油圧ユニットの選定方法|必要な流量・圧力・タンク容量の考え方

動力選定

油圧ユニットは、ポンプ・モーター・タンク・制御弁などをまとめた動力源で、油圧シリンダやモーターを駆動するための心臓部です。
正しく選定しないと「力が足りない」「動きが遅い」「油温が上がる」といった不具合につながります。
この記事では 初心者でも理解できる油圧ユニットの選定手順 をわかりやすく解説します。


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油圧ユニット選定の基本ステップ

油圧ユニットを選ぶときは、以下の流れで考えます。

  1. 必要な圧力を決める(力に直結)
  2. 必要な流量を決める(速度に直結)
  3. モーター容量を計算する(動力確認)
  4. タンク容量を決める(発熱・油量の安定)
  5. 運転方式を検討する(連続運転・間欠運転など)

1. 圧力の決め方(必要な力から計算)

油圧シリンダを例にすると、必要な力 F [N] は次の式で求められます。

\( \displaystyle F=P×A\)

  • F:必要な力 [N]
  • P:油圧 [Pa]
  • A:シリンダの有効断面積 [m²]

👉 例:10kN(約1t)の力を出したい、シリンダ径φ50 mm(断面積 0.00196 m²)の場合

\( \displaystyle P=\frac{F} {A}=\frac{10,000}{0.00196}≈5.1×10^6Pa=5.1MPa\)

つまり 5 MPa程度の油圧ユニット が必要。

油圧シリンダについての記事はこちら

2. 流量の決め方(速度から計算)

シリンダの動作速度 v [m/s] から必要流量 Q [L/min] を求めます。

\( \displaystyle Q=A×v×60×1000\)

  • Q:流量 [L/min]
  • A:シリンダ断面積 [m²]
  • v:シリンダ速度 [m/s]

👉 例:上記のφ50 mmシリンダを、100 mm/sで動かしたい場合

\( \displaystyle Q=0.00196×0.1×60×1000≈11.8L/min\)

必要流量は 12 L/min 程度


3. モーター容量の計算

ポンプに必要な動力 N [kW] は以下で求められます。

\( \displaystyle N=\frac{P×Q} {60×η}\)

  • P:圧力 [MPa]
  • Q:流量 [L/min]
  • η:効率(0.8程度で見積り)

👉 上記の例で、圧力5 MPa、流量12 L/min の場合

\( \displaystyle N=\frac{5×12} {60×0.8}≈1.25kW\)

👉 よって 2.2 kW程度のモーター を選定すると余裕がある。


4. タンク容量の決め方

タンク容量は、ポンプ流量の 3~5倍 を目安にします。

  • ポンプ流量 = 12 L/min
  • タンク容量 = 12 × 3~5 = 36~60 L程度

👉 熱がこもらないように余裕を持たせるのがポイント。


5. 運転方式の検討

  • 連続運転:ポンプが常に回り続ける → 発熱対策が必要
  • 間欠運転:必要な時だけ加圧 → 小型ユニットでも対応可能

👉 生産設備は連続運転、治具駆動などは間欠運転が多い。


初心者が注意すべきポイント

  • 余裕を持った圧力・流量設計
     → ギリギリだと性能不足や過熱の原因に
  • タンク容量はケチらない
     → 油温上昇・キャビテーションの防止
  • ポンプ形式の選択
     → ギヤポンプ(安価・騒音大)、ベーンポンプ(中騒音)、ピストンポンプ(高効率・高価)

油圧ユニットの選定はメーカー相談が必須な理由

油圧ユニットは、シリンダやモーターを動かすための心臓部です。
自分で計算して圧力や流量を求めることは大切ですが、実際の選定はメーカーや販売代理店と相談しながら進めるのが基本です。

なぜなら、理論計算だけではカバーできない要素が多く、実際の使用条件に合わせた微調整が必要になるからです。


計算だけでは不十分な理由

初心者の方は「必要な力と速度を計算すれば答えが出る」と考えがちですが、実務では以下の点が影響します。

  • 効率や損失の影響
     → 配管抵抗、バルブの圧力損失などで実際の性能は低下します。
  • 発熱・油温上昇
     → 使用環境や運転パターンで油温が大きく変わり、必要なタンク容量や冷却器の有無が変わります。
  • 安全マージン
     → 設計値ギリギリではなく、余裕を持った仕様にする必要があります。
はじめ
はじめ

これらはカタログや経験則を知っているメーカーだからこそ正しく判断できます。


メーカー相談のメリット

メーカーや代理店に相談すると、以下のメリットがあります。

仕様の妥当性チェック
 → 自分で計算した圧力・流量が現実的かを確認してもらえる。

標準機種とのマッチング
 → 必要仕様を満たす「既製品ユニット」があるか探してもらえる。
 → 特注品にするか標準品で間に合うか判断できる。

トラブル防止
 → 騒音、振動、オイル漏れ、発熱など、過去の事例から対策を提案してもらえる。

アフターサービス
 → トラブル時にメーカーと連携しやすくなる。


実際の相談の進め方

メーカーに問い合わせるときは、以下の情報をまとめておくとスムーズです。

  • 必要な力(または油圧シリンダのサイズ・用途)
  • 動作速度(目標のストローク時間など)
  • 使用環境(連続運転か間欠運転か、周囲温度など)
  • 設置スペースや騒音制限
  • 電源条件(200V/400V、周波数など)
はじめ
はじめ

これらを伝えることで、メーカーは最適なモデルを絞り込んで提案してくれます。


初心者がやりがちな失敗例

  • 計算値ギリギリの仕様でユニットを選んでしまう
     🚫 実際の動作で力不足や速度不足になる
  • タンク容量を小さく見積もる
     🚫 油温上昇やキャビテーションの原因になる
  • 標準仕様にない条件(高温環境・低温環境など)を伝え忘れる
     🚫 実際の現場で性能が出ない

  • 設計計算は重要だが、それだけでは不十分
  • メーカー相談によって効率損失や発熱などの実務的要素を考慮できる
  • 事前に「必要な力・速度・環境条件」をまとめて伝えるとスムーズ
  • 安全で信頼性の高い機械設計には、メーカーとの連携が欠かせない

油圧ユニットは単なる「部品」ではなく、システム全体の性能を左右する装置です。
計算値を根拠に持ちつつ、必ずメーカーと相談して最適な仕様を選ぶこと が成功のカギとなります。

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まとめ

  • 油圧ユニット選定は「圧力 → 流量 → モーター → タンク容量」の順に考える
  • 圧力は「力」から、流量は「速度」から逆算
  • タンク容量はポンプ流量の3~5倍が目安
  • 余裕を持った設計でトラブルを防止

この基本を押さえれば、油圧ユニットを正しく選び、機械の安定稼働に貢献できます。


はじめ
はじめ

モーターやアクチュエーターなど、機械の駆動源に関する基礎知識と選定基準をまとめています。

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