「なんだか機械がブルブル震えてる…」「モーターの音が大きくなった…」
そんな症状が現れたとき、原因の一つとして考えられるのが“バランス不良”です。
この記事では、機械設計の中でもとても重要なテーマである「回転体のバランス」について、初心者にもわかりやすく解説します。
そもそも「バランスが悪い」とは?
回転する部品(ファン、ローラー、歯車、プーリーなど)には、重さの偏り(不釣り合い)があると、回転軸から外側に遠心力が発生します。
その遠心力が周期的に回転軸に加わることで、機械がブルブルと振動し始めます。
例)洗濯機の脱水中に片寄ったときのガタガタ
洗濯物が一方に偏ると、洗濯槽が激しく揺れますよね?
あれが回転体のバランスが崩れた状態です。
バランスが悪いとどうなる?

― 回転体の不釣り合いが引き起こすトラブル ―
「機械がブルブル震えているけど、大丈夫かな…?」
そんなとき、見逃してはいけないのが回転体のバランス不良です。
機械の中で回転する部品(モーター、ファン、ローラーなど)がうまくバランスを取れていないと、目に見える振動だけでなく、さまざまなトラブルの原因になります。
激しい振動が起きる
バランスの悪い回転体は、遠心力が一定方向に偏ってしまい、機械本体をガタガタ揺らすようになります。
たとえば…
- 洗濯機が偏ったときの激しい揺れ
- モーターの「ブーン」という異音
- 機械が置かれている台からズレていく
このように、目に見えるほどの揺れが出てしまうのです。
ベアリングやシャフトに負担がかかる
バランスが取れていない回転体は、回転の中心からズレた力が発生します。
この力が、軸を支えるベアリング(軸受)やシャフトに繰り返し加わることで、以下のような影響が出ます。
- 摩耗が早まる
- 異常な発熱
- 寿命が極端に短くなる
本来「滑らかに回る」ことを前提としたベアリングに、振動による偏った力が加わることで、破損が早まってしまうのです。
締結部の緩み・部品の破断
機械が振動すると、ネジやボルトなどの締結部も少しずつ緩んでいきます。
特に高速回転や長時間運転をしている装置では、
- ボルトが抜ける
- ネジが飛ぶ
- 部品が割れる・折れる
などの致命的な故障につながることもあります。
振動によるゆるみは、「人が締めたときは大丈夫」でも、時間の経過とともに悪化していくので厄介です。
精度が出ない・品質が悪くなる
工作機械や測定装置など、精密さが求められる装置にとって、振動は大敵です。
- 工具の位置がブレる
- 測定値に誤差が出る
- 仕上げ面が荒くなる
これでは、どれだけ高性能な部品を使っても、製品の品質が安定しません。
振動を減らすこと=安定した加工・測定の第一歩でもあります。
バランス不良を甘く見ないこと
バランスが崩れたままの回転体は、
機械に継続的なダメージを与え続けます。
その結果…
振動が発生
➤ 軸受が摩耗
➤ ネジが緩む
➤ 精度が狂う
➤ 最終的には故障や事故に…
というように、連鎖的なトラブルに発展します。

だからこそ、設計段階でも、保守・点検段階でも、
「回転体のバランスが取れているか?」をチェックすることがとても大切なのです。
なぜ回転体はバランスが崩れるの?

―― 小さなズレが大きな振動につながる理由 ――
機械の中で高速回転する部品(ローター、ファン、プーリーなど)は、「バランス」がとても大切です。
しかし実際の現場では、わずかなズレや偏りが原因で、部品がブルブル振動したり、大きなトラブルにつながることもあります。
今回は、「なぜ回転体のバランスが崩れるのか?」を、設計・製造・使用の各段階からわかりやすく解説します。
原因①:設計ミスによるバランス不良
回転する部品は、本来「左右対称」や「同心円状」に設計されているべきです。
しかし、設計段階で次のようなことがあるとバランスが悪くなります:
- 形状が非対称 → 一方にだけ重い部分がある
- 重心がズレている → 軸の中心と質量の中心が一致していない
このような設計ミスは、回転中に遠心力の偏りを生み、振動や騒音、機械の劣化の原因となります。
原因②:製造時の公差ズレ
図面上は完璧でも、実際に加工すると微小な誤差が出ます。
- 削り残しや穴位置のズレ
- 材料の密度ムラ
たとえば、1gのバランスのズレでも、回転数が上がるとそれが数十kgの力として振動になることもあります。
特に高速回転する装置では、ほんの小さな重さの偏りが問題になります。
原因③:組立不良や芯ズレ
組み立て工程でもバランス不良は起こります。
- 軸に対して部品が真っ直ぐ取り付けられていない(芯ズレ)
- ボルトの締め付けムラで傾いている
こうしたズレがあると、回転中にブレが生じてしまいます。
「ちゃんと取り付けたつもり」でも、高速で回すと大きな振動になることも。
原因④:使用中の汚れや摩耗
いくら設計と製造が良くても、使っているうちにバランスは崩れていきます。
- 油汚れや切粉などの付着物
- ベアリングや軸の摩耗による傾きや偏り
特に工場環境では、粉塵や油が回転体に付着し、重さの偏りを生むことがよくあります。
また、長期間の使用で発生する摩耗や変形も、バランスを悪化させる原因になります。
高速回転ほど影響が大きい!
回転数が高くなるほど、小さなバランスのズレが大きな問題に発展します。
- 1000 rpmでは振動が軽微でも、3000 rpmでは破損レベルに
- 回転数が倍になると、遠心力は4倍になる
そのため、高速で回る部品(モーターのローターやタービンなど)は、バランス測定や修正(バランシング)が必須となります。
バランス管理は設計~運用すべてが重要
回転体のバランス不良は、設計・製造・組立・運用のすべての段階で起こり得る問題です。
特に高速回転する装置では、小さなズレが大きなトラブルを引き起こすため、
以下のような対策が重要です。
✅ 設計段階での左右対称・重心の考慮
✅ 加工精度とバランスチェック
✅ 正確な組立と芯出し
✅ 使用中の定期点検と清掃

バランスがとれている機械は、静かで、滑らかに、そして長持ちする――
これこそが、機械設計でバランスを重視する理由なのです。
バランス調整(バランシング)ってなに?
バランスを取るためには、「バランシング」という作業が必要です。
これは、回転体の質量分布を調整して、重心を回転軸の中心に一致させること。
方法には以下があります。
- 穴を開けて軽くする(アンバランス部を削る)
- おもりを取り付ける(逆側に重さを足す)
- 動バランス機で調整(実際に回転させてバランス測定)
設計でバランスを考慮するポイント
項目 | 対応策 |
---|---|
対称な形にする | 左右対称・円形に近い形で設計する |
重心を中心に | 重い部品を軸の近くに配置する |
加工精度を確保 | 同心度や寸法公差をしっかり管理 |
高速回転は要注意 | 使用回転数に応じてバランス精度を高める |
まとめ:バランス=機械の健康を守るカギ
機械が壊れる原因の多くは、「振動」です。
そして、その振動を引き起こす最大の原因のひとつが「回転体のバランス不良」。
目に見えない「重さの偏り」が、
やがて振動 → 異音 → 摩耗 → 故障という悪循環を生み出します。
だからこそ、設計者・製造者・保守担当者すべてにとって、
バランスを意識すること=機械の寿命と性能を守る第一歩なのです。
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