機械設計では「長さ」「力」「質量」「トルク」など、あらゆる物理量を扱います。
そのとき必ず登場するのが 単位の接頭辞(prefix) です。
たとえば…
✔ 「1 mm」と「1 m」は1000倍違う
✔ 「1 μm」は1/1000 mm
✔ 「1 kN」は1000 N
単位の接頭辞を正しく理解していないと、設計計算の桁を間違えたり、部品の寸法を誤解する原因になります。
この記事では、初心者でもわかるように 機械設計でよく使う単位の接頭辞と注意点 を解説します。
単位の接頭辞とは?

定義
単位の接頭辞(SI接頭辞, SI Prefix)は、基準の単位に対して10の累乗倍を表す記号です。
- 「k(キロ)」 → 1000倍
- 「m(ミリ)」 → 1/1000
- 「μ(マイクロ)」 → 1/1,000,000

単位の接頭辞は 国際単位系(SI) で統一されています。
機械設計でよく使う接頭辞一覧
接頭辞 | 記号 | 倍率 | 例 |
---|---|---|---|
キロ | k | 10³ = 1000倍 | 1 kN = 1000 N |
メガ | M | 10⁶ | 1 MPa = 1,000,000 Pa |
ギガ | G | 10⁹ | 1 GPa = 1,000,000,000 Pa |
ミリ | m | 10⁻³ = 1/1000 | 1 mm = 0.001 m |
マイクロ | μ | 10⁻⁶ = 1/1,000,000 | 1 μm = 0.000001 m |
ナノ | n | 10⁻⁹ | 1 nm = 0.000000001 m |
👉 大文字・小文字で意味が変わるのが重要ポイントです。
- m(ミリ、10⁻³)と M(メガ、10⁶)は、10⁹ 倍(10 億倍!)の違いになります。
機械設計での具体的な使い方
(1) 長さの単位
- 機械設計では mm(ミリメートル) が基準
- μm(マイクロメートル)は精密加工や公差でよく使う
- 例:シャフト径 20.00 mm、公差 ±10 μm
(2) 力の単位
- N(ニュートン)が標準
- 大きな力では kN(キロニュートン)が便利
- 例:ボルトの引張強度 50 kN
(3) 応力・圧力の単位
- Pa(パスカル)は小さすぎるので、設計では MPa(メガパスカル) を使う
- 例:鋼材の引張強さ = 400 MPa
(4) トルクの単位
- N·m が基本
- 小さいトルク → N·mm、大きいトルク → kN·m で表す
- 例:モータの定格トルク = 2.5 N·m
初心者がよく間違えるポイント
❌ 「m」と「mm」の混同
- m(メートル)と mm(ミリメートル)は1000倍違う
- 例:1 m = 1000 mm
❌ 「M」と「m」の大文字小文字
- M = メガ(100万倍)
- m = ミリ(1/1000)
👉 例: - 200 MPa = 200,000,000 Pa(鋼の強度)
- 200 mPa = 0.2 Pa(ほぼゼロに近い)
❌ 「kg」と「kN」の混同
- 質量(kg)と力(N)は別物
- 100 kgf ≒ 981 N ≒ 約1 kN
設計計算での推奨ポイント
- 設計書・図面では SI単位系(N, mm, MPa)で統一
- JIS・ISOも基本はSI単位
- 旧単位(kgf, mmHg など)は避ける
- 桁数を見やすく整理する
- 0.000001 m より 1 μm と書く方が分かりやすい
- 1000000 Pa より 1 MPa と書いた方が読みやすい
- エクセルやCADでも接頭辞を意識する
- 単位換算を自動化するとミスが減る
- 特に μm ↔ mm の変換での入力ミスに注意
機械設計でよくある接頭辞の単位不一致による計算ミスと対策
機械設計でよくある計算ミスの原因の一つが、接頭辞(prefix)の取り違えです。
例えば、m(メートル)と mm(ミリメートル)を混同したり、MPa と Paを取り違えたりするだけで、計算結果が 1000 倍や 100 万倍ずれることもあります。
設計では「桁の違い=安全性やコストに直結」するため、接頭辞を正しく理解し、日常的に確認する習慣が欠かせません。
本項では、接頭辞の基本 → ミスが起きやすい場面 → 実践的な対策を、初心者でもわかりやすく解説します。
ミスが多発する「接頭辞の不一致」あるある
(1) 長さの取り違え
- CAD は mm 単位が主流なのに、CAE は m 前提 → 1000 倍ズレる。
- 図面の「φ10(mm)」を m と誤解して「φ10 m」と解釈 → 実際の 1000 倍。
(2) 応力・圧力の混同
- 1 MPa = 1,000,000 Pa なのに、Pa としてそのまま代入 → 結果が 100 万分の 1。
- 実際の強度 200 MPa の材料を「200 Pa」と入力 → 強度ゼロに近いモデルになる。
(3) 力の単位
- kN(キロニュートン)と N の混同。
例:100 kN の荷重を 100 N と誤入力 → 1000 分の 1 の力に。
(4) 微小単位の誤読
- 公差で μm(マイクロメートル)を mm と混同。
例:±0.01 mm と ±0.01 μm では 1000 倍の違い。
3. 接頭辞ミスを防ぐための具体的な対策
対策 1:単位を必ず“書き添える”
長さ = 25 [mm]
応力 = 150 [MPa]
👉 「数値だけのデータ禁止」をルール化する。
対策 2:エクセルで“変換ゾーン”を作る
- 入力値をそのまま使わず、必ず SI 単位(m, N, Pa)に変換する欄を作る。
L_m = L_mm / 1000
σ_Pa = σ_MPa * 1E6
👉 一度 SI に揃えてから計算するのが鉄則。
対策 3:単位付きセル名や変数名を使う
F_N
、σ_MPa
、L_mm
など、セル名に単位を入れる。
👉 式を見ただけで単位がわかり、レビューが容易。
対策 4:社内で“禁止単位”を決める
- 圧力は「MPa」で統一(Pa, bar, kgf/cm² は使用しない)
- 長さは「mm」で統一(m は最終出力用のみ)
👉 ルールを決めることで、現場での混乱を減らせる。
初心者が習慣化すべきポイント
- 数値に単位を声に出して読む
→ 「100」ではなく「100 ミリ」。 - 接頭辞を暗記カード化
→ m, mm, μm, k, M を一覧で机に貼っておく。 - 計算式に変換を残す
→σ = F / A
ではなくσ[MPa] = (F[N] / A[mm²]) / 1E6
のように。 - レビューで“単位だけ”確認する時間を作る
→ 値の妥当性より先に接頭辞の統一をチェック。
接頭辞(m, mm, μm, k, M)の取り違えは、1000 倍~100 万倍の計算ミスを引き起こす。
対策の基本は、
数値に単位を必ず書く
SI 単位に一度揃える
セル名や変数名に単位を埋め込む
CAD/CAE の単位設定を毎回確認
社内で使う単位を統一する

今日からできる一番簡単な習慣は、「必ず単位を声に出して読む」ことです。
これだけで接頭辞の取り違えによる大きなミスを防ぐ第一歩になります。
まとめ
✔ 単位の接頭辞(k, M, m, μ, n など)は10の累乗を表す記号
✔ 機械設計では主に mm, μm, kN, MPa が多用される
✔ mとmm、Mとm のように大文字小文字を間違えると大きな設計ミスにつながる
✔ 図面や設計計算は SI単位系で統一するのが基本
単位の接頭辞を正しく理解することで、ミスのない設計計算ができ、チーム内での情報共有もスムーズになります。
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