機械設計において、ゴム材料の選定は
密封性、耐久性、耐薬品性などの観点から非常に重要です。
特に、ニトリルゴム(NBR)は、耐油性や機械的強度に優れるため、
工業用途で広く使用されるゴム材料の一つです。
本記事では、ニトリルゴムの基本特性や用途、
選定ポイントについてわかりやすく解説します。
ニトリルゴム(NBR)とは?
ニトリルゴム(NBR)は、
アクリロニトリル(ACN)とブタジエン(BD)を共重合させた合成ゴムです。
特に耐油性や耐摩耗性に優れ、
油圧シール、Oリング、ホースなどの用途で広く採用されています。
ニトリルゴムの特徴
ニトリルゴム(NBR)の主な用途
ニトリルゴムは、その優れた耐油性・耐摩耗性・気密性を活かし、
さまざまな工業製品に使用されています。
| 用途 | 具体的な製品例 |
|---|---|
| シール・パッキン類 | Oリング、ガスケット、オイルシール |
| ホース・チューブ | 燃料ホース、オイルホース、ゴムチューブ |
| 工業用ゴム部品 | 防振ゴム、ダイヤフラム |
| 手袋・ゴム製品 | 耐油性手袋、ゴムローラー |
| その他 | ゴムライニング、ベルト、ローラー |

特に、油圧機器や自動車部品において
Oリングやオイルシールとして頻繁に使用されるのが特徴です。
ニトリルゴム(NBR)の主な特性
ニトリルゴムを選定する際には、
用途や使用環境に応じて適切なグレードを選ぶことが重要です。
ACN(アクリロニトリル)含有率による違い
ニトリルゴムの性能は、ACN含有率(アクリロニトリルの割合)によって変化します。
一般的に、ACN含有率が高いほど耐油性が向上しますが、低温特性や柔軟性が低下します。
| ACN含有率 | 特性 |
|---|---|
| 低ACN(18~24%) | 低温特性が良いが、耐油性は低め |
| 中ACN(25~35%) | バランスの取れた特性 |
| 高ACN(36~50%) | 耐油性が非常に高いが、低温特性が悪化 |
寒冷地や低温環境では低ACNのニトリルゴムを選ぶ
高温・油環境では高ACNのニトリルゴムを選ぶ
耐熱性・耐寒性の考慮
標準的なニトリルゴムの耐熱温度は約 -20℃~120℃ですが、
特殊グレードのNBRは耐熱性を強化できます。
| 種類 | 使用温度範囲 | 特徴 |
|---|---|---|
| 標準NBR | -10℃~90℃ | 一般用途向け |
| 高耐熱NBR | ~150℃ | 高温環境向け(エンジンオイルや高温油に対応) |
| 低温対応NBR | -50℃~ | 低温環境向け(極寒地仕様) |
エンジン周りや高温環境では耐熱NBRを選択
寒冷地や冷凍機器には低温対応NBRを選択
耐薬品性の考慮
ニトリルゴムは鉱油やグリースに強いですが、極性溶剤や酸・アルカリには弱いです。
| 化学薬品 | 耐性 |
|---|---|
| 鉱物油・エンジンオイル | ◎(優秀) |
| ガソリン・軽油 | 〇(良好) |
| 酸・アルカリ | △(やや弱い) |
| ケトン類(アセトン等) | ×(不適) |
| エステル系オイル | ×(不適) |
油圧機器や燃料ラインにはNBRが適している
酸やアルカリ環境ではフッ素ゴム(FKM)やEPDMを検討
物理的強度
ニトリルゴムは、耐摩耗性や引張強度が比較的高く、
耐久性が求められる環境に適しているため、
シール材や防振ゴムとして広く使われます。
耐摩耗性が求められる部品(ホース、ローラー)にはNBRが有利
強度がさらに必要な場合は補強剤入りのNBRを選択
ニトリルゴムがOリングやオイルシールに使われる理由とは?
Oリングやオイルシールは密封(シール)用途として非常に重要な部品です。
その中でも、ニトリルゴム(NBR)は最も一般的なシール材として広く使用されています。
本項では、なぜニトリルゴムがOリングやオイルシールに適しているのか、
その理由をわかりやすく解説します!
Oリングやオイルシールとは?
まず、Oリングとオイルシールの基本的な役割を簡単に説明します。
| 名称 | 主な用途 |
|---|---|
| Oリング | 軸方向や面方向の隙間を密封し、液体や気体の漏れを防ぐ |
| オイルシール | 回転軸の周りを密封し、オイルやグリースの漏れを防ぐ |
どちらも、機械の中で潤滑油や作動油を閉じ込めたり、
外部からの異物侵入を防いだりするために不可欠な部品です。
しかし、Oリングやオイルシールは常に油と接触しているため、
油に強い材料で作る必要があります。
そこで活躍するのがニトリルゴム(NBR)です。
ニトリルゴム(NBR)がOリングやオイルシールに適している理由
優れた耐油性がある
Oリングやオイルシールは
エンジンオイル、作動油、燃料、潤滑油などに常に接触するため、
油によって劣化しにくい材料が求められます。
ニトリルゴム(NBR)は、
油に対する耐性が非常に高いゴム材料の代表格です。
特に、鉱物油やグリースなどの一般的な潤滑油に対して優れた耐性を持っています。
エンジンオイル
ギアオイル
油圧作動油
グリース
軽油・灯油
シリコーンオイルや一部の合成油には適さないため注意!
密封性が高い(弾力があり、しっかりフィットする)
ニトリルゴムは適度な弾力(柔軟性)を持ち、
Oリングやオイルシールの役割である
隙間をしっかり埋めるのに最適な特性を備えています。
特に、圧縮永久歪が小さいため、
長期間使用しても変形しにくく、シール性を維持できます。
💡 ポイント
ゴムの弾性で隙間を埋め、密封する
長期間使用しても大きく変形しない
コストが安く、入手しやすい
ニトリルゴムは比較的安価で大量生産されているため、
コストを抑えながら高性能なシール材を確保できます。
他の耐油性ゴム(例えばフッ素ゴム(FKM)やシリコーンゴム)と比較すると、
性能と価格のバランスが良いため、多くの産業で採用されています。
💡 ポイント
コストパフォーマンスが良い
需要が多く、標準部品としての流通が豊富
耐摩耗性が高く、長持ちする
Oリングやオイルシールは、機械の中で繰り返し圧縮されたり、
回転軸と接触したりするため、摩耗に強いことが求められます。
ニトリルゴムは耐摩耗性が高く、
長期間使用しても摩耗しにくい特性を持っています。
💡 ポイント
摩擦による劣化が少ない
長期間使用できる
ニトリルゴムを使う際の注意点
ニトリルゴムはOリングやオイルシールに適した優れた材料ですが、
すべての環境で万能というわけではありません。
選定時には以下のポイントを考慮しましょう。
耐候性・耐オゾン性が低い → 屋外での使用は劣化が早い
極性溶剤(アセトン、エステル系オイル)には弱い
シリコーンオイルや一部の合成油には適さない
💡 解決策
屋外で使用する場合は、フッ素ゴム(FKM)やEPDMを検討
耐薬品性が必要な場合は、シリコーンゴムやフッ素ゴムを選択
ニトリルゴム(NBR)は、
耐油性・耐摩耗性・コスト・密封性のバランスが優れているため、
Oリングやオイルシールの標準材料として広く使用されています。
このように、ニトリルゴムは機械設計において
Oリングやオイルシールの材料として最適な特性を備えています。

用途や環境に応じて適切なグレードを選ぶことで、
より高性能なシール設計が可能になります!
ニトリルゴムの選定ポイント
ニトリルゴムを選定する際は、以下の点に注意しましょう。
| 項目 | ニトリルゴム(NBR)の適性 | 代替材料 |
|---|---|---|
| 耐油性 | ◎ 鉱物油・グリースに強い | FKM(フッ素ゴム)がさらに優れる |
| 耐摩耗性 | ◎ 高い耐摩耗性 | ウレタンゴム(PU)がさらに優れる |
| 機械的強度 | ◎ 高い引張強度・弾性 | FKMも高強度 |
| 耐候性 | △ 紫外線・オゾンに弱い | シリコンゴムやEPDMが優れる |
| 耐熱性 | △ 100~120℃程度が限界 | FKM(フッ素ゴム)は200℃以上対応 |
| 耐寒性 | △ -20℃程度まで対応可能 | シリコンゴムやEPDMが優れる |
| 耐薬品性 | △ 酸・アルカリには弱い | FKMやFFKMが耐薬品性に優れる |
耐油性に優れ、オイルシールやホースなどに最適
耐摩耗性が高く、機械部品のシールやパッキンに適する
比較的安価で、コストパフォーマンスに優れる
紫外線やオゾンに弱いため、屋外使用には向かない
耐薬品性が必要な場合はFKMやFFKMを選ぶ
まとめ
ニトリルゴム(NBR)は、耐油性・耐摩耗性・密封性に優れた合成ゴムであり、
特に工業用途で広く使用される材料です。
✅ 耐油性・耐摩耗性が高く、油圧シールやOリングに適する
✅ ACN含有率が高いほど耐油性が向上するが、低温特性が悪化する
✅ 耐熱性・耐薬品性・強度を考慮して適切なグレードを選定する
✅ 低温環境では低ACN、高温環境では耐熱NBRが適している
用途や使用環境に合わせた適切なグレードの選定を行うことで、
より信頼性の高い設計が可能になります!




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