機械設計を学び始めると必ず出てくるのが「力の合成」と「力の分解」です。
例えば、ボルトや部品にかかる力を正しく理解しなければ、強度不足による破損や設計ミスにつながります。
✔ 力の合成(複数の力をまとめる)
複数の力が作用するときに、それを1つの「合力」として表す方法。
✔ 力の分解(1つの力を分ける)
ある力を、基準となる方向に沿った成分に分けて考える方法。
この2つを理解することで、複雑な力の問題もシンプルに考えられるようになります。
自動計算フォーム~力の合成と分解~
力の合成

力の分解①(水平と垂直)

力の分解②(傾斜のある力の分解)

力の合成の基本
同一直線上の力の合成
最も簡単なケースは、同じ直線上にかかる力の合成です。
- 同じ向きの力 → 大きさを足す
- 逆向きの力 → 大きさを引く
🔍 例)
10 N の力と 15 N の力が同じ向きに作用 → 合力は 25 N
10 N と 15 N が逆向きに作用 → 合力は 5 N(大きい方の方向)
👉 機械設計では、ベルトやチェーンの張力、ボルトの軸力などでよく出てきます。
角度のある力の合成(平行四辺形の法則)
2つの力が角度を持って働くときは「平行四辺形の法則」を使います。
合力の大きさは以下で求められます。
\( \displaystyle R=\sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2 \cos \theta}\)
ここで、
- R:合力(Resultant force)
- F1,F2:それぞれの力の大きさ
- θ:力の間の角度
また、合力の向きは以下で表せます。
\( \displaystyle tan \alpha = \frac{F_2 \sin \theta}{F_1 + F_2 \cos \theta}\)

上記、自動計算フォーム(力の合成)の入力式になります。
具体例:2つの力の合成
ある物体に対して、次の2つの力が同時に作用しています。
- 水平方向に 100 N の力(F1)
- それに対して 60° の角度で、80 N の力(F2)が斜め上向きに作用している
🔧 設定条件
項目 | 内容 | 計算フォームの値 【力の合成】 |
---|---|---|
荷重の大きさ F1 | F1 = 100 N | 100 |
荷重の大きさ F2 | F2 = 80 N | 80 |
荷重の方向 θ | 水平(F1)に対して 60° | 60 |
このとき、2つの力を合成して、合力の大きさと向きを求めると…
合力の大きさ
\( \displaystyle R=\sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2 \cos \theta}\)
\( \displaystyle R=\sqrt{100^2 + 80^2 + 2×100×80× \cos 60°}\)
\( \displaystyle R=\sqrt{10000 + 6400 + 8000}\)
\( \displaystyle R=\sqrt{24400}≈156.205\)
合力の向き(水平からの角度 α)
\( \displaystyle tan \alpha = \frac{F_2 \sin \theta}{F_1 + F_2 \cos \theta}\)
\( \displaystyle tan \alpha = \frac{80 \sin 60°}{100 + 80 \cos 60°}\)
\( \displaystyle tan \alpha = \frac{69.282032303}{140}=0.49487166\)
\( \displaystyle α = arctan(0.49487166)≈26.330°\)
物体には約 156.205 N の力が、水平から 26.330° 上向きの方向に働いていることになります。
つまり、2つの力を合わせると、より強い力が斜め方向に作用しているということです。
力の分解の基本
力の分解の基本式
1つの力 F を、基準となる2方向に分ける場合
\( \displaystyle F_x = Fcosθ\)
\( \displaystyle F_y = Fsinθ\)

これが「分力」の考え方です。
上記、自動計算フォーム(力の分解①)の入力式になります。
具体例①:2つの力の分解(水平と垂直)
例題:斜めに引っ張る力
100 N の力でロープを水平に対して 30° 上向きに引いた場合、水平成分と垂直成分を求める。
🔧 設定条件
項目 | 内容 | 計算フォームの値 【力の分解①】 |
---|---|---|
荷重の大きさ F | F = 100 N | 100 |
荷重の方向 θ | 水平に対して 30° | 30 |
水平方向
\( \displaystyle F_x = Fcosθ\)
\( \displaystyle F_x = 100×cos30°\)
\( \displaystyle F_x ≈86.6N \)
垂直方向
\( \displaystyle F_y = Fsinθ\)
\( \displaystyle F_y = 100×sin30°\)
\( \displaystyle F_y = 50N\)
このとき、ロープが水平に支えるのは 86.6 N、持ち上げる方向に働くのは 50 N という意味です。
具体例②:2つの力の分解(傾斜のある力の分解)
傾斜45°のガイドレールに垂直荷重がかかる場合
ある機械装置において、ガイドレールが水平面に対して45度の角度で傾斜して取り付けられている。
このガイドレール上に搭載された部品に対して、重力による垂直下向きの荷重が100N作用している。
設計者は、この荷重を「ガイドレールの進行方向(レール軸方向)」と「レールに垂直な方向(支持方向)」に分解し、それぞれの力成分を算出する必要がある。
🔧 設定条件
項目 | 内容 | 計算フォームの値 【力の分解②】 |
---|---|---|
荷重の大きさ F | F = 100 N | 100 |
荷重の方向 θ | 垂直下向き(重力方向) | 270 |
座標系(F1) α | F1:レール方向 | 225 |
座標系(F2) β | F2:レールに垂直な方向 | 315 |
🧮 分解の考え方
荷重Fは垂直方向(鉛直)に作用していますが、ガイドレールが45°傾いているため、
この荷重を「レール方向(X軸)」と「レールに垂直な方向(Y軸)」に分解します。
- 荷重方向 θ = 270°(真下)
- レール方向 α = 225°(F1)
- レール垂直方向 β = 315°(F2)
分解式(傾斜のある力の分解)
ある力 F が、ある方向(角度 \theta)に向かって作用しているとします。
この力を、任意の2方向(たとえばF1方向とF2方向)に分けたい場合、それぞれの方向がどの角度にあるかを指定する必要があります。
ここでは、F1方向が角度α、Y方向が角度β にあるとします。
このとき、力の分解は以下のように行います。
F1方向の成分
「力の向き」と「F1方向の向き」の角度差を使って、
\( \displaystyle F1 = F×cos(θ-α)\)
つまり、力がF1方向にどれだけ寄与しているかを計算します。
\( \displaystyle F1 = 100×cos(270-225)\)
\( \displaystyle F1 = 100×cos(45)\)
\( \displaystyle F1 ≈70.7N\)
F2方向の成分
同様に、F2方向との角度差を使って、
\( \displaystyle F2 = F×cos(θ-β)\)
F2方向への寄与を求めます。
\( \displaystyle F2 = 100×cos(270-315)\)
\( \displaystyle F2 = 100×cos(-45)\)
\( \displaystyle F1 ≈70.7N\)
解釈と設計への応用
成分 | 意味 | 設計での使い方 |
---|---|---|
F1(70.7 N) | レール方向の成分(滑ろうとする力) | 摩擦力の計算、駆動力の検討 |
F2(70.7 N) | レールに垂直な成分(押し付ける力) | ガイドの支持力、変形・接触圧の評価 |
機械設計での具体的な利用シーン
ボルトやピンの設計
斜めの力を受けるボルトでは、軸方向の引張力と横方向のせん断力に分解して評価します。
軸力が大きければ引張強度を確認し、横方向が大きければせん断破壊を防ぐ設計が必要です。
クレーンや吊り具の設計
ワイヤーロープを角度をつけて吊る場合、ロープの張力は重さ以上に大きくなります。
分解を正しく行わないと、強度不足で破断事故につながります。
👉 荷重分担を誤解して「1/2 で済む」と考えると大事故の原因になります。
リンク機構やカム機構
複雑な動きをする機械要素では、各部材にかかる力を分解して解析しなければ正しい寸法や材質を選べません。
注意点・設計者が陥りやすいミス
- 角度の取り方を間違える
- 力を分解する際に、基準軸に対してどの角度を測っているかを誤解すると計算が逆になります。
- 単位の統一を忘れる
- N(ニュートン)、kgf(重量キログラム)、トンなど混在させると誤差が生じます。
👉 設計では基本的に「N(ニュートン)」で統一するのが推奨。
- N(ニュートン)、kgf(重量キログラム)、トンなど混在させると誤差が生じます。
- 摩擦や実際の条件を無視する
- 理論上はきれいに分解できても、実際の現場では摩擦・たわみ・弾性変形などが影響します。
👉 計算結果に「安全率」を掛けるのが基本です。
- 理論上はきれいに分解できても、実際の現場では摩擦・たわみ・弾性変形などが影響します。
- CADやCAE任せにしすぎる
- 解析ソフトを使うと自動で結果が出ますが、力の分解・合成の原理を理解していないと入力条件を間違え、全く異なる結果になる危険があります。
初心者への推奨ポイント
- まずは斜めの力を「直角方向に分ける」練習を繰り返す
- 図を描き、ベクトルの向きと大きさを意識する
- 実際の設計に近い例(ボルト、ロープ、斜面)でイメージを掴む
- 最初は手計算 → 慣れてからソフトを活用する
まとめ
「力の合成と分解」は、機械設計の基礎中の基礎でありながら、実務に直結する重要な考え方です。
✔ 合成 → 複数の力をまとめて考える
✔ 分解 → 1つの力を成分に分けて考える
これを理解すると、荷重計算、強度設計、安全設計などの幅広い場面で役立ちます。
記事冒頭にある「自動計算フォーム」を活用すれば、実際に数値を入力して理解を深められます。
ぜひ手を動かしながら、力の基本を身につけてください。
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