
---|---|
種類 | 測定目的に応じて形状・構造を選ぶ |
精度 | 用途によって必要精度を見極める |
環境 | 防塵・防水・温度特性に注意 |
接続 | アンプ・指示計との整合性が重要 |
設置 | 荷重の向き、偏荷重に注意して設置 |
ロードセルは、「力」を「電気信号」に変換することで、装置の挙動を定量的に「見える化」できる便利なセンサーです。
構想段階からロードセルの種類と設置位置を明確にしておくことが、設計トラブルを減らすカギです。
不明点があれば、メーカー仕様書や技術資料でしっかり確認しながら選定を進めましょう!
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