機械設計における動力の制御方法|基本から応用まで解説

動力選定

機械を動かすためには、適切な動力を選定し、それを効率的に制御することが不可欠です。
動力の制御方法には、電気的制御、機械的制御、流体制御などがあり、それぞれの特性を理解することで、適切な設計が可能になります。

本記事では、機械設計における動力の制御方法について、初心者にもわかりやすく解説します。


動力の種類と基本的な制御方法

機械の動力には、大きく分けて以下の3つの種類があります。

動力の種類主な制御方法代表的な機器
電動(電気)インバーター、サーボ、PLCモーター、電磁弁、ヒーター
機械的制御クラッチ、ギア比、ブレーキクラッチ、ギア、カム機構
流体(空圧・油圧)ソレノイド、バルブシリンダー、油圧ポンプ、エアアクチュエーター

それぞれの動力について、制御方法を詳しく見ていきましょう。


電動(電気)による制御

電気を動力源とする制御は、現在の機械設計で最も一般的に使用される方法です。
PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)を用いたラダー回路を組み合わせることで、高度な自動制御も可能になります。

主な電動(電気)による制御方法

ラダー図・PLC制御

  • スイッチやセンサーの信号を基に自動制御
  • 例:自動機のON/OFF制御

インバーター制御

  • モーターの回転数を可変制御する方法
  • 例:コンベアの速度調整
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サーボ制御

  • 位置やトルクを精密に制御する方法
  • 例:ロボットアームの動作制御

電磁弁制御

  • 空気圧や油圧を電気的に制御する方法
  • 例:エアシリンダーの開閉

機械的制御

電気制御を使わず、機械的な仕組みを利用して動力を制御する方法です。
シンプルな構造で制御できるため、電気回路が不要な場面で活躍します。

主な機械的制御方法

クラッチ制御

  • 動力をON/OFFする機械的機構
  • 例:プレス機の打ち抜き動作の切り替え
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ギヤ比制御

  • ギヤの組み合わせで回転速度やトルクを調整
  • 例:減速機を用いた低速・高トルク動作

ブレーキ制御

  • 動力を停止・減速するための制御方法
  • 例:エレベーターの停止機構
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カム機構

  • 回転運動を直線運動に変換する制御
  • 例:工作機械の送り機構

流体(空圧・油圧)による制御

空気(エア)や油圧を利用してアクチュエーターを動かす制御方法です。
高トルクやスムーズな動作が求められる場合に有効です。

主な流体(空圧・油圧)による制御方法

ソレノイドバルブ制御

  • 電気信号でエア・油圧の流れをON/OFF
  • 例:エアシリンダーの伸縮制御

流量調整バルブ制御

  • 流量を段階的に制御する方法
  • 例:油圧シリンダーの速度調整

圧力制御

  • 圧力スイッチで適切な動作を維持
  • 例:射出成形機の圧力調整

ダンパー・アキュムレータ制御

  • 衝撃や振動を吸収し、動作を安定化
  • 例:クレーンや建設機械の動作制御
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必要な動作の種類の選定ポイント|用途別の最適な制御方法を解説!

機械を設計する際、どのように動力を制御するかは非常に重要です。
適切な制御方法を選ぶことで、機械の性能向上・省エネ・コスト削減を実現できます。

✅「単純なON/OFF制御
✅「速度調整が必要な場合
✅「精密な位置決めが必要な場合

上記3つのケースに分けて、それぞれに適した制御方法を解説します!


単純なON/OFF制御(リレー・PLC・クラッチ制御)

どんな場面で使う?

  • モーターやシリンダーを一定の動作でON/OFFする機械
  • シンプルな機構でコストを抑えたい場合
  • 動作のタイミングを電気信号で制御したい場合

例えば、
コンベアの「スタート/ストップ」
ポンプの「ON/OFF」
エアシリンダーの「伸びる/縮む」

このような制御に適しています。

主な制御方法

制御方法特徴用途の例
リレー制御機械的なスイッチでON/OFFを制御小規模な装置、シンプルな回路
PLC制御(ラダー図)プログラムでON/OFFを柔軟に制御自動機、複数の信号を使う装置
クラッチ制御動力の伝達を機械的にON/OFFプレス機、旋盤、コンベア駆動

各制御方法の選び方

  • シンプルな装置 → リレー制御
  • 複雑な制御や変更が多い → PLC制御(ラダー図)
  • 物理的に動力をON/OFFしたい → クラッチ制御

速度調整が必要(インバーター・流量調整バルブ)

どんな場面で使う?

  • モーターの回転数を可変にしたい場合
  • 空気や油の流れを調整して動作をスムーズにしたい場合
  • 省エネや負荷軽減をしたい場合

例えば、
コンベアの速度調整(速く/遅く)
送風機の風量調整
シリンダーの動作スピード調整

このような制御に適しています。

主な制御方法

制御方法特徴用途の例
インバーター制御モーターの回転速度を自由に調整搬送機、ファン、ポンプ
流量調整バルブ流体の流れを制御して速度を調整エアシリンダー、油圧アクチュエーター

各制御方法の選び方

  • モーターの速度を変えたい → インバーター制御
  • エアや油の流れを調整したい → 流量調整バルブ
はじめ
はじめ

インバーター制御は電気的に速度を調整するため、エネルギー効率が良く、省エネ効果が期待できます。
一方で、流量調整バルブはシンプルな構造でメンテナンスがしやすいですが、調整の精度が必要な場合は慎重に選定しましょう。


精密な位置決め(サーボモーター)

どんな場面で使う?

  • 指定した位置に正確に停止させたい場合
  • ロボットアームやCNCなど、高精度な動作が必要な機械
  • 力加減や動作の制御をプログラムしたい場合

例えば、
ロボットアームの位置決め
CNC工作機械の工具移動
自動組立装置の部品搬送

このような制御に適しています。

主な制御方法

制御方法特徴用途の例
サーボモーター制御位置・速度・トルクを精密に制御できるロボット、CNC、FA機器

サーボモーターのメリット

高精度で位置制御ができる(ミクロン単位の制御が可能)
トルク制御ができる(一定の力で押す・引く動作が可能)
プログラムで複雑な動作が可能(PLCと組み合わせて最適制御)

はじめ
はじめ

サーボモーターは制御が難しく、コストも高いですが、高精度な動作が求められる機械では必須の選択肢となります。


用途に応じた最適な動力制御を選ぼう!

機械設計において、動力制御の選定は性能やコストに大きく影響します。

制御が必要な内容適した制御方法主な用途
単純なON/OFFリレー・PLC・クラッチ制御ポンプ、シリンダー、コンベア
速度調整インバーター・流量調整バルブ搬送機、ファン、エアシリンダー
精密な位置決めサーボモーター制御ロボット、CNC、自動機

シンプルな制御はリレーやPLCで対応可能
速度調整が必要ならインバーターやバルブを活用
精密な動作が必要ならサーボモーターを採用

適切な制御方法を選ぶことで、機械の性能を最大限に引き出し、効率的で安定した動作を実現できます。

はじめ
はじめ

機械設計をする際は、「何を制御したいのか?」を明確にして、最適な制御方法を選びましょう!

動作のスピードとトルクについての選定ポイント

機械を設計する際、「どのように動力を制御するか」は重要なポイントです。特に、**速度やトルク(力)**の要件によって、最適な制御方法が変わります。

高速・低トルク → エアシリンダー
低速・高トルク → 油圧シリンダー
中速・調整可能 → インバーターモーター

上記3つのケースに分けて、それぞれに適した制御方法を解説します!


高速・低トルク(エアシリンダー)

どんな場面で使う?

エアシリンダーは、圧縮空気を利用して高速で直線運動をする機器です。
「素早く動かしたいが、大きな力は不要」という場面で活躍します。

ワークの搬送(軽量なもの)
開閉動作(ドア・ゲート)
ピック&プレース(小型ロボットのアーム)

エアシリンダー特徴

メリットデメリット
動作が速い(数ミリ秒〜数秒)力(トルク)が弱い
シンプルな構造でコストが安い速度や位置の制御が難しい
クリーンでメンテナンスが容易圧縮空気の供給が必要

エアシリンダー適した用途

  • 短距離の直線運動
  • 軽量なワークの高速搬送
  • 単純なON/OFF制御(押す・引く動作)
はじめ
はじめ

エアシリンダーは、「高速な直線運動」が得意ですが、「力をかけ続ける動作」には向きません。
また、エアの圧力によって速度は変化するため、厳密な制御には工夫が必要です。


低速・高トルク(油圧シリンダー)

どんな場面で使う?

油圧シリンダーは、オイルの圧力を利用して大きな力を発生させる機器です。
「ゆっくり動いてもいいが、大きなトルク(押す力・引く力)が必要」という場面で活躍します。

プレス機(圧力をかける機械)
建設機械(ショベルカー・クレーン)
大型のワーク搬送(重量物をゆっくり動かす)

油圧シリンダー特徴

メリットデメリット
大きな力(トルク)が出せる速度は遅め(電動に比べると)
負荷が変わっても動作が安定オイル漏れのリスクがある
長時間の負荷に強いメンテナンス(オイル交換など)が必要

油圧シリンダー適した用途

  • 重量物の持ち上げ・押しつぶし
  • 建設機械・工作機械
  • 連続した大トルクが必要な場面
はじめ
はじめ

油圧シリンダーは、「大きな力をかける作業」に最適ですが、精密な位置制御は苦手です。
また、油圧ポンプや配管などの設備が必要になるため、初期コストとメンテナンスが課題になります。


中速・調整可能(インバーターモーター)

どんな場面で使う?

インバーターモーターは、電源の周波数を制御することで、モーターの回転速度を変えられる機器です。
**「中速で、速度を調整しながら動かしたい」**という場面で活躍します。

コンベアの速度調整
ポンプ・ファンの流量制御
旋盤・フライス盤などの加工機械

インバーターモーター特徴

メリットデメリット
速度を自由に調整できる初期コストが高い
安定した動作が可能トルクは油圧ほど大きくない
メンテナンスが少なく長寿命制御回路の設計が必要

インバーターモーターの適した用途

  • 速度を変えながら動作させる機械
  • 中程度のトルクが必要な場合
  • 連続運転する装置(ポンプ・ファンなど)
はじめ
はじめ

インバーターモーターは、「速度を変えたい場面」で最適ですが、「非常に大きなトルクが必要な場面」では油圧に劣ります。
また、制御にはPLCやセンサーとの組み合わせが必要になることが多いです。

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動力制御は用途に合わせて選ぼう!

動力制御を選定するときは、「速度」と「トルク(力)」のバランスを考えることが重要です。

用途適した制御方法特徴
高速・低トルクエアシリンダー素早い動作が可能、軽量物向け
低速・高トルク油圧シリンダー大きな力が出せる、重量物向け
中速・調整可能インバーターモーター速度変更が可能、安定した動作

「軽くて速く動かす」ならエアシリンダー
「ゆっくり大きな力を出す」なら油圧シリンダー
「速度を調整しながら動かす」ならインバーターモーター

はじめ
はじめ

最適な制御方法を選ぶことで、機械の効率や耐久性を向上させることができます。
用途に応じた動力制御を選び、最適な機械設計を目指しましょう!

環境条件

  • 粉塵・水濡れ環境 → 機械的制御・油圧制御
  • クリーンルーム環境 → エア駆動・電気制御
  • 省エネ重視 → 電動モーター・インバーター制御

まとめ

動力の制御方法には、電気制御・機械的制御・流体制御の3つがあり、それぞれに適した用途があります。
適切な制御方法を選ぶことで、効率的で信頼性の高い機械設計が可能になります。

電気制御 → 精密な制御が可能、PLCやインバーターで制御
機械的制御 → シンプルな構造で耐久性が高い
流体制御 → 大きな力を制御できる、スムーズな動作

機械の用途や環境に応じて最適な制御方法を選定し、効率的な機械設計を行いましょう!


はじめ
はじめ

モーターやアクチュエーターなど、機械の駆動源に関する基礎知識と選定基準をまとめています。

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