〜定格回転速度と最大回転速度の違いと考え方〜
サーボモーターは、回転角度・速度・トルクを高精度に制御できるモーターで、産業用ロボット、搬送装置、加工機などさまざまな分野で使用されています。
その中で、「回転速度」は性能に大きく関わる指標のひとつです。特に、定格回転速度と最大回転速度の違いを理解することは、適切なモーター選定やトラブル回避のためにとても重要です。
定格回転速度とは?
定格回転速度とは、モーターが連続運転しても熱的・機械的に問題が起こらない範囲で使用できる回転速度を指します。
通常、カタログや仕様書には「定格出力時の回転速度(単位:min⁻¹またはrpm)」として記載されています。
🔍 例)
- 定格トルク:1.5Nm
- 定格回転速度:3000rpm
この場合、「トルク1.5Nmで3000回転を連続して出し続けても安全」という意味になります。
定格回転速度の特徴
✅ 長時間動作させる際の基準になる
✅ 熱の発生やベアリング摩耗を考慮して、安全な範囲で設定されている
✅ システム設計時は、この回転速度を基準にするのが基本
最大回転速度とは?
一方、最大回転速度(または許容回転速度)は、モーターが一時的に到達できる最大の回転数を指します。
ただし、この速度で連続的に運転することは推奨されません。構造的限界や発熱の問題があるためです。
🔍 例)
- 定格回転速度:3000rpm
- 最大回転速度:5000rpm
この場合、短時間であれば5000rpmまで回しても破損しない設計だが、継続的な運転は不可という意味です。
最大回転速度の使用シーン
✅ 急加速・減速を伴う運転(位置決めなど)
✅ サイクルタイムの短縮を狙った瞬間的な高速度運転
✅ ただし「加減速区間のみ」「短時間の突発的な運転」に限る
定格と最大の違いのまとめ
種類 | 意味 | 用途 |
---|---|---|
定格回転速度 | 連続使用が可能な安全な回転速度 | 常時動作する速度の基準 |
最大回転速度 | 構造的に許容される短時間の最高回転数 | 一時的な高速動作 |
なぜ定格を守らないといけないのか?
モーターを最大回転速度で運転し続けると、以下のようなリスクがあります。
- 異常発熱(冷却が追いつかない)
- ベアリング寿命の低下(摩耗が進行)
- 回転精度の低下(振動の増大)
- 過熱アラームや故障停止
サーボモーターは内部に温度センサーを持ち、熱が限界を超えると「過熱アラーム」が発報して停止します。これは故障を防ぐための保護機能です。
サーボモーターの「瞬時許容回転速度」とは?
〜最大回転速度との違いと設計時の注意点〜
サーボモーターの仕様には「定格回転速度」や「最大回転速度」に加えて、瞬時許容回転速度という表記があることがあります。
特に三菱電機のサーボモーターでは、この「瞬時許容回転速度」に関する誤解や使い方のミスがトラブルや故障の原因になることもあります。
本項では、「瞬時許容回転速度」の正しい意味と、最大回転速度との違い、設計時の注意点について解説します。
基本の3つの回転速度
まず、サーボモーターにおける3つの主要な速度を整理しましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
定格回転速度 | モーターが連続運転可能な安全な速度。熱的・機械的に安定して使用可能。 |
最大回転速度 | 一時的に使用可能な最高速度。トルク保証あり。連続使用には不適。 |
瞬時許容回転速度 | 極短時間だけ許容される回転速度。トルクは保証されない。積極的には使えない。 |
瞬時許容回転速度とは?
瞬時許容回転速度とは、モーターの構造的に「壊れない限界値」を示すものです。
たとえば、制御上のオーバーシュート(目標位置を一時的に行き過ぎる現象)などにより、ごく一瞬だけモーターがその回転数を超えてしまう可能性があることを想定しています。
重要ポイント
- あくまで「一瞬だけ」回っても壊れない上限速度
- トルクは保証されない(出力できる力は不明)
- 積極的にこの速度を使うことはNG
- 安全設計上の「緊急逃げ道」と考える
三菱電機の説明文より
瞬時許容回転数とは、オーバーシュート等でその回転数まで回転してもモータが壊れないという回転数で、積極的に使用できる回転数ではありません。
従いまして、その回転数で回ってもいい時間は、一瞬です。また、トルクも保証していません。
これはつまり、「緊急避難的にモーターがそこまで回ってしまっても壊れはしないが、設計でその回転数を前提にすることは絶対に避けてほしい」という意味です。
最大回転速度との違い
最大回転速度は、短時間であれば使ってもよい速度であり、ある程度のトルク保証もされている場合があります。
一方、瞬時許容回転速度は、トルクも保証されず、時間的にも「ほんの一瞬」しか許容されません。
項目 | 使用時間 | トルク保証 | 設計への使用 |
---|---|---|---|
最大回転速度 | 数秒〜短時間 | あり | 一時的な高速動作に可 |
瞬時許容回転速度 | 一瞬だけ | なし | 設計に使うべきでない |
設計上の注意点
やってはいけないこと
- 瞬時許容回転速度を定常運転速度や位置決め速度に設定する
- この回転数で高トルクが出ることを期待する
- 速度設定を限界ギリギリにする
望ましい使い方
- 加減速制御を工夫し、オーバーシュートを最小限にする
- 余裕を持った速度設計(最大回転速度以下に抑える)
- トルクと慣性のバランスを見て、整定時間を最適化する
トラブル事例(例)
- トラブル:位置決めの高速化を目的に、瞬時許容回転速度近くまでサーボを回転させていた
- 結果:頻繁に過熱アラームが発生、最終的にベアリング破損
- 原因:トルクが不足して制御が乱れ、機械的ストレスが蓄積
瞬時許容回転速度は、あってはならないオーバーシュート時の保険と考えましょう
「瞬時許容回転速度」はあくまで安全マージンであり、設計値ではありません

使用は「一瞬だけ」にとどめ、積極的に使うことは禁止です
サーボ設計では、定格回転速度と最大回転速度の範囲内で性能を引き出すことが基本です
減速機との組み合わせによる速度調整
サーボモーターの回転速度が高すぎる場合は、減速機を使って出力軸の回転速度を下げるという方法があります。これにより、必要なトルクを得ながら高回転のモーターを効率的に使用することが可能です。
たとえば、3000rpmのモーターに減速比10:1の減速機を組み合わせると、出力軸は300rpmで動作し、トルクは10倍に増幅されます。
サーボモーター選定時の注意点
- 通常の運転回転数が定格回転速度以内であることを確認
- サイクルタイムの短縮などで一時的に高回転を使用する場合は、最大回転速度を超えないこと
- 速度だけでなく、トルクや負荷慣性、加減速パターンとのバランスを見る
- 冷却条件(ファン付き・自然冷却など)によって連続運転できる速度も変化する
まとめ
✔ サーボモーターには定格回転速度(連続使用可)と最大回転速度(一時的使用)がある
✔ システム設計では、定格回転速度を基準に選定することが基本
✔ 最大回転速度は瞬間的な動作や緊急対応用として利用される
✔ 長時間の高速運転は、過熱や寿命低下の原因になるため避ける
✔ 減速機との併用で速度・トルクの最適化が可能
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