機械設計では、材料の強度や耐久性だけでなく、「磁石にくっつくかどうか」も重要な判断基準になることがあります。特に、センサー機器や電磁波を扱う装置、あるいは医療機器などでは、磁力の影響を受けにくい“非磁性材料”の選定が不可欠です。
「ステンレスなら磁石にくっつかないんでしょ?」と思われがちですが、実はそう単純ではありません。材料ごとの磁性の違いや、加工による変化、使用環境に応じた注意点を理解しておくことが、信頼性の高い設計につながります。
この記事では、非磁性材料の基本的な考え方から、代表的な材質、設計時の注意点までをやさしく解説していきます。
そもそも「非磁性材料」とは?
非磁性材料とは、磁石にくっつかない材料のことです。
つまり、磁力の影響を受けない(または非常に少ない)材料のことで、下記のような場面で使われます。
- 磁場の影響を受けたくない装置
- 電磁波に敏感な機器
- 磁気センサーの近く
- MRI装置のような強磁場下での使用
なぜ非磁性材料を選ぶのか?
設計上、「磁力の干渉を避ける」ことが求められる場合があります。
🔍 たとえば…
- 磁気センサーの精度に悪影響が出る
- 磁場を乱して誤作動を起こす
- 強い磁石に引き寄せられて事故につながる
といったリスクがあるためです。
主な非磁性材料の種類と特徴
材料名 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
SUS304 | 非磁性、高耐食性 | 食品機械、医療機器、電子機器 |
アルミニウム | 非磁性、軽量、熱伝導性◎ | 放熱部品、構造部材 |
チタン | 非磁性、高強度、耐食性 | 航空機部品、医療インプラント |
銅・真鍮 | 非磁性、導電性・加工性良好 | 電気部品、接点部品 |
プラスチック | 非磁性、絶縁、軽量 | カバー類、非接触部品 |
※一部のオーステナイト系ステンレスは加工応力で弱い磁性を帯びる場合があるため注意が必要です。
非磁性が必要な場合は「非金属材料を使う」という手もある!
~金属じゃなくても十分使える設計材料とは?~
機械設計において、「磁石にくっつかない=非磁性」が求められる場面は意外と多くあります。
たとえば、
- 磁気センサーの近くで誤動作を防ぎたいとき
- MRIなど強い磁場のある装置の周辺で使うとき
- 微細な金属粉が磁気を帯びてトラブルを起こすのを避けたいとき
こうした場面では金属の磁性がトラブルの原因になることも。
そのため、「金属を使わずに、そもそも磁性のない材料を使う」という選択肢がとても有効になります。
非磁性なら「非金属」も検討してみよう!

金属は多くが磁石に反応する性質を持っていますが、非金属材料は基本的に磁石にくっつきません。
非金属材料の代表例
材料名 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
樹脂(エンプラなど) | 軽量・加工性良好・絶縁性あり | カバー、ギア、スライド部品 |
セラミックス | 高硬度・耐摩耗・耐熱性 | 絶縁部品、高温部品 |
ゴム・シリコン | 柔軟性・密封性 | パッキン、吸振材 |
カーボン・CFRP | 軽量・高剛性 | ロボットアーム、治具、構造材 |
これらの材料は磁石にまったく反応しない非磁性材料であり、用途によっては金属以上のメリットを発揮します。
金属より優れる面もある!
非金属は「金属より弱い」というイメージがありますが、以下のように設計用途によっては金属より有利な点もあります。
軽い!
👉 装置の軽量化、可動部の高速化に貢献。
絶縁性がある!
👉 電気部品の近くでも安全に使用可能。
腐食しない!
👉 薬品や湿気にさらされる環境で長持ち。
磁石に反応しない!
👉 磁場がある環境下でも安心して使える。
どんなときに非金属材料を選ぶ?
以下のような条件に当てはまる場合は、非金属の活用を検討する価値ありです。
- 装置内に磁気センサーや磁場が存在する
- 軽量化や静音性が求められる
- 電気を通さない絶縁部品が必要
- 腐食やサビに弱い部品の代替を探している
特にエンジニアリングプラスチック(エンプラ)などは、強度も高く、金属部品の代わりになるほどの性能を持つため、非磁性+実用性の両立が可能です。
設計の選択肢を広げよう!
磁性の有無だけでなく、重量、耐食性、絶縁性など、非金属材料には多くのメリットがあります。

「金属じゃなきゃだめ」と思い込まずに、非磁性が必要なときは非金属という選択肢を視野に入れることが、よりよい設計につながります。
非磁性が必要なら「非金属」が有力な選択肢!
- 非金属材料(樹脂・セラミックスなど)は磁性を持たない
- 軽量・絶縁・耐食といった機能性も高く、設計の幅が広がる
- 非磁性が求められる装置では、金属にこだわらず非金属も検討しよう!
「非磁性=非金属もOK」という視点を持てば、設計の自由度はぐっと広がります。
設計の初期段階から材料選定を意識することで、より合理的でトラブルの少ない製品づくりが可能になりますよ。
非磁性材料の選定時の注意点
「ステンレスだから非磁性」とは限らない!
- SUS430(フェライト系ステンレス)は磁性あり
- SUS304でも加工応力や冷間加工で磁性を帯びることがある
→ 磁性が絶対NGの場合は、事前に実物で磁性チェックが必要!
磁性だけに注目しすぎない!
非磁性材料を選ぶときは、他の特性(強度・耐熱性・加工性・コスト)も重要です。
たとえば…
- アルミ:非磁性だけど、強度は鉄より低め
- プラスチック:軽くて非磁性だが、熱や強度は弱い
- 銅:非磁性だが、柔らかくてキズつきやすい

使用環境・負荷条件に応じた総合的な判断が必要です。
材料の組み合わせに注意!
装置内で磁性体と非磁性体を混在させると、
- 想定外の磁力の影響
- 温度差や熱膨張によるすき間・応力
- 接合部での電蝕(異種金属の腐食)
などのトラブルの原因になります。
まとめ
非磁性材料は、安全性や誤作動防止のために重要な要素です。
選定のポイントは…
✔ 磁性の有無だけでなく、強度や耐久性も含めて総合判断
✔ 「非磁性ステンレス」と思い込まず、加工後の磁性も確認
✔ 材料の性質を活かして、用途に応じて正しく使い分ける
非磁性材料は、ただ「磁石にくっつかない」だけではなく、装置の安全性や性能を左右する重要な要素です。ステンレスでも磁性を帯びるものがあったり、非金属材料にも選択肢があるなど、思っている以上に奥が深い分野です。
材料選定では、磁性の有無に加えて、強度・耐食性・加工性・コストといった複数の視点からバランスよく検討することが大切です。用途に応じて最適な材料を選ぶことで、誤作動の防止やトラブル回避につながる、より安心できる機械設計が実現できます。
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