THKのLMガイドの選定ポイント 4選

機械要素

~直線運動を支える高精度案内機構の基本と選び方~

LMガイド(リニアモーションガイド)は、高精度な直線運動を実現する機械要素で、多くの工作機械や自動装置に使われています。
中でもTHK製LMガイドは世界的に評価が高く、種類も非常に豊富。

この記事では、初心者でも理解できるようにLMガイドの構造と選定ポイントをやさしく解説します!


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LMガイドとは?

LMガイド」とは、「Linear Motion Guide」の略で、直線的な滑らかな動きを実現するための案内機構です。
ボールやローラーを使って、レール(レールガイド)とブロック(スライダー)間の摩擦を極限まで低減しつつ、剛性・精度・耐荷重性を高めています。

主に使われる分野

  • 工作機械
  • 自動化設備
  • 精密位置決め装置
  • 3Dプリンターや半導体製造装置 など
リニアガイドについての記事はこちら

選定ポイント①:4列サーキュラーアーク溝 vs 2列ゴシックアーチ溝

~4列サーキュラーアーク溝 vs 2列ゴシックアーチ溝の比較~

中でも、「溝の形状の違い」は、性能や寿命に大きく影響します。
本項では、THKなどに代表される「4列サーキュラーアーク溝」と、他社製品に多い「2列ゴシックアーチ溝」の違いを初心者にもわかりやすく解説します。

そもそも「溝の形」とは?

LMガイドは、レールの溝とブロックの中を鋼球(ボール)が転がることで動作します。

このボールの接触面(溝の形)が以下の2タイプに分かれます。

溝の種類ボール接触点主な特徴
4列サーキュラーアーク溝2点接触×4列滑らかに動く、取付誤差に強い、高剛性
2列ゴシックアーチ溝4点接触×2列荷重分散しやすいが、摩擦や摩耗が増えやすい

差動すべりとは?動きの軽さに影響

ボールが1回転する間に、内側と外側の接触面の直径が違うと「すべり」が発生します。
この差を差動すべりと呼びます。

  • 🔵 サーキュラーアーク溝:差動すべりが少ない → 動きがスムーズ
  • 🔴 ゴシックアーチ溝:差動すべりが大きい → 摩擦増加・異常摩耗リスク

差動すべりが起きると、摩擦係数が数十倍になり寿命が大幅に短くなります。


取り付け精度への“やさしさ”が違う

項目サーキュラーアーク溝(2点接触)ゴシックアーチ溝(4点接触)
取付誤差の吸収ボールの弾性で吸収できる吸収できず、動きが固くなる
要求される取付面精度比較的ゆるくてOK高精度な面が必要
組立しやすさ高い(初心者・現場向け)低い(調整がシビア)
はじめ
はじめ

サーキュラーアーク溝は、ブロック内部でズレを吸収してくれるため、
取付ベースの加工精度が多少甘くてもOKです。


剛性・定格荷重の違い

比較項目サーキュラーアーク溝ゴシックアーチ溝
予圧時の動きスムーズ(高剛性を得やすい)差動すべりで重くなる
定格荷重高い約50%程度に減少
寿命長い約87.5%寿命が短くなる

高荷重・高剛性を求める用途では、サーキュラーアーク溝が断然有利です。


実際の製品例で見る違い

製品例溝タイプ特徴
THK SHS形 など4列サーキュラーアーク溝高剛性・取付誤差吸収・長寿命
他社のリニアガイド2列ゴシックアーチ溝コスト重視・軽荷重・精度要件が厳しい

用途に応じて最適な構造を選ぼう

比較ポイントサーキュラーアーク溝ゴシックアーチ溝
軽快な動き△(差動すべりに注意)
剛性・寿命△(寿命は最大1/8減)
取付誤差の吸収×
加工・設置の難易度低い(扱いやすい)高い(精度要求高)
サイズやや大きい比較的コンパクト
コスト高い比較的安価
はじめ
はじめ

予圧が必要な装置・剛性が欲しい機構・取付精度に制約がある装置では
4列サーキュラーアーク溝構造が有利です!


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選定ポイント②:ラジアル荷重形 vs 4方向等荷重形

~ラジアル荷重形 vs 4方向等荷重形の違いとは?~

LMガイド(リニアガイド)は、機械や装置で直線的に滑らかに動くための重要な部品です。
選定の際に特に重要になるのが「どの方向から荷重がかかるか?」です。

それによって、以下の2種類のタイプから選ぶ必要があります。

ラジアル荷重形とは?

🔷 特徴:上からの荷重(ラジアル方向)に強い構造

  • 主に垂直方向(上から押さえる力)に強い設計
  • 左右方向や下からの荷重には弱め
  • 主に「上に載せて動かす」ような装置に適しています

📌 例:搬送装置・直進テーブルなど
→ 上に部品を載せてスライドするような用途に最適!


4方向等荷重形とは?

🔶 特徴:上下左右すべての方向に均等に荷重を受けられる構造

  • 垂直・水平方向の荷重をバランス良く分散
  • 装置が斜めに力を受けたり、横から力がかかる場面でも安定
  • モーメント(ねじれ)にも強く、機械の安定性が向上
  • 構造全体がタフで応用範囲が広い

📌 例:多関節アーム・ロボット・立体搬送機など
あらゆる方向からの力がかかる機構にはこちらが◎


比較表:ラジアル荷重形と4方向等荷重形

比較項目ラジアル荷重形4方向等荷重形
荷重方向上からの荷重に特に強い上下左右すべてに対応
横からの力弱い強い(安定)
モーメント耐性弱い強い
主な用途単純搬送装置ロボット・複雑機構など
主な形式SSR形、SR形SHS形、HSR形

設計者の選び方アドバイス!

以下のようなときは4方向等荷重形を選ぶのが無難です

  • 機械が傾いている、または傾く可能性がある
  • 横方向にも力がかかる
  • 高精度の直線運動が必要
  • 多軸で取り付ける
はじめ
はじめ

水平方向にも力がかかるなら、
4方向等荷重形を選ぶ方が結果的に長寿命&安定稼働につながります。

選定ポイント③:ボールリテーナ入り vs 総ボールタイプ

~ボールリテーナ入り vs 総ボールタイプの違いとは?~

LMガイド(リニアガイド)は、ボールがレールの中で回転しながらスムーズな直線運動を実現する部品です。
その内部構造には「ボールリテーナ入り」と「総ボールタイプ」という2種類があり、それぞれ特徴があります。


ボールリテーナ入りタイプとは?

🔷 代表例:THK SHS形 SSR形 など

このタイプでは、ボール一つひとつの間にリテーナ(仕切り)が入っており、ボール同士が接触しません

特徴

  • 静かに動く(低騒音)
     → ボール同士がぶつかる音が出ないので静音性◎
  • 長寿命
     → 金属同士の摩擦が減るため、摩耗が少なく耐久性が高い
  • 潤滑が長持ち&メンテが少ない
     → グリスが長く持ちやすく、メンテナンスの頻度が少ない
  • スムーズな動き
     → 滑らかに移動するため、微小な位置決めにも向いています

📌 静音性・寿命・保守性を重視したい現場におすすめ!


総ボールタイプとは?

🔶 代表例:THK HSR形 SR形 など

このタイプでは、ボールがびっしり並んで回転しています。
リテーナがないため構造がシンプルです。

特徴

  • 高荷重に強い
     → ボールがたくさん入っているため、支持できる荷重が大きい
  • 音が出やすい
     → ボール同士が直接ぶつかるため、使用環境によってはカチャカチャ音が出ることも
  • 摩耗が進みやすい
     → 接触によるグリスの消耗が早く、潤滑切れに注意

📌 荷重が大きい用途に向いていますが、定期的なメンテナンスが必要になります。


比較表:リテーナ入り vs 総ボールタイプ

比較項目ボールリテーナ入り総ボールタイプ
騒音静か(低騒音)音が出やすい
寿命長い摩耗しやすい
メンテナンス性良い(潤滑持続)潤滑切れに注意
荷重性能やや劣る高荷重に強い
適した用途静音・精密・長寿命重荷重

設計者へのアドバイス

「静かでメンテしやすく、長く使えるLMガイドがほしい」という場面では、
ボールリテーナ入りを選ぶと後々のトラブルが減ります。

一方、とにかく重いものを支えたいというケースでは、総ボールタイプが現実的な選択肢です。

はじめ
はじめ

「どこに・どのように使うのか」を具体的にイメージして、用途に応じて選びましょう!
静音性や優れた滑動性、メンテ不要を求めるなら「リテーナ入り」がおすすめ。


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選定ポイント④LMガイドの“ブロックの種類”

~使用場所に応じた最適な選定とは?~

LMガイドは、機械の直線運動を支える重要な部品です。
その中でも「ブロックの種類」は、使用する装置の形状やスペースに大きく関わるポイントです。

今回は、THK製LMガイドを例に、代表的なブロックの種類と特徴をわかりやすく解説します。


標準形(例:SHS-25C)

  • 高さ・幅のバランスが良いスタンダードタイプ
  • 上面・下面どちらからでも取付け可能
  • 組立の自由度が高く、迷ったらまずこれ!

📌 装置設計がまだ固まっていない段階や、一般的な用途で使いやすい万能タイプです。


ロング形(例:SHS-25LC)

  • 標準形よりもブロックの長さが長い
  • 長くなることで、モーメント(回転方向の力)に対する剛性が向上
  • 水平面で重い物を動かすときや、片持ち構造で荷重が偏る場面に効果的

📌 片持ち荷重が大きいテーブルやロボットアームの基台などにおすすめ!


コンパクト形(SHS-25V)

  • 幅(W)をスリム化した省スペース仕様
  • 上面にタップ加工が施されており、下側からの取付けが難しい場所でも設置しやすい

📌 装置のテーブル幅が狭く、取り付けスペースが限られている場合に活躍します。


コンパクト形(SHS-25R)

  • SHS-25Vと同様にスリムな幅
  • HSR形と同じ高さ寸法を継承しており、過去の設計からの置き換えにも便利

📌 高さ互換性が必要な更新案件やリプレイスに便利です。


比較表:ブロック形状と特徴

タイプ特徴用途例
標準形バランス型・上下からの取付可能一般装置、迷ったときの標準選定
ロング形長さがあり、モーメント剛性が高いアーム基台、重量物の搬送装置
コンパクトV形幅が狭く、上面タップ付きテーブル幅が狭い装置
コンパクトR形幅が狭く、HSR形と高さ互換リプレイス用・高さ制限のある箇所

選定のコツ

ブロック形状は、単にサイズの違いだけでなく、装置全体の動きや取り付け条件、スペース制約に深く関係します。

はじめ
はじめ

ポイントは「荷重の向き」「取付スペース」「使う用途」をイメージして選ぶこと。

  • 標準形」は汎用性が高く、多くの用途に対応
  • ロング形」はモーメント剛性が欲しいときに
  • コンパクト形」は省スペース設計に最適
  • 互換性が必要な場合は「SHS-25R」などで高さを合わせる工夫も可能

➡ 製品仕様書や3Dデータを確認しながら、最適なタイプを選定していきましょう!

まとめ:LMガイド選定は「用途と負荷方向の整理」から!

THKのLMガイドは非常に多彩なラインナップがあり、選定に迷うかもしれませんが、
どんな方向に荷重がかかるか」「静かさ・精度・コストのバランス」を意識すれば選びやすくなります。

初心者でも以下を整理すると失敗しません。

✔ 荷重方向(上下・横・4方向?)
✔ 必要な精度・剛性
✔ 設置スペース
✔ 静音性の必要性

➡ THK公式カタログや選定ツールも併用しながら、適した型式を選びましょう!


はじめ
はじめ

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