機械設計において、適切な材料の選択は製品の性能と耐久性を左右する重要な要素です。今回は、機械部品製作によく使用されるS45C(JIS G 4051)のミガキ丸棒に焦点を当て、その特徴と規格寸法表を詳しく見ていきましょう。
S45C ミガキ丸棒 規格寸法表【h9】
呼び径(mm) | 許容差(h9) |
3、4、5、6 | 0 ~ -0.03 |
8、10、12 | 0 ~ -0.036 |
13、15、16、18 | 0 ~ -0.043 |
19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、30 | 0 ~ -0.052 |
32、34、35、36、38、40、42、44、45、50 | 0 ~ -0.062 |
55、60、65、70、75、80 | 0 ~ -0.074 |
85、90、95、100、110、120 | 0 ~ -0.087 |
S45Cミガキ丸棒の特徴と用途
機械設計において、S45Cミガキ丸棒は、強度や加工性、コストのバランスが取れた材料として広く利用されています。特に、シャフトやピンなどの精密部品の製作に適しており、多くの分野で活躍しています。本記事では、S45Cミガキ丸棒の特性、用途、選定ポイント、加工時の注意点について詳しく解説します。
S45Cミガキ丸棒とは?
S45Cの基本情報
- 材質: S45Cは炭素鋼(中炭素鋼)に分類され、炭素含有率が約0.45%の鋼材です。
- 特徴: 強度、靭性、加工性がバランスよく備わっており、熱処理による特性向上も可能です。
ミガキ丸棒とは?
ミガキ丸棒は、熱間圧延した素材(黒皮材)をさらに研磨加工して精度を高めた棒材です。
- 表面仕上げ: 平滑で光沢のある表面。
- 寸法精度: 高い真円度と公差精度を実現(一般的にh9~h11の公差)。
S45Cミガキ丸棒の主な特性
- 高い強度
- 常温での引張強度は約600~750MPa。
- 強度が必要な機械部品に最適。
- 優れた加工性
- 切削加工が容易で、複雑な形状への対応も可能。
- 焼入れや焼戻しによる熱処理で硬度を調整可能。
- 寸法精度の高さ
- ミガキ加工により、直径寸法のばらつきが少なく、真円度が良好。
- 軸受けや精密機械部品に適用可能。
- コストパフォーマンス
- ステンレスや合金鋼に比べて安価で、経済的に利用可能。
主な用途
S45Cミガキ丸棒は、その特性を活かして以下のような用途で使用されます。
シャフト類
- 直動部品や回転軸、駆動系シャフトなど。
- 高い真円度と耐摩耗性が要求される用途に最適。
ピン類
- ボルトやヒンジピンなどの固定部品。
- 高精度かつ強度が必要な場合に使用。
歯車素材
- 中炭素鋼の強度と靭性を活かし、小型から中型の歯車の素材として利用。
S45Cミガキ丸棒の選定ポイント
必要な強度
部品の荷重条件に応じて、熱処理(焼入れ・焼戻し)の有無を選定。
寸法精度
軸受けや高精度を要する部品には、真円度や公差を確認。
標準のミガキ丸棒公差(h9~h11)を選ぶ。
コスト
コストを抑えたい場合、無熱処理の素材を選択。
高性能が必要な場合は、焼入れ調質材を選ぶ。
耐摩耗性
摩耗が予想される部品には、焼入れや表面処理(窒化、黒染め)を施す。
加工時の注意点
切削加工
- 切削工具: 炭素鋼用の一般工具で対応可能。ただし、焼入れ後は超硬工具が必要。
- 冷却材: 冷却材を適切に使用し、工具寿命を延ばす。
溶接
- 中炭素鋼であるため、溶接後の割れが発生しやすい。事前に予熱と後熱を行うことが推奨される。
熱処理
- 焼入れ温度: 820~870℃、焼戻し温度: 150~600℃
- 熱処理後、硬度を調整することで、耐摩耗性と靭性のバランスを最適化。
ミガキ丸棒の短所と対策
短所
- 耐食性の欠如
- 一般的な炭素鋼であるため、錆びやすい。
- 柔軟性の不足
- 高硬度化すると割れやすくなる。
対策
- 防錆処理
- 黒染めや亜鉛メッキを施す。
- 適切な熱処理
- 過度の硬度化を避け、靭性を確保。
S45Cミガキ丸棒の比較例
項目 | S45Cミガキ丸棒 | SUS304丸棒 | SCM440ミガキ丸棒 |
---|---|---|---|
強度 | 高い(熱処理で向上可) | 中程度(非熱処理) | 非常に高い |
耐食性 | 低い | 高い | 中程度 |
加工性 | 良好 | やや難しい | 良好 |
コスト | 安価 | 高価 | 中程度 |
ミガキ丸棒と黒皮丸棒の比較
機械設計において、丸棒の選定は部品の性能やコストに大きく影響します。特に、ミガキ丸棒と黒皮丸棒のどちらを選ぶかは、用途や要求される精度によって重要なポイントとなります。本項では、これら2つの丸棒の特徴、違い、選定ポイントを詳しく解説します。
ミガキ丸棒と黒皮丸棒の概要
ミガキ丸棒
- 製造工程: 黒皮丸棒を研磨(ミガキ)加工し、表面を滑らかに仕上げた棒材。
- 特徴
- 高い寸法精度(真円度や直径のばらつきが少ない)。
- 表面が平滑で光沢があり、直接使用可能な場合が多い。
- 主に高精度や高強度が求められる部品に使用。
黒皮丸棒
- 製造工程: 熱間圧延のみで仕上げられた丸棒。表面に酸化スケール(黒皮)が残った状態。
- 特徴
- ミガキ丸棒に比べて表面精度や寸法精度は劣る。
- コストが安く、大量生産品や粗加工を前提とした用途に適している。
- 主に加工や溶接を前提とした部品に使用。
特性比較表
項目 | ミガキ丸棒 | 黒皮丸棒 |
---|---|---|
表面仕上げ | 滑らかで光沢がある | 粗く、黒皮(酸化スケール)が残る |
寸法精度 | 高い(公差:h9~h11程度) | 低い |
真円度 | 高い | 一定ではない |
加工性 | 優れている | 切削前の準備が必要(黒皮除去など) |
耐腐食性 | 未処理では低い | 未処理では低い |
コスト | 高い | 安価 |
用途 | 精密部品、シャフト、ピンなど | 建築資材、溶接部品、粗加工部品 |
ミガキ丸棒と黒皮丸棒の用途別の使い分け
ミガキ丸棒を選ぶべき場合
- 高精度が求められる場合
- 例: 回転軸、ピストンロッド、ガイドピンなど。
- 理由: 高い寸法精度と滑らかな表面により、切削加工の手間が省ける。
- 仕上げ加工を最小限に抑えたい場合
- ミガキ加工済みのため、追加の表面仕上げが不要な場合が多い。
- 外観を重視する場合
- 滑らかで光沢のある表面仕上げが見栄えを良くする。
黒皮丸棒を選ぶべき場合
- コスト重視の場合
- 例: 建築資材、溶接部品、大型機械の構造部材など。
- 理由: 安価であるため、加工後に不要となる部分が多い場合にも適している。
- 大まかな加工が前提の部品
- 表面の黒皮は切削加工や溶接に影響を与えるため、除去が必要。
- 溶接用途
- 熱間圧延の表面(黒皮)が初期の防錆効果を持ち、溶接後の仕上げを考慮しやすい。
選定時の注意点
ミガキ丸棒を使用する際の注意点
- コスト面
- 黒皮丸棒に比べて価格が高い。必要以上の精度が不要な場合にはコスト増になる。
- 錆びやすさ
- 表面が滑らかであるため、防錆処理を行わないと錆が発生しやすい。
- 対策
- 黒染めやメッキなどの表面処理を施す。
黒皮丸棒を使用する際の注意点
- 表面精度の低さ
- 黒皮が残っているため、加工前に表面処理が必要な場合がある。
- 真円度の不足
- 軸受けやシャフト用途には適さない。高精度が必要な場合は事前に研磨を行う。
実際の選定事例
事例1: 精密シャフト
用途: モーターやガイドシャフトに使用する精密シャフト。
選定材料: ミガキ丸棒(S45C、SUS304など)。
理由: 高い寸法精度と真円度が求められるため、ミガキ丸棒が適切。
建築用補強材
用途: 建物や構造物の補強部品。
選定材料: 黒皮丸棒(SS400など)。
理由: 強度が必要だが、寸法精度や仕上げは要求されないため黒皮丸棒が最適。
ミガキ丸棒と黒皮丸棒のまとめ
特徴 | ミガキ丸棒 | 黒皮丸棒 |
---|---|---|
長所 | 精密、滑らかな表面 | 安価、大量生産向け |
短所 | 高価、錆びやすい | 寸法精度が低い、加工前準備が必要 |
機械設計における材料選定では、部品の用途、加工方法、コストを総合的に考慮する必要があります。ミガキ丸棒は精密加工や高性能部品に適しており、黒皮丸棒はコストパフォーマンスを重視した用途に適しています。適切な選定により、設計の品質向上とコスト削減を両立させましょう。
まとめ
S45Cミガキ丸棒は、強度、加工性、寸法精度のバランスが取れた材料として、機械設計のあらゆる場面で活用されています。その特性を最大限に活かすためには、使用条件や加工方法を正しく理解し、適切な材料選定を行うことが重要です。
この記事を参考に、S45Cミガキ丸棒を効果的に活用し、信頼性の高い部品設計に役立ててください!
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