アルミニウム合金は、その軽さと耐食性から、航空宇宙、輸送、建築、日用品など非常に多くの分野で利用されています。
A5052とA5056は、いずれも5000系のアルミニウム合金で、マグネシウムを主な合金元素としていますが、化学成分と特性の違いから、用途や性能に違いが見られます。
この記事では、A5052とA5056の特徴、用途、およびそれらがどのように適用されるかについて詳しく説明します。
アルミ合金「A5052」と「A5056」がよく比較される理由とは?
機械設計において、アルミ合金は軽量性や加工性、耐食性に優れる素材として多用されます。
特に「A5052」と「A5056」は、どちらもアルミニウムとマグネシウムを主成分とする合金であり、用途や性質が似ていることから、現場ではしばしば比較検討される存在です。
本項では、なぜA5052とA5056が比較されやすいのかを中心に、それぞれの特徴・違い・選定時のポイントを解説していきます。材料選定に迷ったときの判断材料としてぜひお役立てください。
A5052の特性
A5052は、マグネシウムを主成分とするアルミニウム合金です。
優れた耐食性、溶接性、加工性、強度を兼ね備えています。
強度: A5056に比べて、やや強度が低い。
耐食性: 優れた耐食性を持ち、海水や化学薬品にも強い。
加工性: 溶接性、曲げ加工性、切削加工性に優れ、加工が容易。
コスト: A5056に比べて安価。
✅メリット
- 耐食性と加工性のバランスが良い。
- コストパフォーマンスに優れている。
🚫デメリット
- A5056に比べて強度が低い。
A5056の特性
A5056は、マグネシウムとシリコンを主成分とするアルミニウム合金です。
A5052よりも強度が高く、耐食性、加工性も良好です。
強度: A5052に比べて強度が高い。
耐食性: A5052と同等以上の耐食性を持ち、海水や化学薬品にも強い。
加工性: 溶接性、曲げ加工性、切削加工性に優れ、加工が容易。
コスト: A5052に比べて高価。
✅メリット
- 高い強度と耐食性を兼ね備える。
- 加工性が良好。
🚫デメリット
- A5052に比べてコストが高い。
- 板材規格がないため、基本的には丸棒材として使用する。
- A5052は丸棒材、板材ともにある。
A5052とA5056の比較

まずは両者の基本スペックを簡単に整理しておきましょう。
項目 | A5052 | A5056 |
---|---|---|
主成分 | Al-Mg(マグネシウム2.2〜2.8%) | Al-Mg(マグネシウム4.5〜5.6%) |
特徴 | バランス型、汎用性が高い | 高強度・高耐食性 |
比重 | 約2.68 | 約2.66 |
引張強さ | 約260 (N/㎟) | 約290 (N/㎟) |
耐食性 | 優れる | A5056と同等以上 |
溶接性 | 良好 | 良好(ただし微妙な注意点あり) |
コスト | 優れる | 比較的高め |
流通形状 | 板材の流通が多い | 基本的には丸棒材 |
A5052とA5056の共通点
- 両者ともマグネシウム系アルミ合金(5000系)で、非熱処理型(冷間加工強化型)。
- 軽量かつ耐食性に優れており、海洋部品や構造材、建築材、自動車部品など幅広く使用される。
- 強度・加工性・溶接性のバランスが良く、量産向きの材料。
比較されやすい理由とは?
理由①:どちらも「中強度・軽量」で用途が重なる
A5052もA5056も、鋼材ほどの強度はないものの軽量かつそこそこ高強度な材料です。
特に、「引張強さ250〜300MPa」のレンジで比較的近く、「そこそこの強度と加工性が必要な用途」でどちらを使うか迷うシーンが多いのです。
たとえば、以下のような部品で選定が分かれます。
- 建築金具
- 車両の内装部品
- アルミ筐体・フレーム
- プレート材の機械加工部品
理由②:どちらも「耐食性が高く、溶接にも強い」
5000系アルミの大きな特長は優れた耐食性と良好な溶接性です。
マグネシウムを主合金元素とすることで、酸化皮膜が安定しており、腐食環境(塩水、酸性雨、湿気)にも強いため、特に屋外使用や海洋構造物で重宝されています。
A5056の方がマグネシウム含有量が多く、理論上の耐食性はA5056の方が高いのですが、現場レベルでは「A5052でも十分」という場面が多く、コスト・加工性を天秤にかけて選ばれることが多いのです。
理由③:似ているが“微妙な違い”が多く、選定に迷う
両者は数字上の差こそ小さいですが、次のような点で違いが出ます。
比較項目 | A5052 | A5056 |
---|---|---|
引張強さ | △ | ○(やや高い) |
成形性 | ○ | △(少し硬め) |
耐食性 | ○ | ◎(海水でもより安心) |
コスト | 安価 | やや高価 |

このように、「どちらを選んでも良さそうだが、細かい条件で優劣が分かれる」
という構図があるため、現場ではよく比較されます。
用途ごとの選定ポイント
用途別に、A5052とA5056のどちらを選ぶべきかを簡単に整理しておきます。
加工性・汎用性が重視されるならA5052
- 曲げ加工や深絞りなど、加工工程が多い部品
- 軽量化が求められる内装材、電装部品ケース
- 大量生産品でコストも意識したい場合
👉 A5052の方が柔らかく、加工時のひび割れリスクが少ないです。
材料形状により選定する
✅ 板材にはA5052を選定
- 溶接性が良好:構造体や筐体など、溶接を伴う板金加工に適している。
- 曲げ加工に強い:板材のベンダー加工や折り曲げに向いている。
- 流通性が高い:A5052は最も汎用的なアルミ合金の一つで、板材として広く流通している。
✅ 丸棒材にはA5056を選定
- 切削性が高い:Mg含有量が多く、旋盤加工などで美しい仕上がりが得られる。
- アルマイト性が良好:表面処理後の外観が良く、装飾部品にも適している。
- 基本的には丸棒材の流通しかない:A5056は丸棒材としての流通がほとんど。
A5052とA5056の注意点
【注意点①】溶接には若干のクセがある
A5052とA5056はどちらも溶接性が良好ですが、A5056はマグネシウム量が多いため、溶接後の割れ(ホットクラック)に注意が必要です。
👉 溶接を行う場合は、溶接棒や溶接条件の最適化が不可欠です。
【注意点②】成形性に差が出る可能性あり
特に絞り加工やベンダー加工を行う場合、A5056の方が硬く、割れやすい傾向があります。
👉 複雑な加工が必要な場合は、試作段階で十分に曲げ試験を行うことを推奨します。
【推奨事項】迷ったらA5052を基本とし、必要に応じてA5056に切り替える
A5052は「安定した特性」「汎用性」「コストバランス」の三拍子が揃っており、まずA5052で検討し、強度や耐食性が不足する場合にA5056を検討するというのが現場での実践的なアプローチです。
A5052とA5056は、同じ5000系アルミ合金としてよく似た性質を持ちながらも、
微妙な特性差から比較されやすい素材です。
要点まとめ |
---|
A5052は加工性・コスト重視の汎用材 |
A5056は強度・耐食性が求められる用途に最適 |
どちらも軽量かつ高耐食性で、溶接性も良好 |
材料選定時は用途や加工方法をよく考慮することが重要 |

今後の設計業務において、これらの違いを理解したうえで的確な材料選定ができれば、性能・コスト・信頼性のバランスが取れた製品設計につながります。
ぜひ現場での判断の参考にしてください。
A5052とA5056と他アルミ合金との違い
アルミ合金は、その特性に応じて1000番〜8000番までの「系統(番代)」に分類されています。今回は機械設計でよく使われる5000番・2000番・6000番・7000番の4つに絞って、それぞれの特徴と違いをわかりやすく比較してみましょう。
5000番代(Al-Mg系):バランス型で最も汎用的!
5000番代の特徴
- 主成分:マグネシウム(Mg)
- 非熱処理型合金(冷間加工で強化)
- 優れた耐食性と中強度
- 溶接性も良好
- 海水や屋外使用に強い
代表材質
- A5052(加工性・耐食性に優れる)
- A5056(高強度・高耐食)
2000番代(Al-Cu系):高強度だが耐食性に難あり
2000番代の特徴
- 主成分:銅(Cu)
- 熱処理型合金(焼入れ・時効硬化で強化)
- アルミ合金の中でも最高クラスの強度
- ただし、耐食性が低く、溶接に不向き
代表材質
- A2024(高強度で航空機などに多用)
- A2017(ジュラルミン。機械部品、構造材で広く使われる。)
6000番代(Al-Mg-Si系):強度と加工性のバランス型
6000番代の特徴
- 主成分:マグネシウム(Mg)+ ケイ素(Si)
- 熱処理型合金
- 中強度+良好な押出性と加工性
- 溶接性や耐食性もそこそこ良い
代表材質
- A6061(機械加工・構造材向け)
- A6063(建材やフレーム向け)
7000番代(Al-Zn系):最高強度クラスのアルミ合金
7000番代の特徴
- 主成分:亜鉛(Zn)
- 熱処理型合金
- アルミ合金中最も高強度
- ただし、耐食性や溶接性はやや劣る
代表材質
- A7075(高強度、航空宇宙・スポーツ用途に多い)
番代ごとの比較まとめ表
番代 | 主成分 | 強度 | 耐食性 | 備考 |
---|---|---|---|---|
5000番 | Mg | 中程度 | ◎ | 加工・耐食バランス型 |
2000番 | Cu | ◎ | △ | 航空機向け、強度特化型 |
6000番 | Mg+Si | ○ | ○ | 建材や汎用フレームに最適 |
7000番 | Zn | ◎(最高) | △ | 軽くて強いが溶接は注意 |
■ まとめ:設計用途に合わせて使い分けよう!
- コスパと汎用性重視 → 5000番代(特にA5052)
- 強度が最優先 → 2000番代や7000番代
- 加工しやすさ・押出材重視 → 6000番代
アルミ合金は見た目が似ていても、番代ごとに性質は大きく異なります。適材適所で正しく選ぶことで、性能を引き出し、コストや品質のトラブルも回避できます。ぜひ材料選定の参考にしてください。
A7075との比較
- A7075は超高強度アルミ合金で、航空宇宙など、強度が最優先される用途に使用されます。
- 耐食性ではA5052やA5056の方が優れ、特に湿潤環境では腐食のリスクが低いです。
A6061との比較
- A6061は汎用性が高く、耐食性、強度、加工性のバランスに優れています。
- コストに関してはA5052やA5056よりも価格が高い傾向があります。
- 軽量構造物や、荷重がかかる用途ではA6061が選ばれることがあります。
A1050との比較
✅A1050は純アルミで、加工性と導電性が高い一方、切削性と強度は非常に低いです。
✅耐食性の面ではA5052やA5056の方が大幅に優れており、機械部品にはあまり適しません。
A5052、A5056とSS400の比較
機械設計において、材料の選定は性能、コスト、加工性の観点から最適なものを選ぶことが求められます。本項では、アルミ合金であるA5052とA5056、そして炭素鋼であるSS400を比較し、それぞれの特徴や用途に適した選定ポイントを解説します。
基本特性の比較
特性 | A5052 | A5056 | SS400 |
---|---|---|---|
密度 | 約2.7 g/cm³ | 約2.7 g/cm³ | 約7.85 g/cm³ |
引張強度 | 約225 MPa | 約290 MPa | 約400-510 MPa |
耐食性 | 優れている | 非常に優れている | 弱い(錆びやすい) |
加工性 | 高い | 高い | 中程度 |
溶接性 | 優れている | 優れている | 優れている |
コスト | やや高い | 高い | 低い |
A5052、A5056、SS400の特徴
🔍A5052の特徴
- 軽量で耐食性に優れるため、湿潤環境や海洋環境での使用に適しています。
- 加工性が高く、複雑な形状の部品にも対応可能です。
- 耐摩耗性は低いため、摩耗が激しい用途には適しません。
🔍A5056の特徴
- A5052よりも引張強度が高く、耐食性もさらに優れるため、過酷な環境下でも長期間使用可能です。
- コストがA5052より高いですが、高強度が必要な設計で選ばれることがあります。
🔍SS400の特徴
- 炭素鋼として広く使われる汎用材料であり、高い引張強度を持ちます。
- 耐食性が弱く、錆びやすいですが、コストが低いため大量生産品に適しています。
- 溶接性は良好で、後加工が容易な点がメリットです。
使用例
📌A5052、A5056の用途
- 海洋機器部品(例:船舶の構造材、タンク)
- 耐食性が重要な環境で使用。
- 建築部材(例:外装材、装飾パネル)
- 軽量で腐食リスクが低い。
- 輸送機器(例:自動車や航空機の部品)
- 軽量化が求められる分野に適しています。
📌SS400の用途
- 機械構造部材(例:フレーム、シャーシ)
- 強度が重要で錆止め加工が可能な場合。
- 建築鉄骨(例:梁や柱)
- コスト重視で使用されます。
- 工業用治具や工具
- 耐摩耗性や耐衝撃性が必要な場面。
A5052、A5056とSS400の選定ポイント
✅軽量化が求められる場合
- アルミ合金の密度(約2.7 g/cm³)はSS400の約1/3であるため、軽量化設計ではA5052、A5056が選ばれます。
✅耐食性を重視する場合
- A5052またはA5056が適しています。湿潤環境や海洋用途では錆びにくいアルミ合金が優位です。
強度が最優先の場合
- SS400が優れています。ただし、錆びを防ぐためには防錆処理が必要です。
コストを抑えたい場合
- SS400が適しています。
- アルミ合金は一般的に高価なため、大量生産や低コスト製品にはSS400が選ばれることが多いです。
- 目安としてA5052はSS400の1.5倍程度の価格になります。
A5052、A5056とSS400は、それぞれ異なる特徴を持ち、用途に応じた選定が必要です。
・軽量化や耐食性を重視する場合はA5052やA5056が適します。
・強度やコスト重視の場合はSS400が最適です。

材料選定においては、性能だけでなく、コストや加工性も考慮して最適な材料を選ぶことが重要です。
まとめ
A5052とA5056は、それぞれの特性を理解し、用途に応じて適切に選定することが重要です。耐食性や加工性を重視した設計ではA5052が、さらに強度や過酷な環境への耐性が求められる場合にはA5056が適しています。他のアルミ合金との違いを把握することで、最適な材料選定が可能となり、設計の効率化とコスト削減に繋がります。
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