なぜ金属は冷えると縮むの?熱収縮の原理と設計上の考慮点

材料選定

金属部品を使っていると、「熱くなると膨らむ」「冷えると縮む」という話を耳にすることがありますよね。でも、なぜ金属は温度によって大きさが変わるのでしょうか?
本記事では、金属が冷えると縮む理由(熱収縮の原理)と、それが機械設計にどう関わるのかについて、初心者にもわかりやすく解説します。


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なぜ金属は冷えると縮むの?

原子の振動が原因!

金属は、原子がたくさん集まってできている材料です。
この原子たちは、温度が上がると激しく振動し、下がると穏やかに振動するという特徴があります。

  • 温度が高いと… 原子同士の距離が広がる(→ 膨張
  • 温度が低いと… 原子同士の距離が縮む(→ 収縮

つまり、金属が冷える=原子の振動が収まり、詰まってくる=縮むということです。
この現象を「熱膨張・熱収縮」と呼びます。


原子の振動と膨張の関係とは?

金属はたくさんの原子が整然と並んでできています。
この原子たちは温度が上がると小刻みに振動し始めお互いの距離が少しずつ広がる=膨張します。

このとき、

鉄やステンレスなどの線膨張係数が小さい材料は、
 → 原子の「結びつきが強く、あまり距離が変わらない」
 → 伸び縮みが少ない

アルミなどの線膨張係数が大きい材料は、
 → 原子が「振動しやすく、距離が広がりやすい」
 → 大きく伸びる(膨らむ)し、冷えるとよく縮む

どれくらい縮むの?(線膨張係数)

金属ごとに、温度変化による「縮みやすさ」が異なります。
その指標が「線膨張係数(せんぼうちょうけいすう)」です。

そもそも「線膨張係数」ってなに?

線膨張係数とは、
「温度が1℃変わったときに、1mの長さが何ミリ伸びたり縮んだりするか」
を表す数字です。

たとえば、長さ1mの部品が10℃冷えたときにどれくらい縮むか、以下に一例を示します。

材料線膨張係数(×10⁻⁶/℃)10℃冷却時の収縮量(1mあたり)
アルミニウム約23約0.23mm
鉄(SS400など)約12約0.12mm
ステンレス(SUS304)約17約0.17mm

この数字が大きい=温度でたくさん伸び縮みする材料
小さい=あまり伸び縮みしない材料、ということです。

はじめ
はじめ

たった10℃の変化でも、ミリ単位の誤差が出ることに注意が必要です!

熱膨張の計算についての記事はこちら

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設計上、どんなことに気をつけるべき?

金属の熱収縮は、設計や組立に大きな影響を与えることがあります。
ここでは代表的な設計上の注意点を紹介します。


異なる材料を組み合わせるときは注意!

異なる膨張係数を持つ金属を組み合わせると、温度変化によって“ズレ”や“応力”が発生します。

🔍 例)

  • アルミフレームに鉄製のブラケットを固定すると、冷却時に締め付けが緩んだり、逆に歪んだりすることがあります。
はじめ
はじめ

設計時に「温度差に強い構造(スライド機構や伸縮逃げ)」を組み込むのがポイントです。


熱収縮を利用する方法もある!

逆に、「冷やすと縮む」という性質をうまく活用する方法もあります。

🔍 例) 冷却収縮による圧入組立

  • 軸(シャフト)を冷やして縮ませ、穴にスムーズに挿入
  • 常温に戻ると軸が膨張してガッチリ固定される!
はじめ
はじめ

工具を使わずに強力な締結ができる「スマートな圧入手法」です。

🔍 例) シャフトとギア(歯車)の圧入組み立てに利用!

たとえば、金属のシャフトにギアを取り付けるとき、こんな方法が使われます。

手順

  1. ギアを加熱して膨張させる(バーナーや加熱炉などで100〜200℃に)
  2. 膨張したギアをシャフトにスッと差し込む
  3. 常温に戻るとギアが収縮して、シャフトをがっちりつかむ!

この方法のメリット

  • ハンマーなどで無理に押し込む必要がなく、部品を傷めない
  • 接触面がピッタリ密着するため、強いトルク伝達が可能
  • 溶接やボルト固定と違い、見た目もスッキリ

「冷えると縮む」という金属の性質は、摩擦力を使った強固な接合に活かすことができるんです!

熱で膨らませて入れ、冷えて締まる。
この方法は「焼きばめ」や「熱収縮嵌合」とも呼ばれ、工作機械など幅広く利用されています。


精密機構では温度管理が超重要!

  • 微細なクリアランスを要求される機構では、温度による寸法変化がトラブルの原因になることも。
  • 特にベアリングやスライド機構、光学部品などは要注意!
はじめ
はじめ

精密機器では「常温設計」だけでなく、「使用環境の温度条件」も踏まえたクリアランス設定が求められます。


応用:熱収縮はトラブルにもなり得る!

よくあるトラブル例

🚫 組立時にはピッタリだったのに、寒い倉庫でガタガタになった
🚫 屋外設置の装置が、昼夜の温度差でボルトが緩んだ
🚫 高温での運転後、部品が縮んで歪みが発生した

👉 温度変化を甘く見ず、設計段階からの対策が必要です。


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まとめ:冷えると縮む ― 設計者なら押さえておきたい物性の基本!

✔ 金属は原子の振動が小さくなることで縮む=これが熱収縮の正体
✔ 材料ごとに縮み方が違うため、線膨張係数の確認は必須
異種材料の組合せ・精密部品・圧入などで大きく影響が出る
✔ 設計の中で、「温度と寸法は連動する」ことを常に意識しよう!

温度変化を“敵”にも“味方”にもできるのがプロの設計者
冷えると縮む――当たり前の現象にこそ、設計の知恵が活きてきます!


はじめ
はじめ

設計において欠かせない材料の特性や用途を解説しています。
適材適所の選定をサポートします。

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