機械設計において「回転軸(シャフト)」は、モーターやエンジンなどから伝達される動力を、ギヤ・プーリ・スプロケットなどを介して別の部品へ伝える重要な要素です。
軸は常に回転しながらトルクや荷重を受け続けるため、適切な軸径を選定しなければ、ねじれ破壊や曲げによる疲労破壊が起こり、重大な故障に繋がります。
本記事では、初心者でも理解しやすいように、
・動力から軸径を選ぶ方法
・負荷(曲げやせん断力)から軸径を選ぶ方法
を解説します。
さらに、設計上の注意点や実務でよく用いられる考え方も紹介します。
軸径を決めるときの基本的な考え方
軸径を決める際には、主に次の2つの観点があります。
- 伝達動力からトルクを計算し、それに耐えられる軸径を決定する(ねじり強度の観点)
- ベルトや歯車から加わる外力による曲げモーメントに耐えられるか(曲げ強度・たわみの観点)

一般的に、
- 「細い軸」 → 強度不足で破損リスク
- 「太い軸」 → 強度的には安全だが、重量増・コスト増・ベアリングや部品の大型化
となるため、過不足のない妥当な径を選定することが重要です。
動力から軸径を求める方法
(1) トルクの計算式
まずは動力と回転数からトルクを求めます。
\( \displaystyle T=\frac{9550×P} {n}\)
- T:トルク [N·m]
- P:動力 [kW]
- n:回転数 [rpm]
例)1.5 kW のモーター、回転数 1500 rpm の場合
\( \displaystyle T=\frac{9550×1.5} {1500}≈9.55N・m\)
補足
実務では「T = 9550 × P / n」のような簡略式がよく使われますが、
より理論的にトルクを求めたい場合は、
\( \displaystyle T=\frac{60P} {2πn}\)
という式もあります。
- T:トルク(N·m)
- P:動力(W)
- N:回転数(rpm)
この式は、出力(P)をワットで、回転数(n)を毎分回転数(rpm)で扱い、
トルク(T)をニュートンメートルで求める物理式です。

単位変換が必要なため少し手間はかかりますが、
仕組みを理解するにはとても役立ちます。
(2) 軸径の算出式(ねじり強度から)
トルクを受ける軸がねじり破壊しないように、次の式で直径を求めます。
\( \displaystyle d=\left(\frac{16T} {πτ}\right)^{1/3}\)
- d:軸径 [mm]
- T:トルク [N·mm](N·mを1000倍)
- τ:許容せん断応力 [N/mm²]
※許容せん断応力は、材料の引張強さの 0.3~0.4 倍程度を使うのが一般的です。
実務ではさらに 安全率を大きめにとって値を落とす ケースが多く、
「疲労」「応力集中」「寸法効果」などを考慮して、40 N/mm² くらいの 経験的な許容値 を採用することがよくあります。
例えば、S45C で引張強さ 570 N/mm² の場合、安全率も考慮してτ≈40 N/mm²を採用。
安全率について
機械設計における安全率は「材料の強さをそのまま使わないで余裕を見込む」ための大事な考え方です。
しかし、その掛け方は 業種・機械の目的・サイズや重量 によって大きく異なります。

安全率は“設計者が決める”
「安全率はケースバイケース」という考え方をまず身につけましょう。
実際の計算例
先ほどのモーターで計算
\( \displaystyle T=9.55N・m=9550N・mm\)
\( \displaystyle d=\left(\frac{16×9550} {π×40}\right)^{1/3}\)
\( \displaystyle d=1215.85^{1/3}≈10.7mm\)
👉 よって、軸径の計算値は10.7m
実務的にはここから安全率2.5を考慮してφ25程度を選定
※「壊れないこと」を優先する場合
(3) 実務上の補正
- 実際には安全率を考慮して2~3倍程度太めに 選定する
- 産業機械(工作機械や搬送装置など)
- 長時間安定稼働が重要。停止すると生産に大きな損失が出る場合
- 「壊れないこと」「メンテナンスがしやすいこと」を優先。
- 標準軸径(φ15, φ20, φ25, …)に合わせる
- 軸受やカップリングの市販品に合わせて決める
負荷から軸径を求める方法
(1) 軸には「ねじり」だけでなく「曲げ」もかかる
回転軸には「回す力(トルク)」だけでなく、プーリやギヤを取り付けることで 横方向の力 もかかります。
例えば…
- ベルトを引っ張ると「軸がしなる」
- ギヤが噛み合うと「横に押される」
こうした力によって軸には 曲げモーメント(たわませようとする力のモーメント) が生じます。
つまり軸径を決めるときは、
- ねじり(トルク)による強度
- 曲げ(横方向の力)による強度
の両方を見ておく必要があります。
(2) 基本式(曲げ応力の式)
円断面の軸に曲げモーメント M が作用したときの曲げ応力σは次の式で表されます。
\( \displaystyle σ=\frac{32M} {πd^3}\)
- σ:曲げ応力 [N/mm²]
- M:曲げモーメント [N·mm](= 力 [N] × 力の作用点までの距離 [mm])
- d:軸径 [mm]
設計ではこの σ が許容曲げ応力以下になるように d を決めます。
(3) 軸径 d を解く(逆算式)
上式を許容応力 σ を用いて d について解きます。
\( \displaystyle σ=\frac{32M} {πd^3}\)
両辺を入れ替えて整理すると、
\( \displaystyle d^3=\frac{32M} {πσ}\)
したがって、
\( \displaystyle d=\left(\frac{32M} {πσ}\right)^{1/3}\)
これが曲げのみを評価したときの必要最小軸径(理論値)です。
単位に注意してください。
M : N·mm
σ: N/mm²
d : mm
実際の計算例
具体的な数値例で手順を示します。
プーリにかかるベルト張力 F=100N 、プーリ中心から支持点(軸受)までの距離 L=50 mmの場合
曲げモーメントは…
\( \displaystyle M=F×L=100×50=5000N・mm\)
許容応力は…
\( \displaystyle σ=40N/mm^2\)を採用。
では式に代入していきます。
\( \displaystyle d≈\left(\frac{32×5000} {π×40}\right)^{1/3}\)
\( \displaystyle d≈\left(\frac{160000} {125.66}\right)^{1/3}\)
\( \displaystyle d≈1273.28^{1/3}≈10.84mm\)
よって理論上の必要最小軸径は d≈10.84 mm となります。
(4) 計算結果の扱い方(実務的な注意点)
理論値は「最低」値:上の d は曲げだけを見た理論値です。
実務ではねじり(トルク)や疲労、応力集中、製造誤差、取付け部(キー溝など)の影響も加味します。
- 標準の丸め
- 計算結果が 10.84 mm なら、標準径に合わせてφ12・φ15など
- 実際には用途に合わせて安全率を考慮して選定する。
- ねじりとの組合せ確認
- ねじりトルクが存在する場合は、ねじりによるせん断応力と曲げ応力を合成して評価する必要があります(トレスカの法則など)。
- 疲労設計
- 繰返し荷重がある場合、疲労限度を考慮し許容応力はさらに低くする(安全率を上げる)ことが必要です。
- 応力集中
- キー溝や段付きなどで応力集中係数が発生します。
- これを掛け合わせて安全側の設計にする必要があります。
(5) 早見的な使い方(設計フロー)
- ベルトやギヤの力(N)と作用点距離(mm)から M を算出。
- 上の式で d を計算。
- 得られた d を規格径に切り上げ(例:10.84 → φ11、実務的には φ12 を選択)。
- ねじり・疲労・応力集中をチェックし、必要ならさらに増径。
ねじりと曲げが同時にかかる場合
実際の軸は「ねじり(トルク)」と「曲げ(横方向の力)」の両方を受けます。
そのため、これらを組み合わせて 相当応力 を計算し、安全かどうかを確認します。
初心者の方は「ねじりだけ見ると細く設計できてしまうが、曲げを考慮するともっと太くしないといけない」という点を意識すると理解しやすいです。
たわみと振動にも注意
強度的にはOKでも、軸が細すぎると「しなり」や「振動(共振)」が起きます。
特に高速回転軸では「危険速度(軸の固有振動数と回転数が一致して大きく振動する現象)」を避けるため、径を太めに設計することが推奨されます。
ポイントまとめ
- 強度だけでなく「たわみ」や「振動」も考慮して太さを決める
- 軸は「ねじり」だけでなく「曲げ」でも強度を確認する
- 曲げモーメントは「力 × 支点までの距離」で計算できる
- 実際は「ねじり+曲げ」を組み合わせて評価する
設計上の注意点
- 材料による違い
- S45C:一般的な軸材。焼入れで強度向上も可能。
- SCM440:高強度が必要な場合に使用。
- SUS304:耐食性が必要な場合。ただし強度はやや低め。
- 安全率を確保する
- 動力計算だけで選んだ軸は細すぎることが多い
- 安全率 1.5~3.0 を見込むのが実務的
- 標準部品に合わせる
- 軸径は「ベアリングの内径」や「カップリングの穴径」に合わせると効率的
- 規格にない中途半端な径は避ける
- 疲労強度を考慮する
- 軸は繰り返し荷重を受けるため、静的強度だけでなく疲労破壊を考慮する
- キー溝や段付き部など応力集中が起こりやすい場所は要注意
初心者への推奨ステップ
- まずは動力からトルクを計算
→ 軸径の「目安」を得る - 負荷条件(プーリ径、ベルト張力、ギヤの歯面力)を考慮
→ 曲げ応力を評価 - ねじり+曲げの組み合わせで再チェック
→ 相当応力が許容値以下か確認 - 標準部品や安全率を考慮して最終決定
→ 実際の設計に適した径に落とし込む
まとめ
回転軸(シャフト)の軸径選定は、単に「強そうだから太くする」ではなく、
- 動力からトルクを計算して目安を出す
- 負荷から曲げモーメントを計算して強度を確認する
- ねじりと曲げの組み合わせを考慮する
- 安全率・標準規格・疲労強度を踏まえて最終決定する
という流れで行うのが基本です。
初心者のうちは、まず「動力からの目安計算」を行い、その後「負荷条件を考慮する」ステップを踏むだけでも、軸径設計の全体像が理解しやすくなります。実務では安全率を多めに取ることが推奨されますが、徐々に経験を積んで「どの程度余裕を見ればよいか」を体感的に掴むことが大切です。
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