「このプラスチックのカバー、すぐ割れちゃった…」
「樹脂部品って金属より弱いの?」
機械設計を始めたばかりの方がよくぶつかるのが「樹脂部品が思ったより簡単に割れてしまう問題」。
プラスチックは便利で軽く加工もしやすい材料ですが、設計のコツを知らないとすぐに破損トラブルにつながります。
今回は、初心者向けに「なぜプラスチックは割れるのか?」「割れにくい樹脂部品の設計方法」をわかりやすく解説します。
そもそもなぜプラスチックは『割れる』の?
プラスチック(樹脂)は金属とは異なる性質を持っているため、設計の際に注意が必要です。
主な破損モード
✅ 脆性破壊(パキッと割れる)
✅ 疲労破壊(繰り返しでヒビが入る)
✅ 応力集中によるクラック発生
割れる主な原因
衝撃に弱い
樹脂は金属に比べて靭性(じんせい)が低く、強い衝撃が加わると割れやすい。
👉 特に冬場や低温環境ではさらに脆くなる。
時間経過で劣化
紫外線・熱・湿気などにより経年劣化が進行。
👉 強度が低下し、ヒビや割れが起きやすくなる。
応力集中
鋭角なコーナーや急な断面変化に応力が集中。
👉 ほんのわずかな欠陥から破壊が進行。
選定ミス
材料選びが不適切。
👉 強度や靭性が求められる部品に脆い材料を使うと破損しやすい。
樹脂部品の設計の基本方針
「割れない樹脂部品」を作るためには、以下の設計のコツが不可欠です。
応力集中を避ける
✅ 角を丸める(フィレット追加)

R形状を付けて応力集中を緩和する。
✅ 急激な断面変化を避ける

肉厚の急な変化はNG。なだらかに変化させる。
適切な肉厚設計
✅ 樹脂の厚みは均一に近い方が望ましい。

厚すぎる部分は収縮や内部応力が残りやすい。
リブの設計
✅ リブの付け根はフィレットで滑らかにすること。
形状の工夫
✅ スナップフィット(はめ込み構造)を使う場合は、屈曲耐性と形状の最適化が重要。
✅ ネジ止め部やボス部は最も割れやすいポイント。

肉厚のコントロールと座面の強化を考慮。
材料選定のポイント
樹脂は種類によって大きく性質が異なります。
主な材料例と特徴
材料名 | 特徴 | 割れやすさ |
---|---|---|
POM(ジュラコン) | 高強度、摩耗に強い、摺動部品に適する | 割れにくい |
MCナイロン | 高強度、高靭性、耐摩耗性優秀 | 割れにくい |
PEEK | 高強度、高耐熱、耐薬品性・耐摩耗性優秀 | 非常に割れにくい |
アクリル(PMMA) | 高透明性、耐候性良好、硬いが脆い | 割れやすい |
PET | 高強度、耐摩耗性良好、成形性も良い | やや割れにくい |
PC(ポリカーボネート) | 高靭性、透明、衝撃に非常に強い | 割れにくい |
補足ポイント
- 強度・靭性が求められる部品はPOMが有利。
- MCナイロン は機械部品(ギア、スライド部品)によく使われます。
- PEEK は高価ですが、高性能用途(医療・航空・半導体)で人気。
- アクリル は美観優先の透明部品に使われますが、割れやすいため衝撃用途は避ける。
- PET はペットボトル材として有名ですが、工業用グレードは強度と耐摩耗性に優れます。
割れにくくする設計事例
良い設計例
✅ ネジ穴周囲に補強リブとフィレットを追加
✅ ボス部の肉厚を適正化し内部応力を減少
✅ コーナー部にR形状を付加
✅ 部品全体の肉厚を均一にして冷却収縮ムラを防止
悪い設計例(NG例)
🚫 鋭角な角のまま設計(クラックの起点になる)
🚫 ネジ穴周囲が薄くて応力集中
🚫 厚みが急に変わる(内部応力が発生しやすい)
🚫 材料選定が用途に合っていない
使用時の注意点
設計で対策しても、使い方次第で割れることもあります。
⚠️ 強い衝撃を避ける
⚠️ 直射日光・高温環境に長時間さらさない
⚠️ 耐候性グレードを選定する場合はUV対応を確認
⚠️ 樹脂同士の嵌合(かんごう)は過大な力が不要な形状に
まとめ
✔ プラスチックは金属とは異なる破壊モードを持つ
✔ 応力集中を避け、適切な肉厚設計が重要
✔ 材料選定は割れやすさを大きく左右する
✔ 使い方や環境にも配慮する必要がある
「割れない樹脂部品」は設計の工夫次第。
樹脂特有の設計のコツを押さえれば、軽くて丈夫で美しい製品づくりが実現できます。
初心者の方はぜひ今回のポイントを取り入れて、一歩上の設計力を身につけていきましょう!
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