高速で動くロボットアームがピタリと停止した瞬間、あるいは数百キログラムのワークを吊り下げたクレーンがゆっくり降下を始めた瞬間――その裏側では、モーターが“発電機”へと姿を変え、膨大な運動エネルギーが電気に姿を変えて帰ってきます。この現象が回生(かいせい/regeneration)です。
回生エネルギーをどう扱うかは、現代の機械設計において避けて通れないテーマになっています。対応を誤れば、インバータの過電圧トリップでラインが停止したり、ブレーキ抵抗が真っ赤に焼けたり――最悪の場合、装置の寿命そのものを縮める原因にもなります。反対に、正しくマネジメントすれば、省エネ・CO₂削減の切り札として年間電力を二桁パーセント削減できることも珍しくありません。
本記事では、初心者の方でも理解できるように回生の基本原理から、計算の勘どころ、回生ユニットを採用すべき典型的なケース、設計で押さえておくべき安全対策までを網羅的に解説します。読み終えるころには、回生という不可視のエネルギーの流れを“見える化”し、装置に最適な受け皿を選べるようになるはずです。
回生ってそもそも何?
回生(かいせい) は英語で regeneration。
モーターが 発電機 のふるまいをするとき、機械側に残っている運動エネルギー(慣性エネルギーや位置エネルギー)が電気に戻ってくる現象です。
運転モード | エネルギーの向き | 例 |
---|---|---|
加速/上昇 | インバータ → モーター → 機械 | ワークを持ち上げるクレーン |
減速/下降 | 機械 → モーター → インバータ | クレーンが下がる瞬間 |
等速 | 双方向ほぼゼロ | コンベヤ定速搬送 |
減速や下降の瞬間に 電流が逆流 し、インバータ側コンデンサの DCリンク電圧が上昇 します。
これが“回生エネルギー”。
なぜ回生を考慮しないと危険?
🚫 過電圧トリップ
- DCリンク電圧が定格を超えるとインバータは保護停止。
- 装置が急停止し、ワーク破損やライン停止の原因に。
🚫 ヒューズ/ブレーキ抵抗焼損
行き場のないエネルギーが熱になり、ブレーキ抵抗器や配線が焼けることがある。
🚫 サーボドライブ寿命短縮
コンデンサ温度が上がりやすく、長寿命品でも寿命が1/2~1/3になるケースがある。
🚫 系統高調波の悪化
大出力装置が同時に回生すると、上位電源ラインの電圧ひずみを生む。
回生処理の4つの方法
方法 | 特徴 | 適用範囲 |
---|---|---|
ダイナミックブレーキ抵抗 | 安価・シンプル。 エネルギーを熱で捨てる | 小~中容量/断続運転 |
回生ユニット+共通DCリンク | 複数インバータでエネルギー融通。 電力を系統に返せるモデルも | 多軸ライン、高頻度回生 |
一体型サーボドライブ(内蔵抵抗) | 小容量サーボに多い。設定不要 | 〜1 kW程度 |
バッテリー/スーパーキャパ吸収 | 電力回収+停電バックアップ兼用 | AGV・ロボット 再エネ併用装置 |
機械設計者が押さえる “3ステップ” 動力選定フロー
STEP 1 回生発生パターンを洗い出す
- 垂直軸? 高慣性? 急停止サイクル?
- モーションプロファイル(速度‐時間グラフ)を描く
STEP 2 エネルギー量をざっくり見積もる
- 1サイクルあたり (J) × 回生頻度 = 毎秒(J/s= W) を算出
STEP 3 インバータ/サーボ仕様と照合
- 許容回生電力 (W)、ブレーキ抵抗値 (Ω)、熱時定数 (s) を確認
- 超える場合は抵抗追加 or 回生ユニットに置換
- DCリンク共通化なら “回生源>加速負荷” のバランスを見る
よくある失敗例と対策
失敗例 | 原因 | 速攻対策 |
---|---|---|
抵抗焼損 | 定格W<平均回生W、過小容量 | 抵抗容量×2~3倍へ ファン強制冷却 |
頻繁な過電圧アラーム | 抵抗は十分だがON閾値高すぎ | 抵抗投入電圧設定を-10 V下げる |
ラインひずみ | 多軸同時回生、インバータごとに抵抗 | DCリンク共有+回生コンバータ採用 |
省エネという視点
- 回生電力を系統へ戻す と、電力使用量を 5~20 % 削減できる事例も
- 近年の「インバータ+回生コンバータ」は 再・売電 対応製品が増加
- ただし 高次高調波フィルタ と 系統逆潮流規制 に注意が必要
どんなときに “回生ユニット” が必要になる?
ブレーキ抵抗では足りなくなる 6 つの代表ケース
モータを減速・停止させるときに発生する回生エネルギーは、
小容量なら ブレーキ抵抗器 で熱として捨てるだけで十分です。
しかし、以下のような条件では 「抵抗だけでは間に合わない」 ため、
回生ユニット(回生コンバータ) を追加して電力を電源側へ戻す設計が推奨されます。
垂直軸で重いワークを頻繁に上下させる装置
🔍 例)
クレーン、リフター、射出成形機の型締め・型開き
✅ 導入理由
下降時の位置エネルギー (mgh) が大きく、毎サイクル発生する熱量が抵抗の定格を超えやすい。
高慣性負荷を高速で加減速する多サイクル設備
🔍 例)
半導体ローダ/アンローダ、ロール to ロール搬送
✅ 導入理由
大きな回転慣性 (J) を 短いタクトで停止
🚫 ブレーキ抵抗がオーバーヒートしやすい。
多軸ラインで“同時減速”が重なる場合
🔍 例)
ロボット 6 軸 × 数台、マルチヘッドピッキング
✅ 導入理由
各軸が一斉にブレーキを掛ける瞬間、総回生電力が数 kW クラス に跳ね上がる。
1軸ごとの抵抗では吸収しきれない。
長時間連続で回生が続くプロセス
🔍 例)
下降搬送専用コンベヤ、ウォータースライサ
✅ 導入理由
抵抗器は「ピーク 100 W・平均 30 W」のように平均値で制限される。
持続的な回生 は平均定格を超過しがち。
省エネ・再エネ目標が厳しい工場
🔍 例)
ZEB/FEMS 導入ライン、電力原単位を KPI に持つ生産拠点
✅ 導入理由
回生ユニットで電力を系統に戻すと 5〜20 %の使用電力量を削減。
ブレーキ抵抗よりもエネルギー効率が高い。
電源ラインへの過電圧・ひずみ対策が必要
🔍 例)
上位電源が不安定な地域、UPS 併用ライン
✅ 導入理由
ブレーキ抵抗は電圧を下げる効果がない。
回生ユニットで系統に返電する方が DC リンク電圧を安定保持できる。
垂直軸・高慣性・同時多軸・連続回生
この 4 つのどれかに当てはまると、ブレーキ抵抗だけでは足りない可能性が高い。
回生ユニットは 過電圧防止+省エネ+熱対策 をまとめて解決できる。
導入時は 回生電力ピーク値 だけでなく 平均電力、通電率(Duty)、電源ひずみ規制 を必ず確認しよう。

これらを目安に、装置の仕様書や実測データを照合すれば、回生ユニットが必要かどうか を定量的に判断できます。
まとめ
✔ 回生は“発電”:減速・下降でエネルギーが戻る現象
✔ 量を先に計算:慣性 or 位置エネルギーで W (J/s) を概算する
✔ 受け皿を決める:ブレーキ抵抗/回生ユニット/バッテリのいずれかを設計段階で組み込む
カタログの「許容回生電力」は ピーク と 平均 数値が別に書かれていることが多い。平均値 を見落とさないようにしよう!
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