油圧ユニットは、ポンプ・モーター・タンク・制御弁などをまとめた動力源で、油圧シリンダやモーターを駆動するための心臓部です。
正しく選定しないと「力が足りない」「動きが遅い」「油温が上がる」といった不具合につながります。
この記事では 初心者でも理解できる油圧ユニットの選定手順 をわかりやすく解説します。
油圧ユニット選定の基本ステップ
油圧ユニットを選ぶときは、以下の流れで考えます。
- 必要な圧力を決める(力に直結)
- 必要な流量を決める(速度に直結)
- モーター容量を計算する(動力確認)
- タンク容量を決める(発熱・油量の安定)
- 運転方式を検討する(連続運転・間欠運転など)
1. 圧力の決め方(必要な力から計算)
油圧シリンダを例にすると、必要な力 F [N] は次の式で求められます。
\( \displaystyle F=P×A\)
- F:必要な力 [N]
- P:油圧 [Pa]
- A:シリンダの有効断面積 [m²]
👉 例:10kN(約1t)の力を出したい、シリンダ径φ50 mm(断面積 0.00196 m²)の場合
\( \displaystyle P=\frac{F} {A}=\frac{10,000}{0.00196}≈5.1×10^6Pa=5.1MPa\)
つまり 5 MPa程度の油圧ユニット が必要。
2. 流量の決め方(速度から計算)
シリンダの動作速度 v [m/s] から必要流量 Q [L/min] を求めます。
\( \displaystyle Q=A×v×60×1000\)
- Q:流量 [L/min]
- A:シリンダ断面積 [m²]
- v:シリンダ速度 [m/s]
👉 例:上記のφ50 mmシリンダを、100 mm/sで動かしたい場合
\( \displaystyle Q=0.00196×0.1×60×1000≈11.8L/min\)
必要流量は 12 L/min 程度。
3. モーター容量の計算
ポンプに必要な動力 N [kW] は以下で求められます。
\( \displaystyle N=\frac{P×Q} {60×η}\)
- P:圧力 [MPa]
- Q:流量 [L/min]
- η:効率(0.8程度で見積り)
👉 上記の例で、圧力5 MPa、流量12 L/min の場合
\( \displaystyle N=\frac{5×12} {60×0.8}≈1.25kW\)
👉 よって 2.2 kW程度のモーター を選定すると余裕がある。
4. タンク容量の決め方
タンク容量は、ポンプ流量の 3~5倍 を目安にします。
- ポンプ流量 = 12 L/min
- タンク容量 = 12 × 3~5 = 36~60 L程度
👉 熱がこもらないように余裕を持たせるのがポイント。
5. 運転方式の検討
- 連続運転:ポンプが常に回り続ける → 発熱対策が必要
- 間欠運転:必要な時だけ加圧 → 小型ユニットでも対応可能
👉 生産設備は連続運転、治具駆動などは間欠運転が多い。
初心者が注意すべきポイント
- 余裕を持った圧力・流量設計
→ ギリギリだと性能不足や過熱の原因に - タンク容量はケチらない
→ 油温上昇・キャビテーションの防止 - ポンプ形式の選択
→ ギヤポンプ(安価・騒音大)、ベーンポンプ(中騒音)、ピストンポンプ(高効率・高価)
油圧ユニットの選定はメーカー相談が必須な理由
油圧ユニットは、シリンダやモーターを動かすための心臓部です。
自分で計算して圧力や流量を求めることは大切ですが、実際の選定はメーカーや販売代理店と相談しながら進めるのが基本です。
なぜなら、理論計算だけではカバーできない要素が多く、実際の使用条件に合わせた微調整が必要になるからです。
計算だけでは不十分な理由
初心者の方は「必要な力と速度を計算すれば答えが出る」と考えがちですが、実務では以下の点が影響します。
- 効率や損失の影響
→ 配管抵抗、バルブの圧力損失などで実際の性能は低下します。 - 発熱・油温上昇
→ 使用環境や運転パターンで油温が大きく変わり、必要なタンク容量や冷却器の有無が変わります。 - 安全マージン
→ 設計値ギリギリではなく、余裕を持った仕様にする必要があります。

これらはカタログや経験則を知っているメーカーだからこそ正しく判断できます。
メーカー相談のメリット
メーカーや代理店に相談すると、以下のメリットがあります。
✅ 仕様の妥当性チェック
→ 自分で計算した圧力・流量が現実的かを確認してもらえる。
✅ 標準機種とのマッチング
→ 必要仕様を満たす「既製品ユニット」があるか探してもらえる。
→ 特注品にするか標準品で間に合うか判断できる。
✅ トラブル防止
→ 騒音、振動、オイル漏れ、発熱など、過去の事例から対策を提案してもらえる。
✅ アフターサービス
→ トラブル時にメーカーと連携しやすくなる。
実際の相談の進め方
メーカーに問い合わせるときは、以下の情報をまとめておくとスムーズです。
- 必要な力(または油圧シリンダのサイズ・用途)
- 動作速度(目標のストローク時間など)
- 使用環境(連続運転か間欠運転か、周囲温度など)
- 設置スペースや騒音制限
- 電源条件(200V/400V、周波数など)

これらを伝えることで、メーカーは最適なモデルを絞り込んで提案してくれます。
初心者がやりがちな失敗例
- 計算値ギリギリの仕様でユニットを選んでしまう
🚫 実際の動作で力不足や速度不足になる - タンク容量を小さく見積もる
🚫 油温上昇やキャビテーションの原因になる - 標準仕様にない条件(高温環境・低温環境など)を伝え忘れる
🚫 実際の現場で性能が出ない
- 設計計算は重要だが、それだけでは不十分
- メーカー相談によって効率損失や発熱などの実務的要素を考慮できる
- 事前に「必要な力・速度・環境条件」をまとめて伝えるとスムーズ
- 安全で信頼性の高い機械設計には、メーカーとの連携が欠かせない
油圧ユニットは単なる「部品」ではなく、システム全体の性能を左右する装置です。
計算値を根拠に持ちつつ、必ずメーカーと相談して最適な仕様を選ぶこと が成功のカギとなります。
まとめ
- 油圧ユニット選定は「圧力 → 流量 → モーター → タンク容量」の順に考える
- 圧力は「力」から、流量は「速度」から逆算
- タンク容量はポンプ流量の3~5倍が目安
- 余裕を持った設計でトラブルを防止
この基本を押さえれば、油圧ユニットを正しく選び、機械の安定稼働に貢献できます。
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