現代の機械設計では、高精度な位置決めや回転制御が求められています。その際に重要な役割を果たすのがエンコーダーです。エンコーダーは、モーターや回転機構の位置・速度・角度を計測し、制御システムにフィードバックするためのセンサーです。
本記事では、エンコーダーの基本的な仕組みや種類、用途、選定ポイントについて詳しく解説します。
エンコーダーの基本原理
エンコーダーは、回転や直線運動を電気信号に変換し、モーターや制御装置にフィードバック信号を送る役割を持ちます。主に以下の2つのタイプがあります。
ロータリーエンコーダー(回転型)
モーターの回転軸に取り付けられ、回転角度・回転速度を測定するセンサー。サーボモーターやステッピングモーターと組み合わせて使用されることが多い。
リニアエンコーダー(直線型)
スライド機構や直動機構の位置を測定するためのセンサー。リニアガイドや直動アクチュエーターと併用される。
エンコーダーの種類
エンコーダーには、計測方法や信号出力の違いによりいくつかの種類があります。
インクリメンタルエンコーダー
- 回転や移動ごとにパルス信号を出力する
- 基準点(ゼロ点)を持たないため、電源を切ると位置情報が失われる
- 一般的な速度制御や位置決めに適している
💡 用途例
- モーターの速度制御
- コンベアの回転計測
- 一般的な搬送機械
アブソリュートエンコーダー
- 固有の位置情報を持っており、電源を切ってもデータが保持される
- 位置決め制御や高精度なモーションコントロールに適している
💡 用途例
- CNC工作機械
- 産業用ロボット
- 高精度な組立装置
エンコーダーの主な用途
エンコーダーは、さまざまな分野で活用されています。
✅ サーボモーターのフィードバック制御
- エンコーダーを用いることで、サーボモーターの回転数や位置を高精度に制御可能。
✅ 産業用ロボット
- ロボットの関節部分の角度や位置をリアルタイムで監視し、正確な動作を実現する。
✅ 工作機械(CNC・マシニングセンタ)
- エンコーダーを活用して切削工具の位置を正確に制御し、高精度加工を実現。
✅ 自動搬送装置(AGV・コンベア)
- 搬送距離や速度を測定し、適切な制御を行う。
エンコーダーの分解能とは? 機械設計における重要性と選定ポイント
エンコーダーは、回転運動や直線運動を電気信号に変換し、機械の位置や速度を計測するために不可欠なセンサーです。その性能を決定する重要な要素の一つが「分解能(Resolution)」です。
分解能が高いほど、細かい動きを検出でき、高精度な制御が可能になります。本項では、エンコーダーの分解能とは何か、その測定方法や、用途に応じた適切な選定について詳しく解説します。
エンコーダーの分解能とは?
分解能とは、エンコーダーが1回転または1mmの移動に対して検出できる最小の単位を指します。一般的に「PPR(Pulses Per Revolution:1回転あたりのパルス数)」または「LPI(Lines Per Inch)」で表されます。
エンコーダーの分解能は、以下のように分類されます。
分解能の単位 | 説明 |
---|---|
PPR(Pulses Per Revolution) | 1回転あたりのパルス数(インクリメンタル) |
CPR(Counts Per Revolution) | 1回転あたりのカウント数(4逓倍後の信号) |
LPI(Lines Per Inch) | 1インチあたりの線数(リニアエンコーダー) |
μm(マイクロメートル) | 直線移動時の測定精度(リニアエンコーダー) |
例えば、1000 PPR のインクリメンタルエンコーダーでは、1回転を1000等分した信号を出力します。ただし、エンコーダーの信号は「逓倍処理」されるため、カウント数は最大で4倍(4000カウント) になります。

逓倍(ていばい)処理については下の項目で詳しく解説しています。
ぜひ参考にしてください。
分解能の計算方法
角度の分解能(ロータリーエンコーダー)
回転型エンコーダーの角度分解能は、以下の式で求められます。
\( \displaystyle 角度分解能=\frac{360°} {PPR}\)
✅ 例:1000 PPR のエンコーダーの場合
\( \displaystyle \frac{360°} {1000}=0.36°(1パルスあたりの角度)\)
逓倍処理(4倍カウント)を行う場合
\( \displaystyle \frac{360°} {4000}=0.09°\)
直線分解能(リニアエンコーダー)
直動機構に用いられるエンコーダーでは、移動距離に対する分解能を求めます。
\( \displaystyle 直線分解能=\frac{移動距離[mm]} {PPR}\)
✅ 例:5000 PPR のリニアエンコーダーで、スライドの全長が100 mm の場合
\( \displaystyle \frac{100} {5000}=0.02mm(20μm)\)
分解能の違いによる影響
(1) 分解能が高い場合のメリット
✅ 精密な位置決めが可能
✅ 滑らかな速度制御ができる
✅ ロボットや工作機械などの高精度な装置に最適
(2) 分解能が低い場合のデメリット
❌ 小さな動きを検出できず、制御精度が低下する
❌ 低速での動作がぎくしゃくする(ステップ飛び)
❌ モーターの振動が増える可能性
(3) 高分解能のデメリット
⚠️ 信号処理の負荷が増加し、高速な制御が難しくなる
⚠️ エンコーダーの価格が高くなる
分解能を選定する際のポイント
🔹 使用するモーターとの相性
→ 高分解能でも、モーターの応答速度が低ければ意味がない。
🔹 制御システムの処理能力
→ 高分解能のエンコーダーを使用すると、CPUの負荷が増大するため、制御機器のスペックを確認する。
🔹 測定距離と精度のバランス
→ 必要以上に高分解能を選ぶと、価格が高くなるだけでなく、ノイズの影響を受けやすくなる。
🔹 外部環境(ノイズ耐性)
→ 高速回転時や過酷な環境では、ノイズ耐性の高いエンコーダーを選定する。
エンコーダーの分解能は、機械設計における精度・速度・制御の安定性を左右する重要な要素です。
✅ 分解能が高いほど精密な制御が可能!
✅ 用途に応じた適切な分解能を選定することが重要!
✅ 制御システムとの組み合わせを考慮して選定!
エンコーダーの分解能を理解し、適切な選択をすることで、より高精度な機械設計が可能になります。
エンコーダーの逓倍処理とは? 素人でもわかる簡単解説
エンコーダーを調べていると「逓倍(ていばい)処理」という言葉が出てきます。
「なんだか難しそう…」と思うかもしれませんが、実は 信号を増やして分解能を上げる方法 のことです。
この仕組みを 「道路の白線」 を例にして、わかりやすく説明していきます!
1. 逓倍処理とは? 〜道路の白線で考える〜
例えば、高速道路の白線が 100mごと に引かれているとしましょう。
車のスピードを知りたいとき、100mごとにカウントする だけでは 細かい動きがわかりません。
そこで、白線の途中にマーカーをつけて「より細かく」カウントする方法 を考えます。
エンコーダーの逓倍処理もこれと同じで、
「信号を増やして、より細かく動きを測定する」仕組みです。
2. エンコーダーの基本信号
エンコーダーには、通常 A相・B相 という 2つの信号 があります。
この信号は 「オン・オフ(0と1)」 を繰り返しており、これをカウントすることで角度や位置を測定します。
例えば、100 PPR(1回転あたり100パルス) のエンコーダーがあったとします。
この場合、通常のカウント方法では 1回転を100分割 しかできません。
3. 逓倍処理の仕組み
逓倍処理では、この A相・B相の信号の変化を細かくカウント することで、より高い分解能を得ることができます。
逓倍の種類 | 説明 | 分解能 |
---|---|---|
1倍カウント | A相の立ち上がりだけをカウントする | 100 PPR |
2倍カウント | A相の立ち上がりと立ち下がりをカウント | 200 PPR |
4倍カウント | A相とB相の両方の変化をカウント | 400 PPR |
✅ 4倍カウント(4逓倍)すると、分解能が4倍になる!
たとえば、100 PPR のエンコーダーを 4倍カウント すると、400 PPR に相当 します。
これにより、より細かく動きを測定できるようになります。
4. 逓倍処理のメリット
🔹 高分解能が得られる(同じエンコーダーでもより細かく測定できる)
🔹 特別なハードウェアなしで分解能を向上できる
🔹 速度や位置決めの精度が向上する
つまり、同じエンコーダーでも逓倍処理を使えば、より高精度に測定できる! というわけです。
✅ 逓倍処理とは、エンコーダーの信号を増やして細かく測定する方法
✅ A相・B相の信号を利用して、1倍・2倍・4倍に分解能を向上
✅ 4倍カウントすると、PPR(分解能)が4倍になる
✅ 特別なエンコーダーを使わなくても、分解能を上げられる
エンコーダーを使う場面では、この 逓倍処理を活用することで、高精度な測定や制御 が可能になります!
エンコーダーの選定ポイント
エンコーダーを選定する際には、以下のポイントを考慮する必要があります。
分解能(パルス数)
- インクリメンタルエンコーダーの場合、パルス数が多いほど高精度な測定が可能。
- アブソリュートエンコーダーは、ビット数が増えるほど精密な位置情報が取得できる。
環境条件(防塵・防水性能)
- 工作機械や食品工場などでは、防塵・防水仕様(IP規格)が必要。
取付方式(シャフト型 or ホロ―シャフト型)
- 直接回転軸に取り付けるか、カップリングを介して接続するかによって異なる。
信号出力形式(アナログ・デジタル)
- オープンコレクタ、ラインドライバ、シリアル通信など、使用する制御機器に適した信号方式を選定する。
まとめ
エンコーダーは、回転や直線運動を正確に測定し、機械の動作を制御するための重要なセンサーです。適切なエンコーダーを選定し、制御システムと連携することで、より高精度な機械設計が可能になります。
✅ エンコーダーは、機械の精度向上に不可欠!
✅ インクリメンタルとアブソリュートの違いを理解し、適切に選定!
✅ 用途や環境条件に応じて、最適な仕様を選ぶ!
機械設計の現場でエンコーダーを活用し、精度の高いモーションコントロールを実現しましょう!
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