機械設計を進めるうえで、図面を描いたり、部品を選定したり、仕様を検討したりする際に欠かせないのが「単位」の考え方です。
長さ、重さ、力、圧力など、設計に必要なあらゆる数値には、必ず単位が付いています。
単位を正しく理解しないと、思いもよらない設計ミスやトラブルを招いてしまう恐れがあります。
また、海外の製品や仕様書に触れる機会が増えている今、単位の違いに対する意識はこれまで以上に重要になっています。
この記事では、機械設計初心者の方にもわかりやすく、単位の基礎知識や、実際の設計で気をつけるべきポイント、さらに海外との単位の違いによる注意点まで、幅広く解説していきます。
正しい単位の取り扱いを身につけ、トラブルのないスマートな設計を目指しましょう!
なぜ単位が大事なのか?
単位とは、「量」を表現するための共通の基準です。
たとえば、長さを「mm(ミリメートル)」で表したり、重さを「kg(キログラム)」で表したりします。
- 単位がないと、物の大きさや重さ、速さを正確に伝えられない
- 設計、製造、検査で共通認識ができないと、大きなミスや事故につながる
- 海外メーカーや異なる部門と連携する際、単位の統一が重要
つまり、単位は設計図面や仕様書の言語そのものとも言えます。
機械設計でよく使う基本単位
設計現場では、主に以下の単位をよく使います。
長さ
単位 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
mm(ミリメートル) | 1/1000メートル | 最も基本。図面寸法も基本はmm単位 |
m(メートル) | 1000mm | 大きな寸法やレイアウトに使う |
μm(マイクロメートル) | 1/1000mm | 精密部品の公差設計で使用 |

基本はmm基準。特別な指示がない限り図面寸法はmmで統一します。
重さ(質量)
単位 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
kg(キログラム) | 1000g | 製品の重量設計、搬送機器設計で使用 |
g(グラム) | 1/1000kg | 小物部品や軽量部品に使用 |

構造設計では部品の質量合計も重要な設計要素になります。
力・荷重
単位 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
N(ニュートン) | 力の単位(1kg重 ≒ 9.8N) | スプリング荷重や締結力に使用 |
kN(キロニュートン) | 1000N | 大型構造物や強力な機械要素 |

力と重さ(kg)を混同しないよう注意!
1kgの質量に働く重力は約9.8Nです。
トルク(回転力)
単位 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
N・m(ニュートンメートル) | トルク(ねじり力) | モーター選定やボルト締結設計で重要 |
N・cm(ニュートンセンチメートル) | 1/100m | 小さなトルク管理に使用 |

トルク設計では、単位換算(N・m↔N・cm)を間違えないこと!
圧力
単位 | 意味 | 備考 |
---|---|---|
Pa(パスカル) | 1N/㎡ | 理論式に使うことが多い |
MPa(メガパスカル) | 1,000,000Pa | 材料強度や空圧回路で頻繁に使用 |
bar(バール) | 1bar ≒ 0.1MPa | 空圧機器(エアシリンダ)など |

実務ではMPaを主に使うケースが多いです。
SI単位と工業単位
SI単位とは?
SI単位(国際単位系)は、世界共通の標準単位系です。
🔍 例)
- 長さ → メートル(m)
- 質量 → キログラム(kg)
- 時間 → 秒(s)
- 力 → ニュートン(N)
設計業界では、基本的にSI単位をベースに設計・表記するのがルールです。
工業単位とは?
一方、工業分野では実務で使いやすい単位が使われることもあります。
🔍 例)
- 長さは「mm」
- トルクは「N・m」
- 圧力は「MPa」
つまり、「SI単位を基礎としつつ、実用性の高い単位を選んでいる」というイメージです。
単位換算を正しく行う
単位換算ミスは、設計上の重大トラブルの元になります。
基本的な換算ルールを押さえましょう!
元単位 | 換算後 | 計算式 |
---|---|---|
m → mm | ×1000 | 1m = 1000mm |
mm → m | ÷1000 | 1000mm = 1m |
kg → g | ×1000 | 1kg = 1000g |
g → kg | ÷1000 | 1000g = 1kg |
N → kgf | ÷9.8 | 9.8N ≒ 1kgf |
kgf → N | ×9.8 | 1kgf ≒ 9.8N |
🚫 注意
とくに「質量」と「力(N)」の換算ミスは頻出トラブル。必ず確認しましょう。
設計における単位表記のコツ
設計図や仕様書で単位を書くときのポイントです。
✅ 寸法は原則mm表記(図面で明示がなければ全てmm扱い)
✅ 単位記載ルールを統一する(資料内でmとmmが混在しない)
✅ 換算ミスを防ぐため、単位付きで計算を残す
✅ 重要寸法や荷重は単位も含めて明記する(例:締付トルク 5N・m)
海外との単位の違いに注意
機械設計では、国内だけでなく海外メーカーや海外工場とやり取りする機会も増えています。
このとき必ず注意しなければならないのが「単位の違い」です。
単位を正しく理解していないと、設計ミスや製造トラブルにつながる恐れもあります。
ここでは、初心者でもわかりやすく、海外との単位の違いについて解説していきます。
日本と海外で単位が違う理由
日本では、基本的にメートル法(SI単位系)が使われています。
一方、海外では国や業界によって異なる単位が使われている場合があります。
特にアメリカでは、ヤード・ポンド法(いわゆるUS単位系)が今でも一般的です。
つまり、
- 日本 → メートル法中心
- アメリカ → ヤード・ポンド法中心
- ヨーロッパ → メートル法中心(ただし一部独自表現あり)
この違いが、設計や調達で思わぬ落とし穴になることがあるのです。
具体的にどんな単位が違う?
長さの違い
日本(メートル法) | アメリカ(ヤード・ポンド法) |
---|---|
mm(ミリメートル) | inch(インチ) |
m(メートル) | ft(フィート) |
🔍 換算例
- 1インチ(in) = 25.4mm
- 1フィート(ft) = 12インチ = 約304.8mm

図面寸法が「inch」で書かれている場合、日本人感覚の「mm」と全くスケール感が違うので要注意!
重さ(質量)の違い
日本(メートル法) | アメリカ(ヤード・ポンド法) |
---|---|
kg(キログラム) | lb(ポンド) |
g(グラム) | oz(オンス) |
🔍 換算例
- 1ポンド(lb) ≈ 0.4536kg
- 1オンス(oz) ≈ 28.35g

特に輸送荷重や耐荷重設計で、kgとlbの変換をミスすると大きなトラブルになりかねません!
力・荷重の違い
日本(メートル法) | アメリカ(ヤード・ポンド法) |
---|---|
N(ニュートン) | lbf(ポンドフォース) |
🔍 換算例
- 1lbf(ポンドフォース) ≈ 4.448N

N(ニュートン)とlbf(ポンドフォース)は単なる重さではなく、力です。
トルク設計などで換算を間違えると、ねじの強度不足を引き起こすリスクもあります。
圧力の違い
日本(メートル法) | アメリカ(ヤード・ポンド法) |
---|---|
MPa(メガパスカル) | psi(ポンド毎平方インチ) |
🔍 換算例
- 1MPa ≈ 145.0psi

エアー配管や油圧システム設計では、必ず単位換算してから使用すること!
海外製部品を使うときの注意点
海外メーカー製の部品(特にアメリカ製)を使うときは、次のポイントに注意しましょう。
✅ カタログスペックの単位を必ず確認する
✅ 寸法公差もインチ基準になっていないか確認する
✅ 必要に応じて単位換算表を準備する
✅ どうしても混乱しそうな場合は、日本向け仕様モデルを選ぶ
実際にあった失敗例
🚫 失敗例1:穴径ミスで組立不能
海外部品のボルトサイズを「mm」と勘違いし、穴径を設計。
実際はインチサイズだったため、ボルトが通らず組み立て不可に…。
🚫 失敗例2:圧力規格ミスで破損事故
油圧機器の耐圧設定を「MPa」で想定していたが、実際は「psi」基準。
想定以上の圧力がかかり、部品が破裂するトラブルに…。
単位ミスは本当に命取りになるので、要注意です!
単位違いを防ぐためにできること
初心者でもできる対策をまとめます!
✅ 資料・図面は最初に「単位表記」を確認するクセをつける
✅ 重要寸法や荷重には、必ず単位も併記する
✅ SI単位(メートル法)を標準に統一することを周囲にも徹底
✅ 怪しいときは、必ず上司や経験者に相談する
海外とのやり取りでは、単位の違いに注意することが基本中の基本です!
✅ 日本は「メートル法」、アメリカは「ヤード・ポンド法」
✅ 特に長さ・重さ・力・圧力の単位に要注意
✅ 単位ミスは設計ミスや大事故に直結する
✅ 常に単位確認を意識しよう!

単位を意識するクセを最初にしっかり身につければ、
これからの設計業務でも安心して海外案件に取り組めるようになります。
単位の失敗例
単位のミスが大事故に発展した実例もあります。
有名なのは「マーズ・クライメーター探査機事故」です。
NASAが打ち上げた探査機が、地球単位(ヤード・ポンド法)とメートル法の換算ミスによって火星着陸に失敗。
被害総額は約125億円にも達しました。
つまり、単位の取り扱いは命取りにもなるということです。
まとめ
機械設計において単位を正しく理解することは、設計品質の基本であり、チーム全体の信頼性にもつながります。
✔ よく使う単位(mm、kg、N、N・m、MPa)をしっかり押さえる
✔ SI単位ベースで考えるクセをつける
✔ 換算ミスを防ぐために単位を意識して計算する
✔ 図面・資料では統一ルールを守る
✔ 海外案件では単位の違いに注意する
単位を「ただの記号」と思わず、設計者としての大切な言語だと意識して取り組みましょう!
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