なぜ油圧ポンプは油を送り出すの?~作動油の特性と油圧回路のしくみ~

初心者の「なぜ?」

産業機械や建設機械など、さまざまな分野で使われている「油圧装置」。
その中心にあるのが油圧ポンプです。

でも、初心者の方からよくこんな疑問を聞きます。

「なぜ“油”を使っているの?」
「油圧ポンプって、どうして油を送り出すの?」
「電気や空気じゃダメなの?」

この記事では、油圧ポンプの役割と仕組み、なぜ油を使うのかという理由を解説していきます。


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そもそも油圧とは?

油圧(ゆあつ)とは、「液体(作動油)に圧力をかけて動力として使う仕組み」のことです。

液体は圧縮できない(体積が変わりにくい)という性質があり、その特性を利用して、

✅ シリンダーを伸縮させる
✅ モーターを回す
✅ 大きな力を出す

といった動きを生み出します。

この“液体の圧力”を作り出すのが、まさに油圧ポンプなのです。


油圧ポンプの役割とは?

油圧ポンプの主な役割は、作動油を圧力をかけて送り出すことです。

ポンプ = 油に“”を与えて流れを作る装置

油圧ポンプ自体は油に圧力を「かけている」だけで、油を“貯めている”わけではありません。
ポンプで送られた圧力油は、配管を通って油圧シリンダーや油圧モーターに到達し、機械を動かします。


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なぜ“油”なの?作動油を使う理由

~油圧装置に欠かせない3つの性能~

油圧装置と聞くと、油を使って機械を動かす仕組みというイメージがありますよね。
でも、よくよく考えてみると…

「なぜわざわざ“油”を使うの?」
「空気(エア)じゃダメなの?」
「水じゃ力が足りないの?」

こういった疑問を持つ方も多いはずです。

本項では、なぜ油圧装置で「作動油(さどうゆ)」を使うのかについて、わかりやすく解説します。


理由①:圧縮されにくく、力を正確に伝えられる

油、つまり液体の最大の特長は「圧縮されにくい(体積がほとんど変わらない)」という性質です。

これが油圧の最大の利点です。

たとえば、空気(気体)を押し込むと縮んでしまいますが、油はほとんど縮みません。
そのため、ポンプで加えた力をダイレクトに伝えることができるのです。

どういうメリットがある?

✅ 力のロスが少なく、精密な制御が可能
✅ 小さな力で大きな出力を得られる(力の増幅がしやすい)
✅ 油圧シリンダーなどで滑らかな動きが得られる

これにより、建設機械や産業用ロボットなど、高精度・高出力が求められる分野で広く使われています。


理由②:潤滑性があり、部品を長持ちさせる

作動油には、もともと潤滑油としての性質も備わっています。

ポンプ、バルブ、シリンダーなど、油圧システムには多くの金属部品が使われていますが、
作動油がそれらの摩擦を軽減し、スムーズな動きを保つことができます。

なぜ潤滑性が重要?

✅ 金属部品同士の摩耗を減らせる
✅ 長期間の使用でも部品が傷みにくい
✅ 異音や焼き付きのリスクを低減できる

ちなみに、空気圧(エアシリンダー)では空気自体に潤滑効果がないため、
グリスなどを別途用意する必要があり、メンテナンスが増える場合もあります。


理由③:熱を運びやすい

油には「熱を運ぶ性質」もあります。
これは油圧装置の発熱対策として非常に重要です。

例えば、油圧ポンプやバルブなどが動作すると、内部で摩擦や圧縮によって熱が発生します。
その熱を作動油が吸収し、タンクへ戻る際に冷却されることで、装置の温度を一定に保てるのです。

熱を運ぶとどんなメリットがある?

✅ 過熱による部品の劣化や故障を防ぐ
✅ 油圧装置全体の安定した運転ができる
✅ 長時間稼働にも耐えられるようになる

冷却ファンや油冷クーラーと組み合わせることで、より効率的な温度管理が可能です。


油は“動力の媒体”として優秀すぎる

作動油は、単なる潤滑剤ではなく、
力を伝える」「機械を守る」「温度を管理する」という三役をこなす万能な存在です。

作動油が使われる理由まとめ

理由内容
圧縮されにくい加えた力を正確に伝えられる
潤滑性がある摩耗を防ぎ、部品が長持ちする
熱を運ぶ装置の温度上昇を抑えられる

だからこそ、油圧装置では空気や水ではなく、油(作動油)が選ばれているのです。

はじめ
はじめ

油はただの潤滑剤ではありません。
“動力を安全に、正確に、効率よく伝える”ために、まさにベストな選択肢なのです。

作動油には種類がある

実は一口に「作動油」といっても、以下のようにいくつか種類があります。

作動油の種類特徴
鉱物油系一般的。コストが安く、多用途に使われる
合成油系耐熱性・酸化安定性が高く、長寿命
水溶性油火災対策が必要な場所に。安全性重視
生分解性油環境負荷が少なく、農業機械などで使用される

装置の用途や使用環境に応じて、適切な油を選ぶことも設計の重要ポイントです。


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油圧回路の基本構成

油圧システムは「油圧回路(油の流れる経路)」で構成されています。

基本的な構成は以下のようになります。

[油タンク] → [油圧ポンプ] → [制御弁] → [アクチュエーター] → [タンクへ戻る]

各要素の役割

部品役割
油圧ポンプ作動油を加圧して送り出す
制御弁(方向弁・圧力弁・流量弁など)油の流れや圧力を調整
アクチュエーター油の力で動く(例:シリンダー)
タンク使用後の油を回収し再利用する

これらが連携して、「必要なタイミングで、必要な場所に、必要な力を」届ける仕組みになっています。


油圧ポンプの種類

油圧ポンプにもいくつかの種類があります。代表的なものを簡単に紹介します。

ギヤポンプ(安価・構造がシンプル)

  • 小型機器や定流量制御に向いている
  • 価格が安く、信頼性が高い

ベーンポンプ(中圧・静音性あり)

  • 羽根車が回転して油を送る
  • コンパクトで静音性に優れる

ピストンポンプ(高圧対応・高効率)

  • 高圧でも安定して使える
  • 建設機械や大型油圧設備に多く使われる

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油圧ポンプを設計・選定する際の注意点

初心者の設計者が油圧ポンプを選定するときには、以下のポイントをチェックしましょう。

必要流量と圧力を満たしているか?

  • 使用するアクチュエーターに必要な流量(L/min)と圧力(MPa)を確認する

作動油の種類と粘度に合っているか?

  • 油圧ポンプごとに推奨される作動油があるので、必ず仕様をチェック

回路構成に合ったタイプか?

  • 定流量がよいのか、可変流量(可変容量)がよいのか

騒音・発熱などの環境条件に配慮

  • 連続運転では冷却や騒音対策も必要

まとめ:油圧ポンプは“力を送る心臓部”

油圧ポンプは、油圧システムの中で“力を生み出し、送り出す”心臓のような存在です。

ポイントまとめ

✔ 油圧ポンプは油に圧力をかけ、装置を動かす原動力となる
✔ 作動油は圧縮されず、潤滑・冷却など多機能な液体
✔ 油圧回路は「ポンプ → 制御弁 → アクチュエーター」の流れで構成
✔ 用途や圧力に応じてポンプの種類・仕様を選定することが重要

油圧ポンプを正しく理解することは、機械全体の設計力アップに直結します。
今後は油圧制御の仕組みや、トラブル事例なども紹介予定ですので、ぜひチェックしてください!


はじめ
はじめ

モーターやアクチュエーターなど、機械の駆動源に関する基礎知識と選定基準をまとめています。

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