「てこを使えば、重いものもラクに持ち上がる」
これは誰もが学校で一度は学ぶ「てこの原理」。
では、なぜてこを使うと小さな力で大きなものを動かせるのでしょうか?
そのカギとなるのが、「モーメント(力のモーメント)」という力学の考え方です。
この記事では、てこの原理の基本から、機械設計への具体的な応用まで、初心者にもわかりやすく解説します。
てこの原理とは?
てこの原理とは、支点を中心にして、棒などを回転させることで力を増幅する仕組みのこと。
力の関係は以下のように表されます。
力 × 腕の長さ = モーメント(回転させようとする力)
てこの両端にかかる力がつり合うとき、
力A × 長さA = 力B × 長さB
になります。
つまり、長さを伸ばすことで、より小さな力で大きな重さを持ち上げられるのです!
モーメントってなに?
モーメントとは、「回転させようとする力」のこと。単位は N・m(ニュートン・メートル)です。
モーメント = 力 × 支点からの距離(= 腕の長さ)
- 腕の長さ(てこの棒の長さ)が長くなればなるほど、少ない力でも大きなモーメントが得られます。
- モンキーレンチやパイプレンチを長くすると、固いボルトも回しやすくなるのはこのためです。
具体的な例で見てみよう
たとえば、50kg(=約500N)の物体を持ち上げたいとき、
- 物体側の長さ(力点)が 0.5m
- 自分の側の長さ(作用点)が 2.0m
だとすると、必要な力は
→ 500N × 0.5m = 力 × 2.0m
→ 力 = 125N(≒13kg)


約4分の1の力で持ち上げられます!
機械設計での「てこ」の活用例
てこの原理は、実際の機械設計でも非常に多く使われています。
応用例 | 内容 |
---|---|
トグルクランプ | 少ない力で大きな締め付け力を発揮 |
足踏み式ペダル | 足の力をてこの作用で部品に伝える |
プレス機械 | 手動レバーやリンクで大きな押し込み力を発生 |
ドアハンドル | ノブの端を押すことで、軸に大きなモーメントを与える |
車のジャッキ | 少しずつ回すことで、車の重さを持ち上げる |
【注意】てこは便利だけど万能じゃない!
~設計で気をつけたい “てこの落とし穴”~
「てこを使えば、少ない力で大きなものを動かせる!」
これは機械設計でもよく知られたメリットです。
でも、ちょっと待ってください。
てこには意外な落とし穴もあります。
正しく使わないと、思わぬ不具合や非効率につながることも…。
この記事では、てこ構造の注意点を初心者にもわかりやすく解説します。
てこは「距離」で力をカバーする仕組み
てこは「モーメントの原理(力 × 腕の長さ)」を使って、少ない力で大きな物体を動かす構造です。
でもその代わりに、力を加える距離が長くなるという特徴があります。
たとえば…
- 500Nの重さを1/4の力(125N)で持ち上げたい場合
→ 力を加える場所は4倍の距離を動かす必要がある!
つまり、「小さい力で動かす」ことはできても、「短い距離で動かす」ことは難しいということです。
注意1:スペースが足りないと使えない!
てこは「長いアーム(てこの棒)」があるからこそ、力を小さくできます。
でも逆に言えば、アームが長く取れないとてこの効果が薄くなるのです。
⚠️ こんな場面に注意
- 機械の中で部品配置に制限があるとき
- 小型装置で可動域が限られているとき
- 配線やパイプが邪魔で、アームを大きく振れないとき

スペースが限られている場所では、てこの構造がかえって邪魔になることも!
注意2:動作スピードが遅くなる
てこは「力の代わりに距離で稼ぐ」ので、アームを大きく動かさないといけません。
つまり…
- 入力側をたくさん動かさないと、出力側がちょっとしか動かない。
- ストローク(移動距離)が長くなり、動作が遅く感じる。
🔍 たとえば
- 手動レバーで10cm動かしても、先端が1cmしか動かない設計だと
➡ 作業に時間がかかる!
➡ 連続動作には向かない!

高速動作が必要な場面には、てこは不向きな場合もあるのです。
設計で考えるべき「3つのバランス」
てこを使うときは、以下の3つの要素をバランスよく設計することが重要です。
要素 | 意味 | 注意点 |
---|---|---|
力の大きさ | 出力に必要な力の量 | 減らすにはてこの腕を長くする必要がある |
移動距離 | 入力側のストローク量 | 長くなると、設置スペースや操作性に影響 |
動作スピード | どれくらい速く動作するか | 距離が長いほど、動作が遅くなる傾向 |
🔍 たとえば
- 狭い場所 → 腕の長さに制限 → てこ効果が下がる
- 高速動作が必要 → ストロークを短くしたい → モーメントが足りなくなる
➡ 結果として、てこの“省力効果”が出ないこともあります。
てこは「使いどころ」が大事!
- てこは、少ない力で大きな力を得る素晴らしい原理
- でもその代わり、大きく動かす必要がある
- スペースやスピードに制限がある設計には不向きなことも
- 設計では「力・距離・速さ」のバランスをしっかり考えるべき!
🛠 てこは強力な武器。でも万能ではありません。

「この場面で本当にてこでいいのか?」
そう考えながら、スマートな設計をしていきましょう!
まとめ:モーメントを制する者が、力を制す!
✔ 「てこの原理」はモーメント(力×距離)によって成り立つ
✔ 腕が長ければ小さな力でも大きなものを動かせる
✔ 多くの装置や工具に「てこ原理」が応用されている
設計では、省力化・省スペース・効率の観点から活用方法を検討しよう
「小さな力で、大きな仕事」
てこはその代表的なメカニズムです。
あなたの設計にも、“賢くてこ”を取り入れてみませんか?
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