工場やプラントなどの産業現場では、爆発性ガスや引火性粉塵が発生する危険な環境が存在することがあります。このような環境で使用する電気機器は、火花や高温によって爆発や火災を引き起こさないよう設計されている必要があります。これを実現するのが防爆構造です。この記事では、防爆構造の基本、種類、適用基準、選定のポイントについて解説します。
防爆構造の基本とは?
防爆構造とは、電気機器が爆発性の雰囲気(ガスや粉塵など)に接触しても爆発を引き起こさないよう設計された構造を指します。これには以下の要素が含まれます:
- 火花やアークの遮断:接点やスイッチから火花が外部に漏れないようにする。
- 高温部品の保護:モーターやランプなどが周囲の可燃性物質を発火させないよう制御。
- 密閉構造:外部の可燃性ガスや粉塵が機器内部に侵入しないようにする。
防爆構造の種類
防爆構造は環境や用途に応じてさまざまなタイプがあります。主な種類を以下に説明します。
耐圧防爆構造(構造記号:d)
- 概要
- 機器内部で爆発が起きても、耐圧性の高い外殻で爆発を閉じ込め、外部への影響を防ぐ構造です。
- 特徴
- 爆発が外に広がらない。
- 外殻が高い圧力に耐える必要がある。
- 主な用途
- モーター、ランプ、スイッチボックス。
油入防爆構造(構造記号:O)
- 概要
- 機器を絶縁油に浸して発火を防止する構造です。
- 特徴
- 電気機器を油に浸すため、発火の可能性を低減しやすい。
- 特に着火能力のない部品に適用される。
内圧防爆構造(構造記号:f)
- 概要
- 保護ガスで内部を加圧し外部から可燃性ガスの侵入を防止する構造です。
- 特徴
- 保護ガスの供給源が必要であるが、大型機器や分析装置に適した方法。
- ガス供給源や掃気操作が必要なためコスト高。
本質安全防爆構造(構造記号 i)
- 概要
- 回路内の電流や電圧を抑えることで、火花や高温が発生しないようにした構造です。
- 特徴
- 低エネルギー設計。
- 小型機器や計測器に適している。
- 主な用途
- センサー、制御装置、信号機器。
安全増防爆構造(構造記号:e)
- 概要
- 部品の設計や配置を改良し、通常使用での火花や高温が発生しないようにした構造です。
- 特徴
- 比較的安価で実現可能。
- 直接発火源を作らない。
- 主な用途
- 端子箱、照明器具。
非点火防爆構造(構造記号:n)
- 概要
- 通常時や故障時でも外部に引火する恐れのない電気機器に適用できる防爆構造です。
- 爆発に至るまでの電気エネルギーがない」という条件のみで防爆構造として認められているため、防爆性能は低いです。
- 通常時や故障時でも外部に引火する恐れのない電気機器に適用できる防爆構造です。
- 特徴
- 機器自体に爆発に至るまでのエネルギーがない。
- 簡易防爆とも呼ばれます。
樹脂充填防爆構造(構造記号:m)
- 概要
- 発火源となる部品を樹脂や接着剤で完全に封止し、外部と隔離する構造です。
- 特徴
- 密閉性が高い。
- 小型機器に適している。
- 主な用途
- 電子部品、LED機器。
比較表
防爆構造 | 記号 | 主な特徴 | 長所 | 短所 |
---|---|---|---|---|
耐圧防爆構造 | d | 内部爆発に耐え、外部引火を防止。 | 比較的容易に防爆化、小中型機器に適用可。 | 容器が重くなる。内部機器が破損する可能性。 |
油入防爆構造 | o | 機器を油に浸して発火を防止。 | 安全性が高い、特定部品の評価が容易。 | 設計が複雑、適用範囲が限定される。 |
内圧防爆構造 | f | 保護ガスで内部を加圧し爆発を防止。 | 大型機器や分析機器に適用可能。 | ガス供給源や掃気操作が必要、コスト高。 |
安全増防爆構造 | e | 火花や高温を発生しない機器に適用。 | 軽量、設計が比較的簡単。 | 対象機器が限定される。 |
本質安全防爆構造 | i | 火花や高温を発生しないよう設計。 | 軽量・小型、ゾーン0設置可能。 | 大電力の機器には不適。 |
非点火防爆構造 | n | 簡易防爆構造、ゾーン2限定。 | コスト低減、構造が簡易。 | ゾーン2以外には適用できない。 |
樹脂充填防爆構造 | m | 樹脂で電気部品を密封して発火防止。 | 小型化可能、他構造との組み合わせが容易。 | 樹脂の環境適合性や静電気対策が必要。 |
上記の表を基に、適切な防爆構造の選定を行う際には、使用する環境や機器の特性に応じた構造の長所と短所を考慮してください。
防爆環境の分類
防爆構造を適切に選定するには、現場の環境を正確に理解することが必要です。爆発性雰囲気は以下のように分類されます。
ガス環境
- 分類:Zone 0, Zone 1, Zone 2
- Zone 0:常に爆発性ガスが存在する環境。
- Zone 1:通常時に爆発性ガスが発生する可能性がある環境。
- Zone 2:異常時に爆発性ガスが発生する可能性がある環境。
粉塵環境
- 分類:Zone 20, Zone 21, Zone 22
- Zone 20:常に粉塵が存在する環境。
- Zone 21:通常時に粉塵が発生する可能性がある環境。
- Zone 22:異常時に粉塵が発生する可能性がある環境。
防爆機器の選定ポイント
防爆構造を選定する際には、以下のポイントを考慮してください。
- 環境の分類
- ガス・粉塵の種類や発生頻度を確認。
- 機器の用途
- センサー、モーター、照明などの使用目的。
- 規格への適合
- 使用地域に適した規格に準拠していること。
- メンテナンス性
- 設置後の点検や修理のしやすさ。
防爆構造の注意点
防爆機器を使用する際には、以下の点に注意する必要があります:
- 設置環境の正確な評価
- 誤った等級や構造を選ぶと事故の原因になります。
- メンテナンスと点検
- 防爆性能を維持するために、定期的なメンテナンスが必須です。
- 防爆規格の更新情報を確認
- 規格は時折改訂されるため、最新情報を確認してください。
まとめ
防爆構造は、危険な環境で安全に電気機器を使用するための非常に重要な設計要素です。耐圧防爆や本質安全防爆などの構造を適切に選定することで、爆発や火災のリスクを大幅に軽減できます。設計段階で環境の特性をよく理解し、国際規格や国内法規に基づいて適切な防爆機器を採用することが、安全で効率的な機械設計の第一歩です。
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