ローラーチェーンの設計において、適切なテンションを維持し、効率的な動力伝達を実現するためには、アイドラーの配置が重要です。アイドラーは、チェーンのたるみを調整し、滑らかで安定した動作を保証する役割を果たします。この記事では、ローラーチェーンにおけるアイドラーの設置場所や注意点について詳しく説明します。
アイドラーの役割
アイドラーは、チェーンがスプロケット間でたるむことを防ぎ、チェーンの張りを適切に維持するために使用されます。特に、以下の役割が期待されます。
チェーンのたるみ防止
✅チェーンが運転中にたるみ、動力伝達の効率が低下するのを防ぎます。
チェーンの振動抑制
✅チェーンが高速で動くと、振動や衝撃が発生しやすくなります。
✅アイドラーを適切に配置することで、これを最小限に抑えることができます。
スプロケットの摩耗軽減
✅アイドラーによってチェーンが常に正しい位置に保持されることで、スプロケットの歯や軸受け部分の摩耗が軽減されます。
障害物の回避
✅適切に配置することで、機器内の障害物やスペース制約を回避し、チェーンの通り道を最適化します。
✅複雑な機器内部やスペースが限られた状況での設計時に特に重要です。
アイドラーの設置位置
アイドラーは、通常チェーンのゆるみ側に設置されます。チェーンの動力伝達側(引張側)は常に張力がかかっているため、ゆるみが発生しやすいゆるみ側でテンションを適切に保つことが求められます。
以下に、設置場所ごとの特徴を説明します。
ゆるみ側への設置
📌主な設置位置
- 一般的には、ゆるみ側のスプロケットとスプロケットの間に設置されます。
🔍理由
✅ 動力を伝える側には常に張力がかかっているため、テンションを調整する必要はほとんどありません。
✅ ゆるみ側はチェーンが緩むため、ここにアイドラーを設置することで、たるみを効果的に調整できます。
✅ 駆動スプロケットの巻付き角度が大きくなるため、伝達力があがります。

押しタイプ vs 引きタイプのアイドラー
アイドラーの位置には「押しタイプ」と「引きタイプ」があり、それぞれ利点があります。
押しタイプ(上から押す配置)
✅ チェーンの外側にアイドラーを押し当て、たるみを解消します。
✅ 駆動スプロケットの巻付き角度が大きくなります。
✅ そのため、チェーンを引っ張る方向に力を加えやすく、より安定した動作が可能です。
✅ より高いテンションが必要な場合に適しています。

引きタイプ(下から引っ張る配置)
✅ チェーンの内側にアイドラーを配置し、たるんだ部分を引っ張ります。
✅ 設置スペースが限られている場合や、チェーンの上下移動を最小限にしたい場合に有効です。
✅ アタッチメント付きのチェーンである場合は外側からのアイドラーの設置はできません。
✅ そのため、内側から配置することになります。

動力側(引張側)への設置は避ける
🚫 アイドラーを動力伝達側(引張側)に設置するのは避けるべきです。
動力伝達側では常に強い張力がかかっており、ここにアイドラーを設置すると、過剰な摩擦が発生したり、スプロケットとチェーンのかみ合わせに悪影響を及ぼす可能性があります。動力伝達の効率も低下するため、アイドラーは必ずゆるみ側に設置することが望ましいです。
アイドラー設置の注意点
アイドラーの設置にはいくつかの注意点があります。これらを考慮することで、より効果的なチェーンテンション管理が可能となります。
📌 設置角度
- アイドラーはチェーンの自然な動きに沿うように設置することが重要です。
- チェーンがスプロケットにかみ合う際、アイドラーの配置がずれていると、摩耗が加速します。
📌 アイドラーのサイズとタイプ
- アイドラーのサイズは、使用するチェーンのサイズに適合させる必要があります。
- また、アイドラーには歯付きタイプと樹脂レールタイプがあります。
- スプロケットのようにかみ合わせる必要がある場合は歯付きタイプを使用し、単にチェーンを押さえる場合は樹脂レールタイプを使用します。
📌 定期的なメンテナンス
- アイドラー自体も摩耗するため、定期的に点検し、必要に応じて交換することが求められます。
- 特に、チェーンの伸びやスプロケットの摩耗による調整が必要になることが多いため、定期的なメンテナンスを怠らないようにしましょう。
📌 障害物をよけるための配置
- 設備内で他の部品や障害物が存在する場合、アイドラーの配置を工夫してチェーンがスムーズに動作できるようにします。
- 狭いスペースでもチェーンが無駄なく動くよう、アイドラーの位置決めが重要です。

アイドラーの素材と選定ポイント
アイドラーの選定においては、設置場所や動作条件に応じた素材の選定も重要です。一般的には以下のような素材が使用されます。
金属製アイドラー
- 耐久性に優れており、高負荷条件下での使用に適しています。
- ただし、摩擦が大きくなる可能性があるため、潤滑管理が重要です。
樹脂製アイドラー
- 摩擦が少なく、静音性が求められる場合に適しています。
- 軽量で扱いやすいですが、過剰な負荷には向いていません。
アイドラーとテンショナーの違い
チェーン伝動は多くの産業機械や搬送装置で使われる重要な仕組みですが、その運用において「アイドラー」と「テンショナー」という部品が登場します。
この2つは、呼び方が違うだけで基本的には同じ機能を持つものですが、使われる目的や文脈によって呼び名が変わります。本項では、アイドラーとテンショナーの違いや用途について解説します。
アイドラーとテンショナー:呼び方の違い
基本的な機能は同じ
「アイドラー」も「テンショナー」も、チェーンの張り(テンション)を調整するために使う部品です。チェーンの弛みを防ぎ、動力伝達の効率を維持するために欠かせない存在です。
呼び方の違いは目的によるもの
✅ アイドラー
- 主にチェーンの経路を補助する役割を指します。
- チェーンのガイドや進行方向を制御する目的で使われることが多いです。
✅ テンショナー
- 主にチェーンに適切なテンション(張力)をかける役割を指します。
- チェーンの弛みを取り除くために使われます。
つまり、 テンションをかける目的が強調される場合には「テンショナー」と呼ばれることが多く、経路の補助やチェーンガイドの意味合いが強い場合には「アイドラー」と呼ばれます。
アイドラーの概要
アイドラーとは?
アイドラーは、チェーンやベルトの経路を制御するための補助プーリやローラーです。チェーン伝動において、チェーンが脱線しないようにガイドする役割も果たします。
主な役割
✅ チェーンの経路を変更・補正
- スペースや機構の都合でチェーンの動きを最適化するために使われます。
✅ チェーンの振動防止
- 走行中に発生するチェーンの振動を抑え、安定した動作を確保します。
✅ チェーンのたわみを軽減
- チェーンの片側に過度なたわみが発生しないように補助します。
テンショナーの概要
テンショナーとは?
テンショナーは、チェーンに張力(テンション)を与え、弛みを防ぐための装置です。特にチェーンが長い場合や、振動・摩耗が激しい環境では必須の部品です。
主な役割
✅ チェーンの適切な張りを維持
- チェーンは使用中に徐々に伸びて弛みが発生します。
- テンショナーはこの弛みを取り除き、張力を維持します。
✅ チェーンの脱落防止
- チェーンが弛むとスプロケットから外れる危険性が高まります。
- テンショナーが張力を保つことで脱落を防止します。
✅ 動力伝達効率の向上
- チェーンが適切に張られていることで、歯車との噛み合いが安定し、動力損失を最小限に抑えます。
アイドラーとテンショナーの違いまとめ
項目 | アイドラー | テンショナー |
---|---|---|
目的 | 経路の補助、振動の抑制 | チェーンの弛みを取り、張力を維持する |
強調される機能 | ガイド・補正 | 張力の調整 |
使われる場所 | 経路変更が必要な場所 | 張力が必要な場所、伸びやすい場所 |
構造 | 固定ローラー・ガイドローラー | バネや油圧、可動式の張力装置が多い |
どちらを使うべきか?選定ポイント
✅ チェーンの弛みが問題になる場合
- テンショナーを使用してチェーンに適切な張力を与えます。
🔍 例:長いチェーン伝動、振動が多い設備。
✅ チェーンの経路変更が必要な場合
- アイドラーを使ってチェーンの走行経路を補正します。
🔍 例:スペースが限られている設計、チェーンが横方向に逸れる場合。
✅ 低コスト・簡易設計
- 固定式のアイドラーを使用することで簡単に経路調整できます。
- ただし、チェーンの伸びに応じた張力調整機能はありません。
✅ 動的な張力調整が必要な場合
- バネ式や油圧式のオートテンショナーを導入し、チェーンの伸びに自動で対応させることができます。
同じ部品でも目的によって呼び方が変わる
アイドラーとテンショナーは、基本的に同じ部品であり、チェーンの弛みを防ぎ経路を安定させる役割を果たします。
しかし、張力調整という機能が重視される場合に「テンショナー」と呼ばれることが一般的です。
📌 アイドラー
経路の補正、振動防止が目的。
📌 テンショナー
チェーンの弛み取り、張力維持が目的。

設計の目的や用途に応じて、適切に使い分けることでチェーン伝動の効率と信頼性を高めることができます!
まとめ
ローラーチェーンの適切な動作と寿命を保つためには、アイドラーの設置が欠かせません。アイドラーは、主にゆるみ側に配置し、たるみや振動を抑える役割を果たします。設置の際には、チェーンの動きやテンションを常に確認し、適切な角度と位置で配置することが重要です。
また、チェーンのたるみ防止や摩耗軽減だけでなく、障害物を回避する役割も果たします。特に狭いスペースでの設計や複雑な設備では、障害物をよけつつテンションを適切に保つことが重要です。
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