機械設計では「斜めの力を分解する」「斜面にかかる荷重を求める」「リンク機構の位置を計算する」など、三角関数を使う場面が非常に多くあります。
しかし、手計算で毎回 sin や cos を計算するのは手間がかかり、計算ミスの原因にもなります。
そこで便利なのが エクセルでの三角関数計算 です。
エクセルには SIN
、COS
、TAN
という関数が用意されており、角度から簡単に力の成分や位置を求められます。
本記事では、機械設計におけるエクセルの三角関数の使い方を、初心者でも理解できるように具体例付きでわかりやすく解説します。
これを読めば、日常の設計計算を効率化し、作業時間の短縮や精度向上につなげられるはずです。
エクセルで使える三角関数の基本
エクセルでは次の関数が用意されています。
=SIN(角度)
… サイン(正弦)=COS(角度)
… コサイン(余弦)=TAN(角度)
… タンジェント(正接)
サイン(sin):対辺/斜辺
\( \displaystyle sinθ=\frac{b} {c}\)
コサイン(cos): 隣辺 / 斜辺
\( \displaystyle cosθ=\frac{a} {c}\)
タンジェント(tan):対辺 / 隣辺
\( \displaystyle tanθ=\frac{b} {a}\)

注意点:角度は「ラジアン」で入力する
ここが初心者が最もつまずくポイントです。
エクセルの SIN
や COS
に直接「30」と入力しても、30°として計算してくれません。

エクセルは 角度をラジアン単位 で扱うため、
30°は 30×π/180 ≈ 0.524 rad として入力する必要があります。
エクセルで角度(度)をラジアンに変換する方法
方法①:RADIANS 関数を使う
=SIN(RADIANS(30))
👉 これで sin30° = 0.5 が正しく計算されます。
方法②:自分で変換式を書く
=SIN(30*PI()/180)
👉 PI()
は円周率(3.14159…)を返すエクセルの組み込み関数です。

初心者の方には RADIANS
関数を使う方が直感的で分かりやすいのでおすすめです。
機械設計でよくある三角関数の使い方
例1:力の分解(ロープを斜めに引く場合)
ロープを100 Nの力で、水平方向に対して30°の角度で引っ張る場合の「水平成分」と「鉛直成分」を計算してみます。
水平方向(cos)
=100*COS(RADIANS(30)) → 86.6 N
- 鉛直方向(sin):
=100*SIN(RADIANS(30)) → 50.0 N
👉 設計では、ボルトやワイヤーにかかる力を「分解」する計算で頻繁に使います。
例2:斜面上の荷重
質量 10 kg(重力 98 N)の物体を角度20°の斜面に置いた場合:
- 斜面に沿って下ろうとする力(滑り方向):
=98*SIN(RADIANS(20)) → 33.5 N
- 斜面に垂直に押し付ける力(法線方向):
=98*COS(RADIANS(20)) → 92.1 N
👉 摩擦力の計算や、滑りやすさの評価に使います。
例3:合力の計算
50 N と 80 N の力が60°の角度で作用するときの合力を求める。
🔍 数式)
\( \displaystyle R=\sqrt{F_1^2 + F_2^2 + 2F_1F_2 \cos \theta}\)
エクセルでは
=SQRT(50^2 + 80^2 + 2*50*80*COS(RADIANS(60)))
👉 結果は 113.6 N になります。
例4:座標計算(リンク機構の端点位置)
リンクの長さ 100 mm のバーが角度45°の位置にあるとき、先端の座標を求めたい。
- X座標(横方向)
=100*COS(RADIANS(45)) → 70.7 mm
- Y座標(縦方向)
=100*SIN(RADIANS(45)) → 70.7 mm
👉 機構解析やCADとの連携で、リンクやアームの位置を計算するときに便利です。
tan関数の使い方
基本
=TAN(RADIANS(角度))
例:30°のtanを計算
=TAN(RADIANS(30)) → 0.577
応用:角度を逆に求める(ATAN, ATAN2)
逆三角関数もよく使います。
=DEGREES(ATAN(比))
=DEGREES(ATAN2(Y, X))
👉 例えば、X=50, Y=86.6 から角度を求める場合
=DEGREES(ATAN2(86.6,50)) → 30°
DEGREES
関数とは?
ラジアンを度(°)に変換する関数です。

Excelの三角関数(SIN
, COS
, TAN
)はラジアン単位で計算されるため、
角度の結果を「度」で表示したいときに DEGREES()
を使います。
設計での注意点
- 角度の単位に注意
- 必ず
RADIANS
やDEGREES
を使って単位変換を行う - 角度を「そのまま30」と入れると間違いになる
- 必ず
- 数値の丸め処理
- 実務では小数点以下を四捨五入して扱うことが多い
ROUND(値, 桁数)
を使うと便利
- 安全率を考慮する
- エクセルで出した値は理想値
- 設計では摩擦、誤差、材料のばらつきを考慮して「安全率」を掛けることが重要
まとめ
エクセルの三角関数(sin、cos、tan)を使いこなすことで、機械設計に必要な力の分解や合力計算、斜面荷重の算出、機構部品の座標計算などを簡単に実現できます。
特に初心者が注意すべきなのは「角度はラジアンで扱われる」という点であり、RADIANS
関数や DEGREES
関数を正しく活用することが重要です。
エクセルを「設計電卓」として活用できれば、複雑な計算を素早く処理でき、設計の効率化と精度向上に直結します。
ぜひ、日々の機械設計業務にエクセルの三角関数を取り入れてみてください。
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