機械設計において、「空気圧」と「油圧」はどちらもアクチュエーターや制御機器としてよく使われる手段です。しかし、こんな疑問を持ったことはありませんか?
「なぜ空気圧では大きな力が出せないの?」
「油圧と何が違うの?」
この記事では、その違いを流体の性質(圧縮性)という観点から初心者にもわかりやすく解説し、それぞれの適した使い分け方についても紹介します。
そもそも空気圧と油圧って何?
まずは両者の基本からおさらいしましょう。
分類 | 使用する流体 | 一般的な圧力範囲 | よく使われる装置例 |
---|---|---|---|
空気圧 | 圧縮した空気 | 約0.4~0.7MPa | 自動機、搬送装置など |
油圧 | 作動油(オイル) | 約5~20MPa以上(高圧) | 建設機械、プレス機、ジャッキなど |
なぜ空気圧は油圧より「力が小さい」のか?

理由①:圧力そのものが小さい
空気圧の動作圧力は約0.5MPa前後が一般的ですが、油圧では10MPa以上になることもあります。
同じ面積のシリンダーに加えたとき、圧力が低ければ出せる力も小さくなるのは当然です。
力 = 圧力 × ピストン面積

同じ面積でも、圧力が20倍違えば、力も20倍違うということになります。
理由②:空気は「圧縮される」性質がある
空気は「圧縮性流体」です。
➤ 押せば縮みますし、力をかけたときにまずクッションのようにたわむ性質があります。
- 動作開始に「遊び」がある(反応が遅れる)
- 一気に動いたり、止まったりする(制御がやや不安定)
- 力の伝達効率が低く、しっかり押し付ける動作には不向き
一方、油はほとんど圧縮されません(非圧縮性)。
➤ 力をかけた瞬間にそのまま力として伝わり、安定した強い力を出すことができるのです。
空気圧のメリット・デメリット

✅ メリット
- 装置が軽量・シンプル
- 作動が速い(ピストンがスピーディー)
- 安全(空気漏れしても火災や汚染の心配がない)
- クリーンな作業環境でも使える(食品・医療系など)
🚫 デメリット
- 出せる力が小さい(締め付けや押し付けには弱い)
- 動きにバラつきが出やすい(特に精密な制御には不向き)
油圧のメリット・デメリット

✅ メリット
- 非常に大きな力を出せる(重機などに最適)
- 精密で安定した動作が可能(サーボ油圧システムなど)
- クッション機構なども組み込みやすい
🚫 デメリット
- 機器が大きく重くなる(ポンプ、配管、油タンクなど)
- 油漏れすると周囲を汚す・火災の原因になる
- メンテナンスの手間が大きい(フィルタ交換、エア抜きなど)
空気圧と油圧、どう使い分ければいい?
特徴・メリット・用途を理解して、適材適所に選ぼう!
機械設計や工場の自動化設備でよく使われる「空気圧」と「油圧」。
どちらも「流体(液体や気体)の力を使って動力を伝える技術」ですが、それぞれに向き・不向きがあります。
「どっちを使えばいいの?」
「なんとなく使ってるけど、実はよく分かっていない…」
そんなあなたのために、空気圧と油圧の使い分けポイントを初心者にもわかりやすく解説します。
まずは基本をおさらい:空気圧と油圧のちがい
項目 | 空気圧 | 油圧 |
---|---|---|
使用する流体 | 空気(気体) | 作動油(液体) |
圧力の大きさ | 小さい(約0.5~0.7MPa) | 大きい(10MPa以上) |
動力の特長 | 速いけど軽い | 遅いけど強い |
制御性 | 比較的粗い | 精密な動作が可能 |
使用環境 | クリーンルーム、軽作業 | 重機、圧入、成形など重作業 |
空気圧が得意な場面
✅ 動作が速くて、軽い力で済むとき
空気は軽くてサッと動きます。
そのため、ピック&プレースや搬送、エアシリンダなど、スピード重視の機構に最適です。
✅ 清潔な環境で使いたいとき
空気は漏れても周囲を汚しません。
油が使えない食品工場・医療機器などにピッタリです。
✅ 構造をシンプルにしたいとき
空気圧は配管や装置が比較的シンプルで、メンテナンスも楽ちん。
機械が小さくなるのもポイントです。
空気圧が向いている用途例
- コンベアなどの軽量搬送装置
- エアブロー(風を吹きつける動作)
- 組立ラインの簡易プレス
- 自動機のピストン動作
- 食品包装ラインや医療器具の開閉機構
油圧が得意な場面
✅ 大きな力が必要なとき
油は圧縮されにくく、高圧をかけられるので圧倒的に大きな力が出せます。
重機のアームやプレス機は油圧の代表例です。
✅ 安定して強く押したいとき
「しっかり締める」「一定の力を加える」など、精度や制御性が求められる作業には油圧が最適です。
✅ 長時間・高負荷の作業に使いたいとき
油は潤滑性にも優れ、連続運転に強いため、過酷な現場でも耐えられます。
油圧が向いている用途例
- 建設機械(ショベルカー、クレーンなど)
- 成形機、鍛造プレス
- 車のジャッキやブレーキシステム
- 工場設備のクランプ機構
- 農業機械や林業機械の制御装置
どちらを使う?簡単な選び方のポイント!
チェックポイント | 空気圧 | 油圧 |
---|---|---|
力が小さくてもOK? | ◯ | △ |
動作のスピードが重要? | ◯ | △ |
装置の軽量化・小型化が必要? | ◯ | △ |
油漏れはNG? | ◯ | △ |
とにかく強い力を出したい? | △ | ◎ |
押す力を安定させたい? | △ | ◎ |
高精度な位置決めが必要? | △ | ◎ |
連続的に負荷がかかる作業? | △ | ◎ |
目的 | 適した方式 | 理由 |
---|---|---|
軽いワークの高速搬送 | 空気圧 | 動作が速くクリーン、配線も簡単 |
強力な締め付けや重機作動 | 油圧 | 大きな力・高精度が必要 |
食品・医療向け装置 | 空気圧 | 清潔で油漏れの心配なし |
鍛造プレス・金型成形 | 油圧 | 高トルク、高加圧が必須 |
コスト重視の簡易動作 | 空気圧 | 安価で装置構成がシンプル |
選ぶのは「力」だけじゃない!
設計では「どれくらいの力が必要か」だけでなく、スピード・精度・安全性・環境なども重要です。
- 軽い部品を速く動かす → 空気圧!
- 重いモノをしっかり押す・持ち上げる → 油圧!
このように、使うシーンに応じて最適な方式を選ぶのが、設計者の知恵です。

空気圧は“スピードと清潔さ”、油圧は“パワーと精度”。
用途と現場の条件に合わせて、あなたの装置にぴったりのアクチュエーターを選んでください!
まとめ:流体の「性質」が力の違いを生む
✔ 空気は圧縮されやすく、軽くて速いけど力は小さい
✔ 油は圧縮されにくく、大きな力と安定した動作が得意
この違いが、「空気圧は力が小さく、油圧は大きな力を出せる」理由です。
機械設計では、用途に応じて流体の特性を活かすことがカギになります。
📌 ワンポイントメモ
小さな力でスピード重視 → 空気圧
大きな力で精度と安定性重視 → 油圧

この感覚を身につけておくと、設計判断がぐっとラクになります!
コメント