機械設計において、電動機器の位置検出にはエンコーダが重要な役割を果たします。特に、エンコーダには大きく分けて インクリメンタル(増分式) と アブソリュート(絶対値式) の2種類があり、それぞれ特性や用途が異なります。本記事では、この インクリメンタルエンコーダとアブソリュートエンコーダの違い や、それぞれのメリット・デメリット、適用例、選定ポイント について詳しく解説します。
インクリメンタルとアブソリュートの基本的な違い
項目 | インクリメンタルエンコーダ | アブソリュートエンコーダ |
---|---|---|
方式 | 相対的な位置変化を検出 | 絶対的な位置を検出 |
電源OFF時の位置情報 | 電源OFFでゼロにリセット | 電源OFFでも位置情報を保持 |
原点復帰 | 必要(電源ON時に初期化) | 不要(常に絶対位置を保持) |
構造 | 比較的シンプルで安価 | 構造が複雑で高価 |
適用例 | 速度制御、回転方向検出 | 位置決めが必要な精密機械 |
インクリメンタルエンコーダは、単純な速度検出や回転方向の検出に向いており、コストが低く取り扱いやすいです。一方、アブソリュートエンコーダは、電源が切れても位置情報を保持 できるため、精密な位置決めが求められるシステムに適しています。

インクリメンタルエンコーダとは?
インクリメンタルエンコーダの動作原理
インクリメンタルエンコーダは、回転や移動距離を相対的に測定するエンコーダです。
エンコーダのディスクには等間隔にスリットが刻まれており、それをセンサで読み取ることで、回転量や移動距離をカウント します。
メリット・デメリット
✅ メリット
- 構造がシンプルで低コスト
- 高速回転でも対応可能
- 回転方向の検出が容易
❌ デメリット
- 電源を切ると位置情報がリセットされる
- 再起動時に原点復帰が必要
- 外乱(ノイズ)によるカウントミスの可能性
インクリメンタルエンコーダの適用例
- モーターの速度制御
- ロボットアームの回転制御
- ベルトコンベアの搬送速度計測
- CNC工作機械の回転速度検出
アブソリュートエンコーダとは?
アブソリュートエンコーダの動作原理
アブソリュートエンコーダは、エンコーダ内部に各角度ごとの固有コード(絶対値) を持っており、電源が切れても位置情報を保持 できます。これにより、電源再投入後でも原点復帰を行わずに、現在の位置を正確に把握することが可能です。
メリット・デメリット
✅ メリット
- 電源OFF後も位置情報を保持(バックアップ不要)
- 原点復帰の手間が不要
- 高精度な位置決めが可能
❌ デメリット
- インクリメンタルエンコーダより高価
- 構造が複雑で大きくなりやすい
- 応答速度がインクリメンタルより遅い場合がある
アブソリュートエンコーダの適用例
- CNC工作機械の位置決め
- 産業用ロボットのアーム位置制御
- 高精度搬送装置
- 医療機器(手術支援ロボットなど)
インクリメンタルとアブソリュートの選定ポイント
どちらを選ぶべきか?
用途 | 推奨エンコーダ |
---|---|
速度・回転方向の検出 | インクリメンタル |
電源ON/OFF時の位置保持が不要 | インクリメンタル |
高精度な位置決めが必要 | アブソリュート |
電源断後も位置情報を保持したい | アブソリュート |
高コストが許容できる | アブソリュート |
コスト vs 精度のバランス
- コスト優先 → インクリメンタル
- 精度優先 → アブソリュート
もしシステムの精度要求が厳しく、原点復帰の手間を省きたい場合は アブソリュート を選びます。一方で、単純な速度制御や回転方向検出で十分な場合は インクリメンタル の方がコストメリットが大きくなります。
バッテリーレスアブソリュートとは? 特性と選定ポイントを詳しく解説!
機械設計において、位置決め や モーター制御 に不可欠なエンコーダ。その中でも、電源を切っても位置情報を保持できるアブソリュートエンコーダ は、多くの産業機械やロボットに採用されています。しかし、従来のアブソリュートエンコーダには バッテリーが必要 という課題がありました。
そこで登場したのが バッテリーレスアブソリュートエンコーダ です。本項では、このバッテリーレスアブソリュートの特性、仕組み、メリット・デメリット、選定ポイント について詳しく解説します。
バッテリーレスアブソリュートエンコーダとは?
バッテリーレスアブソリュートエンコーダ とは、従来のアブソリュートエンコーダのようにバッテリーを使わずに絶対位置を記憶できるエンコーダ のことです。
通常のアブソリュートエンコーダでは、電源を切っても位置情報を保持するために バッテリーを搭載 しており、定期的な交換やメンテナンスが必要でした。一方、バッテリーレスアブソリュートは、磁気式や機械式 などの技術を活用し、バッテリーなしで位置情報を記憶できます。
バッテリーレスアブソリュートの仕組み
バッテリーレスアブソリュートエンコーダには、主に 磁気式(マルチターン方式) や 機械式 などの技術が用いられます。
磁気式バッテリーレスアブソリュートの仕組みと特性
磁気式バッテリーレスアブソリュートエンコーダは、磁気センサーとマルチターンカウンターを使用して回転数を記録します。
🔹 仕組み
- エンコーダ内部に磁石とホールセンサー(またはMRセンサー)が搭載。
- 回転軸と連動するギアにより、複数回転(マルチターン)の情報を記録。
- 電源ON時に磁場の変化を読み取り、回転数を復元。
✅ メリット
- コンパクトで軽量(電子部品で構成されるため、小型化が容易)。
- 衝撃や振動に強い(物理ギアがないため耐久性が高い)。
- 摩耗がない(非接触方式のため、長寿命)。
- 高精度な位置決めが可能。
❌ デメリット
- 磁場の影響を受けやすい(強い磁界環境では誤作動の可能性)。
- コストが高い(精密な磁気センサーが必要)。
- 長期間未使用時のデータ保持が課題(一部の方式では磁気データが経年変化することがある)。
機械式バッテリーレスアブソリュートの仕組みと特性
機械式バッテリーレスアブソリュートエンコーダは、ギアメカニズムを活用して回転数を記録します。
🔹 仕組み
- 内部に特殊な減速ギア機構を搭載。
- 各ギアの噛み合い位置を物理的に記録することで、回転数を保存。
- 電源がOFFになってもギアの位置は変わらないため、位置情報が保持される。
✅ メリット
- バッテリーも磁気センサーも不要(物理的なギア機構のみで動作)。
- 長期間のデータ保持が可能(電源OFF後も半永久的に情報を維持)。
- 磁場の影響を受けない(電子部品を使用しないため、外乱に強い)。
- 動作環境に左右されにくい(温度変化や振動に対して安定)。
❌ デメリット
- 構造が大きくなりやすい(ギア機構があるため、コンパクト化が難しい)。
- 摩耗による劣化が発生(長期間の使用でギアが摩耗し、精度が低下する可能性)。
- 高速回転時の応答性がやや低い(ギアの慣性による遅延が発生)。
磁気式 vs. 機械式の選定ポイント
選定基準 | 磁気式 | 機械式 |
---|---|---|
コンパクトさ | ✅ 優れている | ❌ 大型になりやすい |
耐衝撃・耐振動性 | ✅ 高い | ❌ ギアの摩耗が発生 |
磁場の影響 | ❌ 受けやすい | ✅ 影響なし |
長期間のデータ保持 | ❌ 限界あり | ✅ 半永久的に保持 |
高速回転への適応 | ✅ 高速でも精度維持 | ❌ ギアの慣性が影響 |
コスト | ❌ 高め | ✅ 比較的安価 |
バッテリーレスアブソリュートのメリット・デメリット
✅ メリット
- バッテリー管理が不要
→ 定期的なバッテリー交換やメンテナンスが不要になり、長期的な運用コストが削減できる。 - 環境負荷が少ない
→ バッテリー廃棄が不要になり、環境に優しい。 - コンパクト設計が可能
→ バッテリーを搭載しない分、装置の小型化が可能。 - 高温・低温環境に強い
→ バッテリーを使用しないため、温度変化による劣化リスクが少ない。 - メンテナンスフリー
→ バッテリー切れによるダウンタイムを防ぎ、設備の稼働率が向上する。
❌ デメリット
- 初期コストが高い
→ 従来のアブソリュートエンコーダに比べて、磁気センサーや回生技術を搭載するため価格が高め。 - 急停止や長期間停止時のデータ保持に注意
→ 一部の方式では、長期間動作しない場合にデータ保持が難しいことがある。 - 特定の動作環境で制約がある
→ 強い磁場の影響を受けやすい場合があるため、用途に応じた検討が必要。
バッテリーレスアブソリュートの活用例
✅ 工作機械(CNC、マシニングセンタ)
→ 高精度な位置決めが必要で、頻繁なバッテリー交換が難しい環境に最適。
✅ 産業用ロボット(AGV、自動搬送機)
→ 省メンテナンスで長時間稼働が求められる装置に適している。
✅ 医療機器(手術支援ロボット)
→ バッテリー交換が困難な機器で、長期的な安定性を確保できる。
✅ 発電プラント・エネルギー設備
→ 高温・低温環境でも安定稼働が可能。
🔹 バッテリーレスアブソリュートは、バッテリーなしで絶対位置を記憶できる次世代のエンコーダ。
🔹 磁気式(マルチターン方式)や回生電力方式により、長期間の運用が可能。
🔹 バッテリー交換不要、環境に優しい、メンテナンスフリーといった大きなメリットがある。
🔹 高精度な工作機械やロボット、医療機器など、幅広い分野で活用されている。
近年、IoTや自動化が進む中で、バッテリーレスアブソリュートは今後さらに普及 していくことが予想されます。選定の際は、用途に応じた方式を検討し、最適なエンコーダを選びましょう!
まとめ
🔹 インクリメンタルエンコーダ → 相対的な位置測定 を行うエンコーダ。原点復帰が必要 だが、低コストで高速応答 に適している。
🔹 アブソリュートエンコーダ → 絶対的な位置情報を保持 できるため、原点復帰不要で高精度な位置決め が可能。だが、高価で構造が複雑。
⚙️ 選定ポイント
✅ 速度・回転方向の検出なら インクリメンタルエンコーダ
✅ 高精度な位置決めが必要なら アブソリュートエンコーダ
電動機器の設計において、用途に適したエンコーダを選定することが、最適な機械性能を引き出す鍵となります。この記事を参考に、設計に合ったエンコーダを選定してください!
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