なぜインバーターはモーターの速度を変えられるの?~周波数制御の原理をやさしく解説~

初心者の「なぜ?」

工場や設備に欠かせない電動モーター。
その中でも、「速度を自由に変えられる」という特長をもつのがインバーター制御です。

ではなぜ、インバーターを使うとモーターの回転数を調整できるのでしょうか?
本記事では、そのしくみを初心者にもわかりやすく解説します。


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そもそもインバーターとは?

インバーターとは、簡単に言うと「電気の周波数を変える装置」です。
交流(AC)モーターの回転数は、この周波数によって決まるため、インバーターで周波数を変えれば、回転数も変えられるというわけです。


回転数は「周波数」で決まる!

三相誘導モーターなどのACモーターの回転数(n)は、次の式で表されます。

\( \displaystyle N=\frac{120×f} {P}\)

  • N: モーターの回転数(rpm)
  • f: 電源周波数(Hz)
  • P: モーターの極数(2極, 4極など)

たとえば、50Hzの電源で4極モーターを回すと
n = 120 × 50 ÷ 4 = 1500 rpm になります。

ここで、インバーターを使って周波数を変えると…

  • 40Hz → 約1200 rpm
  • 60Hz → 約1800 rpm

のように、周波数を上げ下げすることで、回転数を変えることができるのです。


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なぜ回転数を変えたいの?

~モーター速度調整で得られる3つのメリット~

工場や設備でよく使われるモーター。
そのモーターの回転数(=速度)を調整することで、実は装置全体の効率や品質が大きく変わることをご存じですか?

今回は、なぜ「回転数を変えたいのか?」その理由とメリットを、初心者にもわかりやすく解説します。


理由①:流量・風量を変えたいとき ~ムダなエネルギーを使わない~

たとえば、送風機やポンプのような機器では、回転数が高いほど流量や風量が大きくなります。
しかし、常に全力で回す必要はあるでしょうか?

  • 夜間は少しでいい
  • 小型の製品には少ない流量でOK
  • 生産量が落ちる時間帯には抑えたい

こういった場面では、必要なときに必要な分だけ動かすことで、大幅な省エネが可能になります。

インバーター制御の活用

インバーターを使って回転数を調整すれば、不要な消費電力をカットできます。
特にファン・ブロワ・ポンプなどは、回転数を下げることで消費電力が指数関数的に減るため、非常に効果が高いのです。


理由②:なめらかに加減速したいとき ~装置やワークを守るために~

たとえばベルトコンベアで、急にモーターがスタート・ストップするとどうなるでしょう?

  • 荷物がずれてしまう
  • ギアやベルトに大きな負荷がかかる
  • 繰り返せば装置が早く壊れる

このような問題を防ぐためには、ゆっくり加速・減速させるのが効果的です。

インバーターならソフトスタート・ストップが可能

インバーター制御なら、時間をかけてじわっと動き始める設定ができるので、衝撃を最小限に抑えられます。

結果として、

  • ワークの安定搬送
  • 機械部品の長寿命化
  • 騒音・振動の低減

といった効果が期待できます。


理由③:負荷に応じた速度制御 ~品質と歩留まりを安定させる~

加工機や組立機などの現場では、材料や製品によって最適な速度が異なる場合があります。

たとえば:

  • 柔らかい材料はゆっくり加工した方がきれいに仕上がる
  • 製品の種類によって必要な加工時間が異なる
  • 状況に応じてラインのスピードを上げ下げしたい

このようなとき、モーターの速度を自在に変えられることで、柔軟な生産対応と品質維持が可能になります。

インバーターの速度可変機能が活躍

  • 材料に合わせた最適速度を設定
  • 不良を減らし歩留まりアップ
  • 製品変更時も簡単に調整

つまり、設備の使い勝手もよくなり、歩留まりや生産性の向上にもつながるのです。


回転数を変えるのは、ただの“調整”じゃない!

理由メリット
流量・風量を制御大幅な省エネが可能に
なめらかに動かす装置やワークを保護
状況に応じた調整品質安定と柔軟対応

モーターの回転数を変えられると、設備全体の性能や寿命、エネルギー効率まで変わってくるのです。

そして、その実現手段として広く使われているのが「インバーター制御」というわけです。

インバーターの仕組み(簡略)

インバーターは、次のような仕組みで周波数を変換しています。

  1. 商用電源(AC100V/200Vなど)を一度直流(DC)に変換
  2. その直流を再び交流に変換(このとき周波数を自由に設定)
  3. 出力周波数に応じてモーターを駆動

この「AC → DC → AC」という変換プロセスによって、任意の周波数・電圧を作り出せるのが、インバーターの最大の特長です。


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注意点:ただ速くすればいいわけではない!

モーターの速度を自由に変えられる便利なインバーター。
しかし、使い方を間違えると性能が落ちたり、トラブルが発生することもあります。

今回は、インバーター制御を使うときに注意すべきポイントを2つに絞ってわかりやすく解説します。


注意①:定格周波数を超えるとトルクが落ちる!

インバーターを使えば、モーターの回転数を周波数によって自由に変えられます。
たとえば60Hzのモーターに100Hzをかけると、回転数は約1.6倍に上がります。

「じゃあ速くすればするほどいいのでは?」と思ってしまうかもしれませんが、落とし穴があります。

トルク(=回す力)が低下する

モーターは、定格周波数までは「電圧」と「周波数」をバランスよく上げていくことで、トルクを維持できます(これをV/f制御といいます)。

しかし、定格周波数(たとえば60Hz)を超えると、これ以上は電圧を上げられないため、トルクが下がってしまうのです。

解決策

  • 高速運転が必要な場合は、「高周波対応のインバーターモーター」を選びましょう。
  • 装置がどれだけのトルクを必要とするかを確認し、設定周波数の上限を決めることも大切です。

注意②:ノイズや電気的トラブルに注意!

インバーターは、出力をPWM(パルス幅変調)という高速なスイッチングで制御しています。

そのため、一般的な電源に比べてノイズ(高周波成分)が多く含まれています。

問題が起きやすいポイント

  • 隣の機器にノイズが入り、誤動作を引き起こす
  • モーターケーブルが発熱・劣化する
  • アース(接地)が不十分だと、感電や故障の原因に

対策方法

  • シールド付きモーターケーブルを使用する
  • ケーブルはできるだけ短く、配線は丁寧に分離
  • インバーター専用のノイズフィルターやリアクトルを使う
  • アース処理をきちんと行う(モーター・インバーター両方)

これらは電気設計の基本ではありますが、インバーターを使う場合はよりシビアな対策が必要です。


インバーターには“賢い使い方”がある!

注意点内容対策
トルク低下定格周波数以上で力が弱くなる高周波モーターの使用、上限管理
ノイズ・配線他機器への影響や配線トラブルシールド線、アース、フィルター活用

インバーターは非常に便利な制御機器ですが、トルクやノイズといった落とし穴を理解して使うことが大切です。

設計段階でしっかりと対策を講じておけば、安全かつ快適に活用できるはずです。

■ まとめ:インバーター=周波数を自由に変える装置

インバーターの働き内容
周波数を変える50Hz → 60Hz → 任意に変更
回転数を変える周波数に比例して変動
エネルギー効率UP過剰運転を抑えて省エネ
ソフトスタート装置を傷めず滑らかに加減速

「モーターのスピードを自由に変えたい!」と思ったら、まず検討すべきがインバーターです。
装置の省エネ化・長寿命化・高品質化に大きく貢献してくれます。


はじめ
はじめ

モーターやアクチュエーターなど、機械の駆動源に関する基礎知識と選定基準をまとめています。

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