減速機を使うとモーター軸に加わる慣性モーメントはどう変わる?【減速比の2乗】

動力選定

〜減速比の「2乗」で小さくなるって本当?〜

モーターを使った装置設計において、「負荷が重すぎると制御が難しい」という課題に直面することがあります。
そんなときに活躍するのが減速機(ギアボックス)です。
実は、減速機を使うと、モーターが感じる慣性モーメントが「減速比の2乗」で小さくなります。

この記事では、その仕組みとメリットを初心者でもわかる言葉で丁寧に解説していきます!


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まずは基本用語から理解しよう!

慣性モーメントとは?

簡単に言うと、「回転しにくさ・止まりにくさ」を表す値です。

  • 質量が重いほど
  • 回転半径が大きいほど

▶ 慣性モーメントは大きくなります。

モーターにとっては、大きな慣性モーメントを持つ物体を動かすときほど、力(トルク)がたくさん必要になります。

慣性モーメントについての関連記事はこちら

減速機(ギアボックス)とは?

減速機は、モーターの回転を減速し、そのぶんトルク(力)を増やす装置です。
たとえば、モーターが3000回転/分で回っていた場合、減速比が10:1の減速機を使うと、出力側は300回転/分になります。
代わりに力(トルク)は約10倍に増えます。


減速機を使うと慣性モーメントはどう変わる?

モーターが感じる「見かけの慣性モーメント」は小さくなる!

ここが今回の一番のポイントです。

減速機を介して負荷を動かすとき、モーターから見た負荷の慣性モーメントは、減速比の2乗分だけ小さくなるのです。

数式で表すと

\( \displaystyle J(モーター側)=\frac{J(負荷側)} {減速比^2}\)

  • J(モーター側)​:モーターが感じる慣性モーメント
  • J(負荷側)​:実際の負荷の慣性モーメント
  • 減速比=「モーターの回転数」÷「出力軸の回転数」

具体例でイメージしてみよう

🔍 たとえば…

  • 負荷の慣性モーメント: J負荷側=100 kg・m2
  • 減速比: 10:1(モーター10回転に対して出力軸1回転)

このとき、モーターが感じる慣性モーメントは

\( \displaystyle J(モーター側)=\frac{100} {100^2}=1kg・m^2\)

はじめ
はじめ

なんと、モーターから見ると100分の1に減ったことになります!


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なぜ減速比の「2乗」でモーターに伝わる慣性モーメントは小さくなるの?

モーターと負荷の間に減速機(ギア)を入れると、モーターが感じる慣性モーメントが「減速比の2乗」で小さくなるとよく言われます。

でも…

「なんで “2乗” なの?」 「1/10の速度なら1/10の慣性になるんじゃないの?」

と、疑問に思う方も多いはず。

本項では、力学の基本から考え方を順を追って解説していきます。数式はシンプルに、イメージを重視して解説しますのでご安心ください!


減速機の基本的な働きとは?

減速機は、モーターの回転を遅くして、代わりにトルクを増やす装置です。

例えば、モーターが100回転しても、出力軸が10回転しかしない場合、減速比は10:1です。

  • モーター:速く回るが力は弱い
  • 減速後:ゆっくり回るが力が強い

これが「減速機のしくみ」です。


なぜ慣性モーメントが「2乗」で減るのか?

ここからが本題です。

結論から言うと

\( \displaystyle J(モーター側)=\frac{J(負荷側)} {i^2}\)

  • J(モーター側):モーターが感じる慣性モーメント
  • J(負荷側):実際の負荷の慣性モーメント
  • i:減速比(例:10:1なら10)

直感的にわかりやすく説明します

角速度が1/iになる(回転スピードが1/i)

たとえば、減速比10:1のギアを入れたら、負荷の回転はモーターの10分の1の速度になります。

でも、モーターのほうが10倍速く動いてるということは、加速・減速も10倍速くなる必要があるということ。

トルクは1/iで伝わる(力は逆に小さく見える)

ギアで力が変換されるので、モーターが出すトルクは負荷側では1/10になります。


物理式でざっくりと納得してみよう(やさしく)

回転運動では、トルク T慣性モーメント J角加速度 αに以下の関係があります。

\( \displaystyle T=J⋅α\)

ギアで変速されると、角速度(回転のスピード)トルク(力)の両方が変わる。

  • 角速度は i倍 になる(モーターのほうが速く回る)
  • トルクは 1/i倍 になる(モーター側から見て小さく見える)

🔍 つまり…

\( \displaystyle J(モーター側)=\frac{J(負荷側)} {i^2}\)

このように、速度成分トルク成分が両方変わるため、「2乗」になるんです!


イメージしやすい例で考えてみよう

例えば、100kgの重たい回転テーブルを動かす装置を設計する場合、

  • そのままモーターで直結 → モーターに非常に大きな慣性がかかって制御困難
  • 減速比10:1のギアを入れる → 慣性モーメントは100分の1に!

この減速機のおかげで、小型モーターでも重たい装置をスムーズに制御できるようになります。


実際の装置設計では?

設計者は、モーターの仕様(定格トルクや許容慣性比)と、減速機を組み合わせてこう考えます。

はじめ
はじめ

負荷側の大きな慣性を、モーターから見て小さくするには、何倍の減速が必要?
減速比を上げすぎるとスピードが出なくなる。バランスはどう取る?

このとき、「減速比の2乗で効いてくる」ということを知っておくと、最適なモーター&減速機の組み合わせを選びやすくなります。


ポイント内容
減速機を使うとモーターに伝わる慣性モーメントは小さくなる
なぜ2乗なの?回転速度がi倍、トルクが1/i倍で効くため「iの2乗」で変換される
設計のメリット小さなモーターでも大きな負荷を制御できる、応答も安定する

「減速比の2乗で慣性が小さくなる」

これを知っておくだけで、モーター制御が一気に分かりやすくなります。
初めは難しく感じるかもしれませんが、ギアの力学は非常にパワフルな道具です。

減速機を使うメリットは?

ここまでわかれば、減速機を使うメリットが見えてきます。

減速機の効果説明
負荷慣性が小さく見えるモーターの制御が安定する(整定時間が短くなる)
必要なトルクが小さくなる小型モーターでも十分な力を発揮できる
過負荷トラブルを防げるモーターの寿命が伸びる

特にサーボモーター制御では、慣性モーメントの影響が非常に大きいため、減速機をうまく活用することがとても重要です。


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減速機選定時の注意点

とはいえ、減速機を使えば何でも解決!というわけではありません。注意点もあります。

減速機にも慣性モーメントがある

減速機自体にも質量があり、回転部分の慣性が加わるため、これを考慮する必要があります。
特に高精度制御を求める場合は、減速機の仕様書に載っている「慣性モーメント値」もチェックしましょう。

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バックラッシ(遊び)が発生する

ギアのかみ合わせにはわずかな「遊び(ガタつき)」があるため、これが位置決め精度に影響することがあります。
高精度な減速機(精密減速機)を選定すれば、この影響を最小限に抑えることができます。

バックラッシについての記事はこちら

減速機の効率に注意

減速機を通すと、若干ですが機械的な損失が発生します。効率(一般的には90〜95%)を確認し、モーター容量に余裕を持たせて設計することが大切です。

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まとめ

サーボモーターや一般モーターにおいて、減速機を使うと負荷慣性が減速比の2乗で低減される、というのは非常に大きなポイントです。

✔ 減速機を使えば、大きな負荷でも小さなモーターで安定制御できる
✔ 慣性が小さく見えるので、整定時間も短くなり、高速応答が可能
✔ ただし、減速機選定時には「バックラッシ」や「効率損失」に注意!

装置設計では、「減速比」「負荷慣性」「制御性」のバランスを考えながら、減速機を上手に活用していきましょう!


はじめ
はじめ

モーターやアクチュエーターなど、機械の駆動源に関する基礎知識と選定基準をまとめています。

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