機械設計において、材料の選定は性能や耐久性に大きく影響を与える重要な工程です。
その中でも、電気伝導性と熱伝導性は、
電子機器の放熱設計やモーター部品の選定など、
多くの場面で考慮しなければなりません。
例えば、電気をよく通す金属は、
一般的に熱も伝えやすいという特徴があります。
しかし、すべての材料がこの関係に当てはまるわけではなく、
電気を通さないのに熱を伝えやすい材料や、
電気も熱も通しにくい材料も存在します。
そのため、用途に応じた適切な材料選定が必要になります。
この記事では、電気伝導性と熱伝導性の関係性や、
それぞれの特性を持つ材料の活用ポイントについて、わかりやすく解説します。
電気伝導性とは?
電気伝導性とは、材料がどれだけ電気を通しやすいかを示す特性 のことです。
電気伝導性の高い材料は、電流をスムーズに流すことができ、
電気部品や配線に適しています。
一方、電気を通しにくい材料(絶縁体)は、
電流を遮断する役割を持ち、電子機器の安全性向上に重要です。
電気伝導性の高い材料
銅(Cu)
- 電気伝導性が非常に高く、電線や配線材、モーター部品に広く使用される。
- 加工性も良く、コストパフォーマンスが高い。
銀(Ag)
- 金属の中で最も電気伝導性が高いが、価格が高いため特殊用途に限られる。
- 精密電子部品や高性能な接点材料として活用される。
アルミニウム(Al)
- 銅よりも軽量でコストが低いため、大型電力ケーブルやヒートシンクに使用される。
- 銅ほどの導電性はないが、軽量化が求められる場合に有効。
電気を通さない材料(絶縁体)
樹脂(PEEK、POM、ナイロンなど)
- 電気を通さず、機械部品や電気部品の絶縁用途に適している。
- 摺動性や耐熱性を兼ね備えたものもあり、用途に応じて選定が必要。
セラミックス(アルミナ、ジルコニアなど)
- 絶縁性が非常に高く、高温環境でも安定して使用できる。
- 電子部品の基板や高電圧部品の絶縁材として活用される。
ゴム(シリコンゴム、EPDMなど)
- 電気を通さず、耐候性や弾力性を活かしてシール材や防振材に使用される。
電気伝導性を考慮した材料選定のポイント

電気伝導性は、機械設計において非常に重要な特性の一つです。
用途に応じて適切な材料を選定し、
安全で効率の良い設計を目指しましょう。
熱伝導性とは?
熱伝導性とは、材料が熱をどれだけ効率よく伝えることができるかを示す特性 です。
熱伝導性の高い材料は、熱を素早く拡散させるため、
ヒートシンクや放熱板などに利用されます。
一方、熱伝導性の低い材料は断熱材として使用され、熱を遮断する役割を持ちます。
熱伝導性の高い材料
熱伝導性の低い材料(断熱材)
熱伝導性を考慮した材料選定のポイント

熱伝導性は、冷却性能や耐熱性に直結する重要な要素です。
機械設計においては、放熱と断熱のバランスを考慮し、
最適な材料を選定することが求められます。
ウィーデマン・フランツの法則について
「電気をよく通す金属は、熱もよく通す」——
これは経験的に知られていますが、
この関係を数式で表したのが ウィーデマン・フランツの法則 です。
法則の概要
ウィーデマン・フランツの法則は、
金属の電気伝導率(σ)と熱伝導率(κ)が比例関係にある ことを示しています。
具体的には、以下のような式で表されます。
( \displaystyle \frac{κ} {σ}=LT)
- κ(カッパ): 熱伝導率(W/m·K)
- σ(シグマ): 電気伝導率(S/m)
- T : 絶対温度(K)
- L : ローレンツ数(約2.44 × 10⁻⁸ WΩ/K²)
この式が示すのは、「温度が一定のとき、金属の電気伝導率が高いほど、
熱伝導率も高くなる」ということです。
なぜこの法則が成り立つのか?
金属の中では、自由電子 が電気を運ぶ役割をしています。
また、この自由電子は 熱の運び手 でもあるため、
電気を流しやすい金属ほど、熱も伝えやすくなります。
💡例えば、、、
このように、金属の電気伝導性と熱伝導性には密接な関係がある のです。
例外もある?
ウィーデマン・フランツの法則は 金属に対しては成立しますが、
すべての材料に当てはまるわけではありません。
💡 例えば、、、
したがって、材料選定の際には、単純に金属だから熱伝導性が高い、
とは考えずに、それぞれの特性を理解することが重要 です。
ウィーデマン・フランツの法則の活用例
放熱設計
電気機器の放熱対策 では、
電気を通す部品(ヒートシンクなど)を選ぶ際に、この法則が役立ちます。
🔍 例)
銅製ヒートシンクは、アルミ製よりも熱伝導性が高い ため、放熱効果が高い。
電気・熱の絶縁設計
絶縁が必要な部品には、電気を通さず、熱だけを逃がす材料 を選ぶ必要があります。
🔍 例)
窒化アルミニウム(AlN) は、
電気を通さずに高い熱伝導性を持つため、電子部品の放熱用に使用される。
ウィーデマン・フランツの法則は、
「金属の電気伝導率と熱伝導率が比例する」という法則。
自由電子が電気と熱の両方を運ぶため、電気をよく通す金属は熱も伝えやすい。
ただし、ダイヤモンドやセラミックスなどの例外も存在するため、
材料選定時には注意が必要。
放熱設計や絶縁設計において、電気と熱の関係を理解することが重要。

この法則を知っておくと、
材料選定の際に「電気も熱も伝えやすいのか?」と考えるヒントになる ので、
ぜひ活用してください!
機械設計における絶縁体の活用方法とは?
機械設計において絶縁体(絶縁材料) は、電気を通さない特性を活かして、
電気的な安全性を確保するために使用されます。
しかし、絶縁体の活用はそれだけにとどまりません。
熱、振動、摩耗、化学的影響 などから部品を保護する目的でも重要な役割を果たします。
絶縁体の主な用途
電気絶縁(漏電・ショートの防止)
熱絶縁(熱の伝達を防ぐ)
振動吸収(機械の安定性向上)
摩耗・衝撃保護(部品の長寿命化)
耐薬品性の向上(腐食・劣化防止)
絶縁体の具体的な活用方法
電気絶縁材としての活用
🔍 使用例
プリント基板(PCB)、電線被覆、変圧器の絶縁層
エポキシ樹脂、ポリイミド、テフロン(PTFE)、シリコンゴム
電気絶縁性の高い材料は、電気回路の安全性を確保し、
漏電やショートを防ぎます。
高温や高電圧環境では、耐熱性や耐アーク性の高い絶縁材料を選定することが重要です。
熱絶縁材としての活用
🔍 使用例)
断熱パネル、炉の内張り、エンジン部品の断熱
セラミック、グラスウール、シリカエアロゲル
熱を遮断する絶縁材料は、高温環境下の部品を保護したり、
熱損失を防ぐ目的で使用されます。
例えば、エンジンやボイラーの周囲には、断熱材を配置することで、
周囲の部品が高温の影響を受けるのを防ぐ ことができます。
振動吸収・衝撃緩和材としての活用
🔍 使用例
防振ゴム、ダンパー、ショックアブソーバー
シリコンゴム、ウレタンゴム、発泡樹脂
振動が発生する機械部品の間に柔軟性のある絶縁体 を挟むことで、
振動や衝撃を吸収し、機械全体の寿命を延ばすことができます。
特に、精密機械や電子機器では、振動による誤作動や故障を防ぐために、
絶縁ゴムやシリコンパッドが活用されます。
摩耗防止・摺動材としての活用
🔍 使用例
ベアリングのライナー、摺動ガイド、シール材
PTFE(テフロン)、PEEK、ナイロン
自己潤滑性を持つ絶縁材料を摺動部分に使用すると、摩耗を低減し、
メンテナンス頻度を抑えることができます。
例えば、PTFE(テフロン)は摩擦係数が低いため、
潤滑剤なしでもスムーズな動作を実現できます。
耐薬品性を活かした活用
🔍 使用例
薬品タンクのライニング、パイプの内張り、バルブシール
フッ素樹脂(PTFE)、PVDF、エポキシコーティング
腐食性の強い化学薬品が使われる環境では、
耐薬品性のある絶縁材料を活用することで、
金属部品の腐食を防ぎます。
例えば、薬品タンクの内側にフッ素樹脂をコーティングすると、
長期間にわたって腐食を防ぐことができます。
材料選定のポイント
- 使用環境(温度・湿度・化学薬品の影響)を考慮する
- 電気絶縁性が必要か、熱絶縁性が必要かを明確にする
- 柔軟性や強度も考慮し、最適な材料を選ぶ
- コストと性能のバランスを取る
絶縁体は、単に電気を通さない材料としてだけでなく、
熱・振動・摩耗・薬品 などの影響から機械部品を
保護するために幅広く活用されます。
適切な材料を選定することで、
安全性を向上させ、機械の寿命を延ばし、
メンテナンスコストを削減することが可能 になります。

機械設計において、絶縁体の特性を正しく理解し、
最適な活用方法を考えることが重要です!
まとめ
機械設計において、電気伝導性と熱伝導性は密接に関係しています。
電気を通す材料は熱も伝えやすいことが多いため、
用途に応じて適切な材料を選定することが重要です。
設計の際は、「電気を流すのか? 絶縁が必要か? 放熱が必要か?」を考慮し、
最適な材料を選びましょう。
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