機械設計の現場では、「モーターの回転を他の機構に伝える」場面が数多くあります。
そのとき、ただ“軸と軸を直接つなげばいい”と思っていませんか?
実は、それだけではうまく回らないことが多いのです。
その理由を解決してくれる部品が「カップリング(軸継手)」です。
この記事では、
「なぜカップリングが必要なのか」
「どんな役割があるのか」
「どんな種類があるのか」
などを初心者向けにわかりやすく解説していきます。
カップリングとは?
カップリング(coupling)とは、
2本の軸(シャフト)を接続し、
回転力(トルク)を伝えるための部品です。
一般的には、次のような場面で使われます。
「ただの軸のジョイントじゃないの?」と思うかもしれませんが、
カップリングは単なる連結部品ではなく、
機械の安定稼働に欠かせない役割を持っています。
なぜカップリングが必要なの?
~芯ズレ、振動、メンテナンス…“軸をつなぐ”だけじゃない重要な役割~

モーターと装置の軸をつなぐ場面では、
どうやって力(トルク)を伝えるかが重要になります。
このとき「軸同士を直結すればいい」と思っていませんか?
実は、そう単純な話ではありません。
軸をうまくつなげないと、機械の寿命が縮んだり、
振動や騒音が出たり、最悪の場合は故障してしまうこともあります。
そのようなトラブルを防ぎ、
機械をスムーズに動かすために使われるのが
「カップリング(軸継手)」です。
本項では、初心者の方でも理解しやすいように、
カップリングが必要な理由を3つに分けて解説します。
理由①:芯ズレ(ミスアライメント)を吸収するため
モーターと装置の軸が完全にまっすぐ同じ線上にある(同心)なら、
確かにカップリングなしでも接続は可能です。
しかし、実際の現場では次のような理由で
軸同士がぴったり合うことはほとんどありません。
こうした「芯ズレ(ミスアライメント)」がある状態で、
無理やり軸同士をつなぐと…
軸受(ベアリング)やシャフトに余計な力がかかる
モーターに負担がかかり、発熱や故障の原因になる
回転がガタガタして、騒音や振動が発生する
全体の精度が落ちて、製品の品質に悪影響が出る
このような問題を防ぐために、
芯ズレを許容してスムーズに回転力を伝えるための
部品がカップリングなのです。

カップリングは、たとえわずかなズレがあっても、
柔軟に対応しながら回転をしっかり伝えてくれます。
つまり、ミスアライメント吸収機能が
機械の信頼性を大きく高めているのです。
理由②:振動や衝撃を吸収するため
モーターや回転機械は、
運転中に次のような影響を受けることがあります。
こうした振動や衝撃が軸や周辺装置にそのまま伝わると、
ベアリングやギヤが早く摩耗する
サーボ制御の安定性が損なわれる
騒音の原因になる
機械全体の寿命が短くなる
ここでもカップリングが活躍します。
一部のカップリング(フレキシブルカップリングなど)は、
中にゴムや樹脂などの弾性体を挟んだ構造になっており、
振動や衝撃をやわらげる働きをしてくれます。
これにより、
モーターがスムーズに始動・停止できる
振動が他の装置に伝わりにくくなる
機械全体の動きが安定する
などのメリットが得られます。

つまり、カップリングは「ただ回すための部品」ではなく、
「機械を守るためのクッション」としても
重要な役割を担っているのです。
理由③:取付け・メンテナンスがしやすくなる
カップリングは構造的に軸の脱着がしやすい形状になっているものが多く、
以下のような作業に便利です。
たとえば、
一般的なカップリングは次のような取り付け方式があります。
これにより、工具1本で軸の脱着ができる場合も多く、
点検や保守が格段にしやすくなります。
また、トラブル発生時にもカップリングを
外せばモーターと装置を分離できるので、
原因の切り分けがしやすいという点もメリットです。
カップリングは“つなぐ以上”の働きをする
カップリングは、ただ「モーターの軸と装置の軸をつなぐ」だけではありません。
機械の信頼性や性能に大きく関わる、非常に重要な部品です。
カップリングが必要な理由まとめ
設計者がこの役割を理解しておくことで、
機械全体の品質や信頼性をぐっと高めることができます。

初心者の方も、ぜひ一度カップリングのカタログを手に取って、
どんな種類や特長があるのかを見てみてください。
その中に、よりよい設計のヒントがきっとあるはずです。
カップリングの主な種類と特徴
設計現場では、目的に応じてさまざまなカップリングが使い分けられています。
ここでは代表的なタイプを紹介します。
| 種類 | ミスアライメント 対応 | トルク伝達 | 衝撃吸収 | 位置決め精度 |
|---|---|---|---|---|
| リジットカップリング | 低い | 高い | 低い | 高い |
| オルダムカップリング | 高い | 中程度 | 高い | 低い |
| ディスクカップリング | 中程度 | 中程度 | 低い | 高い |
| ジョーカップリング | 高い | 中程度 | 高い | 低い |
| チェーンカップリング | 中程度 | 高い | 高い | 低い |
| スリットカップリング | 中程度 | 中程度 | 低い | 高い |
| ユニバーサルジョイント | 高い | 低い | 低い | 低い |
設計時の注意点

ミスアライメントの種類と量を把握する
芯ズレには、以下の3つのタイプがあります。
- 軸心のズレ
- 角度のズレ
- 軸方向のずれ
設計する装置で「どのズレが起こるか」を見極めて、
対応可能なカップリングを選ぶことが大切です。
振動や衝撃があるかを確認する
サーボモーターや衝撃のある負荷を扱う場合は、
弾性体付きのカップリングを検討
静音性や応答性も重要な設計要素です
トルク容量を超えないこと
使用するカップリングが、
必要なトルクを十分に伝達できることを確認してください
過剰な負荷がかかると、破損や誤動作の原因になります
まとめ:カップリングは“つなぐ”以上の価値がある
カップリングは、単に軸をつなげるための部品ではありません。
芯ズレを吸収し、振動を緩和し、
機械全体を守るという大きな役割を担っています。
【カップリングが必要な理由まとめ】
▶ 芯ズレを吸収し、軸やモーターを保護
▶ 振動や衝撃を吸収し、機械寿命を延ばす
▶ 脱着が簡単で、メンテナンス性も高い
小さな部品ですが、
機械全体の性能と信頼性を左右する重要な存在です。
機械設計初心者の方も、軸まわりの設計をする際には、
ぜひ「どんなカップリングを使うべきか?」
という視点を持ってみてください。




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