機械設計における「コストと性能」のトレードオフとは?【高性能?低コスト?】

図面・CAD

~高性能=正解ではない!設計判断に必要な視点~

機械設計の現場で必ず直面するテーマが、「コストと性能のバランス」です。
高性能な部品や構造を追い求めれば製品の品質は上がりますが、その分コストも跳ね上がります。
一方、コストを抑えようとすれば、どこかで性能に折り合いをつけなければなりません。

この記事では、「高性能 vs 低コスト」という典型的なトレードオフについて、初心者でも理解しやすいように事例を交えて解説していきます。


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高性能にすると、なぜコストが上がるのか?

「高性能」と聞くと、つい魅力的に感じますよね。たしかに、高性能=高品質=良い設計、と考えがちです。

しかし、以下のような要素を取り入れると、必然的にコストは増加します。

高精度な加工

部品の寸法精度を±0.01mmのように厳しく設定すると、高度な加工技術や精密な測定機器が必要になります。
加工時間もかかるため、1個あたりの加工費が大幅に上昇します。

高性能な材料

例えば、鋼材(SS400)に比べて、ステンレス(SUS304)は耐食性が高く強度もありますが、材料単価も加工難度も高くなります
また、チタンやCFRPのような特殊材料はさらに高価で、取り扱いにも注意が必要です。

複雑な構造

強度を稼ぐために中空構造やリブを設けたり、組立精度を向上させるためのジグ設計を追加したりすると、設計工数も製造工数も増加します。


一方で、コストを下げると何が起きる?

コストを抑える設計も、もちろん可能です。量産性やコスト効率を重視した設計は、製造業の現場でとても重要な考え方です。

しかし、その分以下のような性能面の「割り切り」が必要になります。

加工公差を緩めると組立性や動作精度が落ちる

±0.5mmの公差なら加工費は安く済みますが、組立時にガタつきが出たり、性能が安定しないことがあります。

材料を安価なものにすると耐久性や耐食性が落ちる

SS400のような汎用鋼材は安価で加工もしやすいですが、耐食性に劣り、屋外や腐食環境では不向きです。

構造を単純化すると剛性や安全率が低下する

強度を保つためのリブや補強がなければ、荷重に対して変形しやすくなり、安全率を確保できなくなる場合もあります。


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実例で考える!コストと性能のバランス取り

ここでは、設計現場でよくあるケースをいくつか見てみましょう。


【事例①】SUS304かSS400か?

  • SUS304: 高価、耐食性○、強度○
  • SS400: 安価、耐食性×、強度△

▶ 用途が屋内で一時的に使う治具なら、SS400でも十分です。
食品機械や屋外構造物であれば、腐食リスクを避けるためSUS304が妥当。

 👉 使う環境に応じて、性能をどこまで求めるかが判断基準になります。


【事例②】アルミ vs 鉄材

  • アルミ(A5052など): 軽い、加工性◎、腐食に強いが高価
  • 鉄材(SS400など): 重い、安価、強度○、錆びやすい

▶ 可搬装置や重量制限のある構造にはアルミ
▶ 据え置き型や屋内用には鉄材で十分な場合も


【事例③】表面処理:アルマイト vs 無処理

  • アルマイト: 耐摩耗・耐腐食○、外観◎、でもコスト↑
  • 無処理: 加工そのまま、コスト↓、でも耐久性△

▶ 外観・耐久性が必要な場合はアルマイト
▶ 試作や一時使用なら無処理でも可

【事例④】±0.01mmの公差は必要か?

たとえば回転シャフトと軸受のはめあいで、「どうしても高精度が必要」と思いがちですが…

▶ 実際は±0.05mmでも機能に支障がないなら、それで十分です。
▶ 公差が厳しすぎると、加工費が数倍になることも珍しくありません。

 👉 機能に対して“本当に必要な精度”を見極めることがコスト削減のカギです。

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【事例⑤】歯車製作方法:モジュール切削 vs 標準品購入

  • 切削製作: 特注対応可、でも時間&コスト↑
  • 標準品: すぐ手配可能、安価、設計制限あり

▶ 標準品で済むなら必ずそちらを優先
▶ 特注は「やむを得ない場合」だけに


【事例⑥】直動ブッシュの種類選定:リニアブッシュ or 無給油ブッシュ

  • リニアブッシュ: 高価、低摩擦、高精度、メンテナンス少
  • 無給油ブッシュ: 安価、摩擦大、低速回転向き、給油不要

▶ 高速回転・高精度が必要な箇所にはリニアブッシュを採用
▶ 低速・簡易構造には無給油ブッシュでコスト削減可能


【事例⑦】モーター:汎用ACモーター vs サーボモーター

  • ACモーター: 安価、単純駆動に向く
  • サーボモーター: 高精度制御・位置決め可、でも高価+制御装置も必要

▶ 単純回転でOKな搬送機にはACモーター
▶ 高精度な加工機にはサーボが必須

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【事例⑧】カバー素材:アクリル vs ポリカーボネート

  • アクリル: 安価・透明性◎、でも衝撃に弱い
  • ポリカ: 衝撃◎・耐熱性○、でも高価・若干曇り気味

▶ 軽衝撃&コスト重視であればアクリル
▶ 衝撃が懸念される場所ではポリカを選定

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【事例⑨】エンコーダ:インクリメンタル vs アブソリュート

  • インクリメンタル: 安価・軽量、でも原点復帰が必要
  • アブソリュート: 高機能・原点不要、でも高価

▶ 簡易な位置検出ならインクリメンタル
▶ 再起動時の原点復帰が面倒ならアブソリュートを選定


【事例⑩】溶接 vs ボルト締結

  • 溶接構造: 一体化で剛性○、でも再整備×・歪み注意
  • ボルト構造: 分解・調整○、でも部品点数増・コスト↑

▶ 一度組めばOKな構造には溶接でコスト抑制
▶ メンテ性が求められる場合はボルト固定が無難


設計段階で意識したい「判断ポイント」

コストと性能のバランスをうまく取るためには、設計時点で以下のポイントを整理しておくことが大切です。

1. 【製品の使用目的】

  • 長期間使うのか?短期間か?
  • 過酷な環境で使うか?室内か?

👉 使用条件が厳しければ高性能寄り、条件が緩ければコスト寄りでOK。

2. 【重要度の高い部分と、そうでない部分の区別】

  • 高精度・高剛性が必要なのは「主要部品」のみ。
  • 外装カバーやベースなどは簡易構造でも問題ない場合が多い。

👉 「どこにお金をかけるか」のメリハリが設計の質を決める

3. 【加工・組立のしやすさ】

  • 部品点数が多いとコストも手間も増える。
  • 複雑な加工形状や組立工程は避けることでコスト削減につながる。

👉 設計時に生産・組立側の目線も取り入れることが重要。


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まとめ:コストと性能に「正解」はない。最適解を選ぼう

機械設計における「高性能 vs 低コスト」というトレードオフは、避けて通れないテーマです。
高性能を追い求めすぎれば、コストが跳ね上がり、採算が取れない製品になります。
逆にコストばかり優先すると、品質が確保できず、信頼を失うことにもつながります。

だからこそ重要なのは、目的・使用条件・重要度などに応じて、バランスの取れた「最適な設計」を導き出すことです。

初心者の方も、「何を重視するのか?」「本当にその性能が必要なのか?」といった視点で、ぜひトレードオフを意識した設計判断をしてみてください。


はじめ
はじめ

図面とCADはアイデアを具体的な形にし、設計意図を正確に伝えるための重要な手段です。

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