機械設計の現場では、強度計算や材料選定、部品表の作成などでExcelは必須のツールです。
特に「関数」を活用できるかどうかで、作業効率と計算精度に大きな差が出ます。
ここでは、設計者がまず覚えておきたい基本的な関数とその使い方をわかりやすく紹介します。
機械設計で役立つ主要な関数
機械設計の現場では、強度計算や材料選定、部品リストの作成など、日々の業務にExcelが欠かせません。
単純な表作成や四則演算だけでなく、「関数」をうまく使うことで、作業スピードと計算精度を大幅に高めることができます。

特に、IF関数での判定処理やVLOOKUP/XLOOKUPでのデータ検索、ROUNDによる数値処理などは、設計者にとって実務に直結する便利なスキルです。
この記事では、初心者でもすぐに使える「設計者が覚えておきたいExcel関数」を具体例とともに紹介します。
IF関数:条件分岐による設計判定
「ある条件を満たしたら合格、それ以外は不合格」といった判定が簡単にできます。
基本構文: =IF(条件, “条件が真のときの値”, “条件が偽のときの値”)
- 条件:判定したい内容(例:A1>100)
- 条件が真のときの値:条件が成立した場合に表示する値
- 条件が偽のときの値:条件が成立しない場合に表示する値
IF関数の使用例
たとえば、、、
セルA1に数値が入っていて、それが100以上なら「合格」、それ未満なら「不合格」と表示したい場合。
=IF(A1>=100, “合格”, “不合格”)
→ A1が120なら「合格」、80なら「不合格」
ポイント
- 条件には「=」「>」「<」などの演算子が使えます
- 結果には文字列・数値・関数なども使えます
- 複数条件を使いたい場合は
IFS
やIF
のネスト(入れ子)も可能
🔍 設計業務での活用例
- 工数が一定時間を超えたら警告表示など、現場の判断ロジックに最適
- 寸法が規格内かどうかを判定して「OK/NG」を表示
- 材料費が予算を超えているかどうかをチェック
VLOOKUP関数: 材料データベースからの情報取得
材料データベースから必要な値を呼び出すときに使います。
基本構文:=VLOOKUP(“検索値”, 範囲, 列番号, 検索方法)
- 検索値:探したい値(例:部品番号)
- 範囲:検索対象の表(例:A2:D100)
- 列番号:範囲内で、何列目の情報を取得するか(例:3列目なら「3」)
- 検索方法:完全一致なら「FALSE」「0」、近似一致なら「TRUE」「1」
VLOOKUP関数の使用例
以下のような部品表があるとします。
A | B | C | |
---|---|---|---|
1 | 部品番号 | 材質 | 質量 |
2 | A001 | S45C | 2.5 |
3 | A002 | SUS304 | 1.8 |
「部品番号A001の材質」を取得したい場合
=VLOOKUP(“A001”, A2:C3, 2, FALSE)
👉 結果は S45C
ポイント
- 検索値は「範囲の1列目」にある必要があります
- 完全一致を使う場合は「FALSE」を忘れずに
- より柔軟な検索には
XLOOKUP
関数もおすすめ(Excel 365以降)

設計現場では、部品コードから材質・寸法・コストなどを自動取得する用途に最適です。
XLOOKUP関数:VLOOKUPの進化版とも言える関数
XLOOKUPは新しい関数で、検索方向が柔軟に指定可能。
基本構文:=XLOOKUP(検索値, 検索範囲, 戻り値範囲, 見つからない場合の値, 一致モード, 検索モード)
- 検索値:探したい値(例:部品番号)
- 検索範囲:検索対象の列(例:部品番号の一覧)
- 戻り値範囲:取得したい情報の列(例:材質や質量)
- 見つからない場合の値(省略可):該当がないときに表示する内容
- 一致モード(省略可):完全一致・近似一致など
- 検索モード(省略可):上から検索・下から検索など
XLOOKUP関数の使用例
以下のような部品表があるとします。
A | B | C | |
---|---|---|---|
1 | 部品番号 | 材質 | 質量 |
2 | A001 | S45C | 2.5 |
3 | A002 | SUS304 | 1.8 |
「部品番号A001の材質」を取得したい場合。
=XLOOKUP(“A001”, A2:A3, B2:B3)
👉 結果は S45C
VLOOKUPとの違い・メリット
比較項目 | VLOOKUP | XLOOKUP |
---|---|---|
検索方向 | 左から右のみ | 左でも右でもOK |
列番号指定 | 必要(数字で指定) | 不要(範囲で指定) |
見つからない場合 | エラー表示(#N/A) | 任意の値を設定可能 |
柔軟性・使いやすさ | △ | ◎ |
🛠 設計業務での活用例
- 部品コードから材質・質量・価格などを自動取得
- 材料選定表から条件に合う項目を抽出
- 設計変更履歴から最新情報を取得
- 複数の表を連携して設計資料を自動更新
注意:XLOOKUP関数は古いExcelバージョンでは使用できません
XLOOKUP関数は、Excel 365およびExcel 2021以降のバージョンで新たに追加された関数です。
そのため、Excel 2016やExcel 2013などの旧バージョンでは利用できません。古い環境でファイルを開くと、XLOOKUPを使用したセルにはエラーが表示される可能性があります。
業務で共有するExcelファイルにXLOOKUPを使う場合は、相手のExcelバージョンを事前に確認することが重要です。

互換性を重視する場合は、
従来のVLOOKUP関数やINDEX/MATCH関数を使うと安心です。
INDEX / MATCH関数:複雑な検索と参照
Excelで「指定した条件に合うデータを探して取り出す」ための組み合わせ技です。
- INDEX関数:指定した行・列の位置から値を取り出す
- MATCH関数:指定した値が何番目にあるかを調べる
この2つを組み合わせることで、VLOOKUPではできない柔軟な検索が可能になります。
VLOOKUPでは検索列が固定されますが、INDEXとMATCHを組み合わせると、任意の方向に検索できるので柔軟です。
基本構文: =INDEX(検索範囲, MATCH(検索値, 検索列, 0))
🔍 各引数の意味
MATCH(検索値, 検索列, 0)
→ 検索列の中から検索値が何番目にあるかを調べる
※「0」は完全一致を意味します
INDEX(検索範囲, 行番号)
→ 指定した範囲から、行番号に該当する値を取り出す
INDEX / MATCH関数の使用例
部品表(BOM)から部品の単価を検索する
あなたが扱う部品表が以下のような構成だとします。
A | B | C | |
---|---|---|---|
1 | 部品番号 | 部品名 | 単価(円) |
2 | A001 | 六角ボルト | 120 |
3 | A002 | ワッシャー | 30 |
4 | A003 | ナット | 45 |
そして、別の設計資料で「A002の単価を取得したい」ときに使えるのが、
INDEX / MATCH関数の組み合わせです。
📘 関数の書き方
=INDEX(C2:C4, MATCH(“A002”, A2:A4, 0))
MATCH("A002", A2:A4, 0)
:A列から「A002」が何行目かを探す(この場合は2行目)INDEX(C2:C4, 2)
:C列の2行目(つまり「30円」)を返す
💡 実務での活用ポイント
- 部品番号で検索 → 単価や在庫数などを取得
- 設計変更時に部品情報を自動更新
- 複数の表を連携させて、設計資料の整合性を保つ
この方法なら、列の順番が変わっても壊れにくく、左方向の検索も可能なので、設計現場での資料管理やコスト試算にとても便利です。
注意:INDEX / MATCH関数は柔軟だが、初心者にはやや難解な面も
INDEX関数とMATCH関数を組み合わせることで、VLOOKUPでは対応できない左方向の検索や複数条件の検索など、より柔軟なデータ参照が可能になります。しかし、その分だけ構文が複雑になりやすく、Excel初心者にとっては理解・運用が難しい場合があります。
また、MATCH関数の第3引数(検索の種類)を誤ると、意図しない結果になるリスクもあるため、使用時には注意が必要です。特に昇順・降順の並びに依存する「近似一致」は、業務での正確な検索には不向きなケースもあります。
さらに、INDEX / MATCHはExcelのすべてのバージョンで使用可能ですが、XLOOKUPの登場により、今後は置き換えが進む可能性もあるため、最新の関数との比較や使い分けを意識するとより効果的です。
ROUND / CEILING / FLOOR:寸法や公差の丸め処理
設計業務では、計算結果を「見やすく・扱いやすく」整えることが重要です。
特に寸法や強度計算では、端数処理が図面や仕様書の精度・信頼性に直結します。
そこで活用したいのが、Excelの丸め関数です。
代表的な丸め関数と使い方
関数 | 処理内容 | 使用例 |
---|---|---|
ROUND | 指定桁で四捨五入 | ROUND(A1, 2) → 小数第2位まで四捨五入 |
CEILING | 指定単位で切り上げ | CEILING(A1, 0.1) → 0.1単位で切り上げ |
FLOOR | 指定単位で切り捨て | FLOOR(A1, 0.5) → 0.5単位で切り捨て |
活用シーン
- 寸法の端数処理(例:設計値を0.1mm単位で統一)
- 強度計算の結果を規格値に合わせる
- 公差設定時の基準値調整
まとめ
Excel関数を使えば、設計値の丸め処理が一瞬で完了。
図面精度の向上や社内ルールの統一にもつながります。
設計者の「見せ方」へのこだわりが、品質と信頼性を支えるのです。
TEXT関数:図面番号や部品コードの整形に便利!
機械設計では、図面番号や部品コードを「統一された形式」で管理することが重要です。
バラバラな表記では、検索性やトレーサビリティが低下し、ミスの原因にもなります。
そんなときに役立つのが、ExcelのTEXT
関数です。
TEXT関数とは?
数値を「文字列」に変換し、指定したフォーマットで表示できる関数です。
たとえば、部品番号を3桁で統一したい場合
=TEXT(A1, “000”)
- A1が「1」なら → 「001」
- A1が「25」なら → 「025」
- A1が「123」なら → 「123」
機械設計者向けの活用例
シーン | 使用例 | 効果 |
---|---|---|
部品コードの整形 | TEXT(C5, "0000") → 「0007」「0123」など | 品番の桁数を統一 |
バージョン管理 | TEXT(D1, "0.0") → 「1.0」「2.5」など | 見た目の統一と誤認防止 |
✅設計現場でのメリット
- 📁 ファイル名や図面番号の自動生成に使える
- 🔍 検索・並び替えがしやすくなる
- 🧠 見た目の統一でミスを防止
ExcelのTEXT関数は、設計者の「見せ方」や「管理力」を底上げする便利ツール。
図面や部品表を扱うなら、ぜひ積極的に活用してみてください!
アルファベット+数字の部品コード整形術
機械設計の現場では「A53」「B-123」「C004」など、アルファベット+数字の混合形式の部品コードがよく使われます。
これらをExcelで整形・統一することで、部品管理や図面連携がスムーズになります。以下に、わかりやすく解説します。
よくある課題
- 数字部分の桁数がバラバラ(例:A1、A53、A123)
- ハイフンの有無が統一されていない(例:B123 vs B-123)
- 並び替えや検索がしづらい
- 図面番号やファイル名との連携が面倒
解決方法①:数字部分を3桁で統一(例:A001, B123)
🔍 使用例
=LEFT(A1, 1) & TEXT(RIGHT(A1, LEN(A1)-1), “000”)
LEFT(A1, 1)
:先頭のアルファベットを抽出(左側から1文字)RIGHT(A1, LEN(A1)-1)
:数字部分を抽出(右側から文字数-1個分の文字)TEXT(..., "000")
:数字を3桁で整形(例:1 → 001)
🔹 A1が「A5」なら → 「A005」
🔹 A1が「B123」なら → 「B123」
解決方法②:ハイフン付き形式に統一(例:AB-123)
🔍 使用例
=LEFT(A1, 2) & “-” & TEXT(RIGHT(A1, LEN(A1)-2), “000”)
※「AB123」のようにアルファベット2文字+数字3桁を想定
🔹 AB123 → AB-123
🔹 AB7 → AB-007
🛠 設計業務での活用シーン
活用場面 | 整形の目的 |
---|---|
部品表の管理 | コードの桁数・形式を統一して検索性UP |
図面ファイル名生成 | 自動連番で命名ミスを防止 |
設計レビュー資料 | 見やすく整ったコードで誤認防止 |
加工指示書の出力 | 加工順や分類ごとにコードを整形 |

Excelの関数を使えば、設計者の管理力と見せ方が劇的に向上します。
設計現場での活用例
✅ 材料リストの自動参照 → VLOOKUPやXLOOKUPで密度・強度を呼び出し
✅ 設計基準の自動判定 → IF関数で合格/不合格を表示
✅ 寸法計算結果の整理 → ROUNDで桁数を揃える
✅ 部品表の自動作成 → TEXT関数で番号や名称を統一

これらを組み合わせることで、計算精度と設計資料の信頼性を高められるのです。
まとめ
機械設計者がExcelを使いこなすには、単なる表作成だけでなく、関数を活用して設計データを効率的に扱う力が欠かせません。
今回紹介した関数はどれも基礎的ですが、
✔ 設計の自動判定(IF)
✔ 材料データの参照(VLOOKUP / XLOOKUP / INDEX+MATCH)
✔ 寸法処理(ROUND, CEILING, FLOOR)
✔ 図面・部品コード管理(TEXT)
と、機械設計の現場で即戦力となるものばかりです。
まずは身近な設計計算や部品表作成に取り入れて、Excelの便利さを実感してみてください。
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