ベアリングは、回転軸をなめらかに支持する機械要素です。
設計では「ベアリングを軸やハウジングにどう取り付けるか」が非常に重要になります。
このときの 軸と内輪・ハウジングと外輪の寸法関係 を「はめあい」と呼びます。
はめあい設計を間違えると…
✔ 軸が空転して摩耗する
✔ ベアリングががたついて寿命が短くなる
✔ 組立ができないほど固くなる
といったトラブルの原因になります。
はめあいの基本パターン
ベアリングのはめあいには、大きく分けて以下の3つの状態があります。

- すきまばめ(ゆるめ):手で差し込める程度のクリアランスあり
- しまりばめ(きつめ):圧入が必要でガタつかない
- 中間ばめ:その中間、すきまもほとんどなく軽く圧入
ベアリングでは、どちらの輪(内輪 or 外輪)が回転するかによって、
はめあいを使い分けるのが基本ルールです。
ベアリングはめあいの設計ルール
内輪のはめあい
ベアリングの内輪は「軸」と接する部分です。
ここで重要なのは どちらが回転するか です。
軸が回転する場合
- 内輪は軸に対して しまりばめ
- 理由:回転しているのは軸なので、内輪が空転しないように強く固定する必要がある

もし「すきまばめ」にすると、回転トルクで内輪が滑ってしまい、
摩耗や焼き付きの原因になります。
内輪が静止している場合
- 内輪は すきまばめでもOK
- 理由:回転するのは外輪側なので、内輪を強く固定する必要がない
- メリット:組付けや取り外しが簡単になる
外輪のはめあい
ベアリングの外輪は「ハウジング(本体側)」と接する部分です。
ここでもポイントは 外輪が回転するかどうか です。
外輪が静止する場合
- 外輪はハウジングに対して すきまばめ
- 理由:外輪は動かないので強固に固定する必要がない
- メリット:組付けやメンテナンスが容易になり、調整もしやすい
👉 ほとんどの機械ではこのパターンになります。
外輪が回転する場合(少数ケース)
- 外輪はハウジングに対して しまりばめ
- 理由:外輪が動くとすべって摩耗するため、空転を防ぐ必要がある
👉 例外的な使い方なので、設計時には注意が必要です。
はめあいは「どちらが回転するか」で決めるのが基本ルール
- 内輪
- 軸が回転する → しまりばめ
- 内輪が静止する → すきまばめ
- 外輪
- 外輪が静止する → すきまばめ(一般的)
- 外輪が回転する → しまりばめ(少数)
覚え方はシンプルに
「回転する方はしまりばめ、回転しない方はすきまばめ」

この基本を押さえておけば、ベアリングはめあい設計の大きな失敗は防げます。
不釣り合い荷重がある場合
不釣り合い荷重とは、回転体が完全にバランスしていないために、遠心力によって荷重が回転方向にぐるぐる回ってしまう状態です。
例えば、回転体の一部に重みが偏っていると、その重さによる遠心力は「回転とともに方向が変わる」ので、固定されている側にとっては荷重点が回ることになります。
👉 結果として…
- 普段「静止荷重」だった側が、荷重点が回るので「回転荷重」になる
- 逆に、普段「回転荷重」だった側が「静止荷重」になる
つまり、回転荷重と静止荷重が逆転するのです。
内輪回転に不釣り合い荷重がかかる場合
通常の「内輪回転」の場合
- 軸と一緒に内輪が回転する
- 玉やころが接触する位置は内輪に対して回転荷重(接触位置が常に変わる)になる
- 内輪を 軸にしまりばめ しておかないと、内輪が空転して摩耗(フレッチング摩耗)してしまう
一方で外輪はハウジングに固定されているので、荷重が外輪の一部に集中して「静荷重」になりやすい
▶ 外輪は すきまばめ でも大きな問題がない
「内輪回転+不釣り合い荷重」
ここでポイントは 不釣り合い荷重が外輪を回転方向に揺さぶるように作用する ことです。
- 内輪は回転しているが、不釣り合い荷重が外輪に周期的に回転荷重を与える
- 結果的に 外輪側でも荷重が回転して作用する = 外輪も「回転荷重」と同じ状況になる
- この場合、外輪をすきまばめにするとハウジング内で微小な動き(フレッチング)が発生する
- 外輪は しまりばめ にする必要がある
逆に内輪は、この不釣り合いの影響で実質的に「静荷重状態」になり、必ずしもしまりばめが必須ではなくなることがあります。
そのため「内輪すきまばめ、外輪しまりばめ」という逆のはめあいが推奨される場合があるのです。
まとめると理屈はこうです
- 荷重が回転する側(回転荷重がかかる側)はしまりばめにする
- 荷重が常に同じ位置(静荷重がかかる側)はすきまばめ可
- 不釣り合い荷重により、本来静荷重になる側(外輪)が「回転荷重」を受けるようになった場合
- ⇒外輪もしまりばめが必要
要するに「内輪 or 外輪、どちらに回転荷重がかかるか?」が選定の本質です。
「回転している部品」ではなく「荷重が回転して分布する部品」をしまりばめにする、と理解するとスッキリします。
外輪回転に不釣り合い荷重がかかる場合
通常の「外輪回転」の場合
- ベアリングの外輪がハウジング内で回転している
- 転動体との接触位置が外輪に対して回転荷重になる
- → 外輪を ハウジングにしまりばめ しておかないと、外輪が空転してフレッチング摩耗が発生する
一方、内輪は静止していて荷重の作用位置も変わらない=静荷重
▶ 内輪はすきまばめ可
外輪回転+不釣り合い荷重の場合
ここで「不釣り合い荷重」が効いてきます。
- 外輪は回転しているが、不釣り合い荷重によって内輪に回転荷重が作用するようになる
- → 内輪が「静荷重」ではなくなり、玉やころが接触する位置が常に変わる
- もし内輪をすきまばめにしておくと、軸との間に微小な滑り(フレッチング)が発生する
- このため、内輪はしまりばめが必要になる
逆に外輪は「外輪回転+不釣り合い荷重」で一見複雑に見えますが、結果として荷重が外輪の同一位置に対して作用する=静荷重状態になる場合があります。
そのため外輪はすきまばめでもよい、という整理になります。
理屈の整理
- 基本原則:「回転荷重を受ける側 → しまりばめ」
- 静荷重を受ける側 → すきまばめ可」
- 不釣り合い荷重があると、本来静荷重側にいた部品が「回転荷重」を受けることがある
- その場合は通常の原則が「逆転」する
✅ 今回のケースでは…
- 外輪は回転しているが、不釣り合い荷重によって結果的に 静荷重状態 になる
- 内輪は不釣り合い荷重によって 回転荷重状態 になる
👉 よって「内輪=しまりばめ」「外輪=すきまばめ」とする
つまり、はめあいを選ぶときは「内輪が回るか外輪が回るか」ではなく、
どちらに回転荷重が作用するか? を見るのが本質です。
具体例でイメージ
(バランス荷重の場合)
- プーリーのベルト張力(一定方向)
→ 外輪:同じ場所に荷重がかかる → 静止荷重
→ 内輪:荷重点がぐるぐる移動 → 回転荷重
(不釣り合い荷重の場合)
- 偏った重さによる遠心力(回転方向にぐるぐる移動)
→ 外輪:荷重点がぐるぐる移動する → 回転荷重
→ 内輪:固定軸から見れば荷重方向が一定に見える → 静止荷重
回転側 | 荷重条件 | 内輪の状態 | 外輪の状態 | はめあいの選定 |
---|---|---|---|---|
内輪が回転 | バランス荷重 | 回転荷重 | 静止荷重 | 内輪:しまりばめ 外輪:すきまばめ |
外輪が回転 | バランス荷重 | 静止荷重 | 回転荷重 | 内輪:すきまばめ 外輪:しまりばめ |
内輪が回転 | 不釣り合い荷重 | 静止荷重 | 回転荷重 | 内輪:すきまばめ 外輪:しまりばめ |
外輪が回転 | 不釣り合い荷重 | 回転荷重 | 静止荷重 | 内輪:しまりばめ 外輪:すきまばめ |
✅ ポイントまとめ
- 基本ルール:「回転荷重がかかる側=しまりばめ」
- 不釣り合い荷重:荷重方向が一定になるため、通常と逆のはめあいになる

「不釣り合い荷重があると回転荷重と静止荷重が逆になる理由」
荷重点がどちらの軌道輪に対して回転して見えるかが変わるから
- 通常荷重(一定方向の力) → 内輪が回転荷重、外輪が静止荷重
- 不釣り合い荷重(遠心力で荷重点が回転する) → 外輪が回転荷重、内輪が静止荷重
💡 設計のコツ
はめあいを決めるときは、「荷重点がどちらに対して動くか(回転するか)」 を考えると迷いません。
機械要素におけるはめあい選定の考え方と具体例
回転軸を支持する一般的な用途
- 基本ルールは 回転する側をしまりばめ、静止する側をすきまばめ。
- 典型例(モーターの出力軸)
- 内輪:軸と一緒に回る → しまりばめ
- 外輪:ハウジングに固定されて静止 → すきまばめ
はめあいを誤るとベアリングの空転(焼き付き)や組立不良の原因になる。
ベルトのテンショナー軸
- テンショナー軸は多くの場合「回転せず、ベアリング外輪が回る」構造です。
- つまり、軸は固定されて静止し、ベアリング外輪に取り付けられたプーリーが回転します。
👉 はめあい例
- 内輪:固定軸に対して すきまばめ(軸に抜き差し可能にする)
- 外輪:プーリーに対して しまりばめ(外輪ごと確実に回すため)
テンショナーは整備交換が多いため、組付け性を考慮して「内輪すきまばめ」が多い。
固定軸にアイドラースプロケットを取り付ける場合
- 従動側は「スプロケットは回転するが、軸は固定されて動かない」ケースです。
- つまり スプロケットと一緒に回るベアリング外輪をしっかり固定 する必要があります。
👉 はめあい例
- 内輪:固定軸に対して すきまばめ(軸は静止)
- 外輪:スプロケットに対して しまりばめ(外輪ごと回すため)
駆動側と従動側では「どちらが回るか」を見極めることが大事。
まとめ(はめあい選定の考え方)
テンショナーや従動軸のように外輪が回る場合 → 外輪をしまりばめ、内輪はすきまばめ
歯車やプーリーのようにトルクを伝える軸の支持 → 軸とのはめあいは基本「しまりばめ」
【例外】「すきまばめ同士」と「しまりばめ同士」
ベアリングの設計において、「はめあい」の選定は性能や寿命に直結する重要な要素です。
特に、内輪・外輪ともに「すきまばめ」にするか、「しまりばめ」にするかは、用途や使用条件によって大きく変わります。
内輪・外輪ともに すきまばめ にする場合
例:簡易的な治具や軽荷重・低速回転の用途
✅ メリット
- 組付け・分解が容易
- 軸・ハウジングの加工精度要求が低く、コストが安い
⚠️ 注意点
- 内輪や外輪が「クリープ(空転)」する可能性が高い
→ 荷重が繰り返し作用すると摩耗・発熱・ガタが発生 - 精度保持が難しく、振動や騒音の原因になる
- 高速回転や重荷重には不適

実務では「低負荷、低回転装置」「短期間使用の装置」に限定されることが多いです。
内輪・外輪ともに しまりばめ にする場合
例:分解不要な恒久的な組立、高速回転や強い衝撃がある用途
✅ メリット
- 内外輪ともが強固に固定され、クリープの心配がない
- 高速回転や強い衝撃荷重に対して安定
⚠️ 注意点
- 組立・分解が非常に困難になる
→ 通常は加熱(内輪拡大)や冷却(外輪収縮)を併用する - メンテナンス性が悪く、ベアリング交換が難しい
- 応力が高くなりすぎるとベアリング寿命が低下する可能性
👉 実務では「モーターのローター圧入」「重機のピン部」など、ほぼ交換を想定しない部位に使われます。
まとめ
通常は 内輪=しまりばめ/外輪=すきまばめ のように使い分けるのが基本ですが、
両方を同じ「すきまばめ」または「しまりばめ」にするケースも存在します。
- 両方すきまばめ → ガタ・摩耗・寿命低下に注意(短期・軽荷重用に限定)。
- 両方しまりばめ → 交換困難・応力集中に注意(恒久的固定でメンテ不要な部位向き)。
はめあいの選定方法
実際の設計では、JISやISOのはめあい表を参考にして寸法公差を選びます。
代表的な例を挙げると、
- 軸側(内輪のはめあい):h6, g6, k6, m6 など
- ハウジング側(外輪のはめあい):H7, J7, N7 など
👉 例えば、回転軸を支持する一般的な用途では
- 内輪:軸に対して k6 または m6
- 外輪:ハウジングに対して H7
とするケースが多いです。
はめあいの選定時の注意点
ベアリングのはめあいを決めるときは、「荷重のかかり方」や「ベアリングのサイズ」などの使用条件をしっかり考えることが大切です。
たとえば、荷重が大きい場合やベアリングが大径である場合は、しっかり固定できる“しまりばめ”が必要になることがあります。
逆に、荷重が小さく、取付けや交換のしやすさを優先する場合は、“すきまばめ”が適していることもあります。
また、会社によっては社内規定や標準公差表が決まっている場合もあるため、設計前に必ず確認するようにしましょう。
独自の基準がある場合、それに従わないと後工程で不具合や手戻りが発生することもあります。
はめあいは、単なる寸法合わせではなく、ベアリングの性能や寿命に直結する重要な設計要素です。
使用条件・社内ルール・加工性などを総合的に判断して、最適なはめあいを選定するようにしましょう。
設計の注意点とコツ
✅ 熱膨張を考慮する
運転中に軸とハウジングの温度差が大きい場合、はめあいが変化してしまいます。
例:モーターのロータ側(軸が高温になる)では、ゆるみやすいため少しきつめに設計する。
✅ 組立性とメンテナンス性を考える
しまりばめを両側に設定すると、取り外しが非常に困難になります。
片側はすきまばめにして、分解・交換しやすくするのが一般的です。
✅ 疲労とガタつきのバランス
- ゆるすぎる → 軸とベアリングが相対運動して摩耗(フレッティング摩耗)
- きつすぎる → ベアリング内部に過大な予圧がかかり、寿命低下
適正なはめあいは「ゆるすぎず・きつすぎず」が重要。
まとめ
ベアリングのはめあい設計は、
「荷重が回転するのか?」「固定されるのか?」「内輪側か?外輪側か?」を見極めることが最重要です。
原則として、回転荷重を受ける側をしまりばめ、静荷重を受ける側をすきまばめにすればトラブルを避けられます。
特に不釣り合い荷重がある場合は、荷重がどちらのリングに対して「回転」して見えるのかを丁寧に判断することが大切です。
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